Q4 なぜJR旅客会社に旅客列車が走らない区間があるか


A4 JR移行時の承継ルールに起因

 旧国鉄の営業線をJR各社に振り分ける際の原則は、(1)旅客営業線は本州3社と北海道、四国、九州の計6つの旅客会社に分割(2)貨物会社は全国1社とし旅客会社の営業線を間借りして運行(すなわち第2種事業)、ただし貨物営業専用区間は自社所有−−ということでした。このルール通りならば、旅客各社が引き継いだのは旅客列車が走っている区間だけのはずです。

 ■貨物会社の負担を軽く

 ところが実際には、旧国鉄が分割・民営化された1987年4月1日時点で旅客列車が全く走っていない区間についても大半は、旅客会社が保有することとなりました。これは当時、貨物会社(日本貨物鉄道)の経営は相当困難と考えられたことから、「貨物会社が保有する資産をできるだけ減らし、負担を軽くした方が良い」といった判断が働いたためです。
 このほか「旅客会社が保有・管理したほうが実務上適している」という区間も旅客会社の保有とされました。
 これらを整理すると、大別して次の3パターンのいずれかに該当する区間は、旅客列車が走っていなくともJR旅客会社が保有(第1種)し、JR貨物は間借りして運行(第2種)することになりました。

 <1>両端で他の旅客営業線と接続する「連絡線」
 <2>将来、旅客営業を開始する可能性がある線
 <3>廃止対象となっている特定地方交通線

 <1>は、JR東日本・東海道本線(枝線)の鶴見〜横浜羽沢〜東戸塚など多数存在します。この区間には定員制通勤列車「おはようライナー新宿」などが平日は毎日運転されていることからわかるように、両端で他の路線と接続している区間は、臨時旅客列車の運行などに活用されることが多いと考えたためでしょう。また、これらの区間が国鉄時代は旅客営業に含まれていた荷物(手荷物・小荷物)列車の運行に活用されることが多かったことも関連していたのかもしれません。

 ■書類上は旅客営業扱いに

 <2>については、JR東日本・総武本線(枝線)の小岩〜越中島(1990年3月10日、京葉線・越中島駅開業に伴い「越中島貨物」駅と改称)と、JR東海・東海道本線(枝線)の名古屋〜西名古屋港(名古屋貨物ターミナル〜西名古屋港は2001年3月31日廃止)が該当します。
 西名古屋港への路線は当時、中部国際空港へのアクセス線としての活用が取りざたされていました。空港アクセスは実現しなかったものの、旅客化に向けて1997年度予算で鉄道整備基金(現在は、運輸施設整備事業団を経て、独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)の補助対象として採択され、新しい経営主体となる第3セクター「名古屋臨海高速鉄道」が設立されました。2004年10月6日、西名古屋港線(愛称・あおなみ線)として営業を開始しています。
 一方、越中島貨物までの路線は旅客化は実現しなかったばかりか、現在は貨物列車も運転されていません(JR貨物の第2種区間としては存続)。にもかかわらず存続しているのは、同駅構内にJR東日本東京レールセンターが設けられており、同センターからレールを発送するJR東日本の工事列車が運行されているためです。つまり極めて特殊なケースとして、旅客会社に帰属させる意味があったことになります。

 <3>は廃止が前提でしたから現存しません。JR移行時点では、JR北海道・幌内線(枝線)の三笠〜幌内とJR東日本・足尾線の末端区間である間藤〜足尾本山が該当しました。廃止準備への関与を旅客会社だけに任せて事務手続きを円滑化するための便宜的措置だったようです。幌内線の跡地は、「三笠鉄道村」として蒸気機関車の保存・展示を行っています。一方、わたらせ渓谷鉄道に転換された足尾線の当該区間は、同社が免許を所有する「未開業線」の扱いになっていましたが、1998年6月2日に免許が失効し、観光鉄道として旅客線化するという夢はついえました。

 なお、横浜羽沢や西名古屋港などの各駅については、旅客会社は旅客営業線を承継するという原則と合致させるため、国鉄最終日の1987年3月31日に書類上は旅客営業を開始しています。ただ「開閉期間及び取扱範囲は別に定める」との注がついたため、実際に旅客営業が行われたことはありません。

