気候と文明・気候と歴史

鈴木秀夫・山本武夫 (朝倉書店、絶版)

 

古代の四大文明といわれるものが、いずれも今からおよそ5千年前に大河の流域に花開き、そしておよそ3千500年前に滅んだことは、よく知られています。ところで、なぜ4つなのか。大河といっても、たとえばなぜガンジス川ではなくインダス川なのか、なぜ揚子江ではなく黄河なのか。なぜアマゾン川ではなくナイル川なのか。そして、なぜそろって5千年前に興り、なぜいっせいに滅んだのか。滅亡の方は一応、民族大移動が原因とされていますが、ではなぜ至る所で同時に民族移動が起こったのか。これらの疑問に自信を持って答えられる人はほとんどいないでしょう。確かに中学や高校ではそこまでは教わりませんでした。こんな質問をする生徒は、間違いなく先生に嫌われるでしょうね。

しかし、ここに答えが用意されているのです。地球規模の気候の、千年単位の変動を捉えることによって。おおまかにいうと、今からおよそ1万年前に最後の氷河期が終わると同時に、地球の平均気温は上昇し始め、5千年前まで続く高温期となります。高温期の終わりと同時に、乾燥化が始まり、農業に適した土地が縮小したため、人口の集中化が始まりました。これが、あの4つの大河の流域とその周辺で(そして、そこでのみ)起こったのです。実に気宇壮大な話で圧倒されますが、けっして大風呂敷ではなく、湖底に堆積した花粉の分析など、膨大なデータをもとに、文明成立の自然条件が明らかにされます。そして、問題の3千500年前に何が起こったのか?

本書は「気候と人間シリーズ」全7巻の第4巻で、「気候と文明」「気候と歴史」の2部分に分かれ、2人の著者が分担しています。4大文明の話はその前半の話題の1つですが、後半では日本の歴史において百年単位の気候変動が果たした役割を、統一国家の成立と中世における東日本と西日本の勢力交代などに探っています。

大文明の興亡も、国家の盛衰も、それを担った人間とその社会の偉大さや愚かさを映し出すものであることは確かでしょう。しかし人間は、もしかしたら百年〜千年単位の気候変動という、所詮人間にはどうすることもできない、というよりも、その社会の人間には予測することすらかなわない、自然の大きな営み、いや、気まぐれ(年平均気温にしてわずか±1〜2度の変化!)に翻弄されているのかもしれません。

 

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