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(3)飼料作物収穫・調製・利用

ア.乾草調製

 (ア)収穫適期

プロジェクト実施期間中の刈取りはいずれも開花盛期頃であり、これは刈り遅れである。各刈取り(1番草及びそれ以降)とも、開花始めには刈取りを行えるようにすることが望ましい。刈取りが遅れると生産した乾草の品質が低下するとともに、アルファルファが倒伏し、収穫ロスが多くなってしまう。

このように収穫時期が遅れがちである背景には、当地ではまだ量を求めて質が二義的になっているという背景がある。まだ草地を管理、利用する者(農民、そして農林科学院でも)においても飼料の栄養価に着目し、栄養価(収量×栄養含有率×消化率)が最大となる時点で収穫するという認識に欠如しているためと思われる。適期収穫を行うためには生産した牧草の品質を含めた評価が的確に行えるようになる必要がある。この点においても指導を行ったが、十分な理解を得ることはできなかった。また、2番草以降は1番草に比べて次第に収量が低下していくものであるが、「もっと収穫時期を遅らせればもっと伸びるのではないか」との期待があるものと思われる。しかし開花以降はそれ以上伸びることはなく、あまり収穫期を遅らせると下葉が落葉してくる。このため逆に収量、特に栄養収量の点からすればマイナスとなる。夏期高温時には着蕾しても暑さのために蕾がダメージを受け、十分な開花に至らない場合がある。「開花しないからまだ収穫時期ではない」とするのではなく、十分な観察を行い、これに基づいて適期に収穫することが重要である。

また、適期収穫を行うためには事前に収穫用機械の整備等の準備を終えておく必要がある。

秋の刈取り危険帯(最終刈取り後の生育の関係から翌春の生育に支障をきたすとされる刈取り時期)における刈取りは避けることが望ましいとされている。気候の面で当地に近い日本の東北地方における危険帯は9月15日〜10月10日頃と見込まれている。この「危険帯」の時期は日本におけるものであり、ほぼ当地でも適用できるものと思われるが、今後正確な「危険帯」時期を明らかにすることが望ましい。なお、寒さにより生育が停止する時点で草丈が10cm以上あることが望ましいとされており、上記危険帯についてはこのための目安であると思われる。当地における観察では、夏〜秋における再生については、品種による違いが大きく、滄州苜蓿は生長量は少なく、日本より導入したキタワカバは夏以降も刈り取り後の生育は旺盛である。このことからすれば上記危険帯も品種により違うのではないかと思われる。今後、品種毎に生育停止までに草丈10cm以上を確保するための刈取時期を明らかにするとともに、当該草丈が確保できなかった場合、これが翌年の生育にどれほど影響するか、即ち危険帯が本当に存在するのかどうかについても明らかにすることが望ましい。短期専門家として当地で指導した樋口誠一郎氏(農林水産省東北農業試験場)によれば、アルファルファにおいては「危険帯」は無いとしている。

展示圃場において栽培の主体となっている「滄州苜蓿」の刈取り時期は1番草が5月下旬、2番草が7月中旬、3番草が9月中下旬となる場合が多いが、各番草とも刈り遅れ気味(開花盛期)となっており、生産した牧草品質の低下を招くとともに、3番草が危険帯の時期となってしまう。このため早めの刈取りにより品質の向上を図るとともに、当面アルファルファにおいて危険帯を考慮する必要が無いと判断されるまでは、3番草が危険帯の時期以前に刈り取ることができるようにすることが望ましい。

 (イ)乾草収穫体系

(下記の他にウの(ア)のc. 牧草収穫の項も参照のこと)

a. 刈取り

プロジェクトでは牧草刈取り用機械としてモアーコンディショナーを導入し、これによる刈取りを行った。モアーコンディショナーを用いる場合は、コンディショナー部分がイネ科牧草に適した形式及びマメ科牧草に適した形式のものがあるので、機種選定の際に留意する。

なお当地は乾燥寡雨で、刈り取った草が乾燥しやすいという気候条件を考慮すれば、必ずしもモアーコンディショナーは必要ではなく、モアー(デスクモアー)で足りるものと思われる。

またモアーコンディショナーは牽引式であり、直装式のデスクモアーよりも圃場内で小回りがしにくい。また構造がデスクモアーよりも複雑であることから、日常の農機具の管理も複雑となり、故障した場合の修理にも手間取ることが多い。これらのことを考慮に入れれば今後牧草刈取り用機械としてはモアーコンディショナーよりもデスクモアーを普及させる方が望ましい。

刈取り高さは次の牧草の再生に影響する。刈取り高さは10cm程度が望ましい。これより低いと再生が悪くなるとともに、枯死による牧草個体数の減少から生産量の低下をきたすことになる。一方刈取り高さが高すぎると収量の減少になる。また次回刈取りにおいて老化した茎が混じることとなり、牧草品質は低下する。また草地面には多少の凹凸があるため、極度の低刈りではモアーの刈り取り刃が土を削ることが多くなり、刈り取り刃の摩耗を早めるとともに、モアー本体(動力伝達部等)の損傷を招きやすい。

刈取りを行う際は外側から右回りに刈り始めるが、刈り始める時に角の部分は丸く刈り、以降の刈取りにおいて刈りながら角の部分を回れるようにする。なお、4周程度刈ったところで刈り残した最外周(最初に刈った時の枕地部分)を反対方向の左回りで刈り、その後は再度右回りで刈り進む。

刈り始めは4辺それぞれを刈り進む(長辺→短辺→長辺…)。刈取りが進んで短辺の長さが短くなったら長辺部分のみ刈るようにする。即ち長辺部分を刈り終わったら方向転換し、反対側の長辺部分を刈る。

最内周に小面積の刈り残し部分ができることがある。この部分を刈るためには小面積の割には手間がかかり、全体の作業効率を低下させる。このため刈取りを進める段階で刈り幅を調整しつつ長辺部分の刈取り方向が平行かつ一直線になるようにする。また、草地を造成する際もできるだけ大面積かつ長方形の圃場とすることが効率的な牧草生産のためには重要である。

草地造成及び草地更新時の整地が不十分で小起伏があるところでは、収穫作業の際にモアーの位置を上下にコントロールし、できるだけ刈取り高さを揃えるとともに、刈取り刃が土を削るようなことのないようにする。

なお起伏を極力少なくするよう草地造成(整備)の際に留意する。((2)のアの(カ) 耕起〜播種作業の手順の項参照)

b. 転草

転草には転草用機械であるテッダーを用いる。一般的には牧草を引っかけて跳ね飛ばす爪の付いた回転ローターが複数(4つ程度)ある方式のものが用いられる。当プロジェクトにおいても当該形式のテッダーを用いた。

テッダーによる転草は刈取り後の牧草水分が多いうちに1〜2回行う。葉部の脱落を少なくするため、ローターの回転速度は速すぎないようにする(回転する爪の部分が目視できる程度の速度)。乾燥が進んでから転草(特にテッダーによる転草)を行うと、アルファルファ葉部の脱落が著しくなる。ある程度乾燥が進んでからは、集草列(次項参照)を作り、レーキで集草列を反転するようにした方が脱葉は少ない。

2番草以降で草量が少なく、転草を行わなくても乾燥が進むと見られる場合は、テッダーによる転草を行わない場合もある。

c. 集草

集草には集草用機械(レーキ)を用いる。当プロジェクトではpto駆動される大きな回転ローターに集草爪のついた方式のものを導入したが、この方式のレーキでは集草の際に乾燥したアルファルファの葉が脱落しやすい。回転輪型レーキ(フィンガーホイールレーキともいう)は草量が多く、高水分の牧草を集草する場合には集草能力が低下する欠点はあるが、アルファルファを主体とした草地での集草用としては集草作業中の脱葉が少ない。集草能力についても乾燥の進んだ牧草を扱う場合には問題はない。このため、当地におけるアルファルファ乾草の調製作業に用いるレーキとしてはより適しているといえる。

刈取りした牧草の乾燥が進んだら集草列を作るが、あまり乾燥が進みすぎてからでは集草の際に葉部の脱落が著しい。このため乾燥しきらないうちに集草列を作り、集草列の状態で最終段階の乾燥を行うことが望ましい。

集草作業を行うに際しては、下記のような梱包作業が行いやすい集草列を作るようにする。

d. 梱包

当プロジェクトでは乾草の梱包のためにコンパクトベーラーを導入した。大型機械による作業体系を組むことができる場合はロールベーラーの利用も考えられるが、中国では乾草の格納から給与に至る作業の多くを人力で行う場合が多い。ロールベーラーで梱包した牧草は人力では扱うことが不可能であるため、貯蔵、給与に至る体系が大型機械一貫作業で行える場合を除いて、コンパクトベーラーによる梱包が適当と考えられる。

ベーラー(コンパクトベーラー、ロールベーラー)による乾草調製を行う場合は、当該機械に適したトワイン(梱包した乾草を結束する専用の紐)が入手できることが必要である。

ベーラーの調整により適度な大きさと密度の梱包ができるようにする。アルファルファはイネ科牧草に比べて密度が低くなりやすいために、できるだけ高い密度となるようにベーラーの調整を行う。

e. 運搬

コンパクトベーラーで梱包した乾草を貯蔵場所まで運搬するためには、トラクターで牽引されるトレーラー又はトラックが用いられる。

コンパクトベールをこれら運搬車に積み込むには、ベールローダー(運搬車の側面に装着し、コンパクトベールを拾い上げ、運搬車上に持ち上げる機械)を用いることもできるが、一般的には農用フォークを用いて人力により拾い上げ、積み込みを行う。この際に効率的な運搬が行えるように、また運搬の際の荷崩れがおきないように、きっちりと隙間無く積み込む。このためには梱包された乾草を農用フォークで突き刺し、運搬車に積み込む者が数名及び運搬車の荷台の上でこれを受け取り、きちんと積み並べる者が2名程度必要である。

積載高さは積み込み時及び走行時に荷崩れがおきないことや、荷台上で作業を行う人の安全が確保できる高さとする。

走行時は荷台上の乾草が荷崩れをおこさないよう慎重に運転する。

 (ウ)乾草の貯蔵

乾草の貯蔵は草地の近傍に行う場合と、家畜を飼養している近く(牛舎脇等)に行う場合がある。また乾草収納のための建物内に収納する場合と屋外に堆積しておく場合がある。当地においては夏期を除いて降雨が少ないことや、建物建設のコスト等から屋外に堆積する場合が多い。しかし雨水が乾草内に浸入することによる品質の低下があるため、恒久的な乾草庫を建設し、これに貯蔵することが望ましい。

屋外に堆積する場合は、降雨に遭遇しても乾草が濡れないような対策を講じる必要がある。そのためにはビニール等を掛けるか麦藁と泥による防水屋根を作る。いずれの場合も雨水が乾草内にしみ込まないように頂部を中高にする。

圃場での乾燥が十分でない場合は、自然の通風により乾燥が進むように一時的に小さな堆積として積んでおくこともある。

なお、一時的に圃場内に堆積したものも見られたが、長期間圃場内に堆積しておくと、堆積部分の牧草の生育に支障をきたすばかりでなく、場合によっては枯死することもある。長期にわたり圃場内に乾草を堆積することは好ましくない。

 (エ)収穫実績

孔店村及び李皋家村では下記の収穫をあげることができた。

<孔店村及び李皋家村展示圃場における収穫実績>
 1997年1998年
収穫面積
(ha)
収穫量
(kg)
10a当り収量
(kg/10a)
収穫面積
(ha)
収穫量
(kg)
10a当り収量
(kg/10a)
孔店村1番草17
(255ムー)
65,20531623.3
(350ムー)
73,560316
2番草23,40013839,800171
3番草19,27511321,50092
107,880635134,860579
李皋家村1番草14.7
(220ムー)
63,62043320.0
(300ムー)
72,500363
2番草21,21614445,300227
3番草39,60026923,800119
124,436847141600708

イ.サイレージ調製(トウモロコシ)

