地域に適応する生産量の高いマメ科牧草としては、アルファルファ以外には見当たらなかった。これは当地の降雨が夏期に偏り、これ以外の時期は乾燥気候となるため表層土壌も乾燥が進み、根が土壌表層に多く分布する多くの牧草は水分不足となるため十分な生育・生産が見込めないのに対し、深根性のアルファルファは深い土層の水分を吸収でき、このような時期にも生育が確保できるためである。
加えてアルファルファ(苜蓿)がカリウム、カルシウム等のミネラル分を多く吸収することから、これを栽培することによる塩類土壌の改良をも期待した。
なお、アルファルファの品種としては、展示圃場では現地在来の「滄州苜蓿」を主体とし、農林科学院の展示圃場ではこれに加えて日本の公的育成品種である「タチワカバ」を栽培した。「滄州苜蓿」は「タチワカバ」に比べて葉が小さく、茎も細く、全体に小柄な感じである。1番草の開花期はほぼ同じ頃である。1番草の収量は両者の大きな差はないが、1番草刈取り以降の再生、即ち2・3番草の収量は「タチワカバ」の方が優れている。しかし、「タチワカバ」は日本の品種であり、現地において種子の入手が困難である。
また、「飼料作物適正品種の導入」分野において、「タチワカバ」とともに当地における適品種とされたのが元来米国の品種である「安斯塔(アンスター)」である。これは「中国農林科学院畜牧所」において種子生産を行っている。
なお、98年に滄州市内の東光県での現地調査において聞き取りしたことであるが、中国では中国農業部が米国の品種である「皇后」等を入手し、国、省、市レベルの政府(畜牧担当部局)を通じて有償で供給している。今後この制度を継続し、優良品種の普及を図ることが望ましい。しかし、経済的に困窮した地域にあっては、このような制度があっても高価な種子は買うことができず、在来品種を用いざるをえない場合もある。優良品種の普及のためには、特に困窮地域に対しては市又は県、郷レベルの政府が種子代の補助、あるいは無償供給等の助成を行うことが望ましい。
自家採種を行うことができる場合は、当初は優良品種種子を入手して播種し、次回以降は自家採種した種子を用いることも可能である。
アルファルファ栽培に適した圃場は、アルファルファ生育に適した土壌条件(物理性、化学性)及び効率的な機械作業を行える条件(平坦性、圃場区画)を有していることである。これらの条件を十分に満たしていない場合は草地造成に際して改善するようにする。(土壌の物理性、化学性の改善については(4)のウの(イ) 土壌の改良技術、圃場の区画と平坦性については(4)のイの(ア) 草地造成の項参照)
またアルファルファの栽培は、アルファルファが土壌中のカリウム、カルシウムを吸収するため土壌のアルカリ性及び土壌塩分濃度の問題を軽減することが期待されている。また根が土壌深くまで貫入し、根系として多くの有機質を土壌にもたらす。このためアルファルファを数年栽培することにより土壌が改善されることになる。
華北平原では麦−トウモロコシ(又はコーリャン、粟、豆類、綿花等の夏作物)の年2作体系が主体となっている。夏作物としてはトウモロコシが多く、小麦とトウモロコシ(コーリャン、粟)の作付けだけではイネ科作物のみの連作となる。このような圃場において数年マメ科作物(=アルファルファ)を栽培することは連作障害の回避の点からも有益である可能性が高い。
このようなことからアルファルファの栽培は、アルファルファ専用圃場としての作付けに加えて、当地の穀作(小麦、トウモロコシ等)との輪作も有益であると考えられる。穀作との輪作を行う場合は集落単位等で計画的に行い、まとまった一定区画をアルファルファ栽培に充てることが望ましい。(このことに関しては、日本の水田転作におけるブロックローテーション方式が参考になる)
播種時期は、気温、土壌水分(降水)、害虫(アワヨトウ等)、雑草との競合について配慮した上で決める必要がある。
気温の面からは4月から9月上旬まで播種可能である。9月中旬以降は発芽後次第に気温が低下していくため、年内における生育により越冬に必要な個体の大きさになるに至らず、不適である。
当地における降水は7〜8月に集中する。また4〜6月は気温の上昇に加えて日照強度も強く、土壌表面からの蒸発量が多く土壌が乾燥するため、潅水を行わない場合は土壌が固く、耕起〜砕土作業に支障をきたすとともに、発芽〜定着が困難ないし不安定となる。ただし、潅水施設が完備し、十分な潅水が行える場合はこの限りではない。
アワヨトウは5月頃より初秋期に発生するが、年により発生の程度や発生時期(期間)が異なる。またアワヨトウ以外にも幼虫がアルファルファを食害する昆虫もあり、春先を除くアルファルファの生育期間には何らかの害虫の発生の危険がある。(害虫に関しては、オ.害虫防除の(イ) マメ科牧草の項参照)
雑草については、5〜8月の高温長日期が生育旺勢な時期である。特に耕起に際して土壌の反転が十分でない場合、土壌中に既に雑草の種子が混入している場合や、特に地下茎や葡伏茎により繁殖する雑草(コヒルガオ(Calystegia hederacea Wall.)、刺児菜(中国名)(Cephalanoplos segetum (Bge.) Kitam.)、アシ等)が侵入していた場合には牧草発芽と並行して雑草も発芽するため、牧草と雑草との競合が避けられない。夏播きの場合は雑草の発芽が見られてもその後の気温が低下する状況で、比較的低温においても生育するアルファルファの方が優勢になる。しかし春〜初夏播きの場合は雑草の生育速度も大きいため、これとの競合の面では不利となる。(雑草に関しては、カ.雑草防除の項参照)
以上の点を総合すると、播種時期は潅水を行わない場合は7月〜9月10日頃とする。なお、潅水を行うことを前提とすればこれ以前の寡雨時期にも播種することができるが、この場合はプラウ耕により土壌の反転を十分に行い、地表部の雑草種子を完全に地中に埋める等とともに、雑草発生状況によっては人力による抜き取り等も考慮する必要がある。
アルファルファ種子の発芽・定着及びその後の生育には窒素固定を行う根粒菌は有用である。このため播種予定の土壌におけるアルファルファと共生する根粒菌の有無を事前に確認する。既にアルファルファを栽培している圃場を更新する場合は、アルファルファの根に根粒の付着の有無を調べる。これ以外の場合は対象土壌にアルファルファ種子を播種し、発芽後の根粒の付着状況を観察する。土壌中に根粒菌が存在しない場合は、アルファルファ播種に際して根粒菌を接種することが望ましい。
当プロジェクトにおいてはアルファルファの栽培を中心として進めてきたが、当初は根粒菌の接種は行わなかった。その後調査したところアルファルファの根に根粒は付着していないのではないかと思われたので、1998年の農林科学院圃場での播種に際して根粒菌を種子に混和して播種した。アルファルファ根粒菌は中国国内では「微生物中試基地(河北省 秦皇島市 海陽515)」より入手できる。価格は1998年における購入実績で60kgで600元(1kg当たり10元=約150円)であった。なお、短期専門家の樋口誠一郎氏(農林水産省東北農業試験場)の指導等により農林科学院において試験的に根粒菌の増殖を行った。
その後農林科学院圃場のアルファルファ(根粒菌接種せず)の根を顕微鏡で観察したところ、根粒菌の存在が確認された。しかし根に付着している根粒の数は少なかった。一方で李皋家村で緑肥作物として栽培したマメ科作物のセスバニアには多くの根粒が確認された。アルファルファで根粒の付着が少ない理由としては、アルファルファと共生関係を持つ根粒菌そのものの性質、土壌中の生息密度、アルファルファとの共生における何らかの問題等が考えられる。その原因は短いプロジェクト期間中には明らかにできなかったが、アルファルファと根粒のより良い共生状況を作り出すためには、優良な形質を有する根粒菌の接種や、根粒菌が非共生の時でも土中で生存しやすい条件(土中の有機質が多い等)を作ることが有用と思われる。
なお、既に根粒菌が定着している圃場がある場合は、当該圃場の土を採取し、篩にかけて播種時の増量剤として用いる等により根粒菌接種を行うことができる。
