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(4)草地改良

ア.草地改良計画手法

草地改良計画手法分野においては、試験ほ場及び展示ほ場の平板測量器による測量とこれに基づく図面作成を指導した。また、試験ほ場及び展示ほ場の地質調査及び用水・明暗渠排水等施設整備計画草地改良計画作成についての指導を行った。カウンターパートはこれら技術について基本的に修得した。

イ.草地改良技術

 (ア)草地造成

a. 起伏修正

李皋家村の展示圃場(計画面積約100ha)のうち50haは凹凸が多いので、効率的な機械作業のため起伏修正を行った。なお、農林科学院の試験圃場、孔店村の展示圃場は起伏がないため、起伏修正作業は必要なかった。

起伏修正作業はブルドーザーを用い、凸部の土を凹部に移動することにより少起伏を均す。

李皋家村では起伏修正を行ったが、華北平原は全般に平坦な地形であり、傾斜はほとんど無い。小起伏もほとんど無い場合が多く、起伏修正作業が必要となることは多くはない。なお、複数枚数の圃場を合わせて大きな区画の圃場とする場合は圃場周囲にある既存の排水溝を埋める必要があり、当該作業も起伏修正と同様な作業により行う。

b. 草地造成の手順

耕起から播種、鎮圧に至る工程は「(1)飼料作物栽培管理関係 ア.マメ科牧草(アルファルファ) (カ) 耕起〜播種作業の手順」に記載。

 (イ)用水施設

用水施設としては、農林科学院圃場に深さ100mの井戸5本、孔店村圃場に深さ600mの深井戸2本、李皋家村圃場に深さ500mの井戸2本を日本側の負担により掘削した。井戸から草地までの配水施設及び潅漑施設は中国側(農林科学院、孔店村、李皋家村)の負担により設置した。

農林科学院の井戸は浅層地下水を組み上げることとしたが、孔店村及び李皋家村では水質等の面で浅層地下水の利用ができないため、深さ約500mの深層地下水を組み上げることとした。当該工事はモデルインフラ整備事業として実施した。

配水及び潅水施設は中国側の負担によることとしたが、孔店村においては井戸から圃場までの地下配管及びスプリンクラーによる潅水施設を整備した。農林科学院は井戸が圃場内に点在しているために、井戸から直接配水用ホースを延ばし、ホースの先から直接水を出す方式とした。李皋家村においては農林科学院と同様に井戸(2カ所)より延ばして潅水するとしている。当地における一般的な潅漑方式は、農林科学院・李皋家村と同様に井戸からホースを延々と延ばして潅水するものである。

なお、潅水に関しては(2)のアの(キ)潅水の項参照。

 (ウ)排水施設

当地は降水量が少ないため、日本におけるような恒常的な土壌の過湿が問題となることは少ない。ただし土壌の透水性が悪いため、降水量が多い場合に一時的に土壌中の酸素が欠乏することによる作物への影響が懸念されるとともに、土壌が乾燥するのに日数を要するため、その間圃場作業に支障をきたす。しかし当地で排水施設に期待されるのは、これらの問題に対処するというよりも、排水により土壌中の塩類を流し去ることにある。

当地の土壌は全般的に細粒質で排水が悪いが、耕起された土壌は比較的透水性が良い。このため、降雨により地下に浸透した水は鋤床層の上部で滞水する。このため排水溝や暗渠排水を設置することにより、降雨時において鋤床層上部に滞水した余剰水が排出され、同時に土壌中の水溶性塩類が持ち去られる。

暗渠排水に比べて明渠排水(排水溝)は施行が容易であるが、除塩効果を高めるためには排水溝と排水溝の間隔、即ち圃場の幅を狭くしなければならない。しかし圃場における作業効率を高めるためには圃場の幅は広い方が良い。

除塩能力と圃場作業効率を両立させるためには暗渠排水及び暗渠から流れ出る水を受ける排水路を計画することが望ましい。しかし、暗渠排水は多額の経費を要する。また、暗渠は適切な勾配が必要で、暗渠の先端部及び末端部の長さと高低等を考慮して計画する必要がある。