当地においては食用及び豚・鶏用飼料としてのトウモロコシ穀実の需要が大きく、経営的な観点からしても茎葉・穀実ともどもサイレージ調製するホールクロップサイレージよりも、穀実を収穫した後の茎葉を利用するサイレージ調製の方が当面は現実的であると判断された。このため、当プロジェクトとしても穀実収穫後の茎葉を利用したサイレージ調製試験を農林科学院及び孔店村で行った。

なお、サイレージ調製に係る作業体系はウの(ア)のd. トウモロコシの栽培と収穫の項参照。

 (ア)サイロ

農林科学院では97年においては素堀りトレンチサイロ、98年においては煉瓦積みモルタル仕上げのトレンチサイロによりサイレージ調製を行った。孔店村においては、より大型の素堀りトレンチサイロを用いてサイレージ調製を行った。

なお、99年に中捷農場を調査した際に見たサイロはビニールスタックサイロであった。これは当地の地下水位が高く、掘り込み型のサイロ(トレンチサイロ等)ができない条件にあったためと思われる。

このようなことから、建設コスト等を考慮すれば、地下水位が低い場合は素堀りトレンチサイロ、地下水位が高い場合はスタックサイロとする。なお、施設としてのサイロ建設が可能で、継続的にサイレージ調製を行う場合にはバンカーサイロ又は煉瓦積みモルタル仕上げのトレンチサイロ等の恒久的なサイロを建設する。

素堀りトレンチサイロの場合はパワーショベルで幅及び長さが数メートル、深さが2メートル程度の矩形の穴を掘る。1988年の孔店村におけるサイロの大きさは幅約8m、長さ約16mであった。短辺のうちの一方はサイレージ材料を詰め込む時及びサイレージ取り出しに際してサイロ内に入れる程度の斜面としている。底面及び側面を被覆用のビニールシートで覆う。なお側面のシートは、サイレージ原料を詰め込んだ後に折り返して上面を覆うだけの長さの余裕が必要である。

恒久的なサイロとしては、煉瓦積みモルタル仕上げとする方法がある。形状は素堀りの場合と同様であるが、底面及び側面を煉瓦積みとし表面をモルタル仕上げとする。気密を確保するための被覆については側面及び上面のみとすることができる。ただし、サイレージ発酵により生ずる酸によりモルタルが損耗するため、サイロを長期間にわたって使用するためには底部にもビニールを敷くことが望ましい。

またサイレージの必要量が多い場合には建設するサイロの大きさを調製量にあわせて大きくする必要があるが、この場合利用する際の取り出し口から見た横幅を広くすると、1回の取り出し厚さが十分とれなくなり、利用時におけるサイレージ品質を低下させやすい。このため、サイロを大きくする場合は長さを長くし、これが長すぎるようであれば間口の比較的狭いサイロを複数作るようにした方が良いと思われる。素堀トレンチサイロの場合は間口の広いサイロ方が作りやすく、また調製量あたりの使用する被覆ビニールの量も少なくて済むが、調製するサイレージの品質も考慮した構造(寸法)とすることが望ましい。

図:素堀りトレンチサイロ(断面、模式図)

 (イ)収穫適期

日本において行われているトウモロコシのホールクロップサイレージ(穀実作物の茎葉と実をともに細断してサイレージとする)では黄熟期が適期である。しかし、穀実収穫後の茎葉を利用する場合は、穀実の収穫適期となったらできるだけ早く、葉が枯れ上がる前に穀実を収穫するとともに、穀実収穫後できるだけ早く茎葉を収穫してサイレージ調製を行う。収穫が遅れると茎葉の乾燥が進み水分含有率が低くなり過ぎる。また葉が枯れ上がりサイレージの品質が悪くなるとともに葉部の消化率も低下する。

 (ウ)収穫体系及び収穫機械

収穫方法としては、フォーレージハーベスターによる収穫を行う方法と、手刈り収穫を行う方法とがある。収穫面積が大きく、本格的に作業機械を装備できる場合はフォーレージハーベスターを配備する。小規模にサイレージ調製を行う場合は手刈り収穫とする。

機械で収穫する場合は、トウモロコシ収穫用アタッチメント付きフォーレージハーベスター、あるいはトウモロコシ収穫専用のコーンハーベスターを用いる。なお、コーンハーベスターと運搬車が一体となった小型の刈取り・運搬機もある。

フォーレージハーベスターによる収穫を行う場合は、ハーベスターにより刈取り・細断及びこれを後ろに牽引するトレーラー又は脇に伴走するトラック・トレーラーに裁断したものを吹き込む。

トレーラー又はトラックが満杯になったら、これをサイロまで運搬し、サイロ内に詰め込む。

手刈り収穫を行う場合は、圃場でトウモロコシ茎葉を刈り取り、サイロまで運搬し、これを飼料カッターで細断しつつサイロ内に積み入れる。

 (エ)収穫、詰め込み時の留意事項

当地における一般的なトウモロコシ茎葉の収穫方法は、地際(地上部)ではなく、鎌を少し地面の中に入れるようにして地下5cm程度のところを刈り取るようにしている。このため、収穫したトウモロコシ茎葉には根の一部及びそこには土が付着している。これをサイロ詰めするとサイレージの品質を低下させる要因となる。土の混入を避けるためには、機械刈り(フォーレージハーベスター)とするか、あるいは人力で刈る場合にも地際(地上部)から刈り取るようにすることが望ましい。

サイレージ原料をサイロに詰め込むに際しては、踏圧を行いつつ緻密に詰めるようにする。踏圧は小規模のサイロの場合は人が踏み、大きなサイロの場合はトラクターや小型のブルドーザーで踏む。特に詰め込みが終わった際には十分に踏圧を行い、固く締まった状態にする。踏圧の後に上部に被覆を行う。なお、当地においては素堀り、煉瓦積みいずれのサイロにおいても被覆の後に上部に土を盛り、鼠・鳥・昆虫により被覆が破られるのを防いでいる。

サイロ周辺は鼠や昆虫が生息しないように雑草を除去する。

 (オ)サイレージの品質とその利用

当プロジェクトにおいて、農林科学院及び孔店村でサイレージを調製・利用した。農林科学院の場合は調製した量は多くなかったため、冬季〜早春の時期に飼養している乳用牛(ホルスタイン)に給与した。孔店村においてはサイレージを調製した翌春から夏にかけて飼養している肉用牛に給与した。

98年に農林科学院で調製したサイレージは一部に変質し、黒褐色となった部分が見られたが大部分は良質なサイレージとなった。変質した部分はサイロの両脇の部分に近かったので、この部分の密封が不十分であったことが考えられる。

孔店村においてはサイレージの利用が高温期にかかったにもかかわらず変質も少なく、良質なサイレージを給与することができた。これは取り出し面を垂直の壁状として1方向からきちんと取り出したことや、取り出し速度、即ち1日あたりの取り出し幅がある程度あったことが理由であると思われる。また地下式であることに加え、サイロ上面には厚く土を被せてあり、サイレージ取り出し中においても未利用部分のサイレージの上には土を被せたままとしたこと等により、サイレージそのものが不必要に高温にならなかったことも理由の一つである。

なお二次発酵を抑制し、良質なサイレージを利用するためには、一般的にはサイロの一方(最も断面積が小さくなるような方向)から取り出し、取り出し面が空気に触れるのを極力少なくするとともに、1回あたりの取り出し量(取り出し厚さ)が10cm以上になるようにする等の配慮が必要である。また気温の低い時期に利用することは二次発酵を抑制する意味においても好ましい。

ウ.機械化作業体系と農機具の利用

 (ア)機械化作業体系

a. 牧草播種

当プロジェクトでは砕土用の農機具としてデスクハロー及びロータリーハローを導入した。日本における大規模な草地造成・更新に際しては、プラウで耕起した後にデスクハローで砕土し、最後の仕上げはツースハローを用いるのが一般的である。しかし当地では耕起後の砕土、整地はロータリーハローを用いるのが一般的であり、デスクハロー及びツースハローの使用頻度は低かった。

また、施肥についても日本ではブロードキャスターを用いるのが一般的となっているが、当地の肥料は固まりが多く、ブロードキャスターは用いることができない場合が多い。当地における施肥はトラクターで牽引するトレーラーに肥料袋を積み、トレーラーの空いた所に袋から肥料を出し、人がスコップですくい投げる方法が一般的であった。牧草における施肥もこのようにして行った。施肥にブロードキャスターを用いるためには、肥料が均一な粒状又は粉状になる必要がある。

播種にはブロードキャスター又はシードドリルを用いる。シードドリルは幅の狭い列状に種子を落として覆土する。ブロードキャスターよりも播種速度は落ちるが、均一に播種することができる。

作業の詳細は(2)のアの(カ)耕起〜播種作業の手順の項参照

<作業体系>
起伏修正(1)ブルドーザー
起土(緑肥鋤込み)ボトムプラウ
砕土ロータリーハロー、デスクハロー
土壌改良資材施用ブロードキャスター、人力
整地ロータリーハロー、ツースハロー
施肥ブロードキャスター
播種ブロードキャスター、シードドリル
覆土・鎮圧(2)ツースハロー、K型ローラー
1.起伏修正は起伏が草地管理、収穫作業の支障となる場合に行う。
2.シードドリルで播種した場合は覆土・鎮圧作業は必要としない。

b. 草地管理

前項でも触れたように当地の肥料は固まりが多いため、ブロードキャスターは用いることが困難な場合が多く、人力で行う場合が多い。

問題となる病虫害は播種後、発芽間もない頃におけるヨトウムシの食害であり、これの発生が見られた場合は殺虫剤の散布を行うことが望ましい。殺虫剤の散布はトラクターに直装するスプレーヤーで行うか、あるいは人力(背負式噴霧器)により行う。

アルファルファが定着した後は病虫害の発生は見られても、大きな支障とはならない(被害は軽微である)場合が多いため、通常は薬剤防除は行わない。

<作業体系>
施肥ブロードキャスター、人力
病虫害、雑草防除
(薬剤散布)
スプレーヤー、人力(背負式噴霧器)

c. 牧草収穫

牧草(アルファルファ)は乾草として収穫、調製を行った。収穫作業には下表にあるとおり、日本において多く採用されている体系とした。なお当プロジェクトでは刈り取り機としてモアーコンディショナーを導入したが、当地は乾燥寡雨で、刈り取った草が乾燥しやすいため、必ずしもモアーコンディショナーは必要ではなく、モアー(デスクモアー)で足りるものと思われる。加えてモアーコンディショナーは牽引式であり、直装式のデスクモアーよりも圃場内で小回りがしにくい。また構造がデスクモアーよりも構造が複雑であることから、日常の農機具の管理も複雑となり、故障した場合の修理にも手間取ることが多い。これらのことを考慮に入れれば今後牧草刈取り用機械としてはモアーコンディショナーよりもデスクモアーを普及させる方が望ましい。

当プロジェクトではテッダーとして回転するタイン(鉄の棒状のもの)に乾燥中の牧草を引っかけて跳ね飛ばすジャイロテッダーを導入した。レーキについても回転するタインで乾燥した牧草をかき寄せるジャイロレーキを導入した。

レーキについてはプロジェクトで導入したようなジャイロレーキの他に回転輪式のもの等があるが、アルファルファの葉の脱落を防ぎつつ集草するためには回転輪式の方が適している。現用機を買い換える場合には回転輪式のものとするのが良いと思われる。

プロジェクトでは乾燥した牧草を梱包するためにヘイベーラー(コンパクトベーラー)を導入した。ヘイベーラーによる梱包作業にはトワインが必要である。プロジェクト実施期間中及び終了後しばらくの間の分はプロジェクトとして購入した(本邦調達)。しかしこれが無くなった後には中国製のトワインを調達する必要がある。プロジェクト期間中に中国製のトワインがあることを確認したが、今後とも継続して調達できることに期待したい。