根粒菌を接種して播種した後に干天が続き、土壌の乾燥が進むと根粒菌が死滅する可能性があるため、根粒菌の確実な定着を図るためには土壌が乾燥しないようにすることが重要である。播種前後に降雨が無い場合は事前に潅水を行い土壌水分を高めておくとともに、発芽後には必要に応じて潅水する等土壌水分を維持することが必要である。(次項参照)
当地の土壌は乾燥すると固結し、起土・砕土・整地作業に支障をきたすため、これらの作業は降雨により土壌が水分を含み、柔らかくなった時点で行うことが望ましい。また、播種においてもその後の発芽・定着のためには水分が必要であり、降雨の後あるいは予め潅水を行い、土壌が水分を含んでいる状態の時に行う。
しかし、降雨や潅水の直後は表面土壌の含有水分が過多となり、機械作業に支障をきたすため、降雨・潅水の後土壌にまだ多くの水分が含まれ、かつ土壌表面は機械作業に支障の無い程度に乾燥した状況で作業を行う。
日本では播種後に潅水することがよくあるが、固結しやすい土壌では、播種後に潅水すると表層土壌が固結してしまい、発芽に支障をきたすことになる。このため、当地の耕種農業一般では降雨後、農作業ができる程度までに表土が乾燥してから、あるいは潅水を行い表面の水が土中に浸透し、耕起する土壌全体はまだ湿っている状態で、耕起、砕土し、播種するという手順を踏んでいる。
このようなことから、牧草の播種においても播種後まだ発芽していない状態の時に潅水を行うと、土壌表面が固結し発芽を阻害するため、潅水を行う場合も播種後には行わず、播種前に潅水を行うことが重要である。
草地を造成する場合は、以下の手順により行う。なお、予め緑肥栽培を行う場合の作業手順についても下記の手順に準じて行う、起伏修正が必要であれば緑肥栽培の段階で起伏修正を行う。
草地での生産に際し、起土・砕土・整地が最も重要な作業になる。即ち起土・砕土・整地作業を丁寧に行い、平坦な草地とすることにより収穫・調製作業が効率的に行われる。しかし、凹凸の多い草地では作業が円滑に行えないばかりでなく、収穫用農機具の損耗(刈取り刃の摩耗、機械の故障)を早めることになる。また、効率的な機械作業及び灌漑(掛け流し灌漑)のためには、圃場面を極力平坦にする必要がある。日本においては、起土・砕土・整地作業は時間をかけても良いから丁寧に行うことが良いこととされている。起土・砕土・整地作業については以前にも既に日本側から指導を行っており、特に速度を落として丁寧に作業を行うよう指導したはずであるが、実際にオペレーターに作業をさせると全般に作業時の速度が速い。このため指導の際には一旦作業を中止させオペレーターに指導をおこなったが、ゆっくりと丁寧に作業を行うことの重要性を理解してもらうのに苦労した。
孔店村の草地はかなり平坦に仕上がったが、農林科学院及び李皋家村では指導を行ったにもかかわらず、これを理解し指導したとおりに行うことができず、造成後の草地は起伏が多かった。
華北平原は平坦な地形であり、傾斜は全くない場合が多い。小起伏もほとんど無く、起伏修正は必要無い場合が多い。しかし作業上支障となる凹凸がある場合は起伏修正を行う。李皋家村村の圃場整備に際しては起伏修正を行った。
また効率的な機械作業を図るため、既設の数枚の畑地(周囲に排水溝がある)を整備して大区画の草地に整備する時は排水溝を埋める必要がある。
当該作業はブルドーザーにより凸部の土を移動し凹部を埋める。プロジェクトで李皋家村圃場の起伏修正を行った際にはブルドーザーを借り上げてこの作業を行った。((4)のイの(ア)のa. 起伏修正の項参照)
起土・緑肥の鋤き込みは降雨後の土壌水分が多い時に行う。土壌水分が少ない場合は土壌が固結し、起土作業に支障をきたす。降雨が期待できない場合は予め潅水をしておく。
緑肥を栽培した場合、麦作の跡地の場合、雑草が多い場合は栽培した緑肥作物、麦の刈り株、雑草を完全に埋めるため、ボトムプラウを使用する。なお、緑肥・雑草等が完全に鋤込まれるためには25cm以上の耕起深が必要であり、加えて土壌の反転が十分に行えることも必要となる。このため、プラウの機種を選定する場合にはこの点も留意する必要がある。
「内返し」の場合は圃場外周に鋤き溝ができるが、圃場管理・収穫作業の際の支障となる場合があるため、起土作業の最後に圃場周囲を逆回りで浅くプラウかけを行い、鋤き溝を埋めることが望ましい。なお、プロジェクトでは導入しなかったが、リバーシブルプラウを用いることができれば、一方方向のみに鋤き起こせるため、圃場の一辺が鋤き溝、反対側の一辺が鋤き山となるようにすることができる。この方法では圃場内に鋤き溝、鋤き山ができず、都合が良い。この場合、次の草地更新時には逆方向に鋤き起こすようにすれば圃場の縁にある鋤き溝が埋められ、鋤き山も無くなることになる。
砕土には、デスクハロー又はロータリーハローを用いる。ロータリーハローの作業幅は使用するトラクターの車輪幅よりも広いことが望ましいので、機種選定の際にはこの点にも留意する。
土壌が乾燥した状況では土が砕けにくいため、砕土は起土直後のまだ土が乾燥していない時に行う。
当プロジェクトでは、アルファルファ播種が雨の多く、土壌が水を含んだ状態である場合が多いことを想定して、本来は水田用のパディハロー(ロータリーハローの一種)を砕土・整地用として使用した。しかし、土壌に水分があって軟らかい状態では、砕土は容易に行えたが、乾燥して土が硬くなるとパディハローだけでは困難であったため、デスクハローを1〜2回かけた後にパディハローを使用した。
なお、当地では砕土に用いる農機具としてはデスクハローよりもロータリーハローを用いることを好む傾向が見られる。これは(1)ロータリーハローでは1回の工程で砕土から整地までを行うことができるが、デスクハローでは2回程度行う必要があること、(2)ロータリーハローの方が土壌表面が細かく砕かれて仕上げられるので、仕上がりの「見た目」が良いこと等が理由として考えられる。一方、当地の土壌は乾燥すると固くなり、ロータリーハローを使用した場合に回転刃への負担が大きく、特に中国製のロータリーハローの場合は回転刃取り付け金具が回転軸に取り付けてある箇所の溶接が弱く、作業中に回転刃が取り付け金具と共に取れてしまうことがある。
当地においては慣行的に畑地は細長い形状としており、長辺に沿った方向での作業走行だけを考えればロータリーハローの方が容易に作業を終えることができる。しかし今後収穫時の作業性を考慮して、短辺の長さをもっと長くした場合、砕土を複数回行い、縦方向での作業に加えて、これと直角あるいは斜め方向に作業を行うことにより、仕上がり面はより平坦になる(細長い圃場ではこのような作業は行いづらい)。このような場合に用いる農機具としてはロータリーハローよりもデスクハローの方が適している。
このようなことから新たに砕土用農機具をそろえる場合は状況に応じてデスクハロー又はロータリーハローを選択する。本来水田用のパディハローは当地の砕土・整地用農機具としては必ずしも適切ではない。
整地は播種床つくりの最後の仕上げ作業となる。整地が不十分で小起伏が多いと、潅水(掛け流し灌漑)を行った場合、凹部に水が溜まる一方で凸部には水がかからないことになる。また収穫時に圃場内に低刈りとなるところ(凸部)と高刈りとなるところ(凹部)ができ、特に凸部では刈取り機(モアー、モアーコンディショナー)の刈取り刃が土壌を削り取ることとなり、その部分の牧草個体の枯死となるとともに、刈取り刃の損耗が著しく大きくなる。このため、草地面を平坦に仕上げることが重要である。
整地作業はロータリーハロー(パディハローを含む)及びツースハローを使用した。ロータリーハローを用いた場合は既述のように砕土・整地を併せて1工程で行うことができる。整地作業では収穫作業及び収穫機械に支障が起きないようにするために、縦、横にかけ、凸凹や鋤き溝をなくし、できるだけ圃場を平らにするように指導した。