なお、孔店村、李皋家村の各圃場とも播種後に圃場間の排水溝を掘削し、掘削した土を排水溝脇(圃場周囲)に積み上げたままとした。このためモアーコンディショナーにより牧草を刈り取る際に外側のブレード(刈取り刃)が積み上げられた土を削りブレード摩耗が著しい。今後はこの掘りあげた土を平坦に均すとともに、草地造成を行い播種を行った後に明渠を掘削するという手順を改める必要がある。明渠掘削により積み上げられた土についてはブルドーザー等により圃場内に広げ、整地の後播種するようにすることが望ましい。

ウ.土壌改良技術

 (ア)土壌の物理・化学分析技術

a. 土壌分析技術の指導

土壌分析に関しては、実施方針は、通常の土壌診断に必要な分析全般をこなせるようにするため技術の定着を図ることと、未研修の供与機材も含む高性能の分析機器を使いこなし、保守管理できるよう、試料の前処理の方法や機器の使用方法を確実に修得させることを目標とした。

1995年度の短期専門家である渡辺治郎氏(農林水産省草地試験場(当時))により滄州市農林科学院における実験室、分析機器の実態把握、農林科学院の意向等に基づき、土壌分析のための実験室の整備及び配備する実験機材についての計画が策定され、これに基づき実験室の整備及び分析機器等の導入が行われた。

1997年度の短期専門家である小島誠氏(農林水産省草地試験場)により、導入された機材を使用できる状況にセットアップするとともに、使用方法等をカウンターパートに指導した。加えて土壌全窒素、土壌塩基の分析技術を指導した。

1998年度の短期専門家である山本博氏(農林水産省草地試験場)により、サンプル土壌の採取方法、pHメータによるpHの測定、ECメータによる土壌の懸濁液のECの測定、原子吸光光度計の操作法、交換性陽イオンCa、Mg、K、Naの測定について指導を行った。

1999年度の短期専門家である渋谷岳氏(草地試験場)は導入された機器を活用した、高度な分析技術を指導することとしたが、この指導に際しては飼料分析に用いたようなマニュアル(国際協力事業団・農林水産省家畜改良センター飼料種苗課、1998、飼料栄養成分分析(一般栄養成分分析))がないため、実際の実験に入る前に土壌分析マニュアルを作成し、これを事前に説明し、必要な器具や薬品などを準備させることから始めた。また、実際に実験を実施してゆくなかで、一部器具類の不足などが明らかになり、これを手当してゆくことで実験室の設備や器具類が完備されていった。

短期専門家の指導により、高性能の分析機器を使用する高度な化学分析技術を修得するとともに、土壌物理の分析技術も修得した。土壌診断に必要な分析技術と供与された機器の使用方法や保守管理も含め、技術移転に関する所期の目標は基本的に達成された。カウンターパートは今後は精度の向上に向けた熟練が要求されるとともに、土壌診断や現場での指導などの技術の活用が期待される。

分析機器に関して、操作技術を修得した内容は次のとおりである。

これらにより農林科学院のカウンターパートは下記の測定が行えるようになった

b. 土壌分析上の問題点

 (a)指導項目

今回移転した土壌の分析技術は日本では極めて一般的なものである。特に化学分析の分析項目は一部を除き中国でも必須のものである。また供与した機材も日本では都道府県の試験場がそろえるような一般的なものである。この点では問題ないと言える。

しかし日本は降水量が多く土壌は酸性土壌がほとんどあるのに対し、当地はアルカリ土壌であるうえ塩類が多く、半乾燥地域のため土壌水分は下から上に移動するので、土壌と作物の関係の考え方が日本のそれとは一部異なってくるのではなかろうか。例えば日本の土壌診断でよく使われる陽イオン交換容量(CEC)の測定は、土壌が吸着できる陽イオンの量を定量し、土壌の肥沃土を評価する。これは日本のような土壌中の塩類が流亡しやすいところでは意味のある測定である。しかるに当地の土壌は塩類が多く、即ち陽イオンで飽和状態になっている。このような土壌ではCEC測定は必要性は低いのではないかと思われる。