なお、コンパクトベーラーではなく、ピックアップワゴンにより拾い上げ、乾草貯蔵場所に運搬して堆積する方法も検討の余地がある。

運搬方法としてはトレーラーあるいはトラックを用いたが、これら運搬車への拾い上げは人力で行った。この他の方法としては、ベールローダーという機械により牧草を拾い上げる方法もある。

<作業体系>
刈取りモアー、モアーコンディショナー
転送テッダー
集草レーキ
梱包ヘイベーラー
運搬トレーラー、トラック
注.作業の詳細は「(3)のアの(イ)乾草収穫体系を参照

d. トウモロコシの栽培と収穫

<作業体系>
起土〜整地「草地造成(耕起〜播種)」の起土〜整地と同じ
施肥、播種コーンプランター
除草剤散布スプレーヤー
中耕、除草カルチベーター(ロータリーカルチ)
刈取り・細断フォーレージハーベスター
運搬トレーラー、トラック
貯蔵サイロ
注.作業の詳細は(2)のウの(ウ)耕起、砕土、整地、同(エ)施肥(オ)播種及び(3)のイの(ウ) 収穫体系及び収穫機械の項を参照

 (イ)農機具の選択

飼料作物の生産、収穫のための農機具を導入する場合は、栽培作物の種類、調製方法、生産規模(圃場面積)、経営形態(集団で運営するのか、個別農家がそれぞれの圃場を管理するのか等)等に基づき適正な作業体系を策定する。この作業体系に必要かつ適正な作業機の種類、型式を検討し、当該作業機を駆動するのに適したトラクターを導入する。

機種の選定にあたっては、性能、価格等とともに、修理や部品調達の難易についても配慮する。

当プロジェクトでは日本側が指導することを考慮し、日本で多く使われている農機具(日本製及び一部その他の外国製)を主体とし、一部に中国製農機具を導入した。大型トラクターはマッセィファーガソンの4輪駆動のもの(mf362)を3カ所に各1台、天津トラクターの4輪駆動トラクター(tn654)を農林科学院に1台、孔店村、李皋家村に各3台配備した。

しかし、外国製農機具は一般に高性能のものが多いが、その使用及び整備に高い技術を要する。また中国製農機具に比較して価格が高いことに加え、中国国内における取扱業者が無いものが多い。また北京等の大都会には農機具部品の輸入を扱う業者はあるが、輸入部品は非常に高価であることに加え、輸入に時間がかかることから、故障等により部品が必要になってもすぐには入手できない場合もある。

このようなことを考慮し、飼料作物の栽培・利用を普及するに際しては、中国製の農機具を選択することが適当と考える。プロジェクトを実施した農林科学院、孔店村、李皋家村において、導入した農機具が年数を経て買い換えが必要になった場合も、中国製の農機具を選択することが望ましい。

なお、参考までにプロジェクトで導入した外国製農機具一覧及びの日本における製造・販売会社及び中国における部品購入及び修理ができるところを以下に記したので、必要に応じて問い合わせする。

<本邦調達農機具販売会社>
エム・エス・ケー東急機械株式会社
銘柄名マッセイファーガソン(MF)、KUHN
所在地東京都豊島区西池袋 3-27-12
電 話03-3998-2281

スター農機株式会社
銘柄名スター(STAR)
所在地千歳市上長都 1061-2 (本社)
栃木県小山市梁 2515-1(貿易部)
電 話0123-26-1123(本社) 0285-49-2226(貿易部)
FAX0123-26-2412(本社) 0285-49-1410(貿易部)

松山株式会社
銘柄名ニプロ(niplo)
所在地長野県小県郡丸子町塩川 515
電 話0268-42-7500
FAX0268-42-7556

東洋農機株式会社
銘柄名toyonoki
所在地帯広市西22条北1丁目2−5
電 話0155-37-3191
FAX0155-37-5399

スガノ農機株式会社
銘柄名スガノ(sugano)
所在地北海道空知郡富良野町西2線北25号
電 話0167-45-315
FAX0167-45-5306

小橋工業株式会社
銘柄名kobashi
所在地岡山市中畦 684
電 話086-298-3112

 注.電話番号は日本国内におけるものである。

<本邦調達農機具の部品調達>
中国同源公司
所在地北京市海淀区知春路56号 中国天和大厦
電  話010-6261-2926
FAX010-6261-0418
担 当 者鮑毅(第一業務部経理)
取扱品目輸入農機具(日本製農機具含む)の部品

inchcape engineering. beijing rep office
所在地北京市
電  話010-6505-1501
FAX010-6505-1507
e-maillinsong@public.bta.net.cn
取扱品目マッセイファーガソントラクター関係部品

<農機具修理>
北京農業工程大学
所在地北京市海淀区清華東路
電  話010-204-4941
FAX010-204-4942
備  考JICAのプロジェクト「農業機械修理技術・研修計画」(1992年4月〜1997年3月)を実施

 (ウ)農機具使用上の留意事項

a. 農機具の規格

PTO(Power Transfer Operation:トラクターから農機具への回転軸による動力伝達部)の規格(回転軸断面の形状)は国際規格と中国規格とでは異なっている。本プロジェクトで導入した天津トラクターはPTOシャフトをそれぞれの規格のものに交換して使うことができるが、本邦調達のマッセイファーガソンMF362では国際規格のPTOシャフトのみ装着されている。一方PTOにより駆動される農機具のうち、本邦調達のものは全て国際規格、現地調達(中国製)の農機具は中国規格となっている。

このため、PTO駆動を必要とする農機具については、天津トラクターはPTOシャフトの交換により、本邦調達、中国製いずれの農機具も使用することができる。一方、MF362は本邦調達の農機具のみ使用ができる。

PTO駆動を必要としない農機具はどちらのトラクターでも使用可能であるが、プラウ等比較的大きな力を要するものについては、MF362の方が適している。

b. 農機具に適した作業速度

中国においては、農機具を使用した農作業一般にいえることであるが、作業速度が速い。このため、例えば草地造成の際の整地作業においても、十分に平坦とならない等の問題を生じているとともに、作業機に大きな負担がかかり故障発生の要因の一つにもなっている。作業を行うに際しては、その作業に適した作業速度を守ることが重要である。

PTO駆動を行うほとんどの農機具は540回転用に作られている(一部1000回転用もある)。このため、農機具をトラクターに取り付け、農機具を駆動しながら走行する場合にはPTO回転を540回転以上にならないようにすることが必要である。PTO回転が速くなると農機具に無理がかかり、故障の原因にもなる。PTO回転数を540回転以内にするため、トラクターのエンジン回転数を1800回転に合わせ、走行速度も一定に保ちながら作業をしていくことが、効率も良く機械にも無理がかからない。

また作業中はPTO回転を変えずに作業を行うことが望ましい。このため起伏、旋回等でエンジン出力を調整する必要がある場合は、足のアクセルを使用しないで、手動アクセルを使うと一定の速度で走る事ができる。

c. 農作業時の留意事項

農機具の使用にあたっては、農機具本来の使用方法を守って作業を行うことが必要である。また各農機具のマニュアルを熟知するとともに、これまでの日本側の指導に基づき適切に作業を行うことが農機具を長持ちさせる上でも重要である。

牽引式作業機による作業の場合、旋回時に小回りをしてジョイントが「く」の字に曲がることはパワージョイントを破損する原因となる。このため旋回半径を大きくとるようにすることが重要である。

また農機具のうち直装式のもの(ブロードキャスター等)を使用する場合は、動力の伝達が円滑になされるとともに、パワージョイント部の故障・破損を防止するため、パワージョイントをいつも水平に保つように調整して使用する。李皋家村等でパワージョイントの破損が多かったが、これはパワージョイントが水平になるように農機具の位置を調整せずに作業を行ったため、パワージョイント(特にそのスパイダー部分)に過大な力がかかったためであると思われる。

当プロジェクトでは農林科学院、孔店村、李皋家村ともに基幹的なトラクターとして比較的大型の65馬力級のものを導入した(MF362、TN654)。これは各種作業に使用することから、そのいずれにも対応できるよう大型のものとしたものである。一方、作業機のうちテッダー、レーキ、ベーラー等作業機の多くは、これを駆動するトラクターとしては中型のもので十分である。大型トラクターでこれら作業機を使用する場合は、作業中に作業機に負担がかかる(集草状況にむらがあるためにベーラーに大量の乾草が送り込まれる等)場合にも、トラクター側は馬力があるために無理に駆動してしまい、農機具やこれに動力を伝えるパワージョイントに負担がかかってしまう。場合によっては故障や部品の破損に至る場合もある。

このようなことから、大型のトラクターを使用する場合には特に作業機に負担をかけないように注意しながら作業を行うことが重要である。具体的には速度を上げすぎない、集草列はむらのない(草の量の場所による多い少ないができるだけない)ようにする、作業に負担がかかりそうになったら走行速度を落としたり、場合によっては一時停止する等に留意することが必要である。

農機具のうち牽引式のもの(モアーコンディショナー、ヘイベーラー等)、また直装式のものであっても圃場面に降ろして稼働するもの(コーンプランター等)を使用して作業を行っている場合は、後進してはならない。これらは作業状態において後進することにより農機具に無理な力がかかり、破損を招くおそれが大きい。

また、農作業は一連の作業を順次行うものが多い。現在行っている作業をどのように行うかは次の段階の作業の効率等に大きく影響する。このため農作業を行う場合は必ず次の作業が効率的に行えるように配慮することが重要であり、このことが作業体系全体の効率化につながる。例えば牧草の収穫における集草作業に際してはベーラーが梱包しやすいように次のことに配慮する事が必要である。

また、草地の造成においては起土・砕土・整地を行う場合も、当該圃場における牧草収穫等の作業がしやすいように、極力平坦に仕上げることが重要である。

コーンプランターによる播種に際しても、播種列が直線かつフォーレージハーベスターでの収穫に適した間隔となるように留意することが重要である。

しかし現実には、トラクター毎、作業機毎に担当するオペレーターが異なる場合が多く、今自分が行っている作業が次の作業(別のオペレーターが担当することが多い)とどのように関係しているのか、次の作業が効率的に行えるためには、今の作業をどのように行うべきかという配慮が欠落している。今後はこれを改善し、次の作業をも配慮に入れた作業を行うことが重要である。そのためにも、使用農機具毎にそれを使用するオペレーターが固定されているという状況を改善し、すべてのオペレーターがすべての作業を行うことができるようにすることが必要である。

故障の際は作動中のトラクターや農機具の発生する音が平常とは異なったものとなる。故障を早期に発見するためには、平常時におけるトラクターのエンジン音及び農機具が発生する音を覚えておく。これとは異なった音が発生した時は故障の可能性があるので作業を中断し原因を調べ、異常があれば修理を行い、完全に修理を終え異常が無くなったことを確認してから作業を再開する。

故障したまま使用すると故障の程度は益々ひどくなってしまう。1998年の孔店村におけるジャイロレーキの故障は、故障の発見の遅れと適切な対応(=修理)がなされなかったために、大きな故障になったものと思われる。

また無理な操作は行わないように注意する必要がある。いくつかの農機具で動力伝達部のスパイダーが破損していたが、これは急な角度で旋回したこと及び作業時のロアリンクにより農機具を上下させる操作の多用が原因であると思われる。各農機具のマニュアルや日本側の指導内容を理解しそのとおりに作業を行うことや、頻繁に農機具を上下させる必要のないような平坦な圃場とすることが必要である。

農機具は本来の能力以上のことをさせようとすると故障する。しかし、本来の能力の80%以下のことしかしないのでは、効率的な農作業はできない。常に、本来の能力の90%〜100%で使用することが効率的な作業を行い、かつ農機具を長持ちさせる秘訣である。

d. 駐車のしかた

現状のトラクター(農機具装着の有無にかかわらず)の農機具庫前等での駐車方法は、入り口から奥の方向に向けて置いている。これでは発進する際に方向転換をしなければならない。