耕起の際に圃場中央部にできる凹凸(外返しの場合は凹、内返しの場合は凸)や中国製のロータリーハローの幅が狭く牽引するトラクターの車輪跡等、圃場の長辺方向に平行に凹凸が残る場合は、ツースハローを3〜4回かけて凹凸を均す。特に草地の長辺方向にのびた凹部を消すためには、ツースハローを斜め方向(下図参照)にかけることが効果的である。
展示圃場のうち、孔店村においては起土〜整地作業はうまく行われ、平坦な圃場となったが、農林科学院及び李皋家村の展示圃場では度重なる指導にも拘らず、十分に平坦な圃場とすることは出来なかった。一方で近隣の小麦畑の表面は平坦なものとなっている。起土・砕土・整地用機械(プラウ、ロータリーハロー等)の適切な使いこなしと、「小麦畑の如く平坦にしなければならない」という意思さえあれば一層の平坦化は可能と思われる。
当地においては、土壌がアルカリ性であるため、日本におけるような酸性土壌改良のための土壌改良資材は必要としない。(土壌改良資材については、(4)のウのc. 土壌のphの項参照)
また土壌中にはカリウムが多く含まれているものと思われる。またアルファルファは根粒菌より窒素成分の供給を受けるために、肥料としては燐酸成分が最も重要となる。なお、生育初期には根粒菌との共生関係が確立していないため、窒素成分も必要となる。このため施肥及びアルファルファの定着を確実にするための土壌改良資材としての意味合いを含めて燐酸肥料を主体として施用した。なお、中国ではアルファルファ栽培における施肥基準が見当たらなかったので、日本の文献の「アルファルファ(鈴木信治著)」を参考にし施肥量を算出した。
<草地造成における肥料施用量(1996年)> | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
(単位:kg) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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このうち過燐酸石灰は燐酸成分が作土中に十分に混和するよう砕土作業の中間に施用し、砕土しながら土壌と良く混合するようにした。
燐酸2アンモニウムは窒素分を含むため、発芽後の幼苗期に効率的に窒素成分を供給できるよう、整地作業の中間に行い、施肥後ツースハローをかけ土と混ぜた。
中国産の肥料(燐酸2アンモニウム及び過燐酸石灰)は固まりが多かったので、ブロードキャスターによる散布が行えず、人手で散布した。今後における肥料の品質向上(固まりが無く、均質な粉状又は粒状になっている)が望まれる。
なお、土壌中の有機質の増加とこれによる土壌の物理性・化学性の改善のためには堆肥の施用を行うことが望ましいが、当地では利用できる堆肥は少なく、穀物や野菜の栽培に優先的に利用され、実際には草地に施用できる状況にない。もし堆肥を施用することができる場合は耕起前の圃場に散布しておき、耕起作業により土壌中に埋め込むようにする。
アルファルファの播種量は、ブロードキャスターによる播種の場合、10a当たり2.2〜3kg(1ムー当たり1.5〜2kg)とした。
播種にブロードキャスターを用いる場合、播種の際に種子を圃場全体に均一に播種できるよう種子に増量材を混合した。増量剤としては1997年にはコウリャンの種子(発芽しないように火で焼いたもの)、1998年には食用の粟を用い、アルファルファ種子の倍の量を混合した。コウリャン種子を用いた際には加熱が十分でなくコウリャンの発芽が見られたため、加熱を十分にするか、あるいは他の増量剤とすることが望ましい。なお、増量剤として食用穀物(粟、コウリャン)を用いることは、当該技術を普及する際において問題となる可能性があるため、今後適切な増量剤について更に検討する必要がある。根粒菌の接種を行う場合は増量剤と同時に混和した。
また、複数の圃場に播種する場合は、各圃場毎に種子(増量剤、根粒菌を混合する場合はこれらを含めて)を計量し小分けしておき、播種する圃場毎にこれをホッパーに入れて播種するようにする。更に播種に際して種子が不足することも想定して多少の予備の種子を残しておくようにする。
ブロードキャスターによる播種に際しては、播種面積及び播種量(増量剤等を加えた総量)に基づき機械の調整(種子の繰り出し量)を行うが、播種機の種子送り出し量調整に際しては面積当たり播種量の計算値に基づくものよりもやや少な目に出るようにしておき、播き終わったときに多少種子が残る位にする。残った種子は再度当該圃場に播くが、その際は最初に走行した車輪跡の中間を走って播種するようにする。
なお、ブロードキャスターによる播種よりも圃場内に均一に播種を行いたい場合にはシードドリルを用いる。この場合は増量剤を用いる必要は無いが、播種を行う前に種子の出る量を精密に測定して、機械の調整を行う必要がある。シードドリルを用いる場合は播種むらが少ないため、ブロードキャスターにおける播種よりも面積当たりの播種量を減ずることができる。
当地で用いられている小麦播種機を用いて条播とすることもできるが、条間が広すぎるという問題がある。
ブロードキャスターにより播種を行った場合は、播種後速やかに覆土・鎮圧を行う。覆土・鎮圧の方法としては、k型ローラー(ケンブリッジローラー)や、これより小型のカルチパッカーにより行う。あるいはツースハローの爪を立てずに走行する、あるいは鉄製の枠を作り、これをトラクターで牽引して走行することにより覆土することができる。
なお、シードドリルは播種・覆土までを1工程で行うため、播種後に別途覆土する必要は無い。
草生を維持するための管理・利用上でのポイントは、適切な施肥、病害虫・雑草防除、適切な刈取り時期での刈取り、適切な刈取り方法(刈取り高さ)等がある。このうち、病害虫・雑草防除及び収穫関連事項については別項で記載しているため、ここでは施肥、潅水、草地更新について触れる。
アルファルファでは乾物重1,000kg当たり、N:32kg、P2O5:2.5kg、K2O:28.4kgが収奪されるが、このうち窒素成分の2/3は根粒菌による窒素固定により供給されるとしている。また、カリウム、カルシウムは当該圃場の作物栽培状況によっても異なるが、多くの場合は土壌中に多く含まれているため、施用の必要は少ない場合が多い。このようなことから多くの場合においてはアルファルファ生産のためには窒素及び燐酸肥料の施用が必要になる。必要な施用量の考え方としては、牧草生産量及び上記必要量(窒素の場合は根粒菌による窒素固定分を除く)をもとにロス分(窒素分の揮散や燐酸の土壌中のカルシウムと結合することによる固定分)を考慮して決める。
なお、日本と異なり降雨による地下への溶脱はほとんど無く、また土壌の燐酸吸収係数も低いと見込まれるので、この点を考慮する。なお、燐酸吸収係数の測定や施肥試験により栽培条件に応じた適切な施肥量を把握することが望ましい。
現実には草地造成時の燐酸肥料の肥効が残っていることや、根粒菌による窒素固定もあり、無施肥でも当面はそこそこの収量があげられる。また肥料購入には現金支出を要する。このため実際に栽培を行っている農民レベルでは施肥をしたがらない。しかし施肥を行わなければ収量水準も低く、加えて近い将来に土壌中の燐酸成分が底をつけば収量は激減することが予想される。草地の維持と安定した収穫を継続するためには適切な施肥を行う必要がある。
施肥は春先及び刈取り直後に行う。春先の施肥に代えて秋冷によりアルファルファの生育が止まった後に行っても良い。
施肥後降雨が見込まれない場合は、肥料成分の土壌中への浸透を図るため潅水することは有効である。
播種当年において、降雨量が少なく土壌の乾燥がアルファルファの定着に支障をきたすと見込まれる場合は潅水を行うことが望ましい。しかし播種の後、発芽する以前に潅水を行うと、表層土壌の固結をもたらし、発芽に支障をきたす。このため干天が続くと見込まれる場合は播種前の耕起の段階で潅水を行い、土壌水分を多くしておくこととし、播種後牧草が発芽し、生育が進むまでは潅水を行わない。発芽後に干天が続き、土壌の乾燥が生育に支障をきたす場合は潅水を行うことになるが、掛け流し灌漑方式による場合は特に吐出口近くの表土が洗掘されないように注意する必要がある。
