(調査資料4)

孔店村及び李皋家村展示圃場の土壌分析

劉 春田1)、翟 玉柱1)、梁 風琴1)、山本 博2)、庄子一成3)、吉田信威4)
1)滄州市農林科学院飼料作物研究中心
2)農林水産省草地試験場
3)沖縄県乳用牛育成センター
(当時 中国河北省飼料作物生産利用技術向上計画長期専門家)
4)農林水産省草地試験場
(当時 中国河北省飼料作物生産利用技術向上計画長期専門家)

1.調査の目的

孔店村及び李皋家村のアルファルファ圃場においては、圃場全体としてはアルファルファが定着したが、その中に帯状にアルファルファが定着しない部分がある。これは土壌塩分濃度が部分的に高いためではないかと推察されたが、これを化学的に実証するとともに、牧草(アルファルファ)が定着できる土壌と定着しない土壌の化学的な違いを明らかにする。

2.調査方法

孔店村展示圃場では、帯状に牧草が定着していない場所及びその近くの牧草が定着している場所、更にはその脇の側溝内の土壌を採取して化学分析を行った。李皋家村圃場では牧草が定着しているところと近傍の定着不良のところの土壌を採取して化学分析を行った。なお、土壌採取は99年3月、土壌の化学分析は土壌採取以降順次行い、99年8月にデータを得た。

土壌の採取は圃場を横切るような形で牧草がほとんど定着していないところを選び、10m間隔で3カ所を生育不良区の調査地点とした。正常生育区は生育不良区の3カ所を起点としてここからそれぞれ10m、20m、30m離れたところを各10m間隔で調査地点を設定した(A〜C)。李皋家村展示圃場では、牧草が定着していない部分及び近傍の正常に牧草が生育している圃場を調査地点とした。側溝内(孔店村)については、正常生育区の脇の側溝の底を調査地点とした。

各調査地点とも地表から0〜5cm、5〜10cm、10〜15cm、15〜20cm深さの土壌を採取した。

pHはpHメータを用い、土壌の懸濁液のpHを測定した。EC(電気伝導度)はECメータを用いて、土壌の懸濁液のECを測定した。可給態リン酸(孔店村分のみ)はオルセン法により測定した。なお、各調査地(A〜F)ともに3ポイントの平均値を示した。

当該調査の計画及び具体的な調査方法については、1998年度短期専門家(農林水産省草地試験場山地支場)の山本博氏の指導を受けて行った。

3.試験結果

(1)孔店村展示圃場

pHについては、正常生育区は8.17から8.87(平均8.57)、生育不良区は8.12〜8.38(平均8.40)であり、生育不良区と正常生育区の値に違いは見られなかった。

塩化ナトリウム濃度(NaCl:%)は正常生育区は0.01〜0.06(平均0.03)、生育不良区は0.11〜0.20(平均0.14)と、両者に違いが見られた。

電気伝導度(m.s/m)は正常生育区が24.6〜114(平均54.38)、生育不良区は229〜404(平均287.5)と両者に大きな違いが見られた。

可給態リン酸(PPM)は正常生育区が1.56.〜47.48(平均13.33)であったが、特異値と思われる調査地点Aの0〜5cm層のデータを除外すると1.56.〜15.96(平均10.22)となった。一方生育不良区は17.57〜24.91(平均21.63)と差が見られた。

なお、正常生育区の中でもAの地点は比較的NaCl(%)、Ec(m.s/m)ともに比較的高い値となった。可給態リン酸(PPM)についてはCが最も低く、A(異常値と見られるデータを除く)及びBが比較的高い値となった。

成育不良区では表層(0- 5cm)がそれより深いところの土壌よりも塩化ナトリウム濃度及び電気伝導度の値が高かったが、正常成長区ではこれらの値と深さの関係は明確ではなかった。

側溝内における各測定値は、可給態リン酸が正常生育区よりやや高い値となった他は、NaCl(%)、Ec(m.s/m)ともに正常生育区のデータの範囲かあるいはこれをわずかに超える程度であった。

孔店村展示圃場測定値
区分深さ(cm)  pH  NaCl(%)Ec
(m.s/m)
可給態リン酸
(PPM)





0- 58.17 0.04 85.9 47.48
5-108.54 0.06 112.9 15.96
10-158.70 0.05 106.4 12.76
15-208.65 0.06 114.0 12.09
0- 58.32 0.01 27.4 14.50
5-108.67 0.01 28.2 16.43
10-158.79 0.01 31.3 10.49
15-208.87 0.02 39.1 6.95
0- 58.28 0.01 26.0 8.95
5-108.53 0.01 25.5 6.48
10-158.66 0.01 24.6 6.26
15-208.61 0.01 31.2 1.56




0- 58.12 0.20 404.0 17.57
5-108.38 0.14 278.0 20.44
10-158.54 0.12 239.0 24.91
15-208.54 0.11 229.0 23.58



0- 58.26 0.02 32.7  
5-108.64 0.01 27.6 19.57
10-158.89 0.01 30.2 16.10
15-209.03 0.01 32.0 14.63
0- 58.30 0.01 34.2 12.46
5-108.47 0.02 27.9 6.61
10-158.92 0.01 26.8 4.62
15-209.17 0.01 23.3  

グラフ
pH 塩化ナトリウム濃度(NaCl:%) 電気伝導度(m.s/m) 可給態リン酸(PPM)

(2)李皋家村展示圃場

pHについては、正常生育区は8.16から8.71(平均8.46)、生育不良区は8.52〜9.75(平均8.87)であり、生育不良区の方が正常生育区より高い傾向を示した。