何台ものトラクターや車輌が駐車する場合は、発進しようとしても十分な方向転換のスペースが無いような場合も考えられる。特に牽引式の農機具を装着してある場合は後進がしづらいため、前方に発進・方向転換のスペースが無い場合は作業開始に手間取ることになる。

このため、トラクターや車輌を農機具庫や駐車スペースに駐車する場合は方向転換して出口方向に向けてから駐車するようにすることが望ましい。

e. その他

<技術の向上>

効率的な農作業を行う上で、農機具操作等の技術向上は不可欠である。指導を行った3カ所のオペレーターは基本的な操作方法はほぼ習得したと思われるが、より効率的な作業を行うためのノウハウや故障の発見方法と故障時の対応についてはまだ十分に習得したとはいえない。欧米及び日本における機械を使った農作業においてはこれらのノウハウの積み重ねによって、今に見る農作業技術が組み上げられている。より作業技術の高度化を目指すのであれば、習得すべき事は少なくない。

農作業技術に関する短期専門家は数次にわたって指導に訪れており、それぞれに問題点を指摘し改善のために指導を行ってきたが、当地のオペレーターは一度教えられた事については「もう教えてもらったことだから再度教えてもらう必要はない。」との態度をとることが多かった。その一方で未習熟な部分が多かったり、自己流のやりかたに陥っている場合も数多く見られた。これでは作業技術の一層の向上は望めない。

技術は奥が深い。一度教えられただけで全てを習得したと思わずに、謙虚に指導を受けることが望ましい。

また、当地においては日本では考えられないような故障や部品の破損等が発生した。これはオペレーターの経験の乏しさとこれに伴う農機具の操作や、整備に関する知識・ノウハウの欠如にあると思われる。

農業者における農機具利用の知識等が欠如している理由として次のことが考えられる。現在、滄州市の農業においては、農耕馬、小型トラクター(pto機能なし)が農作業の中心である。そのため大型・最新のトラクターや作業機の運転・整備に関する経験に乏しく、熟練度が低く、教えた技術を十分に身につけるだけの下地のある農業者がまだ多くない。

しかしながら、プロジェクトで大型機械を導入し、これを利用するからには、農機具のマニュアルに記載されていることを覚え、記載通りの操作、手入れを行うことが重要である。また、農機具の点検、グリスアップ、洗車等常に行うような習慣をつける必要がある(農機具の点検、整備に関しては、別途「エ.点検、保守管理」に詳述する)。

このようなオペレーターの技術向上を一層図るためには、オペレーター個人の努力、あるいはオペレーターが属する地域における対応(研修に行かせる等)に加えて、(1)末端指導組織における農業技術指導においてこれら大型農機具に関する指導を行う、(2)職業訓練学校等で低廉に訓練を受けることができるようにする(市政府等公的機関の助成等)等公的部門における対応が農業振興策の一環としてなされることが望ましい。

<技術の共有>

農林科学院、孔店村、李皋家村それぞれ複数のオペレーターがいるが、各人使用するトラクター、農機具毎の分担がはっきりしており、他の者は使用できない態勢になっている。これは複数の者が使用するようになっていると、何かトラブルがあったとき(故障、部品の不足等)責任の所在が曖昧になってしまうため、これを避ける意味からこのようになっており、これは中国における体質の一つともなっている。また中国においては技術を個人の財産とみなし、他人には教えたがらないところがある。

しかし、このような態勢では当該オペレーターが何らかの都合で不在の時等は、その農機具を使う作業は不可能になってしまう。またあるトラクターが故障した時、すぐに別のトラクターを使用することもできない。

加えて、作業それぞれの技術が特定個人に属することとなり、複数の人の共有するところとならない。このために、相互研鑽による向上を図ることもできない。このこともあり、当該オペレーターが別の職務に変わったような場合は、日本側の指導及び本人の経験により蓄積された技術は飼料作物生産の現場から失われてしまう。

当プロジェクトにおいて指導した技術が今後とも現地に定着するためには、これらの作業技術を特定個人のものとはせずに、オペレーター全員の共有としなければならない。日本の家畜改良センター等においては、年長者の指導の下に若年者も農機具の操作や整備を経験し、次第に多くの農作業、農機具の使用技術についての知識、経験を増やしていく。また故障等のトラブルが発生したときは、その時操作していたオペレーターのみならず、他の者も協力してトラブルの発生状況の確認、修理を行い、このことを通じて当該トラブルに関する経験を共有することにより、他の者が同じようなトラブルに遭遇しないようにしている。

中国においても農機具の使用にあたっては、各農機具の責任者は決めておくが、その他の者も当該責任者の指導の下に操作するようにし、技術の共有を図るようにする必要がある。

<農機具の適正な使用>

農機具は適切に用い、適切にメンテナンスを行えば、長期にわたって使用することができる。しかし、能力を超える無理な使い方や、農機具本来の使用法を外れた用途に用いることは損耗を多くし、農機具の寿命を著しく短縮する。

中国における道路工事において、道路の基盤を造る段階で土壌と石灰を混和する作業があるが、ここでは本来農耕用のプラウ及びロータリーハローを用いる。プロジェクトにより供与したこれらの農機具が現に道路工事に用いられていたが、これらの農機具を道路工事に用いた場合、畑土壌よりも固い土壌を扱うことになるため、農機具の損傷が著しく、特にロータリーハローの回転刃の多くが破損した。日本側としては供与農機具を道路工事には用いないように指導した。

これは極端な例であるが、農機具はその使用目的に沿って適切に使う必要がある。

 (エ)農機具別留意事項

a. トラクター(MF362)

中国製のトラクターに比べて高性能、高機能であるが、その一方で構造は複雑となっており、使いこなしにはより高い知識、技術が必要である。

pto動力取り出し部は国際規格となっており、中国規格のものではないので、pto動力を必要とする中国製農機具は駆動できない。

マッセイファーガソン社のトラクターのオイル(エンジンオイル、ミッションオイル等)は専用のものを使用することとなっているので、これらを交換する場合は純正のものを購入して用いる必要がある。

プロジェクトを実施している3カ所ともに、導入したトラクターには常時フロントウェイトを装着していた。これは、直装型かつ重量のある農機具(肥料を満載したブロードキャスター等)を装着した時には必要な場合もあるが、これ以外の作業時には不要かつ、タイヤの摩耗を促進する等の支障をきたすものである。このため、一般の作業時にはフロントウェイトは外すように指導したが、「走行時に車体前部がバウンドする。これを押さえるのに必要」とのことであり、全部を外すには至らなかった。しかし上記の理由からフロントウェイトを必要とする作業以外ではフロントウェイトを外すことが望ましい。

b. 天津トラクター(TN654)

当機は4輪駆動であるが、納入時に前輪のタイヤの取り付けが左右逆になっているため、使用を始める前に前輪の左右のタイヤを入れ替える必要がある。

プロジェクトで導入したこのトラクターは国際規格、中国規格のそれぞれのPTOシャフトを有しているので、必要に応じて交換して用いることができる。

MF362とはほぼ同じ馬力であるが、MF362よりも力が出せない感じであり、よりパワーの必要な作業(プラウによる耕起等)ではMF362を用いる方が良いと思われる。

導入して年数の経過していないものであっても各所からオイルが滲み出ている状況が見られる。オイル漏れの程度がひどいようならばパッキングの点検、交換等の修理を行う必要がある。

当機にはアワーメーターが無く、累計稼働時間がわからない。このためオイル交換の時期がつかめない。稼働日誌をつける等して稼働時間を把握し、適時にオイル交換を行うことが望ましい。

なお、フロントウェイトに関してはMF362のところで記述したことと同様である。

c. ボトムプラウ(スガノ:QY202C)

当機は中国製のボトムプラウに比べて土壌の反転が良く、地表部及び既存植生はほぼ完全に埋め込まれる。これはプラウ本体の形状(ひねり具合等)によるものと思われる。

コールターの調整が必ずしも正しく行われていない場合もあった。調整を要する部分は使用前にはいつもきちんと調整されているかどうか確認し、必要に応じて調整し直す必要がある。

ボトムプラウには土中の石に当たった場合等大きな力が加わったときに、安全ボルト(ヒューズボルト)が切れてプラウ本体を守るようになっているが、当地での作業では日本におけるよりも多くの安全ボルトが切れる状態である。これは当地の土壌が乾燥すると固結してしまい、プラウにかかる抵抗が大きくなってしまうことによるものと思われる。

なお、安全ボルトは既に配備してあった純正品が無くなったため、滄州市内でこれに類似する大きさのボルトを購入し、溝を切る加工を行って用いることとした。孔店村においても同様に独自に類似する大きさのボルトを用いており、切れたものを見ても純正の安全ボルトと同様な破断面をしており、当面はこれらを用いることも可能と考えられる。しかし、材質がやや柔らかいことに加え、軸径が純正のものよりも細いため、プラウを使用中にボルトと取り付け穴の部分とが擦れ合って、取り付け穴が削られてしまう可能性もある。純正のものを利用することが望ましいが、日本から輸入しなければならず、価格も高価なものとなってしまうため、純正のものに近い堅さでかつ径も同じものを特注で作成する等の工夫が必要である。

今後現用機が老朽化し、買い換えが必要になった場合は中国製のものを購入することになると思われるが、土壌の反転能力の高いものを購入することが望ましい。また作業性の面からはリバーシブルプラウが優れているので、中国に高性能なリバーシブルタイプのものがあればこのタイプのものとしたいが、中国にリバーシブルプラウがあるかどうか探すとともに、最終的には価格等も含めて検討することが必要である。

d. デスクハロー、ロータリーハロー

導入した中国製のロータリーハロー(IGO-200S)は、耕起幅が200cmと、トラクターのタイヤ幅(195〜198cm)とほぼ同じ幅であるため、作業時にこれを牽引するトラクターの作ったタイヤ跡を十分に消すことができず、砕土作業後にタイヤ跡が残る原因となっている。ロータリーハローを装備する場合は耕起幅が広い(220cm位)ものとすることが望ましい。

一方、日本より導入したパディハローはロータリーハローの一種であり、本来水田用の農作業機である。本プロジェクトで当機を導入したのは、砕土する深さは浅いが作業幅が広いため、デスクハロー、ロータリーハロー等により砕土を行った後の最後の段階の整地に用いることを目的とした。また、アルファルファ播種時期が8月頃であり、この時期は雨が多く、土壌が水を含んだ状態である場合が多いことを想定したものである。しかし、耕起〜播種作業は必ずしも降雨後に行われるとは限らず、土壌が乾燥して硬い状況ではパディハローだけでは砕土、整地作業は困難であるとともに、パディハロー本体に大きな負担がかかり、故障の要因ともなる。

プロジェクト期間中に李皋家村及び農林科学院に配備した同機のシャフトが折損したが、これも乾燥し固くなった土壌で使用するという誤った使い方が原因と思われる。

e. コーンプランター(玉米播種機)

孔店村及び李皋家村には日本製のコーンプランターを導入したが、農林科学院では展示圃場が孔店村・李皋家村よりも小規模であったことから中国製の播種機を導入した。日本製のコーンプランターはフォーレージハーベスターによる収穫に適した畝幅とすることができたが、中国製の玉米播種機を用いた場合の播種列の間隔はフォーレージハーベスターによる収穫作業に適した幅よりも狭い間隔であった。収穫をフォーレージハーベスターで行い、かつ玉米播種機は中国製の機種を導入する場合は、特注又は改造によりフォーレージハーベスターに適合した列間隔で播種できるようにする必要がある。

f. モアコンディショナー

外側のブレード(刈取り刃)の摩耗が著しい。その原因としては、圃場周囲の明渠掘削の際に掘りあげた土を明渠脇の圃場(即ち圃場の周囲)に積み上げてあり、牧草を刈り取る際に外側のブレードが積み上げられた土を削ることによるものと思われる。草地更新時にこの掘りあげた土を平坦に均すとともに、草地造成後に明渠を掘削するという手順を改め、草地ができあがった段階では圃場最外周も平坦となっている必要がある。

g. テッダー、レーキ

当地で栽培・利用する牧草はアルファルファであり、反転及び集草時に葉が脱落しやすい。このため、テッダーについては極力回転速度を遅く(回転するタインがはっきり目で見える程度)とする必要がある。このため回転速度を遅くするよう指導したが、当地のオペレーターはどうしても回転を速くしがちであった。また2番草以降で草量が少なく、反転しなくても乾燥が進むと見込まれる場合は反転を省略することが望ましい場合もある。

