[21]望郷
羊水の記憶は
羊水に育てられたもののみ
ガラス管の味気無さは
使い古した
油にまったりと浮かぶ天カスの慕情
[22]望郷
愛しい人
愛しい人
一人きりで生まれたから
僕らつるんでいるのさ
でも棺桶には一人さ
一人
愛しい人
おまえと寝る前に言っておく
[23]望郷
メジャー・トムそこから見えるかい
君を懐かしむ暇もないんだ
効率だけがこの世界の基盤になって
誰もが同化しなければならない
色や言語や価値観
ここじゃみんなサーファーなんだよ
老若男女必至でにおい消し
戻ることなどできるかな
[24]望郷
僕のあこがれ
庭先のきしむオークの椅子に腰掛け
いびつな頭の山々に
太陽がのみこまれるのを眺めるのです
のみこまれた太陽は
静寂を吐き出す
そして僕は誰もいないことを確認し
泣くのです
[25]望郷
悠久の里
向かう道筋
砂塵に消ゆる
[26]望郷
長くいていただけるのなら
つくさせていただきますよ
畑は2反ただですし
農工具だって貸し出します
物価だって安いですし
なんていったって
トマトは食べ放題!
[27]望郷
メジャートム君ヲ感ジル
僕ハ君ダ
ココニイルヨ
モウ僕ノ宇宙船ハ
ブジ故郷ニツイタカナ
託シタ手紙ハ
アノ娘ニトドイタカナ
僕ニデキルコトハ 何モナイ
[28]望郷
自分の歌が見つからず
雑踏の海 漕ぎ出す
交番の前では人待ち顔の
何百万人の歌がきこえる
ただ歩いているのさ
ただただ歩いているのさ
あきれすれ違う
一千万人よ俺とキスしろ
[29]望郷
共通のいまじねいしょんは
万人には望めず
だからこそこの世界は興味深い
私の洞穴の記憶は
あれは秋芳洞だったか竜泉洞だったか
それは白い油を塗りたくった
豊満で潤沢な
死に絶えたはずの日本の女性裸だった
[30]望郷
竹が勇ましく地面を貫きて
林道を行く私を襲う
初めは軽くいなしておったが
やがて猛激な攻めとなり
背負っていた荷物も捨てて
応戦したが終に力尽き
肛門より食道を通り右鼻穴まで
貫かれん。。もはや帰れそうもない