 (b)分析用機材・資材等の問題

この項では当地における分析を行う上で必要な機材、資材等における問題点を記した。なお、飼料分析とも共通の問題も含まれる。今後供与機材計画の策定に当たっては、現地の状況を把握し、現地での使用に適した機材を選定するとともに、実験室を設ける場合は、水道、電気等の設置には十分配慮することが重要である。

<電気>

当地では商用電源の電圧変動が著しく、また停電も頻繁にある。最近の機器はタイマーが電子部品の形で組み込まれており、頻繁な停電は実験の円滑な遂行を妨げる。

電力使用量の特に大きいものは無理であるが、無停電電源装置を介して電力を供給すると短期間の停電には対応できる。また無停電電源装置は電圧安定機能も有しており、商用電源の多少の電圧変動にも対応できる。しかし無停電電源装置といえども、数分ないし10分程度の電力供給しかできない。このため停電に際しては、無停電電源装置により電力が供給されているうちに、停電による実験への影響を最小限にとどめるように手当てをした上で実験を中断せざるをえない。

<水道>

滄州市農林科学院の水道は供給される水道の水圧に依存している(屋上に給水槽が無い)。農林科学院に供給される水道についても水圧が低く、変動がある上に、断水もまれではない。また建物内の水道配管も細いものが多く、錆がでたり水垢が付着する等で水の通るところが細くなり、水の出が悪いところもある。一方で水道水を使用する分析機器においては一定の水圧が必要なものも多い。

このため、今後新たに実験室を設ける場合は、建物の屋上等に十分な容量の給水槽を設け、断水への対応を図ると共に、ここから建物内に給水する水道管は必要十分な太さのものにすることにより必要な水圧、水量を確保することが望ましい。

<原子吸光光度計>

B(ボロン)とMo(モリブデン)については、カウンターパートからの分析の要望があるが、高温バーナーを使用するので危険なため、日本では比色分析を行うのが一般的であることを説明した。また防護グラスがないことと、Bの原子吸光光度計の感度が低いため濃縮が必要であるが、そのための機材がないことを説明し今回は実施しなかった。それならば最初から比色分析を実施するように計画を立てて、BとMoの分析用のホロカソードランプを供与しなければ良かったと考えられる。しかしこれらの細かい点までは、当初計画作成時点では予測不可能であったと思われる。逆にカウンターパートの技術が向上した場合、防護グラスと濃縮用の機材をそろえれば分析可能である。

使用に際しての問題としては、使用後のメンテナンスが確実には実施されていなかったため、バーナーにサビが浮いていた。分解しサビを落とすとともに、今回の研修で使用後のメンテナンスを徹底するよう指導した。

なお、分析中にたびたびコンピュータが停止するトラブルに見舞われた。電圧が安定しないのか、機器側に問題があるのか原因不明である。

<土壌粒径分析装置>(関連:小型冷却多本架遠心機、超音波発振器(供与せず))

当地の土壌は塩類土壌であるため、土壌を薄い塩酸で洗う操作が必要である。遠心分離機は供与されてはいるが、本法での使用に適したローターが供与されておらず、この工程は省かざるを得なかった。また土壌粒子の分散に必要な出力を持った超音波発振器が供与されておらず、この工程も省略せざるを得なかった。カウンターパートには、今回の分析結果の信頼性は低くなることを説明して分析を実施した。

但し、分析技術のマスターのためには、これらの機器は必ずしも必要とは思われなかった。当該装置は比較的安価であるのに対し、超音波発振器は高価であり、遠心分離器 はある程度汎用性があるので、計画時点で個々それぞれの分析に使用するローターを予測することは不可能であると思われる。本格的に分析を実施する際にこれらを購入すればよいと考えられる。

<純水製造装置>
当地の水道水は配管の問題からか、異臭がするうえに鉄さびやゴミなどの浮遊物が含まれており、導入した純水製造装置は性能が十分発揮できないことがわかった。日本の水道水を使用した場合は、イオン交換樹脂のカートリッジを取り替えずに600リットル製造できるのに対し、当地では60リットルしか製造できなかった。このため導入した純水製造装置で製造された純水は相当高価なものになってしまう。