なお、テッダーやレーキに付いているタインが折損等により圃場に脱落した場合、脱落したタインがベーラーやフォーレージハーベスターに拾われて、これらの切断刃の部分に大きな損傷を与える危険性がある。テッダーやレーキのタインが脱落したことがわかった場合は、作業を中断してでも脱落したタインを探し出し、圃場より持ち出すことが必要である。

h. ヘイベーラー

供与した農機具の中でもヘイベーラーはフォーレージハーベスターとともに構造が複雑となっている。即ち牧草の拾い集め、ベールチャンバーへの送り込み、圧搾、一定幅での切断、トワインによる結束といった異なった複数の操作が行えるようになっている。しかも、それぞれ適切なタイミングでなされなければならない。ちょっとしたトラブルや調整ミスにより一連の動きがうまくできなくなるばかりでなく、機械の損傷につながる危険性もある。

このことに関してプロジェクト期間中に発生したものとしては、プランジャ(圧搾装置)とニードル(トワインにより結束するための太い針状のもの)のタイミングが合わずニードルが折れてしまったことや、折損に至らないまでも結束がうまくいかなかったことがある。また、タイミングの問題のみならず、構造の複雑さや各種調整を要する箇所が多い。

またこれらの他にプロジェクト期間中に見られたこととしては、フライホイールへのグリースのさしすぎからスリップクラッチにもグリースが付着し、適正トルク時にもスリップクラッチが擦動し、極度の高温になったのが見られた。無理な力がかかったときに動力の伝達を止めるために、スリップクラッチがあるが、ここは適正なトルクでスリップし始めるように調整する必要があるとともに、スリップクラッチにはグリースが付着しないように留意する必要がある。

ヘイベーラーは構造、動作が複雑なことから、使用に際しては綿密な点検・調整が必要であるとともに、これらに関する知識、ノウハウが身に付いている必要がある。短期専門家の指導によりかなりの水準に達したと思われるが、今後実際の使用経験を積み重ねて一層の向上を図る必要がある。

i. フォーレージハーベスター

フォーレージハーベスターは刈り取ったトウモロコシ、あるいは拾い上げた牧草を高速で回転する刃で切断する。切断する刃は丈夫で、煉瓦等かなり硬いものでも切断する能力があるが、テッダーやレーキのタイン等のような固い鉄が入ってくると刃こぼれをおこす。99年、トウモロコシ収穫後の孔店村のフォーレージハーベスターはかなりの刃こぼれをおこしていた。全ての圃場作業に際しては農機具から部品等が脱落しないよう注意するとともに、故障等で部品が脱落した際には作業を中断してでもその部品が見つかるまで探すことが必要である。(g. テッダー、レーキの項参照)

当プロジェクトで孔店村及び李皋家村に導入したトラクター直装式フォーレージハーベスター(スター農機社製、本体:MFH3530、ロークロップアタッチメント:ARC3520)は刈取り・細断部がトラクターの右後ろにあり、細断されたサイレージ原料をトラクターに牽引されるトレーラーに吹き込むことになっている。運搬にトラックを用いる場合、トラクターの左側を伴走することになるが、フォーレージハーベスターから吹き出されたサイレージ原料はトラックまで届かない。このため本来は枕地を刈り取る際の方法(トラクターの真後ろに後ろ向きに取り付ける)で装着し、トラクターを後進させつつ収穫を行った。この方法では脇を走るトラックとの距離が近くなり、トラック荷台に吹き込むことができる。しかしこの方法ではハーベスターを装着したトラクターのオペレーターは無理な姿勢で作業をしなければならない。今後吹き出し部分を延長し、ここから吹き出されたものが伴走するトラックまで届くかどうか試作することが望まれる。

 (オ)点検、保守管理、修理

始業時に点検整備する事は、トラクターや農機具が本来持っている性能を長期にわたり維持するとともに、安全に作業を行う上で必要なことである。

農機具の管理に関してはプロジェクトを実施している3カ所(農林科学院、孔店村、李皋家村)でのレベルの違いを感じる。即ち孔店村ではかなりグリスアップや掃除を行っているが、李皋家村ではいくら指導してもグリスアップもせず、農機具も汚れたままとなっていた。今後の指導機関における積極的な指導とこれによる改善が求められる。

具体的事項については以下の通りである。

a. 作業前後の点検整備

作業前には正常に稼働するかどうか各農機具のマニュアルに基づきチェックするが、トラクターの場合はオイルの量と汚れ・ラジエターの水量・バッテリー液の量・タイヤの空気圧が適正かどうかについても点検する。グリスアップが必要な箇所にはグリスアップを行うとともにエアークリーナの清掃を行う。

作業機についても、ボルトのゆるみがないか、リンチピンが付いているか、モアーコンディショナー等では刃が磨耗や変形をしていないか点検し、不具合があれば整備・補修をしておく。また回転部のグリスアップは必ず行う。

作業が終了した時には、機械の汚れを落としながら、ボルト・ナット・リンチピン等の脱落がないか、作業による破損等がないか、亀裂が入ってないかを確認し、整備・修理が必要なものについてその日のうちに処置する。修理が必要にもかかわらず修理をせずに機械を使用することにより重大な故障につながることもあり、修理費用等大きな損失につながりかねない。

作業前後の点検については孔店村ではかなり実施されていた。農林科学院においても点検が重要であるとの認識から作業前後の点検整備を実施している。しかし、李皋家村ではその重要性が認識されておらず、点検・整備を行わないまま使用している状況であった。このため、少しでも実施してもらうよう点検項目を中国語でプリントしてトラクターのドアに張り、いつでも確認できるよう指導した。

b. 作業シーズン前後及び定期的な点検整備

しばらく使っていなかった農機具を使う場合は、十分な点検を行うとともに、グリス・潤滑油を補給し、試運転を行う。故障が見つかれば使用する前に修理しておく。作業当日にこのような点検整備を行うのではなく、事前に点検整備を行い、作業当日はすぐに使用できる状況にしておく。

また、舗装道路での走行と違い、畑での作業時には常に振動があるため、ナット類のゆるみがでやすい。このため、頻繁に締め付け点検を行うことが必要である。増し締めは定期的に行うようにするが、仕事の一行程(例えば牧草の収穫)が終了した時には必ず行う。

締め付ける力は、ボルトの使用目的等により決められた力があるので、トルクレンチにより決められた力(モアコン、デスク13kg・ナイフ12kg等)で締め付ける。

当該作業が終わり、しばらくその農機具を使用しない場合は、故障があるものについては修理をしておくとともに、洗車機、エアーガン等により汚れを取り除き、グリス・潤滑油を補給しておく。消耗品や補修部品で在庫が無くなったり、あるいは少なくなったりしたものについては、早めには補充しておく。

農機具の本格的な点検整備は長時間を必要とする。農繁期に農機具の内部等日常的に手入れしづらい所に故障が発生した場合には、修理に多くの時間と経費を要することになる。このため農機具の内部等の時間のかかる整備は、農繁期には行わなず、オフシーズンに行うよう心がける必要がある。

一年間使用したトラクター及び農機具は、利用頻度の高い順に整備する。特に整備時間のかかる機械内部は念入りに行い、その中で正常に動いているようなベアリング等でも使用時間数に応じて交換する。これを行わないと作業中に故障となる危険性が高くなる。

なお、トラクターでは定期的に注油、エアエレメント清掃、フィルタ清掃、バッテリーチェック等を行うとともに、必要に応じてオイル類、エレメント類を交換する。

李皋家村においてはこれらに関する指導後においても、指摘されない限りこのような使用前後の点検整備はほとんど行われていなかった。

オイルは長時間使用すると劣化してオイルの粘りも無くなり黒く汚れてくる。そして潤滑機能が弱くなる。このため、オイルの劣化によって機械に支障がおきないようにオイルの種類・箇所毎に交換の時間が決まっている(下記)。ただしこれは純正ないしはこれと同等のオイル類を用いた場合であり、今後中国国内で購入できる類似のオイル類を用いた場合はこれよりも短い期間で交換しなければならなくなることも考えられる。決められた時間を目安にするとともに、毎日の点検の中でオイルの汚れや粘りを調べ、規定の時間数が来たら、あるいはオイルの劣化が進んでいると判断されたらオイルを交換する。

なお、トラクターの取扱説明書には具体的な表記が無かったのでここには示さないが、中国の燃料は質が悪い。また当地は乾燥気候であり農作業は土埃をまきあげながら行う場合が多い。このため燃料フィルター(フュエルエレメント)は日本における数分の一の時間しかもたない。またエアーフィルターについても頻繁に掃除する必要があるとともに、交換時間についても日本よりも短くせざるを得ないのではないかと思われる。

トラクターのオイル及びエレメント交換時間は下記の通りであるが、過酷な作業やほこりが多い時は交換間隔を短くする。

<オイル及びエレメント交換時間>
区分オイル交換時間エレメント交換時間
エンジンオイル250時間250時間
ミッションオイル1000時間250時間
ギヤーオイル1000時間 
ブレーキオイル2000時間  

c. 定期的に部品を交換する必要性

日本や欧米における機械類は(特に日常的に容易に交換できないようなところの部品については)定期的に部品交換を行うということを前提として作られている。これは機械が稼働中に破損・故障が生じた場合は修理に時間がかかり、農作業全体に支障を及ぼすこととなり、このことによる損失が大きなものとなるためである。このことから、日本ではベアリングのような回転部部品等においては一定の使用時間が経過したら新しい部品に交換することは日常的に行われている。

しかし中国においてはこれとは違い、「壊れたら修理する」ということが一般常識となっている。これは機械の部品といえども高価であり、既に装備されている部品については目一杯、壊れるまで使うという理由によるものであると思われる。

指導を行った3カ所(農林科学院、孔店村、李皋家村)においても、「正常に動いているあいだは問題ないのではないか、故障が起きてから交換していいのではないか」と思っているようであり、正常に動いているベアリング等であっても時間がきたから交換するという事が、どうも理解する事が出来ないようであった。このようなことから、農繁期に機械が止まり収穫に影響がでないよう先に取り替えておくことが必要であると指導した。

d. 故障の発見と故障時の対応

作業前後の点検整備及び作業シーズン前後及び定期的な点検整備において故障の有無を検査し、故障が発見された場合は修理を行い、正常に動作することを確認してから使用する。

農作業中における故障の発見のポイントは農機具等が発する音にある。故障の際は作動中のトラクターや作動中の農機具の発生する音が平常とは異なったものとなる。故障を早期に発見するためには、平常時におけるトラクターのエンジン音及び農機具が発生する音を覚えておくとともに、作動中のトラクターや農機具の発生する音に注意する。平常時とは異なった音が発生した時は故障の可能性があるので作業を中断し原因を調べる。特に作業を始める時には特に平常とは異なった音がしないかどうか気をつける。異常があれば修理を行い、完全に修理を終え異常が無くなったことを確認してから作業を再開する。

故障したまま使用すると故障の程度は益々ひどくなってしまう。1998年の孔店村においてジャイロレーキの故障が故障したが、故障の発見の遅れと適切な対応(=修理)がなされなかったために、大きな故障になったものと思われる。

e. 本格的な農機具整備技術の会得

プロジェクトで導入した農機具についてはまだ使用年数が少ないため、これまでの発生したトラブルは初期不良、摩耗部分の整備・交換、不適切な使用による故障が主体であり、当プロジェクトにおいて農作業技術関係の短期専門家が指導した農機具整備技術も日常の手入れ方法及びこれらに対する処置が主であった。