なお、アルファルファは深根性であり、播種した翌年には深く根を張るため、旱魃時においても土層深くの水分を吸収することができる。このため、播種した翌年以降は不足する水分を補給する意味での潅水は不要である。
一方、施肥後に肥料成分が土中に移行するためには水による浸透作用に依存しなければならない。牧草に対する施肥は春先に行うことが一般的であるが、当地では春から初夏にかけての降雨が少ないため、施肥した肥料が牧草の根に届かず、肥効が的確に発現しない場合がある。窒素肥料として多用される尿素は土壌中の微生物によってアンモニアになるが、不十分な降雨では肥料成分が土中の浅いところにとどまってしい、土壌がアルカリ性であることから揮散しやすい。施肥後の潅水は肥料成分を早期に根圏に到達させ、かつ窒素分の揮散を抑制するとともに、旺盛な成長に必要な水分を補給する意味において、春先施肥後に潅水することは有用であると考えられる。
なお、潅水方法としてはスプリンクラー方式、掛け流し灌漑方式等があるが、中国においては掛け流し灌漑方式が一般的である。掛け流し灌漑を行うためには造成時に圃場面の平坦性を確保しておく必要がある。
草地の利用年数が経過してくるとアルファルファ個体の老化や欠株の増加等により生産量が低下してくる。この場合、アルファルファの栽培により土壌の物理化学性が改善されたことにより麦等の作物の栽培が可能となった場合は、当該圃場をこれら作物の生産に振り向けることもできる。
一方、土壌条件や経営条件から継続して牧草栽培を行う場合は草地更新を行う。草地更新の方法としては完全更新と簡易更新がある。
完全更新の方法は既述した耕起〜播種作業の手順により行う。一方簡易更新は草地面をデスクハローにより軽く耕起し、既存のアルファルファ個体の多くを残しつつ土壌表面を攪乱した後に施肥、播種、鎮圧を行い、アルファルファ個体の増加を図る。
アルファルファの採種を行う場合は牧草としての収穫を行わず、開花・結実させて採種する。採種方法としては、次の方法が考えられる。
アルファルファ栽培農家が自家利用のための種子を確保する場合には上記のaが適した方法であり、bは更に規模の大きい集団経営等で種子を確保する場合に適用する。cは販売用種子を生産する場合に適用するが、種子の精選・調製・保管用の機械、施設を整備するとともに、その生産(隔離距離の確保、雑草や異型個体の除去等)、精選(異物等の完全除去等)、検査(種子の純度等)、検定(遺伝的に変異が無いことを化学的検査及び栽培試験等により確認する)に高度な技術を必要とする。また種子の長期保管のためには温度管理が完全に行える種子保管施設を整備しなければならない。また増殖する品種については、在来の「滄州苜蓿」に比べてより優れたものでなければ意味がない。また増殖品種は中国国内のものであっても品種育成者の承諾を要するとともに、外国品種の場合はこれに加えて相互国間の国際的な取り決めがなされる必要がある。
なお、上記a及びbの場合は、採種を行った圃場では条件が良ければこぼれ種子が発芽して個体数の増加を図ることも期待できる。このため播種後に旱魃等に遭遇する等により定着した個体数が少ない圃場や、年数が経過して個体数が減少した圃場で採種を行い、採種後に軽くデスクハローをかける等で発芽条件を整えることにより個体数の増加を図ることができる。ただし、業として種子生産を行う場合は、こぼれ種子による個体増は品種純度の維持という観点から好ましくない。
華北平原における畑作栽培では、冬作は小麦、夏作はトウモロコシという1年2作体系を主体とし、この他にコーリャン、大豆等が組み入れられている。多くの畑では永年にわたりこの作付けを継続している。しかし年数の経過とともに生産性が低下することが知られており、その原因の一つとして毛管水とともに地下からカリウム等の塩類が地表の土壌に供給され、そのために土壌塩類濃度が高くなるためであるといわれている。
アルファルファ栽培の後に作付けした小麦等の生産性がそれまでよりも向上するため、その理由としてアルファルファがカリウム、カルシウム等を吸収することによる除塩効果が期待されるといわれている。このため当地におけるアルファルファ栽培の目的の一つに穀作の生産性の回復がある。
東光県畜牧水産局等によれば、アルファルファは土壌中のカリウム、カルシウムを多く吸収するため、3〜4年のアルファルファ栽培により0.3〜0.4%あった土壌塩分濃度が0.1〜0.2%に低下するといわれている。
しかし、土壌塩分濃度の主因は塩化ナトリウムであろうと思われ、これは植物はあまり吸収しない。また土壌中(根群分布域)にある塩類の総量はアルファルファが吸収しうる量からすれば極めて多いため、実際にはアルファルファによる除塩効果は期待したほどに大きくはないのではないかと思われる。
アルファルファ栽培による穀作の増収効果が何によるのか、アルファルファ栽培による除塩効果はどれほどあるのかについては、飼料分析により実際にどれだけのミネラルが持ち去られるかを把握すると共に、土壌中のミネラルの量のアルファルファ栽培による変化等を調査して明らかにすることが重要である。
なお、アルファルファ栽培による生産性回復の理由として、小麦−トウモロコシ(コーリャン)体系では同じくイネ科作物のみの連作となり、いわば慢性の連作障害の状況にあったものがアルファルファ(=イネ科以外の作物)を栽培することにより連作障害を軽減することが考えられる。加えてアルファルファはマメ科作物であり、共生する根粒菌により固定された窒素成分が放出されることによる効果もあるものと思われる。
当地は畑作地帯であり、牧草は長期間の畑作の継続により生産性の低下したところや、畑作物の栽培に不適な土壌のところに栽培される場合が多い。このような不利な条件ではあるが、農家の経営の向上を図るためには高い生産性の牧草であることが好ましい。また、牧草の栽培により土壌の改善(土壌塩類の吸収とこれによるアルカリ度の低減)が期待される。このような条件においては、アルファルファが最も適しているといえる。
一方、当地では麦稈やとうもろこし稈等粗飼料資源が豊富にある。これらは低質とはいえエネルギー源となる繊維質が多く、これは品質面での違いはあるもののイネ科牧草に類似する特性である。家畜栄養の点からしてもこれら麦稈、トウモロコシ稈と組み合わせて給与する飼料(自給飼料)としてはイネ科牧草よりも蛋白質含量の多いマメ科牧草の方が好ましい。
また肥料の価格が高く、根粒菌が共生していれば窒素肥料の施用を無くし、あるいは減じても生産が可能なマメ科牧草の方が経営面においても有利となる。
当地は乾燥気候であり降雨が夏期に偏り、これ以外の時期においては土壌の乾燥が進む。このような当地の気象・土壌条件には土壌の浅いところに根の多くが分布するイネ科牧草よりも深根性のアルファルファの方が適している。また、適正品種導入部門における調査においても、このような条件下で高い生産性をあげることのできるイネ科牧草草種・品種は見当たらなかった。
このようなことから、当面は当地に普及すべき牧草としては、アルファルファが最も適しており、イネ科牧草は現状においては広く普及できる牧草ではないと判断された。
また、このことから、日本や西欧において一般的となっているイネ科牧草主体の「混播牧草」も、当地においては適用できないものと判断された。
なお、今後大家畜畜産の一層の振興が図られ、酪農においても個体乳量の増加等から良質なイネ科牧草を主体とする粗飼料の需要が高まれば、高消化性繊維の供給源としてのイネ科牧草についても適草種の選定や栽培技術の向上(混播技術も含む)を図る必要性が生じてくるものと思われる。将来に備えて最適なイネ科牧草の種類の検索や栽培、利用方法(混播技術も含む)等については研究を進めておくことが望ましい。
トウモロコシ(実取り用)栽培については既に小麦の後作の夏作作物として当地に定着しており、栽培技術はほぼ確立している。このため畝幅等をフォーレージハーベスターによる収穫に適した幅とすることを除いては既存の栽培方法で栽培することが可能である。
