ケナフで温暖化は防げない!?

 「地球温暖化の救世主」なんて派手なあおり文句で宣伝されているケナフだけど、本当だろうか?

 論理の飛躍
 製品工程のコスト
 「ケナフの特性」についての知識の偏り
 ケナフは案外無駄が多い
 「ケナフによる環境学習の誤り」(九州大学理学部生態科学講座教授 矢原徹一)
 「ケナフの生産性」は本当に高いのか(藤井伸二:大阪市立自然史博物館)
 「ケナフが温暖化を救う」は本当なのか?(樫田秀樹:フリーライター、「生活と自治」2000年9月号掲載記事)


論理の飛躍

 「ケナフはCO2をよく吸収するので、CO2の削減に役立つ」 温暖化防止の理由の決まり文句だけど、この論理はちょっとおかしい。「CO2の吸収」と「CO2の削減」はべつものなのだ。CO2の削減には、吸収したCO2が分解されにくい形態(例えば木材やサンゴなど)で蓄積される必要がある。(注1)草本植物でしかも一年草のケナフは、その年の内に枯れるので、吸収したCO2はすぐ分解されて、空中に放出されてしまう。

 だから、最近市民グループのボランティア活動で、道ばたや河川敷へのケナフ植栽運動が盛んだけれど、「植えっぱなし」では温暖化を防ぐのには何の役にも立たない!トヨタ自動車は企業の奉仕活動の一環と称して、お膝元の愛知県で社員が田畑のあぜ道にケナフを植えまくっているけど、こんなのただの企業パフォーマンスでしかない。それとも自社製品の原材料の確保のためか?(注2) それをまた、朝日新聞が真に受けて、「田園風景の復元」なんて記事を書いていた。(注3) 何で外来種のケナフを植えるのが田園風景の復元なの?

製品工程のコスト

 紙に加工したらCO2を固定できる?いえいえ、この場合も、図書として永久に保存されない限り、やっぱりダメ。紙は結局ゴミとして燃やされてしまうことが多いでしょう?規模の大小ではなく、原材料(この場合はケナフ)を加工した製品 (この場合は紙)が焼却等で分解されれば、製品に固定されていたCO2は全て空気中に放出されてしまうので、CO2の固定には役立たない。

さらに、ケナフ栽培の生産・管理コスト(肥料・農薬・潅水・除草)はエネルギー投資をともなうので、その分だけCO2を放出することになる。森林などの自然植生と異なり、栽培植物で環境問題を論じるにはこのコストを差し引く必要がある。

 結局、個人の楽しみや環境教育の一環として、ケナフの紙づくりを楽しむのはいいけれど、それ以上の付加価値は無いってことになる。

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「ケナフの特性」についての知識の偏り

「パルプの年間収穫量はアカマツの5倍」「光合成速度はエノキの5倍」

 ちまたで盛んに宣伝されている、ケナフの特性に関する数値だ。ちょっと聞けば、「ケナフってすばらしい!」と思ってしまう。でも、これは明らかに誇大広告。(JAROに電話しちゃうよ(笑))正確な数値としては 1.4〜 4.6倍で、一般に出回っている数値は極大値なのだ。環境条件(気温・降水量・日射量・土壌条件等)によって、数値は大きく変わる。これをきちんと知らせないから、「他の植物よりケナフが優れているから、どんどんケナフを植えよう」なんて誤解する人が出てくる。ケナフ推進団体やマスコミは、もっと正確な知識の普及に努めるべき。(それとも、敢えて言わないの?)(注4)

 それから、野生植物(アカマツ・エノキ)と栽培植物(ケナフ)、あるいは木本と1年生草本という比較にどのくらい意味があるのかよくわからん。まあ、ケナフパルプによって森林伐採を減らせるといった、森林保護を通した間接的なCO2削減には役立つかも知れないけど、「ケナフが温暖化を防ぐ」、というのは誇大広告では?

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ケナフは案外無駄が多い

 ケナフは従来ロープやカーペットなどの原料になっていたが、使われるのは「靭皮」という外側の部分だけだ。心材は使いみちがなく焼却されている。つまり、最大で植物丈6m、茎の直径10cmにもなるケナフの、靭皮以外の部分はゴミとして焼却されているということだ。 各地で盛んに栽培されているケナフの心材は、一体どれくらいあるんでしょうね。これで、本当に「温暖化の救世主」と言えるの?

 ケナフそのものは資源として無価値ではない。しかし、マスコミやケナフ推進派のwebに見られる、「ケナフを植えれば地球が救われる」といった手放しの誉め方はちょっとねぇ。「ケナフを植えよう」より、「紙の利用を減らそう」という運動のが、よっぽどパルプ資源の保護に役立つし、温暖化防止にも効果的だと思う。

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*このページの作成にあたり、藤井伸二様(大阪市立自然史博物館)に多くのご助言をいただきました。感謝します。


(注1) サンゴは水中のCO2を取り込み、石灰質として蓄えることでCO2を固定します。勿論、長い年月の間にはもろくなって壊れたり、少しずつ水中に溶けだし たりしますが、珊瑚礁の形成速度はそれより大きいので問題ありません。しかし最近は、人間が故意に破壊したり、海洋汚染で死滅するサンゴが増えて、温暖化の大きな要因となっています。森林も同様で、寿命を全うするまでに数十年から数百年かかる森林は、CO2の固定にとても貢献しています。しかし、これも同様に、人間活動により毎年とてつも ない面積の森林が焼かれたり、切り出されたり、砂漠化したりして失われています。

(注2) トヨタは、今年度からトラックの木製デッキの荷台の一部にケナフの心材を採用しています。 社員自ら、原材料の確保に乗り出しているんでしょうか。涙ぐましいですね。 ついでに企業のイメージアップも計れば、言うこと無し?車なんて、まさに「温暖化の旗手」ですからねぇ。
 それから、トヨタ自動車系のアラコ(愛知県豊田市)がインドネシアの合弁会社「カデラーAR」(ジャカルタ)で生産中の人気商用車「キジャン」のドアの内張りにケナフを採用するようです。東南アジアでは、すでにケナフ畑の開発過剰による環境破壊が問題になっています。トヨタの生産量によっては、さらに環境破壊が進むかも知れません。心配です。

(注3) <「よみがえれ街に緑」> 「トヨタ自動車のボランティアグループや若手市民も、せせらぎを利用して 田園風景を復元し、国道沿いにケナフを植えたり、池さらいをしたり、子連れで参加できるイベント的な手入れをしている。」(1999/8/17 朝日新聞大阪版21面)
*ビオトープに関する紹介記事なのですが、本来日本に生育していないケナフを植えることが田園風景の復元?と首を傾げてしまいました。

(注4) web上のケナフ推進団体のページにも、「5倍」という数字が踊っています。最近はネットで手軽に知識を取り入れることができますから、市民運動などでケナフ栽培に取り組んでいる人の中にも、不正確な知識を持った人が結構いるんじゃないでしょうか。かなり問題ですね。

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