しかし、今後数年使用することにより、内部の回転軸やベアリング等普段は手を触れない部分の交換が必要になってくる。これら将来交換すべき部品についても供与機材として中国側には提供してある。これまでに教えた農機具整備技術よりも多少高度になるかもしれないが、基本的にはこれまえに教えた技術の延長線上にある技術であるため、整備箇所を分解した際にはその手順を覚えておき(分解の逆の順で組み立てる)、また当該農機具のパーツリストに掲載されている図と見比べる等により、より高度な整備は行えるはずである。

農機具整備技術は自動車整備技術とも共通する部分がある。当地においても自動車整備工場等はあるため、高度な自動車整備技術を修得することは可能であると考えられる。今後はこのような自動車整備技術を身につけることにより、農機具整備に関する技術も一層の向上が図られるものと思われる。

 (カ)農機具保守管理のための施設と機具

a. 農機具庫

農機具は使用しない時には適切な条件で保管する必要がある。一時的に屋外に置いておく場合もあるが、基本的には導入した農機具を全て格納できる農機具庫を設置し、ここに格納する。農機具庫の機能としては、風雨、日光等の影響を遮り、農機具が傷むのを防止する、盗難を防止する等がある。加えてここで農機具の整備、点検を行う。なお、農機具整備場を農機具庫と一体として建設する場合が多いが、農機具整備に関する機能については次項で記述する。

農機具庫は導入した農機具を収納できる面積、形状(奥行き、幅、高さ)とする。農機具の収納に関しては、実際に農機具を収納した状態を想定して平面図を作成する。天井高及び出入り口の高さは農機具が安全に収納、出し入れできる高さとする。

農機具庫の床面は地表面よりやや高くし、降雨の際に雨水が農機具庫内に流入しないようにする。なお農機具庫出入り口は農機具の出し入れに支障のないよう、段差が無いようにする。農機具庫内床面はコンクリート(又は煉瓦)等による舗装とする。土間のままであると湿気、塩分を含んだ土壌の影響で収納中の農機具が錆びやすくなるとともに、農機具庫内の清掃がしにくくなる。また農機具庫内での農機具整備等に際して小さな部品や整備用具を紛失しやすくなる。

出入り口は農機具を装着したトラクターが安全に出入りできる幅と高さが必要である。また盗難防止のために鍵をかけられるようにする。

農機具庫の構造は、経費や当地における建築資材の入手等を考慮して煉瓦造り等とする場合が多いが、風雨に耐え、トラクターや車輌が誤って衝突した際にも倒壊することのないような必要十分な強度を有しなければならない。

農機具庫前はトラクター、農機具の出入りのために十分なスペースを確保する。なお、農機具の出入りの便を考慮すれば、農機具庫前に常時車輌や農機具、資財等を置いておくことは好ましくない。

農機具庫内の清掃を怠ると土埃がたまる。土埃は風により農機具の細部にまで侵入し、これに含まれる塩分は農機具内に錆を生じさせる。また散らかったままであると、ここにおける農機具修理の際に小さな部品や整備用具が紛失しやすくなる。このようなことを防ぐために農機具庫内及び農機具庫前は清掃しておく。

b. 農機具整備場

農機具整備場は農機具庫と一体として建設する場合が多いが、ここでは農機具整備機能及びそのために必要な施設等について述べる。

農機具整備場では農機具整備を行うとともに、各種工具を設置・操作し、必要な補修部品や整備用具、オイル類を保管する。

農機具の点検、整備、補修を行うためには当該農機具とその回りに十分なスペースが必要である。簡単な点検等は農機具保管場所でも可能であるが、本格的な点検整備のためには農機具のまわりに十分な空きスペースが必要である。このために農機具庫内において大型農機具(トラクター、フォーレージハーベスター等)の整備を行うことができるような、面積を確保する。特に念入りに整備を行う場合は、トラクターや車輌の底面を点検するためのピットを床面に掘っておく。なお、農機具庫内に農機具整備を十分に行える面積を確保できない場合は、農機具庫前等で農機具整備が行えるようにしておく。

また、農機具整備場には各種整備用機材を使用するスペースを確保するとともに、ここにボール盤や万力等固定して用いる機材を据え付ける。電気を動力源とする機材が多いため、電源(380V三相及び220V単相)を導入しコンセントを設ける。コンセントの設置場所は電気を用いる整備用機材の使用状況を想定して決める。

農機具庫の前面は舗装して農機具整備のためのスペース(屋外整備場)とすることが望ましい。ここでは水が飛び散ったり埃が舞い上がるような作業(洗車、エアーガンを用いた清掃)や農機具の整備等を行う。屋外整備場の脇には農機具の洗浄のために水道の蛇口を設けるが、地面を掘り下げたところに栓を設け、使用しない時は蓋をしておくようにする等により冬季に凍結、破損しないように留意する。

c. 資材・部品庫

資財庫には各種整備用具、補修部品、各種資材(トワイン等)、オイル類等を収納する。そのために棚、部品ケース等を設けてきちんと整理して収納し、必要なときにすぐに取り出せるようにしておく。

農林科学院では、部品の整理は農機具ごとに分けベアリングは分散しないで一カ所にまとめ部品ナンバーが見やすいように整理するよう指導した結果きれいに整頓された。

孔店村では、かなり整理されてはいるが、収納ケースに収納部品名が書いていない等必要な部品を探すときにすぐに探せない状況であった。収納場所毎に部品の種類を明示するとわかりやすくなるのでその旨指導した。

李皋家村の部品庫は、部品や機材が雑然と置いてある状態であり、床にも部品が積み上げられていた。このような保管状況であったため、一部の部品は錆びている状態であった。このためこれを整理し、特に床には置かないよう少しでも棚の中に入れるよう指導した。更に今後は農機具ごとに分類して収納するようにすることが望ましい。

d. 整備用工具類

プロジェクトでは導入した農機具の整備に必要な下記の器具・工具類を購入し、配備した。

電気を要するもの電気を要しないもの
温水洗浄機
エアコンプレッサー
充電器
電気溶接機
卓上ボール盤
高速切断機
電気ディスクグラインダー
卓上電気グラインダー
電気鋸(木工用)
工具セット(センチサイズ)
工具セット(インチサイズ)
ソケットレンチセット(2種類)
ホーローレンチセット(2種類)
メガネレンチセット(2種類)
トルクレンチ
ガス溶接機
万力
ガレージジャッキ
オイルジャッキ
タップダイスセット
チェーンブロック
グリスポンプ
その他小工具類

上記のうち、電力を要する器具にあっては、李皋家村において三相電源の整備が遅れたため、使用できるようになったのは99年秋になってからであった。

これら工具のうち、大型でかつ高速で回転したり(卓上ボール盤、卓上電気グラインダー等)、大きな力が加わるもの(万力)についてはきちんと据え付けなければ利用できない。農林科学院及び孔店村においては導入後速やかに利用する側により据え付けが行われた。しかし李皋家村においては農機具整備場が十分に整備されなかったことに加え、オペレーターにおける意欲の欠如もあり据え付けが遅れた。

これら工具を効率的にかつ安全に使用するためには相応の技術、ノウハウが必要である。農林科学院及び孔店村においては既にかなり高い技術を有し、短期専門家の指導により一層の技術向上が見られた。

一般論としては、工具の購入、配備にあたっては、(1)修理対象となる農機具の種類・機種、(2)どの程度の整備を行うか、(3)技術水準、(4)利用条件(電気・水道の配備状況、整備スペース等)等を考慮して、その種類、規格等を決める必要がある。

以下、導入した整備用機具のうち気がついた点を各機具毎に記する。

<溶接機>

ガス溶接機は鉄板・鉄材等を溶断するのに用いる他、鉄板・鉄材等を加熱して曲げやすくすることにも用いられる。溶接のためには電気溶接機を用いるのが一般的である。ガス溶接に用いるアセチレンガスは当地では高価であるが、家庭用燃料として用いられているLPG(液化石油ガス)で代用可能である。

電気溶接機は99年秋に現地業務費により導入した。中国の自動車・農機具修理業において一般に用いられている電気溶接機は出力が小さいものが多く、溶接部の熔け込みが少ないために溶接した部分に十分な強度が得られない場合が多い。中国製のロータリーハローの回転爪取り付け部は回転軸に溶接されているが、製作業者の用いる溶接機が小さいため溶接部の強度があまり無い。このため作業時に爪の部分が取れてしまうことがある。プロジェクトで導入した電気溶接機は中国製のものであるが、より大型、大出力であるために溶接部においても十分な強度が得られる。

電気溶接機は農機具整備に際して用いる機会が多いため、今後有効に活用することが望まれる。

<洗車機、エアーコンプレッサー>

洗車機の利用により農機具使用後の洗浄を行うよう指導した。農林科学院においては水道、電源が整備され使用できるが、孔店村、李皋家村ともに水道施設が整備されていないことから、現時点では洗車機を活用するには至っていない。農機具の長期にわたる使用のためにも農機具使用後における洗浄が行えるようにすることが重要である。

なお、導入した洗車機は日本製であり、灯油ボイラーを内蔵し、温水による洗浄が行えるようになっているが、当地では灯油は一般に市販されていないため、現状では温水の利用は行っておらず、冷水による洗浄を行っている。今後洗車機を導入する際は、冷水による洗浄のみを行うのであれば類似した機能の中国製洗車機もあるため、中国製のもので十分である。

エアーコンプレッサーについても、農林科学院及び孔店村ではこれが導入された時には三相電源が整備されており、すぐに使用できる状態にあったが、李皋家村では導入時に3相電源が未整備ということもあり、使用できるようになったのは三相電源が整備された99年秋からである。エアーコンプレッサーはトラクター、車輌、農機具の車輪のチューブに空気を入れるのに用いる他、農作業等により農機具に付着したゴミ等を取り除いたり、各種エアーフィルターのゴミを取り除くのにも用いることが出来る等、今後有効に活用されることが望まれる。

<高速切断機、ディスクグラインダー、卓上ボール盤>

これらの機械は1997年度供与機材として当年度末に供与されたが、供与後しばらくは未設置のままとなっていた。しかし、農林科学院及び孔店村においては、その後指導により設置した。なお、李皋家村においては三相電源が未整備ということもあり、これら機器はしばらくの間未設置であったが、99年秋に三相電源が整備されるとともに、短期専門家の指導により使用できる状態となった。

<小工具類>

ここでは工具セットの他、ソケットレンチ、メガネレンチ等の小工具類について触れる。

日本及びヨーロッパではボルトの規格はメートル法により定められており、日本製の農機具に用いられているボルト・ナットの規格はメートル法によっており、サイズはミリメートルで表示されている。一方、アメリカではヤード・ポンド法により定められており、アメリカ製の農機具のボルト等のサイズは全てインチサイズとなっている。プロジェクトで導入した農機具の多くはミリ規格であるが、モアーコンディショナーのみはインチ規格である。このようなことから工具セット、ソケットレンチセット、メガネレンチセットは両方の規格のものを一式づつ購入した。整備する農機具によってミリ規格のものとインチ規格のものを使い分ける必要がある。

なお、ボルト・ナットを締めたり緩めたりする場合には、そのボルト・ナットの大きさに適合したメガネレンチを用いることにより、ボルト・ナットに傷をつけることなく回すことができる。しかし適合したメガネレンチを取り出してきて使用することは多少面倒であることからモンキーレンチを使用しがちである。しかしモンキーレンチを使用するとボルト・ナットの角を傷めてしまいがちである。極力メガネレンチを使用することが望ましい。これは一例ではあるが、きちんとした手順、本来使用すべき工具を使用する等により、きちんとした整備が行えることを肝に銘ずるべきである。