なお日本においては通常は青刈トウモロコシの収穫調製は実を含めたホールクロップサイレージとするが、当地では食糧事情等の観点から実を食糧用として収穫後の茎葉を利用するということとした。
当地にはサイレージ用とうもろこし品種は市販されていないが、実取り用品種を栽培してサイレージに調整することは可能であり、当プロジェクトにおいても栽培・調製試験では実取り用の品種を用いた。中国における実取り用品種の多くは2元交配によるf1 品種となっている。
孔店村で1998年に播種した品種の特性は種子袋の記載によれば下記のようなものとなっていた。
生育期間 | 北京の気候条件で125日 | |
栽植密度 | 春播きで3000〜3500株/ムー(4500〜4750株/10a) 夏播きで3500〜4000株/ムー(4750〜6000株/10a) |
|
有効積算気温 | 3500度以上 | |
種子 | 純度 | 98%以上 |
浄度 | 98%以上(浄度の意味は不明) | |
水分 | 13%以下 | |
発芽率 | 85%以上 |
当地においてはトウモロコシの作付け体系としては春播き及び小麦収穫後に播種する夏播きの2体系がある。当地では畑地の多くで小麦が栽培されているため一般的には夏播きであるが、小麦等の冬作の栽培を行わなかった圃場では春播きとすることができる。
春播きの場合は4月中下旬頃以降、気温が上がり次第播種することができる。夏播きの場合は小麦収穫後の6月中旬に播種するが、生育期間を確保するために播き遅れないようにする。
春播き、夏播きともに降雨が少ない時期であるため、土壌水分不足による発芽不良の危険性があり、雨後土壌水分が多い時に耕起〜播種を行うことが望まれるが、降雨が見込まれない場合は予め潅水を行い、土壌水分を高めておいてから耕起〜播種の作業を行うことが有効である。
とうもろこしの耕起、整地作業の手順は牧草播種の際の耕起、整地に準じて行う。((2)のアの(カ) 耕起〜播種作業の手順の項参照)
当地におけるとうもろこしサイレージの調製は実取り後の茎葉を利用することが一般的であることから、施肥量については実取り栽培に準ずる。
施肥と播種を同時に行えるコーンプランターを用いてことができる場合は播種と同時に施肥を行う。コーンプランターを用いない場合は砕土作業の前に肥料を散布し、砕土・整地作業の際に土壌に混和する。
なお、堆肥の施用を行うことが望ましいが、堆肥を施用する場合は耕起前の圃場に散布しておく。
通常、コーンプランター(玉米播種機)を用いて施肥、播種を同時に行う。人力で刈取りを行う場合は播種列の間隔は狭くても差し支えないが、フォーレージハーベスターで収穫を行う場合は、フォーレージハーベスターによる効率的な収穫のために播種列は直線かつ一定間隔となるように留意する必要がある。そのため、最初の1列を直線に走行して作業し、これをその後の作業のための基準線とする。日本製のコーンプランターには走行作業する際に、本体の脇一定の間隔の土の上に印をつけていく「マーカー」がある。最初の作業が直線であればマーカーにより引かれた線は直線となり、次の列の作業ではこのマーカーを目印にして走行すれば全ての畝は直線にかつ畝間が一定となる。なおこの場合、最初の1列は播種をせずに直線を描くことに専念して走行すると、より一層正確に直線走行が行え、より正確な「基準線」とすることができる。
播種する深さについては、播種時期は降雨が少ない時期であるため、播種後の水分条件を考慮すればある程度深い方が有利であるが、一方で播種する深さが10cmを超えると急激に発芽率が低下する。このため、播種する深さは5〜10cmとする。((調査資料2−1)トウモロコシの播種深さが発芽に及ぼす影響調査参照)
当地における食用トウモロコシの栽培においては追肥は行わない。これには次のことが理由として考えられる。
飼料用トウモロコシの栽培においても、同様な理由により追肥を行うことは行われない。今後より高い収量が求められるとともに、農家経済の条件が改善され、追肥を行うことが必要かつ可能になった場合には、深層追肥技術(例えば棒状のものを土中に突き刺して、その先から肥料を注入する等)を開発して追肥を行うことが望ましい。
除草剤の利用を行う場合は、播種後に雑草の発芽を抑える薬剤を散布するとともに、生育初期において広葉雑草の発生が見られた場合は選択性の除草剤で広葉雑草を選択的に死滅させる。ただし、除草剤を用いるかどうかは、除草剤価格と人力除草に要する費用等を比較して決定する。
発芽後生育期における中耕、除草はカルチベーター又は人力を用いて行う。除草剤と中耕を組み合わせて除草を行うこともある。
中耕は土壌表面の毛管を断つことにより、土壌表面からの水分蒸発を抑制し、土壌水分を保持する機能をも持つが、一方で成育中のトウモロコシの根を傷つけ、生育に多少の支障をきたすこともある。
当地のアルファルファにおいて確認された病害はアルファルファ葉枯れ病、アルファルファ斑点病、アルファルファ細菌性斑点病であった。病害に対する抵抗性は品種による違いが大きく、滄州苜蓿は病害にかかりやすい傾向が見られた。一方で近年育成された品種では比較的病害に強い傾向がある。なお、病害がアルファルファの栽培において致命的な問題となることは少ない。
アルファルファ栽培において病害を防ぐためには、品種の選択において病害抵抗性を考慮することであり、この観点からも近年育成された品種を用いることとしたい。
農林科学院及び孔店村のトウモロコシ栽培で確認された病害は黒穂病であった。穂や葉、葉柄部に発生が見られたが、特に穂において多く発生した。外部は白色で中に黒い粉のつまった肥大組織が形成されるが、この黒い粉は厚膜胞子でもあり、地面に落ちて翌年の伝染源となる。
なお、発生数は多くはなく被害も軽微であったが、発生を抑制するためには病害に株を抜き取り圃場より持ち出して焼却処分することが望ましい。しかし実際にはこのような措置はとられていなかった。
当地で発生する作物害虫(作物は飼料作物に限らない)は下記のとおりである。なお、昆虫名(中国名)で日本の漢字に無い字についてはa〜dの字をあて、その字について注書きした。
中国名 | 和名 | 学名 | ア | ト |
---|---|---|---|---|
1.直翅目 Orthoptera | ||||
東方螻蛄 | (ケラの一種) | Gryllotalpa orientalis Burmeister | ◎ | |
華北螻蛄 | (ケラの一種) | Gryllotalpa unispina Saussure | ◎ | |
笨蝗 | Haplotropis brunneriana Saussue | ○ | ||
導色剣角蝗 | ショウリョウバッタ | Acrida cinerea Thunberg | ○ | |
亜洲小車蝗 | Oedaleus decorus asiaticus B. Bienko | ○ | ||
黄A小車蝗 | クルマバッタモドキ | Oedaleus infernalis infernalis Saussure | ○ | |
東亜飛蝗 | トノサマバッタ | Locusta migratoria manilensis Meyer | ○ | |
2.鞘翅目 Coleoptera | ||||
細胸叩頭虫 | トビイロムナボソコメツキ | Agriotes fuscicollis Miwa | ◎ | |
溝叩頭虫 | (コメツキムシの類) | Pleonomus canaliculatus Faldermann | ○ | |
砂潜(網目B歩甲) | ゴミムシダマシ | Opatrum subaratum Faldermann | ○ | |
銅緑麗金亀 | ドウガネブイブイ | Anomala corpulenta Motschulsky | ○ | |
雲斑鰓金亀 | コクキコガネ | Polyphylla laticollis Lewis | ○ | |
華北大黒鰓金亀 | (クロコガネ類) | Holotrichia oblita (Faldermann) | ◎ | |