なお、市販の蒸留水の水質はミネラル分がまだ相当残存している。土壌の分析では土壌に含まれているミネラル分が微量であるため、分析に使う蒸留水中のわずかなミネラル分も分析結果に影響を与えるため、土壌分析用の蒸留水として使用できないことがわかった。なお、飼料の分析に際しては、飼料中に含まれている成分量が相対的に多いため、支障なく使用できる。

このため土壌分析等で、どうしても純粋製造装置で製造した純水でなければならない実験を行う場合以外は導入した純水製造装置を運転しないことにした。

一方、中国国内にも水を沸騰させてその蒸気を冷却し蒸留水を得る蒸留器で実用に供しうるものがあることがわかった。このため中型の蒸留器を中国国内で調達した。当地の水道水の品質からすると2回蒸留する必要があるので、今回は市販の蒸留水を再蒸留してみた。能力は1時間で10リットル製造でき十分実用に耐えるものである。今後新しいプロジェクトなど、水道水の水質が悪いところに蒸留水製造装置を導入する場合には、大いに参考になると思われる。

なお、現在のように分析の点数が少ない場合は、今の蒸留水製造体制で十分対応できるが、今後分析点数が一度に100〜200点と大量になると、洗浄水なども含めると大量の二次蒸留水を確保する必要があるため、より大型の蒸留装置を用いるか、蒸留装置の台数を増やす等の必要性も生じる可能性がある。

<土壌交換性陰イオン測定装置>

使用後メンテナンスが実施されていなかったため、流路が固着していた。今回の研修で保守管理の指導を徹底した。

 (c)その他

当地では以上のような機材、資材面での問題に加えて、これら機材の使いこなし等においても問題がある。例えば中国ではえてして機器類は使いっぱなしとなりがちである。使用前後の点検とメンテナンスが不可欠な機器も多い。機器類は所期の機能を維持していくためには点検やメンテナンスをきちんと行うことが必要である。

 (イ)土壌の改良技術

a. 土壌の物理性

当地は黄河、海河水系の氾濫原であり、土壌はこれらの河川による堆積によるものであり、当地はこれら河川の下流域にあることから、堆積された土壌粒子が細かく透水性は良くない。また、乾燥すると固結してしまう。また、降雨の後、泥濘化したり水たまりができたような所では、土壌の乾燥に伴い土壌表面にクラスト(皮膜状の固まり)を生じ、更に乾いて土壌が収縮することによりひび割れが入る。

またこのような性質の土壌に対しては、土壌有機質を増加させることが有効であり、堆肥の施用が好ましい。(堆肥の施用については、ウの(ウ)のb. 堆肥の施用の項参照)

実際には牧草への堆肥施用は困難な場合が多く、次善の策として緑肥の栽培・鋤込みを行うことが有効である。(緑肥の栽培と利用については、ウの(ウ)のc. 緑肥の栽培と利用の項参照)

なお、アルファルファを数年栽培することにより、アルファルファの根や落葉により土壌中の有機質が増加し、土壌の物理性も改善されることが期待される。

b. 土壌塩分濃度

当地は乾燥地における一般的傾向として土壌塩分が高い。プロジェクトの展示圃場3か所の中で孔店村の単収が最も低いがこれは土壌の問題、特に塩分濃度が関係しているのではないかといわれている。また孔店村及び李皋家村圃場の中に帯状に牧草が定着しないところがあり、これも塩分濃度が原因ではないかと考えられた。このため孔店村圃場において牧草が定着している所、帯状に定着していない所の塩分濃度を測定し、比較した。(調査資料4:孔店村及び李皋家村展示圃場の土壌分析参照)

当該試験ではアルファルファが定着しない箇所は塩分、特に塩化ナトリウムの濃度が高く、正常に定着生育している箇所では塩分濃度が低かった。このことから帯状に牧草が定着しない所については、その理由は塩化ナトリウムを主体とする土壌塩分濃度によるものと推察された。なお、土壌塩分濃度と牧草の定着及び生育の関係については、今後更に試験を重ねる中で明らかにすることが必要である。

塩分濃度を低下させる方法として、明渠(排水溝)、暗渠を設置し、降雨時に水が土壌中からこれら排水施設に流れ出る際に塩分を溶かし去るのが有効である。(イの(ウ) 排水施設の項参照)