また工具は本来の目的以外の用途には使用しないことが必要である。

整備中に工具を手当たり次第に置くと、次にそれが必要になった時にどこに置いたかわからなくなり余計な時間、手間をかけることになる。また整備が終了し、当該工具をしまおうとしてもどこにあるかわからなくなってしまう可能性が高い。整備中も工具箱を近くに置き、使い終わったらすぐ元の位置に戻しておくか、あるいはその時に使用している工具はわかりやすいところにまとめて置くことが必要である。整備が終わった際にはもとどおりにきちんと収納することも次回の効率的な工具の使用につながる。特に工具セット中の工具類などは散逸しやすいので注意したい。

 (キ)その他資材の入手

a. トワイン

トワインは従来、本邦調達供与資材あるいは携行機材として日本で調達したものを用いてきた。農林科学院が滄州市内の業者に作らせたもの(試作品)を見たが、太さや強度等の点において使用できる可能性が大きい。今後実際に使用して確認することが望ましい。なお実際の使用にあたっては内側より使い始め、使い終わりに近づくと最外周部分が残ることになる。このときに円筒状の形状が崩れないように、従来使用しているトワインは外側に固めの紙をしっかりと巻いてある。試作品にはこのような紙を巻いていないので、実際に使用するに際しては(=今後発注の際に)現在使用しているもののような紙を巻いたものとする必要がある。あるいは薄手の鉄板等で外周を固定するようなものを作ることも考えられる。

なお、東光県において使用しているベーラーにはPP製のトワインが入っていた。中国国内においても探せばトワインはあるので、これらの中から良いものを選ぶ、あるいは使用しているベーラーに合わせて特注して用いることができるものと思われる。

b. ウェス

農機具整備の際に、農機具やその部品に付着した汚れや不要な油分を拭い取るのに布(ウェス)を用いる。ウェスについては当初は日本より調達したが、1998年12月には「滄州大化賓館」より使用済みのシーツを購入して使用した。使用済みのシーツ、タオル、下着等中国国内で入手できる綿布を調達し、汚れている場合は予め洗濯するとともに、必要に応じて使いやすい大きさに裁断して用いることができる。

エ.農場副産物の飼料利用

 (ア)農場副産物の発生状況

a. 全体概況

当地における作物の収穫残渣の代表的なものとしては、麦稈(小麦藁)、トウモロコシ茎葉、コウリャン茎葉、大豆茎葉等がある。

農村においては、集落近くの作業場(平坦な広場を各農家毎に区切ったもの)や集落内、道路脇等には各農家毎に乾燥した麦稈、トウモロコシ稈等が積み上げられているのが見られる。

これら稿稈類の用途としては飼料用以外にも燃料、製紙原料、建築資材等がある。滄州地区においては年間300万トン近くの稿稈類が発生していると予測されているが、その用途としては20〜30%が燃料、20%程度が家畜飼料となっている。その他一部はそのまま鋤込まれている。このように発生量の半分近くは農家段階で処理、利用されている。残り半分のうち一部は製紙原料として利用されている。近年は農村においても電気やLPG(液化石油ガス)等が普及し、燃料としての農場副産物の利用は減少してきている。このため堆積したまま長期間放置されている麦稈も増えてきている。即ちこれが飼料として利用できれば、粗飼料の供給量は大きく増加すると見込まれる。

稿稈類以外にも市街地近郊を中心とする野菜生産農家及び流通・消費段階においてかなりの量の野菜屑が発生しているが、それらは現在ほとんど利用されていない。

このように未利用飼料資源もまだ大量にあり、当地の草食性家畜の生産振興のためには、これらを飼料化して利用することが有効である。

<滄州地区における未利用飼料資源>
名称発生時期現在の利用方法処理方法
麦稈(小麦藁)7月上旬飼料、燃料、製紙原料サイレージ、
アンモニア処理
トウモロコシ葉、茎の上部9月下旬〜10月上旬飼料(余剰分は燃料)(茎葉全体)
サイレージ、
アンモニア処理
茎の下部等家畜が食べ残した部分燃料
包葉(実を包んでいた葉)飼料
穀実を取った後の芯燃料粉砕
コーリャン葉、茎の上部9月下旬〜10月上旬飼料(茎葉全体)
サイレージ、
アンモニア処理
茎の下部燃料
長茎種の茎天井材
大豆茎葉10月飼料、燃料乾燥
野菜屑周年多くは未利用サイレージ
注.処理方法の欄は、今後これら農場副産物を活用するために有効であると思われる調製方法である。

b. 麦稈

麦稈は飼料、燃料、製紙原料として用いられる。滄州においては小型トラクター又は驢馬が牽引するトレーラーに麦稈を満載して「滄州造紙厰」に運搬するのが見られる。また、農家から麦稈を集めて角形ベールに梱包する業者(農業との兼業かもしれない)があり、ここにおいて梱包した麦稈は河北省省都である石家庄に運搬しており、当地にて製紙原料等として利用されているものと思われる。一方で堆積したまま長期間放置されている麦稈もある。

なお、近年はコンバインによる麦の収穫が普及し始めてきており、コンバインは高刈りとなり収集できる麦稈の量は少なくなるとともに集めにくくなってしまう。このため一部ではコンバインによる収穫後の麦稈はその場で焼却されることも行われるようになった。このことはコンバインで刈り取った後の麦稈は収集しづらいことに加えて、麦稈の資源としての需要が少なくなってきていることが背景にあるものと見込まれる。

このようなことから、飼料資源としての麦稈の量(特に今後飼料化し得る量)は莫大な量であると見込まれる。

c. トウモロコシ及びコーリャン、大豆の茎葉等

トウモロコシは先ず熟した雌穂を収穫し、その後に茎葉を刈り取る。茎葉はそのまま乾燥させ、葉や茎の柔らかい部分を家畜(ロバ、馬、牛、羊、山羊)に食べさせ、茎の下部等固くて食べられずに残った部分は燃料とする。また翌春に残ったものは最終的には燃料として利用される。雌穂を包んでいた包葉も飼料とする。また穀実を取った後の芯(コーンコブ)は乾燥して固いため、現状では燃料として利用されている。コーリャンの茎葉もトウモロコシと同様に利用されているものと思われるが、コーリャンの中には茎を天井材として利用するための長茎種もある。

大豆は豆が熟した時点で刈り取り、乾燥させた後に家畜に引かせたローラーで踏む等して脱粒させるが、この際の残渣である茎葉も乾燥させて保存し、家畜に食べさせ、食べ残ったものを燃料として利用している。

これらの他にも綿を収穫した後の茎葉等も燃料として利用されている。

なお、トウモロコシ等の茎葉は販売する途が無いため、農村における燃料事情の変化に伴い、麦稈以上に放置されたままとなっているものが多い。

これら稿稈類の貯蔵及び家畜への給与方法については、サイレージ調製、アルカリ処理は一部では行われているが、乾燥したものそのまま給与するものが圧倒的に多い。

d. 野菜屑

野菜の生産段階、流通段階及び消費段階それぞれにおいて屑が発生する。例えば大根(蘿卜)や人参(紅蘿卜)では葉は生産段階で切り落とされる。白菜においても生産段階では外葉が、流通段階では傷んだ葉が取り除かれる。消費段階でも外皮や芯等の非可食部分が取り除かれる。これら野菜屑は全体ではかなりの量に達する。

近郊野菜農家の多くは家畜を飼養しておらず、発生する野菜屑を自家利用できない場合が多い。このことが生産段階で野菜屑を発生させる要因となっている。市場においてはまとまった量の野菜屑が発生するが、大きな市場は市街地にあるため農村との距離があり、農家における家畜飼養も少頭数であるために市場まででかけて野菜屑を集める必要も無い場合が多い。

市街地の飲食店において調理の際に発生する屑や食べ残し等は回収されて豚の飼料とされている。同様に野菜生産地帯や市場において発生する野菜屑を回収し、自ら飼養する家畜の飼料とするか、回収した野菜屑を家畜飼養農家に売り渡すことが考えられる。しかし、そのためには野菜屑等を発生させる側(野菜生産農家、野菜の流通・販売を行う者)が野菜屑を他のごみ等を混ぜないで集積しておく等がなされなければならず、当面はこれを実用化するのは困難と見込まれる。

家庭から出される野菜屑等についても、ごみの分別収集が行われておらず、飼料化しうる野菜屑も他のごみと一緒に回収される現状であり、今後分別して回収、利用できることが望ましいが、1家庭当たりの発生量が少ない等から、その利用の前提となる分別回収は当面、実現困難なものと思われる。

 (イ)農場副産物の特性と適した調製方法

a. 麦稈

麦稈は乾燥して貯蔵しており、そのままでも飼料として利用しうるが、飼料としての品質を高めるためには粗繊維の消化率を向上させるアンモニア処理が効果的である。麦稈はトウモロコシ茎葉に比べて糖分含量が少なく、かつ茎葉においてリグニンがより多く集積している。糖分含量が少ないということはサイレージ発酵しづらいことになる。またリグニンが集積していることにより粗繊維(セルロース)が消化されにくくなっており、アンモニア処理を含むアルカリ処理によりリグニンとセルロースの結合を緩め、消化率を向上させることができる。またアンモニア又は尿素処理ではアンモニアの殺菌作用により、処理した飼料の長期貯蔵を図ることができる。

サイレージとして調製することもできるが、麦稈を収集した時点で乾燥が進んでいる場合が多く、わざわざ加水してサイレージ化する意義に乏しいものと思われる。また糖分含量が少ないためサイレージとしての発酵が進みにくい。このためサイレージ化するのは、粕類のサイレージ調製を行う際の水分調製用として用いるのが適している。

b. トウモロコシ及びコーリャン、大豆の茎葉等

コーンコブは粉砕すれば飼料として利用でき、これは濃厚飼料に準ずる飼料価値を有する。農村においてトウモロコシの芯を飼料として利用できるという知識が普及するとともに、これを粉砕できる粉砕器が導入されれば、トウモロコシの芯は容易に飼料化できるものと思われる。

c. 野菜屑

回収し、家畜飼養農家に提供された野菜屑については、他のごみや腐ったりして家畜に給与できない部分を取り除き家畜に給与する。なお、供給量と給与量が時期的に一致しない(供給量がある特定時期に多い等)場合は、サイレージ調製を行うことが望ましいが、野菜屑は水分含量が多いため、必要に応じて乾燥した麦稈等を水分調整のために混合する等することにより品質の良いサイレージとすることができる。

 (ウ)具体的な調製方法と留意点

従来の農場副産物の保存は乾燥貯蔵が主体であった。今後当地において畜産振興を図るためには、農場副産物を飼料として有効に活用する必要があるが、そのためには長期貯蔵と品質の改善(消化率向上等)が重要である。サイレージ調製やアルカリ処理等の技術を導入することが有用である。稿稈類のサイレージ調製、アルカリ処理では次のことが期待できる。

1.これら処理により栄養価(消化率)、嗜好性が高まる
2.これまで飼料化されなかった部分も飼料化できる
  (固くて家畜が採食しなかったトウモロコシ茎の基部も飼料として利用できる等)
  これらの効果と処理費用、調製ロス等を総合的に考慮してサイレージ調製やアルカリ処理を行うかどうかを判断する。

a. サイレージ

サイレージ調製は飼料の保存技術であるとともに、良好に発酵させた場合は飼料価値を高めることが期待され、更にトウモロコシ茎の基部のように乾燥貯蔵させたものでは固くて飼料としえないものであっても細断、発酵させることにより飼料として利用できる等、飼料資源の有効利用を図ることができる。

サイレージ調製はほとんどの稿稈類に適用できるが、収穫直後のまだ水分のある状態のものが調製しやすい。当該稿稈類が生産された時点で調製し、それを給与時点までサイレージとして保存する。

稿稈類は利用できる時点で既にある程度の乾燥が進んでいる場合が多いが、サイレージに調製するのに適切な水分となるように、必要に応じて加水する。また発酵を促進する微生物製剤の添加が有効な場合もあるが、その種類により効果も一定ではないため予め小規模の調製試験等で効果を確認してから用いることが望ましい。

