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公園の猫 Version 2

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8月15日

 TVカメラで騒がしい雉川の自宅からげっそり疲れて引き上げて来た途端、堀部さんは床に座って、ベッドに寄りかかって目を閉じたままぴくりとも動かなかった。

 見ていて痛々しくて仕方ないんだけど、今の私じゃダメなんだろうな。
 私だってセックス以外に出来ることない。けどそれじゃ多分どうしようもないんだろうし。

 とりあえずビール飲む相手とかもダメですかね。
 冷蔵庫勝手に借りて並べておく。とりあえずそれだけで本日は引き上げ。

 ああもう嫌。頭からレポーターたちのがなり声が離れない。うっとおしい。


8月16日

 気になって訪ねて行ったら、鍵も閉めてなきゃ姿勢も変わってない。
 どうしよう。この人放置してたら餓死しちゃうんじゃなかろうか。

 声かけたらうっすらと目を開いてはくれる。
 弱々しい笑顔で「俺、もうダメかも知れない」とか言われた日にゃ、ぎゅーっとやりたくなっちゃうんですけど、いいですか堀部さん。
 断っても手後れです。

「あいつもこんな気持ちだったのかな」
「何が」
「誰かに触れていないと気が狂いそうになる」

 だそうです。
 今、理解しても手後れです。言わんでも判っているとは思うけどさ。

 料理の出来る人を調達して来ようと決意して今日は退散。
 自分で作れって? それを言っちゃーおしまいです。


8月17日

 そんなわけで、ちょっと友達連れて来てみた。いやー、メーワクかけて済まんねー里美。
 どーしてそこまでするんだ、と不思議がられたけど、どう言えばいいんだろう。
 うーん。戦友、というか。
「あいつは戦争扱いか」と笑っていた。
 でもぴったり来るかな。戦友。色んな意味で、あいつに巻き込まれると人生色々変わると思うから。

 里美は雑炊作ってました。「好き嫌いに関係なく食べられそうで、胃がびっくりしなさそうなやつ」ということらしい。そうなの?(←とことん料理苦手)


8月18日

 客の1人に頼んでおいたヤツを今日受け取った。
 現地の新聞記事をネットの何処からか探して来てくれて、翻訳してくれたらしい。ホント感謝。1回タダでしたげるーと言ったら色気がないと笑われた。そういうのがいいんじゃなかったのかー? 別にいいけど。

 問題の翻訳。予想通り過ぎてクラクラする。日本のマスコミはここまでは報道出来ないのか、それとも、コレの出所が地元のゴシップ新聞らしいから、噂もかなり含まれてるのか…。
 後者だとしても、火のないところに何とやらだし、それに何より、本人知ってる方からすれば信憑性あり過ぎ。
 …堀部さんに知らせるべきかどうかは迷うなあ…。あいつのヤバいトコは知ってる人だとは思うけど…。

 しっかし向こうの男相手にしてたら壊れそうだよなあ、シュウのやつ。
 ひょっとしたら壊れる気だったのかも知れないけど。
 でもそれで殺されてたらどうしようもないっちゅーのに。せめて日本法人のサラリーマンが多そうなトコでとか考えられなかったのかな。ロスならそのぐらい探せばあると思うんだけど…。

 なんでそこまで暴走したんだろう。
 堀部さんとは何だかんだでうまく行ってると思ったのにな。
 あいつ、ちゃんと「帰る場所」がある時は、そんなにムチャはしないと思ってたのに。
 憂鬱。


8月19日

 堀部さん、ちゃんと会社に行き始めた模様。何だかまだぼーーーーとしてるけど。
 帰宅途中らしいのを捕まえてみる。
 向こうから話したいと言ってくれた。
「誰かに吐き出したいだけなのかも知れない」と言ってたけど。
 それでもいいよ。というより、あいつに関しては私じゃなきゃダメだと思う。あいつ、友達少なかったし。
 深夜23時に訪ねて行く約束をする。ビール、全然飲んでないらしい。そりゃ消費しないと。


8月20日

 …まさかシュウと寝たことないとは思わなかった。あいつが死んだことにあれだけボロボロんなってるから、てっきりちゃんと付き合ってるんだとばっかり…。
 でもまあ、話聴いてて納得はした。
 というか、稀有なお兄さんだねえ、彼は。あいつに最後まで誘惑されなかったのか。
 というより、ちょっと羨ましいかなあ…。そこまでプラトニックで、かつこんなんなっちゃうまで深く、あいつと関わってくれた人がいたんだって思って。

 もっと早く自分の気持ちに気づいていたら、抱いてたと思う? って訊いてみたら、かなり長く迷った末に答えはNoだった。
 すごいな。惚れちゃいそうだ(笑)。
 でもそんな自分は嫌だとも言ってたけど。偽善っぽいって。
 …そうかなあ…私はそういう頑固さはキライじゃないけど。

 朝に疲れ切ってうとうとしていた彼を見ながら、彼から転送してもらったシュウの最後のメールを眺めていた。と言っても何かアドレスが書いてあるだけなんだけど。
 堀部さんはまだそのアドレスを開く勇気がないと言っていた。だから何があるかは知らないそうです。
 私は、…見ていいとは思えないので、見ない。ただ、私に遺されたあいつの遺品。そんなつもりでメール保護をかけて残しておくだけ。

 堀部さん、いつか、開ける日が来るんだろうか。
 あいつが遺してくれた何かを。

--- End of side C..... to be continued to another story.

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