篆刻講座

 
 
書の作品は基本的には、白と黒のモノトーンで表現されます。その色のない世界を引き立たせる重要な役割をもったものが印です。
印には朱泥がつかわれますが、たった一寸四方の印ではありますが、その朱色が絶妙なコントラストを作り出して作品を引き立てます。作品は印を押して完成と言っても過言ではありません。
ただ、印は篆刻家に依頼をすると、結構なお金と、日数が必要になります。もし、自分で刻ることができれば、いつでも安価で好みのものを刻ることができます。カーボン紙やコピー機を使わない本格的な篆刻は簡単ではありませんが、完成したときの満足度が違います。コツさえわかればある程度のものは刻ることができます。あとは熟練まで努力するだけです。では、本格的な篆刻の方法を紹介します。
       
 
左の画像のような 篆刻用品 を準備します。書道用品専門店などでは篆刻セットとして6500円くらいで売っています。置いていないときときは取り寄せてもらいます。単品だとほとんどの書道用品店で売っていますので、印床、硯  (二面硯又は小さい硯2個)、墨(固形墨・朱墨)印刀、石印材、小筆(2本)、印泥、を買います。他に家庭にある鏡、古い歯ブラシ等を用意します。
 
 
ではさっそく本格的篆刻の説明に入ります。
篆書を収録した字典を準備します。篆書体をたくさん収録してある字典のほうが色々なパターンでデザインをすることが出来ます。
 
 
字典から自分の刻ろうとする文字をさがします。刻る印の文字が、印を押したとき朱色になるか、白抜きになるかで印の種類が変わってきます。朱色に文字が押される物を朱文、 白抜きになる物を白文とよびます。
 
 
今回は朱文でデザインしてみます。鉛筆で気に入った文字をデザインを交えて、自由に書いてみます。
次にボール紙などに墨を塗って、印稿の原紙を作ります。
画像にはありませんが、印稿の原紙に刻ろうとする印材を強く押し当てて、型を取ります。
 
 
型に沿って、朱文で刻るときは輪郭だけを、白文で刻るときは型の内側全部を、朱墨で塗ります今回は朱文ですので押し当てた型に沿って輪郭を書いていきます。
 
輪郭は刻ろうとする文字同様重要ですので、文字との調和を図って書かなければなりません。
 
 
写真の例は朱文ですが、草稿を見ながら実際に書いていきます。
 
印を押したときをイメージして書いていきます。  
 
線の訂正は消しゴム代わりに墨を塗ります。
 
墨を塗って消したら朱墨で書きなおせばいいわけです。
 
墨、朱墨とも濃く磨ったほうが作業しやすいです。
 
 
印稿の完成です。  
 
 小さめに切っておくと便利です。印稿は使い終わっても捨てないでとっておきます。石印材に刻りますので欠けるなどの失敗がたまにあります。印稿さえあればまたすぐに印材への布字が出来ます。また、印稿だけを集めてアルバムを作っておけば自分の印稿のデザインの上達の過程がわかります。
 
 
さていよいよ印材に布字(文字を書き入れる)に入ります。
  その前に、画像にはありませんが石印材の表面を目の細かい紙やすりで整えます。ガラス板や、鏡の上に紙やすりを敷いてこすり、まったいらにします。出荷時点の印材は表面が平らでなかったり、傷があるからです。  
 
面を整えた印材に朱文であれば墨を、白文であれば朱墨を塗ります。
 
写真の例は朱文で刻ろうとしているので墨を塗っています。 墨が濃くないと印材が墨をはじきますので、必ず濃い目に磨ります。 
 
 
印稿を鏡の前に逆さまに置いて、鏡の中に印稿が確認できるようにします。  
 
鏡の中に移った裏返しの印稿を見て、印材に字入れをしていきます。
  
修正は印稿のときと同様、墨と朱墨で丹念にしていきます。
 
 
時々印材の方を鏡に映してみて、印稿と比べては修正をして、それを何度も繰り返し、納得するまで修正を続けます。
 
そろそろ完成に近づいて来ました、鏡の中の印稿と布字の終わった印材をもう一度細部にわたって確認します。
 
 
 
 
布字の時点できちんと出来ていなければ良い印は出来ません。
 
刻る時に修正することなど絶対に出来ません。
 
 
布字の完成です。
 
 
 
 
さていよいよ印刀を使って印材を刻って行きます。
 
 
画像のように輪郭を全部刻ったほうが後の作業がしやすいです。
 
 
細いV字型に突っ込むようになるところは、必ずVの奥のほうから片側を半分刻り、後半分をVの入り口の方から刻って行きます。(画像矢印、先に右側下から上に。次に左側上から下に。)  
 
Vの入り口から刻ると、奥から戻って掘るときに線や字が欠けるときがあります。
 
 
※印刀の持ち方と運刀法にはいろいろありますが、上手に安全に刻ることが出来れば、○○法という形にとらわれる必要は無いと思います。
 
画像は握刀(手指全体で握る)横刻りという持ち方運刀法です。 
 
大雑把に刻れて字や線が古風な感じで表現されますが、細かい部分の刻りには向きません。細かいところは単鉤法(鉛筆の持ち方)で刻ると良いでしょう。
 
 
輪郭を刻り終えたら筆順にしたがって文字の周りを刻って行きます。    
 
地色の黒い墨がちょっとでも残らないように、文字の朱墨を残して刻って行きます。  
  
画像の具の字の楕円部分は矢印の方向にえぐるような運刀の仕方で刻り進めます。
 
 
反対側も同じ要領で刻ります。
  
細かい部分なので単鉤法で刻った方が失敗がありません。
 
 
画像のように広い部分は握刀法の方が生き生きした線が刻れます。
 
 
刻り上がりました。    
 
広い部分の刻りが浅いと捺印したときに“ぽつぽつ”が出ますので浚(さら)います。浚いは出来るだけ深く行います。
 
浚いが終わったら印面を洗います。 
 
 
洗った印面は刻った部分と文字、輪郭が同色になり文字と地の区別がつかなくなりますので、印泥を地にまでたっぷりとつけてから表面の印泥を拭き取ります。こうすることによって画像一番下のように文字、輪郭だけが光って確認出来やすいようになります。
 
 
 
 
刻り終えた印は印稿と比べるとまだ雑な出来だと思いますので、印稿そっくりになるまで、修正をしていきます。
 
 
先ず半紙に捺印してみます。 
 
印稿と比べてみて修正していくところをチェックします。
 
印を修正していくことを補刀といいます。
 
 
補刀は少しずつくり返し行いますので、印床は使わず手に印材を持ちます。
 
 
石の印は永い間に輪郭などが欠けたり、傷ついたりして古さを感じさせる味わいが出てきます。その味わいの出るのを待っているわけには行きませんので、作為的に古さを出します。その技法を撃辺といいます。
釘を打つげんのうが柔らかい“欠け”を出すことが出来ます。印刀の握り部分で撃つ例もありますが、柔らかい“欠け”があまり出ないようです。
あまり強く撃つと“欠け”が大きすぎて自然さが無くなりますので、軽く撃つようにします。
 
 
撃辺も終了して印が完成しました。
 
上の補刀と撃辺前の印影と比べてみてください。
 
違いがわかるでしょうか
 
 
記念と後の反省材料にするため集印帖に捺印して終了です。
 
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Last updated: 2006/1/15