「甘くち辛くち ケナフは地球に優しいか」

上赤博文(佐賀県教育センター)

 最近急に知名度が上がってきたケナフという熱帯植物があります。学校や地域おこしグループが栽培し、さまざまな活動を行っていますが、その際に必ずといっていいほど「地球に優しい」というキャッチコピーがつきます。

 ケナフが地球に優しいとされる主な理由は、二酸化炭素を大量に吸収し、地球温暖化対策となることと、製紙の原料になり、木材パルプに代わるものとして、森林保護に役立つということです。ケナフは確かに二酸化炭素をよく吸収するようですが、それが削減には役立ちません。削減のためには、吸収した二酸化炭素が分解されにくい形(木材やサンゴなど)で蓄積される必要があります。ケナフは一年草ですからそのまま放置すると、腐って分解し再び大気に戻ってしまいます。また、紙を作る場合、繊維を柔らかくするために長時間煮込みますから、吸収した以上の二酸化炭素を放出します。それに対し、何百年も生き続ける樹木は、吸収した二酸化炭素を幹や枝に有機物の形で貯蔵しますから、そこにあるだけで削減に役立ちます。

 次に森林保護に役立つという点です。日本では、製紙原料は約55%が古紙で、残りが木材パルプです。木材パルプの原料は製材残材や細い木、曲がった木などが利用されており、輸入パルプは約3分の2が先進国で、途上国からの輸入はほとんどが植林地のものです。森林破壊は熱帯林が深刻ですから、製紙に関してはほとんど無関係といえそうです。このように、「地球に優しい」とされている二つの理由は、科学的に分析すると根拠がないものです。ただし、環境に悪いのではなく、良くも悪くもないというのが実態です。

 ケナフで今一番問題になっているのは、野生化して日本の自然に悪影響が出るのではないかということです。これについては、まだ結論が出ていません。従って、栽培する場合は、畑や学校園だけにして、道路沿いや空き地、河川敷などには植えないように注意する必要があります。

 ケナフは地域おこしや学校の体験学習には大変利用価値が高い植物だと思います。その場合、「地球に優しい」というイメージを絡ませ、過剰な期待や間違った夢を与えないようにして下さい。(佐賀新聞、2001/05/18)
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かみあか・ひろふみ 広島大学理学部卒。佐賀自然史研究会運営委員長として、佐賀平野の水草調査や、里山の植生調査など研究活動を積極的に続ける。県版レッドデータブックの編さんにも協力した。1955年生まれ。

*掲載にあたり、執筆者から掲載の許可を貰っています。<は>


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