 ■「営業キロなし」も7区間

 さて、ここから先は、さらにDEEPな世界に入って行きます。
 実際には旅客列車が走っていないのに、旅客会社の第1種区間=JR貨物の第2種区間というケースが存在することは上述の通りです。ところが、『鉄道要覧』の旅客各社のページとJR貨物のページをつぶさに比較すると、JR貨物の第2種事業区間でありながら、どこの会社の第1種でもない区間が見つかるのです。具体的にはJR東日本エリア内に6区間とJR西日本エリア内2区間(合計8区間)あります。

 第2種事業というのは、第1種または第3種事業者の線路を借りて営業するわけですから、第2種区間なのに対応する第1種や第3種区間がないというのは明らかに変です。
 実はJR各社が会社発足時に運輸大臣宛に提出した事業基本計画(同計画に基づいて営業中の路線の「みなし免許」が与えられた)には当該8区間も記載されています。ただし、他の区間とは違い、例えば信越本線の場合、「高崎〜新潟」の項に「越後石山〜東新潟(新潟貨物ターミナルと同一地点)を含む」のように記載され、半人前の扱いにされてしまったのです。
 従って、これら8区間も厳密にはJR東日本またはJR西日本の営業線であるわけです。しかし、独立した第1種区間として扱われず、営業キロも設定されていないという極めて例外的処理がされているため、扱いづらいことこのうえありません。そこで私の乗りつぶしルールでは、これら8区間のうち、JR貨物が第2種営業区間としてる7区間については、便宜的にJR貨物が旅客営業しているとみなしてキロ数を集計しています。「そんなの変だ」と感じる方も多いと思いますが、この辺は個人の趣味の問題ということで御容赦下さい。

 (備考)
 (1)名古屋〜西名古屋港と混同しがちな路線に山王(信)〜名古屋港があるが、こちらはJR貨物の第1種区間。かつてJR東海は、ナゴヤ球場(現在はなし)へのプロ野球観客輸送のためにナゴヤ球場前(臨)駅を開設し臨時列車を運行したが、この際は、JR東海が山王(信)〜ナゴヤ球場前〜名古屋港で期間限定営業の第2種免許を取得した。
 (2)旅客会社が営業キロを持たないJR貨物2種区間は、1987年4月1日のJR発足時点では9区間存在していた。このうち、片町線・放出〜平野は大阪外環状鉄道(第3種)とJR西日本(第1種)の営業キロが設定されたため、該当しなくなった。
 (3)「営業キロなし」8区間のうち、東海道線・梅小路〜丹波口について、JR貨物は2006年4月1日、第2種営業を廃止したが、その後もJR西日本の営業区間としては存置されている。JR西日本は16年2月28日付で廃止予定。
 (3)「営業キロなし」8区間のうち、東海道線・吹田貨物ターミナル〜梅田(信)〜福島10.0km(通称・梅田貨物線)については、実は『鉄道要覧2004年度版』でJR西日本の第1種区間として「東海道線・新大阪〜梅田〜福島4.7km」が登場したことがある(当時のJR貨物の区間は吹田〜梅田〜福島8.5km)。しかし、JR西日本の営業キロ合計には含まれないままだったうえ、翌年度版以降は再び忽然と姿を消した。同区間は現在、大阪駅北側「うめきた」再開発2期地区の基盤整備として、移設・地下化するとともに北梅田駅(仮称)を設ける計画であるほか、西梅田・十三連絡線(仮称)や新大阪連絡線(十三〜新大阪)と一体的に整備することを近畿運輸局など関係機関が検討している(近畿運輸局の参考ページはこちら)。移設・地下化が実現した際には、営業キロの問題も調整が図られることを期待したい。
 (4)「営業キロなし」8区間と同様の性格の路線として、旧国鉄時代には「武蔵野線・新秋津〜国鉄西武分界点(秋津駅と所沢駅の中間)1.6km」という枝線も存在したが、JR承継時に営業キロの設定が廃止された。路線は現存するが、西武鉄道の貨物営業は既に行われていないので、もはや支障はないとみられる。営業キロがないため、『鉄道要覧』にはいっさい記載されていない(営業キロがゼロの短絡線も参照)。

(2015年08月14日最終更新)


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