暗黒鰓金亀 | オオクロコガネ | Holotrichia parallela Motschulsky | ◎ | |
白星花金亀 | Potosia brevitarsis Lewis | ○ | ||
中国豆芫菁 | (ツチハンミョウの類) | Epicauta chinensis Laporte | ◎ | |
緑芫菁 | (ツチハンミョウの類) | Lytta caraganae Pallas | ○ | |
3.鱗翅目 lepidoptera | ||||
小地老虎 | タマナヤガ | Agrotis ypsilon (Rottemberg) | ◎ | ◎ |
大地老虎 | ハガタアオヨトウ | Trachea tokionis (Butler) | ○ | |
黄地老虎 | カブラヤガ | Agrotis segetum Schiffermuller | ○ | |
粘虫 | アワヨトウ | Mythimna separata (Walker) | ◎ | ◎ |
亜洲玉米螟 | アワノメイガ | Ostrinia furnacalis Guenee | ○ | |
大造橋虫 | ヨモギエダシャク | Ascotis selenaria (Schiffermuller et Denis) | ○ | |
腎毒蛾(豆毒蛾) | マメドクガ | Cifuna locuples Walker | ○ | |
銀紋夜蛾 | ミツモンキンウワバ | Argyrogramma agnata (Staudinger) | ○ | |
綿鈴虫 | オオタバコガ | Helicoverpa armigera (Huber) | ◎ | |
苜蓿夜蛾 | Heliothis viriplaca Hufnagel | ◎ | ||
煙草夜蛾 | タバコガ | Heliocoverpa assulta (guenee) | ○ | |
斑縁豆粉蝶 | モンキチョウ | Colias ereat poliographus Motschulsky | ○ | |
小造橋虫 | ワタアカキリバ | Anomis flava (Fabricius) | ◎ | |
4.半翅目 Hemiptera | ||||
苜蓿盲C | ヒゲナガメクラガメ | Adelphocoris lineolatus (Goeze) | ◎ | |
三点盲C | (メクラガメ類) | Adelphocoris fasciaticollis Reuter | ○ | |
牧草盲C | ミドリメクラガメ | Lygus pratensis (linnaeus) | ○ | |
5.同翅目 Homoptera | ||||
豆D(苜蓿D) | マメアブラムシ | Aphis craccivora Koch | ◎ | |
玉米D | トウモロコシアブラムシ | Rhopalosiphum maidis (Fitch) | ○ | |
禾穀縊管D | ムギクビレアブラムシ | Rhopalosiphum padi (Linnaeus) | ○ |
注 | 1. | 各欄右の「ア」はアルファルファ、「ト」はトウモロコシで、当該蘭に「◎」又は「○」があるのは、当該昆虫による被害があるものである。なお、「◎」は大きな被害がでる可能性のあるもの、「○」は食害等があっても被害は大きくないもの。 |
2. | 上記害虫一覧は、カウンターパートの趙花其が作成したものをもとにした。アルファルファ及びトウモロコシに対する被害区分(◎、○)は同じくカウンターパートの王慶雷による。 | |
3. |
|
害虫の和名調査には吉松慎一氏(草地試験場)、水上優子氏(愛知県総合農業試験場)、小嶋昭雄氏、今井昭夫氏(新潟県農業総合研究所)の協力をいただいた。心よりお礼申し上げる。 |
当地におけるアルファルファの害虫には、オオクロコガネ(暗黒鰓金亀)、クロコガネの類(華北暗黒鰓金亀)、ツチハンミョウの類(中国豆芫菁)、タマナヤガ(小地老虎)、アワヨトウ(粘虫)、オオタバコガ(綿鈴虫)、ヤガの類(苜蓿夜峨)、ワタアカキリバ(小造橋虫)、ヒゲナガメクラガメ(苜蓿盲(虫編+春))、マメアブラムシ(豆(虫編+牙)、(苜蓿(虫編+牙)))等がある。
これらの中でも最も問題となる虫害は、播種した圃場において、発芽後におけるアワヨトウ(中国名は「粘虫」:学名はMythimna separata (Walker))による食害である。
アワヨトウは5月頃から秋にかけて発生し、春先を除く植物の生育期間中はアルファルファを食害する。既にアルファルファが定着した圃場では、アワヨトウをはじめとする害虫が発生しても大きな被害には至らないことが多い。これは牧草においては刈り取り間隔が短いために、発生した幼虫もその期間中には老熟幼虫にまでいたらず、食害する量も比較的少ないためと思われる。一方、発芽直後の幼植物の場合はアワヨトウの食害を受けると再生不可能となり定着に至らない。しかしアワヨトウの発生以前に、植物体を大きく(草丈15cm以上)しておくと食害を受けても枯死に至らない場合が多い。なお、アワヨトウによる被害の多寡は年により異なり、旱魃・夏期高温の年に多く発生する傾向にある。このため発生の少ない年は食害を受けても大きな被害にはならない。
また新播圃場では、アワヨトウは圃場周囲の雑草が発生源(成虫が産卵する場所)となり、幼虫が発芽後の草地に侵入する。このため、予め周囲の雑草を刈り取りアワヨトウの発生源を無くしておくことが有効である。
新播草地においてアワヨトウの発生が見られた場合は殺虫剤(マラソン等)の散布により駆除を行うが、これが困難な場合は播種し直す。既に当年の播種が困難な場合は、翌年に播き直す。なお、小麦播種に間に合えば当年は小麦を播種し、翌年これを収穫した後に改めて牧草を播き直す方法もある。
当地におけるトウモロコシの害虫には、ケラの一種(東方螻蛄、華北螻蛄)、トビイロムナボソコメツキ(細胸叩頭虫)、タマナヤガ(小地老虎)、アワヨトウ(粘虫)等がある。しかし、農林科学院及び孔店村におけるトウモロコシ栽培において、これらにより大きな被害を受けたことは無かった。
発生が見られた場合においては殺虫剤の散布により防除できるが、トウモロコシが長大になってからは薬剤散布用の農機具(トラクターに直装)が圃場に入っていけず、また人力による散布も行いづらい。このため、害虫による被害のおそれがある場合には早期に防除を行うことが必要である。
農林科学院、孔店村及び李皋家村のアルファルファ圃場周辺において確認したのは下記の植物であった。
和名 | 中国名 | 科属名 | 学名 |
(日本にはない) | 阿爾泰狗哇花 (阿爾泰紫苑) |
きく科 シオン属? |
Heteropappus altaicus (Willd.) Novopokr. |
ヒメムカシヨモギ | 小白酒草 (小飛蓮) |
きく科 ヒメムカシヨモギ属 |
Canyza canadensis (L.) Cronq. |
オナモミ | 蒼耳 | きく科 オナモミ属 |
Xanthium strumarium L. |
キツネアザミ | 泥胡菜 | きく科 キツネアザミ属 |
Hemistepta lyrata Bunge |
(日本にはない) | 刺児菜 (小薊) |
きく科 (属名不明) |
Cephalanoplos segetum (Bge.) Kitam. |
(日本にはない) | 大刺児菜 (大薊) |
きく科 (属名不明) |
Cephalanoplos setosum (Willd.) Kitam. |
イヌホオズキ | 龍葵 | なす科 ナス属 |
Solanum nigrum L. |
ヨウシュチョウセンアサガオ (フジイロマンダラゲ) |
曼陀夢 | なす科 チョウセンアサガオ属 |
Datura stramonium L. |
ミゾコウジュ (ユキミソウ) |
茘枝草 (雪見草) |
しそ科 アキギリ属 |
Salvia plebeia R.Br |
