陶芸エッセイ 連載17 個展をやりたい 上

「単身赴任・やきもの扮戦記」 連載第17回

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     連載第17回  「個展をやりたい 上」  ('01年/12月掲載)     
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連載第17回「個展をやりたい 上」

 やはり発表の機会を持とう。個展をやろうと思い立った。

動機はふたつ。ひとつは、漫然と「食器のようなもの」を作っていてはいけないのではないかという疑問がむくむくとアタマをもたげてきたこと。
これまで小物については、釉薬の溶け具合や発色を試すためのテストピースがわりに考えてきた。テストするだけではもったいないから、器の形にしてきたというのが本音に近いかもしれない。

しかし、これではいけないという思いがしだいに強くなってきた。やはり、見てもらって使ってもらってこその焼き物である。おカネを払っても欲しいと言ってくれる人がいるかどうか心もとないが、自分で使いたいなと思えるものを作れば欲しいという人も現れるのではないか。
ふだん使いにしてもらって、いつもの生活の気分がちょっと変わるなら、こんな素晴らしいことはないんじゃないか。率直な意見や感想も聞いてみたい。そう思ったこと。

 もうひとつは、まことに現実的な理由である。こうば工房を持ってからというもの、覚悟はしていたものの、税金を含めて出費が増加の一途をたどっている。少しは手当てしないと火の車ならぬ、火の工房になりかねない。しかし、個展というのは黒字になるものなのだろうか。「会場費が出れば御の字だ」、という話を聞いたことがある。

 先ずは偵察のつもりで、二、三の貸しギャラリーを覗いてみることにした。交通の便が良くて、友人知人が来やすいところと考えて青山あたりに目星を付けた。「青山で個展」という響きにもクラッときたのは確かである。偵察の結果、これはと思えるギャラリーがあった。

「青山のおギャラリー」という敷居の高さにつまづきそうになりながら深呼吸とともに入ったのであるが、拍子抜けするようなくつろいだ雰囲気だった。美術大学の学生らしい五六人の男女が畳の部屋で車座になって談笑していた。いっせいに緊張した面持ちでこちらを見た。
「すみません、会場をちょっと見せてもらいたいんで・・・」彼らの顔に落胆の色が浮かんだ。よほど客がこないのだろう。会場は広かった。畳の部屋、板張りの部屋、合わせて三十畳もあるだろうか。ギャラリーは二階にあり、南側の窓から一階の手入れされた庭が見下ろせた。あそこでオープニング・パーティーなんかやったら最高ではないか。

 事務所の前に置かれたパンフレットをもらって一階の喫茶店に入った。一日2万円の貸料で週単位。「14万か・・・」。そんなに売上が期待できるか。手当てのつもりが、さらに火の車に油を注ぐことにならないか。

 申し込むのは思いとどまった。それから一週間ほどして、じつに大胆な考えが浮かんだ。「タダでできないだろうか」。デパートのミニ・ギャラリーはどうだろう。あるいは、ギャラリーの主人に作品を見せれば、「ウム、素晴らしい!」と唸って企画展ということにならないとも限らないではないか。

 僕は準備を始めた。持ち込みとなるとプロフィールや作品の写真など用意しなくてはならない。土日をつぶしてプロフィール・ファイルを作った。公募展入選の目録や、自作が掲載された陶芸関係の本をコンビニでカラーコピーした。さらに「週末陶芸家」として雑誌などが取り上げた記事もコピー。売り込みに使えるものなら何でも動員してやろう、とファイルに挟み込みながら、CMでオーディションを受けに来るモデル(多くは駆け出し)さんたちのことが脳裏をかすめた。

いい写真だけ持ってくればいいのに、彼女たちは自分の載った雑誌の切り抜きをなんでもかんでもファイルして持ってくるのだ。写真にレベルの差がありすぎると、いい写真がカメラマンのウデだけに見えてしまう。それでも多すぎる写真を持ってくる心理がにわかに判明した。要するに、自信がないから捨てられないのである。自分で落としたものが、判断の決め手になるかもしれない。そう考えると、どれも捨てられない。したがって、僕の場合も分厚いファイルができあがることになった。
 
先方は、大物よりも売りやすい小物や食器の出来を見たいのではないかと考えて、あらたに写真も撮った。家でふだん使っている縁の欠けた食器まで動員した。器の背景に草などあった方が雰囲気が出るだろうと工房の外に持ち出して、20点ほどをカメラにおさめた。

こうして、プロフィールと写真のファイルができあがった。



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