[11]望郷
穴蔵へむかえ
その黴の匂いと防音の壁が
好きだったんだ
暗闇ギターの泣き声が
四季だったんだ
朝も晩もなし
穴蔵の中では
[12]望郷
草笛を 吹きし記憶は
植え付けられた
アンドロイドの夢か
[13]望郷
家無しと 笑うあなたの その皺の
深き齢に 笑えもせず
ただしんしんと 酌み交わすのみ
齢 = よわい
[14]望郷
雲雀 天に向かい
私の場所も
ちゃんと確保するのだよ
末席でかまわぬから
宴には間に合わせます
夏の物の怪
かげろうよ
すこしでも私に力を貸せ
この身を持ち上げろ
背の荷はおまえにくれてやるから
[15]望郷
山口行きのチケットを手に入れ
ようようと列車に乗り込もうとしたが
土産袋に穴が空き
漏れいでた望郷の恩
酒の肴の鈴蘭とともに
[16]望郷
人を忘れる人
どんな理由を持っている
人に忘れられる人
どんな理由を持っている
人を忘れる故郷(くに)
どんな理由を持っている
人が忘れる故郷(くに)
人は何処に足を下ろす
[17]望郷
寂しい煙はすうぅっと
一本の縄の様に昇ってゆき
しかし雲にはなれない
遥か上空ジェット気流で
寂しい風船に出会う
しかし煙と風船
二人でもやりきれぬ
[18]望郷
生還を望むな!
突き進め!
屍をさらすことこそ
我らの使命
祖国遠く見知らぬ花
仲間眠るその土
踏みにじり進む
死地へ臨め!
[19]望郷
街は眠らないので
眠るタイミングがとれず
こうしてふらありと
ぬるい空気を掻きわける
琥珀の酒に
映った見知らぬ女を
今宵の故郷とする
[20]望郷
家へ向かう道すがら
迷った
通い慣れたる場所なのに
てんで見当つかず
自動販売機が消される前に
ビールを買いとりあえず
ガードレールに座ることにした
道端の草より蒸す吐息