コヒルガオ | 打碗花 | ひるがお科 ヒルガオ属 |
Calystegia hederacea Wall. |
セイヨウヒルガオ? | 田旋花 (箭葉旋花) |
ひるがお科 セイヨウヒルガオ属 |
Convolvulus arvensis L. |
(イケマの近縁種) | 鵝絨藤 | ががいも科 イケマ属 |
Cynanchum chinese R. Br. |
(イケマの近縁種:日本にはない) | 地梢瓜 | ががいも科 イケマ属 |
Cynanchum thesioides (Freyn)K.Schum. |
(栽培されている花卉「スターチス」と同属) | 二色朴血草 | いそまつ科 イソマツ属 |
Limonium bicolor (bge.)O.Kuntze |
(センキュウの近縁種) | 蛇床 | せり科 センキュウ属 |
Cnidium monnieri (L.) Cusson |
ギョリュウ | (木偏に聖)+柳 (紅柳) |
ぎょりゅう科 ギョリュウ属 |
Tanarix chinensis Lour. |
イチビ | 青麻 | あおい科 イチビ属 |
Abution theophraasi Medik. |
ギンセンカ (チョウロソウ) |
野西瓜苗(香鈴草) | あおい科 フヨウ属 |
Hibiscus trionum L. |
ハマビシ | (草冠に「疾」)+藜 | はまびし科 ハマビシ属 |
Tribulus terrestris L. |
エノキグサ (アミガサソウ) |
鉄+(草冠に「見」)+菜 別名:榎草 | とうだいぐさ科 エノキグサ属 |
Acalypha australis L. |
(シナガワハギの近縁種) | 草木+(木扁に犀) | まめ科 シナガワハギ属 |
Melilotus suaveolens Ledeb. |
(コショウソウの近縁種) | 寛葉独行菜 | あぶらな科 コショウソウ属 |
Lepidium latifolium L. var. affine C.A.May |
クジラグサ | 播娘蒿 | あぶらな科 クジラグサ属 |
Descurainia sophia (Li.) Webb ex Prantle |
アオビユ | 反枝+(草冠に「見」) | ひゆ科 ヒユ属 |
Amaranthus retroflexus L. |
(ヒユの類) | 腋花+(草冠に「見」) | ひゆ科 ヒユ属 |
Amaranthus roxburghianus Kung. |
ホナガイヌビユ | 皺果+(草冠に「見」) | ひゆ科 ヒユ属 |
Amaranthus viridis L. |
アカザ | 藜(灰菜) | あかざ科 アカザ属 |
Chenopodium allbum L. |
コアカザ | 小藜 | あかざ科 アカザ属 |
Chenopodium serotinum L. |
ホウキギ | 地膚(掃帚菜) | あかざ科 ホウキギ属 |
Kochia scoparia (L.) Schrad |
マツナ | ("減"の偏を石偏にかえたもの)+蓬 | あかざ科 マツナ属 |
Suaeda glauca (Bunge.) Bunge. |
(マツナの近縁種) | 塩地+(上記マツナの中国名) 別名:翅+(上記マツナの中国名) |
あかざ科 マツナ属 |
Suaeda salsa (L.) Pall. |
(日本にはない) | 猪毛菜 | あかざ科 オカヒジキ属 |
Salsola collina Pall. |
スベリヒユ | 馬歯+(草冠に「見」) | すべりひゆ科 スベリヒユ属 |
Portulaca oleracea L.var.oleracea |
ミチヤナギ | (草冠に扁)+蓄 | たで科 ミチヤナギ属 |
Polygonum aviculare L. |
(カナムグラの近縁種) | 葎草 | くわ科 カナムグラ属 |
Humulus scandens (Lour.) Merr. |
和名 | 中国名 | 科属名 | 学名 |
ヨシ(アシ) | 芦葦 | いね科 ヨシ属 |
Phragmites australis (Cav.) Trin. ex Sterd.(P.communis Trin.) |
(コメガヤの近縁種) | 臭草(槍草) | いね科 コメガヤ属 |
Melica scabrosa Trin. |
(カゼクサの類:日本にはない) | 小画眉草 | いね科 カゼクサ属 |
Eragrostis poaeoides Beauv. |
オヒシバ | 牛筋草(蟋蟀草) | いね科 オヒシバ属 |
Eleusine indica (L.)Gaertn |
オヒゲシバ | 虎尾草 | いね科 オヒゲシバ属 |
Chloris virgata Swartz. |
エノコログサ | 狗尾草 | いね科 エノコログサ属 |
Setaria viridis (L.)Beauv.var.viridis |
アキノエノコログサ | 大狗尾草 (法氏狗尾草) |
いね科 エノコログサ属 |
Setaria faberii Herrum |
キンエノコロ | 金色狗尾草 | いね科 エノコログサ属 |
Setaria glauca (L.)Beauv. |
(メヒシバの近縁種) | 馬唐 | いね科 メヒシバ属 |
Digitaria sanguinalis (L.) Scop |
(イヌビエの近縁種) | 稗 | いね科 イヌビエ属 |
Echinochloa crusgalli (L.)Bearv.var.caudata(Roshev.)Kitag. |
(イヌビエの近縁種) | 無芒稗 (落地稗) |
いね科 イヌビエ属 |
Echinochloa crusgalli (L.)bearv.var.mitis(Pursh.)Peterm. |
ナルコビエ(スズメノアワ) | 野黍 | いね科 ナルコビエ属 |
Eriochloa villosa (Thumb.ex Murray) Kunth |
チガヤ | 白茅 | いね科 チガヤ属 |
Imperata cylindrica (L.) Beauv. |
参考資料: | 趙花其(滄州市農林科学院)調査資料 中国農田雑草原色図譜(農業出版社:北京) 原色牧野植物大圖鑑(北隆館:日本) |
この雑草リストの作成にあたっては、伏見昭秀氏(東北農業試験場)、森田弘彦氏(農業研究センター)、高木圭子氏((株)プレック研究所)のご指導をいただいた。心よりお礼申し上げる。 |
上記雑草のうち草地内又はトウモロコシ畑で特に目立った雑草及びその状況は次のとおりである。なお、上表のうち下に記さないものは、牧草との競合力が弱い等から圃場周囲にはあっても圃場内にはあまり侵入しないもの(オナモミ、ハマビシ、小画眉草等)、あるいは元々個体数が少ないもの(ミゾコウジュ、ナルコビエ等)である。
なお、雑草の名称は、日本名があるものは日本名(カタカナ)を、日本名がないものは中国名(漢字)を記した。
A |
|
B |
|
C |
|
上記のA及びBは、それまで耕作されなかった荒れ地に新たに作付を行った場合に発生が著しい。特にコヒルガオやアシ等の地下茎を有するものにあっては、耕起・砕土を行っても地下茎は残存するので草地造成後早期に再生してくる。種子繁殖で早春に発芽し初夏までに開花・結実を行うクジラグサは、これが繁茂していた所を草地・トウモロコシ畑とした場合に、土中の種子が発芽、生育することになる。コヒルガオは生育期間が5〜10月と長期にわたるとともに、地下茎及び種子により繁殖するため、新播草地やとうもろこし畑にも発生する。また、圃場周囲より圃場内に侵入するとともに、圃場内のわずかな裸地に定着したものが裸地の拡大とともに生育範囲を拡大する(このためA,B,Cのいずれにも含まれることになる)。コヒルガオは蔓性で地表を這うような生態であるために牧草収穫時にも刈り取られず残存する。このことがコヒルガオの定着、拡大には有利となる。