当地の穀作を行う畑は伝統的に細長く作り、脇に側溝がある場合が多いが、これは降雨時に土壌塩分を側溝に洗い流すことを目的としている。積極的に土壌塩類を除去する目的で多量の灌漑を行うことも考えられるが、このためには多量の灌漑用水が必要となり、当地においては現実的ではない。

なお、当地ではアルファルファの栽培によりこれが土壌塩分を吸収し土壌塩分濃度を低下させると言われている。東光県畜牧水産局等によれば、アルファルファは土壌中のカリウム、カルシウムを多く吸収するため、3〜4年のアルファルファ栽培により0.3〜0.4%あった土壌塩分濃度が0.1〜0.2%に低下するといわれている。

しかし土壌分析結果にあるように、土壌塩分濃度の主因は塩化ナトリウムであり、植物は塩化ナトリウムをあまり吸収しない。また土壌中(根群分布域)にある塩類の総量はアルファルファが吸収しうる量からすれば極めて多いため、実際にはアルファルファによる除塩効果は期待したほどに大きくはないのではないかと思われる。

c. 土壌のpH

土壌中にナトリウム塩やカリウム塩等が集積することは土壌塩分濃度を高めるが、ナトリウムイオンやカリウムイオンに対応する陰イオンとしては塩素イオン、炭酸イオン及び施肥した窒素肥料に由来する硝酸イオンが主体であると考えられる。塩酸、硝酸は強酸であるためそれらのナトリウム塩、カリウム塩は中性に近いが、炭酸は弱酸であるために陰イオンに占める炭酸イオンの割合が増せば(即ち塩素イオン、硝酸イオンの割合が少ない)、アルカリ性を呈することになる。

作物は生育に適したpHの範囲があり、これから外れることにより生育は悪くなる。降雨の多い日本では牧草の栽培にとって酸性側であることが問題となるが、当地では逆にアルカリ性であることが問題となる可能性がある。

このようなことから、99年に行った孔店村の土壌調査では、pHについては、正常生育区は8.17から8.87、生育不良区は8.12〜8.38であり両者に大きな違いはなかった(詳細は調査資料4:孔店村及び李皋家村展示圃場の土壌分析参照)。この値は植物栽培を行う土壌としては比較的高い値ではあるが、この程度のpH値がアルファルファの生育に絶対的なダメージを与えるには至っていないことが予測された。なお、土壌pHと牧草等の生育との関係は今後更に究明する必要がある。

アルカリ性の改良としては、上記「土壌塩分濃度」の項でも触れたように、雨水や灌漑水により土壌中のナトリウム、カリウム等を流し去ることが有効である。また窒素肥料として硫安(硫酸アンモニウム)を施用することによりpHの改善も期待できるが、土中の塩基の量が多量であると思われ、肥料としての施用量では十分に改善できないことも多い。また石膏が入手できる場合は、粉砕した石膏を施用することにより、石膏中のカルシウム(水に溶けにくい)とナトリウム、カリウム(アルカリ度が強く水に溶けやすい)が置換し、pHが低下するとされている。

なお、今後栽培した牧草と家畜飼養が密接に結びつき、家畜糞尿を原料とした堆肥がより多く投与された場合には、腐植酸等の有機酸が土壌中に増えることになり、土壌のアルカリ性が緩和されることが期待される。

d. その他

当地の土壌は日本において広く見られるような火山灰土壌ではない。このため燐酸吸収係数は高くはないと思われる。しかし未墾地の土壌には燐酸成分が乏しく、牧草の定着には土壌改良資材としての燐酸肥料の施用は書かせない。既耕地においてもそれまでは必要最小限の燐酸質肥料しか施用していないために、土壌中の有効態燐酸は少ない場合が多く、牧草定着のための燐酸肥料の施用は欠かせない。

99年春における山本短期専門家(草地試験場)及び農林科学院カウンターパートによる孔店村圃場の土壌調査でも、土壌塩分の関係で牧草が定着せず裸地になっていたところでは有効態燐酸は多かったが、牧草の定着、生育しているところでは有効態燐酸の値は低いものとなっていた。草地を造成して以降の施肥がなされていなかったか、あるいは当面の生産量を上げるための窒素肥料に偏した施肥となっていたものと思われる。