塩化ナトリウム濃度は正常生育区は全て0.01、生育不良区は0.01〜0.14(平均0.03)と、生育不良区の方が正常生育区より高い傾向を示した。しかし、その違いは孔店村圃場における違いに比べて小さく、異常値と見られるデータを除けば成育不良区の最高値(0.03)でも孔店村圃場における正常成長区の値の範囲内にあった。生育不良区では特に表層(0〜5cm)が高い値を示した。なお、生育不良区のうちK区の0〜5cmにおける値は他より極めて高く、何らかの理由による特異値ではないかと思われる。特異値を除外しても生育不良区の値は正常生育区よりも高かった。

電気伝導度についても正常生育区が15.0〜30.3(平均21.8)、生育不良区は21.3〜273(平均59.1)と両者に大きな違いが見られた。なお、塩分濃度において特異値とされたところではEc値においても異常値と思われる値を示した。なお、ここにおいても当該データを除外しても生育不良区の値が正常生育区よりも高かった。

なお、李皋家村圃場における生育不良区の値は孔店村圃場における正常生育区と生育不良区の中間の値を示した。

李皋家村展示圃場測定値
区分深さ(cm)  pH  NaCl(%)Ec
(m.s/m)





0- 58.270.0124.7
5-108.500.0121.1
10-158.480.0130.3
15-208.500.0127.5
0- 58.160.0128.2
5-108.430.0117.2
10-158.500.0120.1
15-208.580.0115.0
0- 58.320.0123.7
5-108.530.0117.3
10-158.590.0118.4
15-208.710.0117.6





0- 58.730.14273
5-108.730.0355.2
10-158.620.0359.3
15-208.660.0355.3
0- 58.560.0367.3
5-109.080.0130.0
10-159.190.0125.5
15-209.140.0126.4
0- 58.520.0250.1
5-108.690.0124.3
10-158.740.0121.3
15-209.750.0121.7
注.生育不良区の最高値及び平均値の欄、*印は特異値を除外したデータによるもの。

グラフ
pH 塩化ナトリウム濃度(NaCl:%) 電気伝導度(m.s/m)

4.考察

孔店村展示圃場では、土壌pHは牧草が正常に定着し、生育しているところと生育不良のところとでは大きな違いは無く、孔店村展示圃場における土壌pHの範囲では、これが定着不良の原因とは考えられない。

しかし、李皋家村展示圃場においては、牧草が正常に定着したところと成育不良のところとでは土壌pHに違いが見られる。また、孔店村と李皋家村の成育不良区の土壌pHを比較してみると、李皋家村の方が平均値で8.87、最低でも8.52と孔店村の値(平均:8.46、最高:8.71)と比べて明らかに高い値となっており、李皋家村では土壌pHが牧草の定着と生育に影響を及ぼしているものと思われる。アルファルファは比較的アルカリ性の土壌でも生育できるとはいわれているが、李皋家村の成育不良区におけるpH値はアルファルファとしても高すぎるものと思われる。

孔店村圃場では、土壌中の塩化ナトリウム濃度及び電気伝導度で正常生育区と生育不良区の間で違いが見られた。このことから孔店村においては牧草定着の有無は塩化ナトリウムを主体とする土壌塩分濃度によるのではないかと判断される。牧草定着の有無を決めることになる境界線は、土壌中の塩化ナトリウム濃度で0.06〜0.1%、電気伝導度が110〜220の間にあるのではないかと思われる。

他方、李皋家村圃場でも塩化ナトリウム濃度においては正常生育区と生育不良区の間で違いが見られたものの、異常値と見られるデータを除けば成育不良区の最高値(0.03)は孔店村圃場における正常成長区の値の範囲内にあり、李皋家村圃場では塩化ナトリウム濃度が牧草の定着・生育に支障をきたすものではないことが伺えた。

土壌中の可給態リン酸の値は孔店村圃場のみの調査ではあるが、これが牧草定着の有無の要因ではなく、牧草の定着の有無により結果としてこのような違いが生じたと考えるべきであろう。即ち牧草が定着しなかったことにより施用した燐酸成分が吸収されずに土壌中に残ったのである。また施用時の散布むらや散布した燐酸肥料の形状(固まりが多い)が孔店村調査地点Aにおけるような異常値を生じる原因と考えられる。

以上のことを要約すれば、孔店村圃場においては土壌中の塩分濃度及び電気伝導度が、李皋家村圃場では土壌pHと電気伝導度が牧草の定着に関する制約要因ではないかと推察される。

今後牧草が定着したところと定着しないところの境界線近くで多くのサンプルを採取して調べることにより定着の有無を決定づけるpHや塩分濃度の指標(電気伝導度及び塩化ナトリウム濃度)が明らかになるものと思われる。また孔店村圃場及び李皋家村圃場とも複数の要因があげられたが、そのどちらが主要な要因となっているかについては今後更に調査を進めて明らかにする必要がある。

なお、孔店村の側溝内のデータは正常生育区とほぼ同じ範囲にあったが、これは草地造成後年数を経ておらず、雨水により土壌中の塩分が洗い流され、側溝部分に集積するということがまだほとんどなされていなかったためである。比較的古い草地・耕地において調査し、側溝設置の効果と適切な設置幅(側溝と側溝の間隔=草地・耕地の幅)について明らかにすることが望まれる。


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調査資料一覧
(調査資料1−1)
牧草及び飼料作物の適応性試験結果報告書

(調査資料1−2)
アルファルファの「中苜一号」など10品種の適応性試験

(調査資料2)
トウモロコシの播種深さが発芽に及ぼす影響調査

(調査資料3)
粗蛋白質分析マニュアル
(MY式窒素分解・蒸留装置を使用する場合の専用分析マニュアル)

(調査資料4)
孔店村及び李皋家村展示圃場の土壌分析