[01]望郷
我沈む 動かぬ足に 嘆く夜
憎し顔 とんと浮かばず
思う川 水面は見えず
足動くとも 向かう場所なし
[02]望郷
何処までも歩けると
本気で信じてた昔昔
今では恐るべき事ですが
本気で信じていましたっけ
この足は坂などしらず
確かに機関車のようでした
前へいくのが理だと
後ろも無きに進むのでした
[03]望郷
帰るところかや帰るところかや
戻るところかや戻るところかや
ふるさとの味は濃ゆいかや
ふるさとの味は買えんかや
酒を汲む友のなまりが染みるかや
かの山が形をかえても見ゆるかや
骨は静かに眠れるかや
骨は土に愛されるかや
[04]望郷
ただ流されるだけの
根無しの介は
ふうらいふうらい
風の向くまま気の向くまま
ただ思えば
懐かしい季節も味覚もないまま
ふうらいふうらい
花も咲かずに
[05]望郷
記憶の欠落はいかんともし難く
そこが私の原点なのでしょうけども
帰るところが見つかりません
ママの声が聞こえません
耳元で妻がささやきます
あなたは女性から
生まれたんではないのです
あなたには母は無縁です
[06]望郷
盗母とは
寺山の造語だったかと思いますが
今宵山口に
母を盗みにまいります
手に入れた母は
僕に鯵を焼くでしょうか
耳を掃除してくれるでしょうか
[07]望郷
モウ故郷ハトウニ
芥子粒ニナッタ
回転ハヤマナイ
燃エル星々ニカザサレ
凍ル闇ニトザサレ
流サレ離サレ
輪廻ヲ身体ニ受ケ入レタ
コレモ至福ト言エル
[08]望郷
かばんを一つだけ持って
やって来たのはさびれたバー
水を恵んでもらおうと
立ち寄ってからもう7日
クツはとっくに無くなったし
国もとっくに無くなった
埃が風で集まるように
なぜかこのよも寂しくない
[09]望郷
あなたの魂よ さらさらとただよい
今しずかに 野辺へ発つ
それは荘厳たるものではなく
それはささやかなるものであった
言葉足らず 永久と思いし時間
積もりたまった苦悩も
砂塵のように 消え行け
その荷をとき 雲雀 天に向かえ
[10]望郷
朝昼晩生き続けてる
死んだやつとどこが違うのだろ
考えなしに呼吸をしてる
寝ぼけ眼でも息をするのは忘れない
あのやさしい女にも愛想をつかれた
でもしょうがない
僕はこの場所で途方にくれてる
僕は誰なんだ?ここは何処なんだ?