なお、いまのところアルファルファの生育に関して微量要素欠乏と見られるような明らかな徴候は無いが、市場で売られているキャベツの内葉の縁がネクロシス(褐変、壊死)となっているのが多く見られ、これはホウ素欠乏の可能性がある。また、根粒菌による窒素固定にはモリブデンが必要であり、当地のアルファルファに根粒の付着が少ない理由としてモリブデンの欠乏も可能性として考えられる。

売られているキャベツ内葉のネクロシスについては、当報告書作成時点ではホウ素欠乏を疑ったが、その後の検討により土壌がアルカリ性で土壌中にナトリウムイオンが過剰な状態で、これがカルシウム吸収を阻害し、カルシウム欠乏となったことが原因である可能性の方がより大きいのではないかと思われた。

プロジェクト期間中には微量要素については分析を行わなかったが、指導した技術及び供与した分析機器(原子吸光光度計)により分析することができる。アルファルファ栽培圃場においてもホウ素、モリブデン及びその他微量要素の欠乏があるかどうかについては今後明らかにすることが望ましい(カウンターパートは分析可能なはずである)。

 (ウ)土壌有機質について

a. 耕地における土壌有機質の状況及び有機質施用の実態

当地の耕地土壌中の有機質含量は1%以下と、非常に欠乏した状況にある。この理由として、以下のことがあげられる。

農家の収入水準は低く、燃料である石炭の購入量を節減するために農場副産物である作物茎葉が燃料として用いられている。穀物収穫後のトウモロコシ茎葉も燃料として利用できる部分が少しでも多く収穫できるように地際から刈り取るのではなく、地下5〜10cmのところを鎌で刈り取る。このため土壌中に残留する有機質は極めてわずかなものとなっている。綿花の茎葉も燃料とするために畑から持ち去られていた。また、当地では林地が全く無く、樹木は街路樹や村落内に植えられている程度であり、こららの落葉も集められて燃料とされており、有機質資源とはなっていない。野草も家畜の飼料として利用しているが、直接有機質資材として畑に施用することはない。

近年では農村においても電気やLPG(液化石油ガス)等が普及し、燃料としての農場副産物の利用は減少してきている。しかし従来のトウモロコシ茎葉や麦稈を持ち出した後に次の作付のための耕起を行うことが農作業技術として定着しており、これら稿稈類の燃料等としての需要の減少が圃場への有機質投入の増加には結びついてはいない。(稿稈類の発生状況については、(3)のエの(ア) 農場副産物の発生状況の項参照)

一方で堆肥は貴重な肥料であるとともに、極めて乏しい土壌の有機質を補給する資材でもある。多くの農家(都市近郊の小規模な農家を除く)では運搬用あるいは耕作用としてロバ、馬、牛等を1頭程度飼養している。これら家畜の糞は積んでおいて自分の畑に入れる。しかし戸当たり農地面積は少ないとはいえ飼養頭数も少ないため、面積当たりの堆肥投与量は少ない。

なお、家畜は住宅の脇に繋養されており、ここで排泄される糞は集められるが尿については土中にしみ込んでしまう等により回収率は小さいものと思われる。また糞についても特段シートをかけるわけでもなく強烈な日光の下にさらしてあるため、糞尿中の窒素分についてもそのかなりの部分が揮散してしまうのではないかと思われる。

家畜の糞は、当地で一般的な小麦−トウモロコシの体系では小麦又はトウモロコシ播種前に耕起する際に鋤込んでいる。また孔店村等の果樹栽培を行っているところでは、穀作よりも果樹に優先的に入れるとのことであった。果樹の方がより儲かる作目であるためであると思われる。

