環境教育とケナフ

ずさんな管理計画
企業パフォーマンスがもたらす罪
善意の自然保護活動がもたらす新たな自然破壊(岐阜大学農学部多様性生物学講座助教授 川窪伸光)
甘くち辛くち ケナフは地球にやさしいか(上赤博文:佐賀県教育センター)


ずさんな「管理計画」

 最近ケナフが環境教育の材料として、盛んに扱われている。「ケナフの会」ホームページに掲載されている「全国発芽マップ(注1)を見ると、ケナフの栽培を導入する小学校は全国各地に広がっている。収穫後紙梳き体験が出来るという付加価値があることがウケているようだ。しかし、環境教育と銘打って、ケナフ栽培を導入したものの、計画性の無さから大量に栽培してしまい、使い切れず焼却処分している学校も多くて、ケナフ推進団体も問題視している。(注2) 

旺盛な生命力を見せるケナフ。(クリックすると拡大します。) 「育てた。処分に困った。しょうがない、燃やしてしまえ」

 じゃあ、何のためにCO2を吸収させたの??本末転倒でしょう。少なくとも、「環境教育」の材料として扱うからには、その地域の環境に与える影響を考慮した上で、栽培後の処理を含めた管理計画をきちんと立てる必要がある(注3)

 環境資源の大切さは、別にケナフを使わなくても教えられる。例えば稲を栽培して、収穫したワラから紙を梳くことだってできる。これなんか、CO2の循環を教えるのに良い教材だと思う。それから、麻から作る紙は木材パルプより丈夫で長持ちだそうだ。(注4)一年草で帰化植物じゃないから、環境にやさしい(これ皮肉ね)よ。(注5)どうですか、お客さん(笑)。それから、滋賀県でヨシから紙を作っている人の話では、ヨシからはケナフよりも良い紙が出来るそう。他にも、竹・ススキ・クズなど、日本の環境に普通にあって、利用できそうなものはたくさんある。 

 要するに、ケナフで地球環境の大切さを学ぶ、なんてかっこいいことを言っているけど、ただ流行に飛びついただけ。ある県の教育関係者から聞いた話だけど、そこの教育委員会は、環境教育と銘打って、2000本のケナフの苗を、各学校に配布したそうだ。その人は、ケナフが日本の環境に与える影響を懸念して、一生懸命反対したけど、誰一人理解する人はいなかったと落胆していた。何のためにケナフを利用するのか、今一度考えて欲しい。こんなインスタントな発想をする教育関係者ばかりじゃないと思うけど、こんな事例を聞く限り、日本の環境教育に不安を覚えてしまう。

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企業パフォーマンスがもたらす罪

 個人の楽しみとして栽培するのはまだ良い方で、単にイメージアップにケナフを利用しているだけとしか思えない企業もある。サッポロビールは、千葉の工場跡地に広大なビオトープ園を開設した(注7)。ここの目玉は広大なケナフ畑なのだが、外来種のケナフを、しかも畑として栽培することがどうしてビオトープなのかわからない。 「ビオトープ」とは、その地域本来の生息空間の復元、という意味であったと思うんだけど。

 しかも、収穫後のケナフの利用法が一言も述べられていないのも気になる。1000平方メートルケナフ畑からは、毎年何トンものケナフが収穫され、それに伴って大量の心材がゴミとして発生する。(注6)サッポロはこのケナフ畑を2000年から小中学生が刈り取り体験が出来る農場として使う予定らしい。でもね、たくさんの心材をゴミにして、それで環境を大切さを教える教育の場になるの?

 この計画なんか、まさに ケナフにまつわる「地球の救世主」「環境に優しい」など、きわめて曖昧なイメ ージに、「企業イメージアップの救世主」と飛びついたようにしか思えない。

 とにかく、昨今のケナフブームに便乗した浅薄な事例が多すぎる。ケナフに変な「付加価値」を付けず、一般の栽培作物として扱ってもらいたい。一番大事なのは正確な知識だと思う。ケナフがどのような植物で、どういう利用方法があり、どのような長所と短所があるのか、きちんと知らしめるべきだ。ケナフ推進団体は、明らかにこの点の努力を怠っているし、マスコミも、推進派の提供する情報を鵜呑みにした報道しかしていない。一紙くらい、ケナフにうがった見方をするところがあっても良さそうなのにね。売れるよ、きっと(笑)。

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(注1)宮崎大学付属小学校のサイトにあるページ。全国各地の小学校が参加。全国のケナフの発芽情報などを見ることが出来る。

(注2)小学校に限らず市民レベルの取り組みでは、最近このようなケースが見られる、と、ケナフ・ネットワーク(京都西陣青年の家)の人が言っていた。紙すきなんかで使う以上に、無計画に大量に作ったら、アカンて。

 1999年3月に開催された「ケナフ交流会」に出席していたある小学校の教頭先生は、「ウチの学校では、プールの周囲にもケナフを植えているんです。女の先生が見られるのをいやがるので目隠し代わりです。良く育ってくれるので、効果的ですよ。」と発言し、開いた口がふさがらなかった。

(注3)「ケナフ協議会」では、「とにかく燃やさないで欲しいと呼びかける。」「パルプ化を引き受けてくれる工場が関東地方にあるので、連絡先を教える。」「ある一定面積以上(検討中)の植栽をするときは、計画書を出して貰う。」という対応策を取っていくそうだ。(こんな消極的な案が対応策と言えるのか疑問だが)「ケナフ協議会」は、ケナフ推進の際の配慮事項として、「ネットワークの必要性と正確な知識」「段階的な取り組み−収穫後の利用を考えた栽培」を上げている。これは賛成。「正確な知識」を「段階的」と言わず是非早急に広めていただきたい。

(注4)麻についてもっと知りたい人には、「大麻堂」のサイトがおすすめ。麻に関する情報満載だ。

(注5)帰化植物:江戸末期〜明治以降に入ってきて野生化した外来植物。(参照:「日本の帰化生物」、鷲谷いづみ・森本信生、保育社)

(注6)「従来から外側の皮はロープやカーペットなどの原料になっていたが,心材は使 いみちがなく焼却していた(日経、99/5/11)」 つまり、最大で植物丈6m、茎の直径10cmにもなるケナフの、靭皮以外の部分はゴミとして焼却されているということです。各地で盛んに栽培されているケナフの心材は、一体どれくらいあるんでしょうね。これで、本当に「地球の救世主」「環境に優しい」植物と言えるのでしょうか。

(注7)2002年4月19日発売の「週間金曜日」記事によれば、同社は「『地域環境活動』と銘打って敷地内に約1000平方メートルのケナフ畑を造成し、2000年春から地元小学校や市民グループに開放してきた。」2000年は500kg、2001年は600kgのケナフを収穫したが、コスト面から「『結局、去年は紙には出来ませんでした』(林義廣・同工場総務部課長)」「収穫したケナフの一部は手漉き用に引き取り手を見つけたが、残りはゴミ同然になった。林氏曰く、「紙原料としての需要や集荷システムのない現段階では、環境対策としての効果はクエスチョンマーク」。今年のケナフの種まきは検討中とのこと。(2002/04/26)

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