なお、稿稈類の多くは発酵微生物の繁殖や有機酸生成原料ともなる糖類や澱粉含量が少ないため、これらを多く含む製造粕類と混合して調製することにより双方の欠点(藁類:良好な発酵に必要な澱粉や糖類が少ない、粕類:水分が多い)を補い合うことが期待される。

なお、具体的なサイレージ調整方法についてはイの(ウ) 収穫体系及び収穫機械の参照。

b. アルカリ処理

アルカリ処理は麦藁等繊維質(セルロース)がリグニンと結合して、草食家畜の反芻胃内で消化しづらくなっている飼料の消化率を高める方法である。アルカリがセルロースとリグニンの結合を緩め、セルロースが消化されやすくなる。アルカリ処理はサイレージと違い飼料保存方法ではなく、処理を行ったものは保存性に乏しいため、処理後は品質が劣化しないうちに給与する。

アルカリ処理の方法としては石灰処理、水酸化ナトリウム処理、アンモニア処理・尿素処理がある。

石灰処理、水酸化ナトリウム処理は、材料となる藁類を石灰水又は水酸化ナトリウム溶液に浸漬することにより繊維質の消化率を向上させるものであるが、浸漬及び処理後のアルカリ分を洗い流すのに多量の水を必要とすることや、処理後における貯蔵性に乏しいため実用的ではないものと思われる。

一方、アンモニア処理は藁類を密閉状態において、アンモニアを添加することにより、貯蔵、消化率の向上及びアンモニアが窒素源となることによる栄養価の改善という効果が期待できる。

しかしアンモニアは有毒であり、取り扱いに注意を要することに加え、中国では入手が容易ではない。他方でアンモニアに代えて尿素を添加する方法がある。尿素は麦稈に含まれる酵素(ウレアーゼ)の働きによりアンモニアに変化するため、アンモニアを添加したのと同様な処理を行うことができる。このためアンモニアそのものを用いることは実用出来ではないが、尿素処理であればかなり実用化しやすいのではないかと思われる。

尿素処理を行う場合は、穀実を収穫した直後の未乾燥の麦稈を尿素を混合しながら集積し、被覆資材で密封する。

中国の中央電視台(CCTV)の農業番組で、稲わらの尿素処理技術を紹介していたこともあり、藁類のアンモニア処理(尿素処理)技術の普及は試みられているようであるが、まだごく一部で事例的に行われているに過ぎず、広く普及するに至っていない。当該技術の普及により麦稈等の多くの未利用飼料資源をより良質な飼料とすることが可能と見込まれる。

アンモニア処理に関しては、当プロジェクトでは体系的な実証試験は行わなかったが、上記のように中国国内でも実施されている例もあり、関係文献を取り寄せる等するとともに実証試験を行えば技術修得も容易であると思われる。

なお、アンモニア処理はタンパク質含有量が少ない藁類(麦稈、トウモロコシ稈等)に適用すべきである。牧草、特にアルファルファはタンパク質が多いため、これを材料として処理した場合、タンパク質がアンモニアと反応して有毒物質が生成され、これを給与した家畜が中毒を起こす危険性がある。

オ.粕類の飼料化

 (ア)飼料化できる粕類と利用方法

醸造業、食品工業からでる副産物、残渣の中には飼料として利用できるものが少なくない。利用が可能と思われるものとしては下記のものがある。

<醸造業・食品工業から出る副産物、残渣>
名称原材料製造粕の現在の利用状況
白酒粕コーリャン、小麦、米飼料(豚、牛)
ビール粕大麦、米、ホップ    〃
豆腐粕大豆    〃
油粕類大豆、落花生、胡麻、ひまわり、綿実    〃(濃厚飼料原料)

上記のうち油粕類については濃厚飼料原料として利用されている。プロジェクトとしては製造粕類(醸造粕類、豆腐粕)について検討した。

プロジェクトとしては1998年6月に「滄州市制酒厰」、1999年6月に「滄州董焼厰」において白酒粕、ビール粕の発生及び利用状況を調査した。

滄州市制酒厰は「御河春(イーハチュン)」ブランドの白酒(バイチュウ:蒸留酒)の他、醸造用アルコールを生産している。白酒の主原料はコーリャンである。ここでは蒸留後の泥状の粕及び白酒独自の固体発酵の粕が年間を通じて排出されるが、いずれも豚及び牛の飼料となっている。発生した粕は、これを売りさばく人(下請け)が一手に販売を行っているが、既に豚(一部牛にも)用の飼料としてほぼ全量活用されている。

当地のビール工場では輸入した大麦を原料としてビールの醸造を行っていたが、ビール粕についても、ほぼ全量が大手の農場に引き取られ、飼料として利用されている。当農場では豆腐粕も使用していた。

このほか、穀類や芋類を原料とする食品工業からは飼料として利用可能な副産物や残渣がでるが、それぞれ既に飼料等として用いられているものと思われる。

なお、粕類を反芻家畜に給与するには、(1)工場から持ってきたものをそのまま給与する、(2)乾燥又はサイレージ調製を行って貯蔵しておき、必要時期に給与するという2つの方法がある。

年間を通じて必要に応じて利用できる場合は貯蔵しなくても家畜に給与できるが、季節的に発生時期が偏っており、発生時期と主に家畜に給与すべき時期が異なる場合はサイレージ調製等により保存する必要がある。一方、また、サイレージ調製のためにはまとまった量が入手できる必要があり、まとまった数量が入手できない場合はサイレージ調製は困難である。

実際には製造粕類は発生量に比べて需要が大きいため、発生する粕類はほぼ全量が飼料として利用され尽くしており、草食性家畜のために新たに、かつ大量に振り向けられるような粕類は無いというのが実態であった。また発生した粕類も貯蔵するまでもなく入手後直ちに給与される場合が多いが、取りに行く間隔は1週間、10日あるいはそれよりも長い間隔があく場合が多いと思われる。冬期間は低温のために変敗の進み具合は遅いと思われるが、春〜秋の高温期には変敗が進む。その対応策として短期的な貯蔵方法について検討が必要である。粕類の入手量が少ないならば露天に広げて日光と乾いた空気により乾燥させる方法が考えられるが、量が多い場合はサイレージ調製を検討することが必要と思われる。

 (イ)サイレージ調製

前記のように、草食性家畜のために新たに、かつ大量に振り向けられるような粕類は無いことから、プロジェクトとしても粕類のサイレージ調製試験は行わなかった。しかし粕類の調達から給与までの時間がかかる場合にはサイレージ調製は有効な方法であり、加えて今後粕類を調製できるような状況となった場合のことも考慮し、ここにサイレージ調製の要点を記しておく。

サイレージに調製する場合は、被覆材等の資材が必要になる。また、発酵あるいは濾汁によるロスや、適切な調製を行わなかった場合は腐敗により給与できなくなる危険性もある。

このため、サイレージ調製を行うかどうかを判断する場合には、これらにも留意して決めるとともに、調製を行う場合にもどのような調製方法とするか等について十分検討する必要がある。

サイレージに調製する場合に問題となるのは水分含有率及び可溶性無窒素物(糖分、澱粉)の含量である。穀類を原料とする粕類の多くは可溶性無窒素物を含んでいるが、一方で水分含量が高いものが多く、そのような原料を用いる場合、良質なサイレージとするためには水分調整(低水分の副原料の添加等)を必要とする。水分調整のための副原料としては藁類が適しているが、当地には麦稈が豊富にある。粕類と麦稈を混合して調製することにより双方の欠点(麦稈:良好な発酵に必要な澱粉や糖類が少ない、粕類:水分が多い)を補い合うことができる。

カ.飼料の分析

飼料の分析は、短期専門家の小林亮英氏(農林水産省畜産試験場)が指導した。なお、飼料分析関係の指導にはカウンターパートが日本で研修を受けた際にも用いたマニュアル(国際協力事業団・農林水産省家畜改良センター飼料種苗課、1998、飼料栄養成分分析(一般栄養成分分析))を当地での指導においても活用した。

短期専門家の周到な指導の外、日本での研修でおおむね技術を修得していたことやカウンターパートの積極的な取り組みにより、一般分析を始めとする通常の飼料分析全般の技術の移転は達成された。またその結果により、飼料品質の等級付けが可能なことや、飼料給与設計もできることを理解した。今後はそのようなことも含めた実用的な継続的活動が望まれる。

 (ア)一般成分の分析

一般成分と呼ばれる、水分、粗灰分、粗脂肪、粗繊維、粗蛋白質、可溶無窒素物の6成分の測定を行った。これらの分析は基本的な分析技術の習得に適している。また、実施することにより、こまごました器具類が不足していればそれが明らかになり、実験室が完備していくものである。

次いで、多くの国で実施されているデタージェント分析を実施した。このうち、デンプンを含む試料のNDFを測るには、まず酵素を加えてでんぷんを分解する必要がある。今回は、大型恒温器内に振盪培養器を入れて振盪することにした。

分析試料には、すでに乾燥してあったアルファルファとトウモロコシサイレージ試料を、ウイレー型ミルで粉砕(1mm)して供試した。

 (イ)その他の成分分析

その他の成分分析(酵素分析等)については、農林科学院に分析装置がないため実施できないが、酵素分析法とサイレージの有機酸の分析法を説明した。

酵素分析法は植物性試料を細胞壁と細胞内容物に分画し、細胞壁はさらにOa、Obの2つに分画する方法で、日本では広く行われている。

サイレージの有機酸は、サイレージの発酵品質を調べるうえで重要な成分である。

 (ウ)分析値の活用

次の3項目について説明し、データの性質と利用法について理解を深めた。

 (エ)飼料給与実態調査

当地の乳牛飼養の実態を視察し、飼料原料の種類等を把握するために滄州市青県にある田印亮牧場及び天津市乳牛改良育種中心を視察した。

滄州市青県にある田印亮牧場は搾乳牛100頭を有する、当地方では大規模な牧場である。ここにおける主要な飼料はトウモロコシ茎葉と同穀実で(分けて収穫するのが普通)、他に多種類の食品製造粕を使用している。ここにおいて分析のための試料として玉米胚芽粕をもらって帰った。

天津市乳牛改良育種中心は数年前まで、JICAのプロジェクトの施設であった。ここでは、飼料分析の実績があり、装置・器具等が参考になった。

 (オ)飼料給与計算の実習

中国の飼養標準による計算の実習を行った。公刊されている肉牛飼養の専門書に例題が載っていたので、それを読んで理解した。この標準では、エネルギー量を表す単位として「肉牛能量単位」を使っていた。

日本飼養標準による計算も行ったが、例題を作成し、線形計画法のコンピューターソフトがない場合でも計算できるよう手順を示した。

 (カ)その他

当地の水は高い硬度を示す可能性がある。各種のミネラル含量の測定に用いる原子吸光分析装置を使い、井戸水等のミネラルを調べて硬度を算出する方法があることを説明した。ただし、個々のミネラル含量や比率には、日本などでは観察されない独自の傾向がみられる可能性があり、分析値が得られても、それが家畜の生理・栄養におよぼす影響を考察することが難しい場合も起こるであろう。

また、中国側より残留農薬の分析について要望があったので、残留農薬の分析に関する説明を行った。残留農薬の分析に関しては、通常はガスクロマトグラフや質量分析計を用いた分析法が多く、農林科学院では実施が困難であることや、分析の前に対象とする物質・農薬を絞り込む(どの農薬成分を分析するのかを特定する)必要があること等を述べた。

今回移転した飼料分析技術はオーソドックスなもので、中国においても一般的なものであり、無くてはならない技術である。飼料生産の産業化が更に発展した場合や、畜産業の発展で特に乳用牛の頭数が増加した場合などは、大いに利用されるであろう。

なお、酵素分析法に用いる酵素が中国国内では安価には手に入らないということで移転技術に入れなかった。他方、サイレージ技術は既にかなり普及している。サイレージの品質評価法は講義のみに止めたが、日本での研修での指導項目に入れておいても良いのではないかと思量された。


(調査資料3)粗蛋白質分析マニュアル
(MY式窒素分解・蒸留装置を使用する場合の専用分析マニュアル)

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