滄州市街地の周辺ではまだ人糞尿が使われており、町中ではロバが牽引するいわゆる人糞尿汲取車をみかけた。市街地近郊農家における人糞尿の調製方法としては、麦の脱穀時に出る細かい屑状になった茎葉に吸着させて発酵させ、堆肥とする方法がとられている。また、圃場脇の貯留槽(土を掘っただけのもの)に貯めてあるのも見かけたことがあり、圃場への直接施用も行われているものと思われる。作物(トウモロコシ等の夏作や小麦)の播種時期の畑地では、人糞尿の臭いが漂っていることがあった。

b. 堆肥の施用

当地の土壌は腐植が少ないため、生産性の向上を図るためには土壌腐植の増加を図ることが必要である。土壌の腐植を増加させる最も一般的な方法は堆肥を施用することである。前項でも記したように未利用となっている稿稈類が増加してきており、これらは第一義的には飼料利用に振り向けるのが好ましいが、一挙に家畜頭数を増やすことは困難であるため、当面それら稿稈類を積極的に堆肥化することが望ましい。特に余剰基調となっているトウモロコシ茎葉は粗剛であり、十分な発酵をさせないと圃場に施用しづらいことに加え、耕起時にプラウにひっかかり、作業の支障となることが考えられる。当地の乾燥した空気の中では発酵中の堆肥の乾燥が進み、十分に発酵しないことも考えられるため、必要に応じてビニールシート等をかける等により乾燥を防止し、発酵を進ませるよう考慮することが望ましい。また、できればサイレージ調製時と同様に、フォーレージハーベスターや飼料カッター等により細断してから堆肥化すれば多くの問題は解消できるものと思われる。

当地では前項に記したように限られた量の堆肥はより優先度が高い作物(直接人間の食用となる作物)に施用されることや、アルファルファそのものが地力増進的な効果を期待して栽培されることから、農家段階においては堆肥が草地に施用される可能性は極めて小さい。アルファルファを穀作の生産性向上のための輪作作物としてとらえるならばこれもやむをえないが、アルファルファの生産性向上を図るためには堆肥の施用を含めた土壌有機質の増加を積極的に図ることが望ましい。

アルファルファ草地に施用する場合は耕起前に圃場に散布し、耕起時に鋤き込む。

c. 緑肥の栽培と利用

土壌腐植の増加を図るためには堆肥の施用が最も好ましいが、次善の策として緑肥を栽培し、これを鋤き込むことも有効である。当プロジェクトにおいても、草地整備に先駆けて緑肥の栽培を行い、これを鋤き込むこととした。

緑肥作物として、ライコムギ(小黒麦)とセスバニア(田菁)の比較を行った。ライコムギの場合は草地整備を行う前年秋に播種し、翌春鋤き込む。一方、セスバニアは、当年6月中下旬播種し、8月中下旬に鋤き込む。

ライコムギの場合は発芽と生育を確保するために秋と春灌水が必要である。また鋤き込み時期が乾燥季となり、予め潅水しない場合は土壌が硬いため、十分な深さに鋤き込めないこと等の問題がある。一方のセスバニアは6月中下旬播種し、8月中下旬に鋤込みできる。播種時期は降雨も徐々に多くなる時期であり、灌水は必要としない場合が多い。また生育期間が短く、生草量もライコムギ以上にある。このようなことから、セスバニアの方が緑肥作物として適していると判断された。このため、プロジェクト2年目以降は緑肥作物としてセスバニアを使用した。なお、セスバニアはマメ科植物であるが、李皋家村においては根粒菌の接種を行わなかったにもかかわらず、根には根粒が形成されているのを確認した。

なお、ライコムギをセスバニアとの比較で不適とした理由の一つに鋤込み時の土壌水分の問題があるが、灌漑施設が整備されて事前に灌漑を行うことができれば問題とはならない。

穀実は収穫するが茎葉は圃場へ戻すことを条件とした小麦栽培についても緑肥栽培に代わるものとして検討の余地がある。なお、穀作(小麦−トウモロコシ体系等)を行っていた圃場にアルファルファを栽培する場合においても、前作の小麦の茎葉は全量鋤き込むことが好ましい。

緑肥栽培における耕起〜播種、鎮圧の工程は牧草の場合と同じである。((2)のアの(カ) 耕起〜播種作業の手順の項参照)


(調査資料4)孔店村及び李皋家村展示圃場の土壌分析

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