アルファルファは種子が細粒のため発芽個体は小さく生育初期の生育速度は遅い。このため雑草が密に発生した場合は定着が阻害されやすい。一方降雨が少なく、土壌が乾燥しやすい場合には、地面を被覆するように生育する雑草(コヒルガオ)がある程度あった方が土壌表面からの水分蒸散が抑制され、牧草の定着に有利に働く場合もある。しかし、これら雑草の生育が旺盛になれば、牧草の定着を阻害する。
アルファルファは発芽直後の雑草との競合に弱い時期を乗り切れば、その成長力(再生力)の強さから雑草の侵入に対して抵抗性を有することになる。一方において利用年数が長くなると欠株による裸地が増加し、雑草侵入の拠点となる。
アルファルファの品種に関しては、キタワカバ等の旺盛な生育を示すものにあっては、雑草との競合力は強いが、滄州苜蓿等の1番草収穫以降における再生力の弱い品種にあっては、特に夏型の雑草との競合力は弱い。
時期的には、アルファルファは1番草の生育が最も旺盛であり、2番草以降は順次生育が衰えていく。このため草地内において1番草の時には目立たなかった雑草も2番草収穫以降の7月末ころになるとかなり目立つようになる。中国の人たちは少々の雑草も気にしないようであるが、雑草の混入は生産した乾草の品質にも関係する。特に有毒植物の「ヨウシュチョウセンアサガオ(なす科チョウセンアサガオ属:Datura stramonium L.)」や「イヌホオズキ(なす科ナス属:Solanum nigrum L.)」も多くはないが草地の周辺にあり、収穫した牧草の中に混入する可能性もある。
雑草の中にはメヒシバやオヒシバのように日本でも一般に見られるものや、近縁種のものがある。また、イチビ等のように日本では強害外来雑草として問題になっているものもある。農林科学院では牧草地周辺に、また孔店村ではトウモロコシ圃場内にイチビが多く生えているのを確認した。イチビは草地やトウモロコシ圃場内、道端や畑の周囲等に生えているにもかかわらず、当地では強害雑草として問題視されてはいない。当地における夏作物の主要なものはトウモロコシであるが、これは長大作物であるために、多少のイチビの混入は穀実収量の減少につながらないことが大きな理由であり、これに加えてイチビからは繊維をとることができるとのことで、かつてはこのような有用な面があったためであると思われる。
蔓延した雑草を駆除するのは容易ではない。アルファルファ栽培草地におけるイネ科雑草については選択性除草剤により駆除できないわけではないが、除草剤に多額の経費を要することになる。
草地における雑草の多くは草地化する以前に生えていた雑草の種子や地下茎等に由来する。このため、草地化する前年にはトウモロコシ等の長大型作物を栽培し、長大型作物が生育する中で作物の方が生育旺勢で雑草より優勢となることや、人手による栽培管理(除草)により雑草を少なくすることが有効である。また、セスバニアのような生育の旺勢な緑肥作物の栽培は、緑肥作物そのものの雑草との競合力の強さに加えて、都合2回(緑肥作物播種前及び牧草播種前)耕起することにより地下茎を有する雑草においても勢力が弱められるため、雑草対策の意味でも有効と考えられる。
以上のような事前の対策に加えて、耕起時の耕起深を大きくとり、雑草の種子や地下茎を深く埋めてしまうことも有効である。このため雑草の多い圃場を草地化する場合にはボトムプラウを用い、深く耕起することが望ましい。プロジェクトで導入した日本製のプラウ(スガノQY202C)は当地で一般的に使用されている中国製のプラウより耕起深が深く、かつ反転が完全に行われるので雑草抑制の点からも評価できる。中国においても性能の良いプラウが作られ、普及するようになることが望ましい。
播種後、牧草の発芽とともに発生する雑草については、コヒルガオのように地表を被覆するようなものが適度に発生したものは土壌中の水分蒸発を抑制し、牧草の定着に有利に働くが、刺児菜、大刺児菜等のように厚い葉を有し、かつ大きく成長するものの下では牧草は被陰され、定着しがたい。このため雑草の状態を観察し、雑草の種類、草丈、密度等から牧草の定着に支障をきたすとみられる場合にはモアー等で掃除刈りを行う。刈り取った雑草についてはその量が多くない限り、草地外に持ち出す必要はない。
既に草地内に侵入した雑草については、労力があれば雑草の結実前に抜き取ることが望ましい。なお、アルファルファは1番草の生育が最も旺盛であり、2番草以降は次第に生育は衰えてくる。一方、既に定着した草地に侵入し、問題となる雑草の多くは夏型雑草であるため、牧草との生育パターンが異なる。このような牧草と雑草の季節的な成長力の違いから、雑草が侵入した圃場においても1番草の段階ではそれほど雑草が目立たず、2番草以降において雑草が優勢となってくる。このため特に2番草以降については早めの刈り取りにより雑草の勢力を削ぐとともに、特に結実させないようにすることが望ましい。特に販売を目的とした乾草生産の場合は、雑草の多い部分は生産した乾草の品質低下を防ぐ目的で収穫しない場合がある。しかし収穫を行わないことにより雑草が結実に至り、益々雑草が多くなる。乾草の販売を行う場合においても、雑草の多い部分も収穫し、雑草混入の多い牧草は自家用に供する等としたい。
青刈トウモロコシにおける雑草防除技術としては、耕起、中耕・除草、除草剤利用の3つがあり、状況に応じてそれらを活用する。
青刈トウモロコシ栽培の場合は播種に先立って耕起が行われるので、その際に既に生育している雑草及び地表近くの種子、地下茎は埋められてしまう。このため耕起が適切に行われれば、種子や地下茎の多くからは発芽しないか、あるいは発芽に長時間を有することになり、雑草の勢力は抑えられる。このことから耕起に際しては雑草抑制の観点からも深く耕起できるボトムプラウの利用が望ましい。((イ) 草地における雑草防除の項参照)
除草剤及び機械的な除草については、ウの (キ)中耕、除草の項参照。
中国華北平原における降水特性は、7〜8月を中心とする夏期に集中し、これ以外の季節は降雨量は少ない。また年による変動も大きく、夏期においても降水が極めて少ない年もある。
牧草の年間生育パターンからすれば、水分を必要とするのは春暖とともに成長を開始してから旺盛な成長をする1番草の生育時期ないし高温、乾燥のため水分の消耗が大きい夏期にかけてである。8月以降は短日、更に9月になると秋冷も加わり再生速度も緩慢となり、その分水分必要量は少なくなる。アルファルファは根が深く、旱魃の際にも土壌中の深いところの水分を吸収する事ができるため旱魃に対する抵抗性は他の作物よりもある。しかし、降雨が少ない時期においてもより多くの生産量を期待する場合は、潅水の効果が認められる。アルファルファに対する潅水は牧草が生長を始める4月上旬頃に行うのが効果的である。これにより1番草の生育が促進される。また牧草の刈り取り後において、降水が期待できないような場合は潅水することにより成長の増と、これによる2番草以降の増収が期待できる。なお、施肥した肥料成分を土中に移行させるためにも降雨又は潅水による水分供給が必要であり、施肥後に潅水することにより肥効の効果的な発現を図ることができる。なお、収量の増を目的とする潅水の場合は、潅水のコストとこれにより期待できる収量の増とを比較して、実施の可否を検討することが望ましい。
また、アルファルファ、トウモロコシのいずれにおいてもこれを播種した際には、発芽及び定着には地表面の土壌に水分が含まれている必要がある。一方当地の土壌は固結しやすいため、播種後に潅水すると地表の土壌が固結し、発芽を阻害する。このため発芽及び初期生育に必要な水分を補給するための潅水は、耕起前の圃場に対して行い、地表面の水が引き、農機具が圃場に入れる状況になってから耕起から播種・鎮圧までの一連の作業を行う。
潅水方法としては、スプリンクラーによるもの及びホースから直接水を流出させる方式がある。後者の場合は水が吐出する部分の土壌が洗掘されないよう、吐出部分にはシートを敷いておくようにする。(潅水を行うための用水施設に関しては、(4)のイの(イ) 用水施設の項参照)
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