Q3 第1種、第2種、第3種鉄道事業とは


A3 多彩な上下分離のバリエーション

 Q1で見たように、鉄道事業法では、鉄道事業の営業主体と線路の所有主体の分離を認め、第二条において、以下に示す3種類の事業形態を定義しています。

 第1種鉄道事業……鉄道による旅客または貨物の運送を行う事業で、第2種以外のもの
 第2種鉄道事業……自らが所有する線路以外の線路を使用し、鉄道による旅客または貨物の運送を行う事業
 第3種鉄道事業……(1)線路を第1種事業者に譲渡する目的で敷設する事業
              (2)線路を第2種事業者にもっぱら使用させる事業

 実際の条文よりはかみ砕いて表記しましたが、それでももって回った表現なので、簡単に補足します。
 第1種は、自分が所有する線路を使って鉄道営業を行うという最も一般的な事業形態です。線路は自分が使用するだけでなく、線路容量に余裕がある場合には、第四条八号の手続きを経て、第2種事業者に使わせることも可能です。
 一見すると、第2種事業者に使わせるには、第1種とは別に第3種事業の免許も必要なように思えますが、不要です。第3種の定義(2)に「もっぱら」という字句が含まれることに注目して下さい。つまり、自分では旅客または貨物営業をしない場合のみ、第3種に該当するのです。
 また、第1種事業に使用する線路は、実際に開業する段階で自己所有していれば良く、建設そのものは他者に任せても構いません。そして、第1種事業者に代わって線路を敷設する事業は第3種に該当します。定義(1)がそれです。この場合の第3種事業は「建設中〜第1種事業者への譲渡が完了するまで」だけということになります。該当事例は今のところ、東京都・大江戸線の環状部(都庁前〜新宿)間を建設した第3セクターの東京都地下鉄建設だけです。環状部はすでに開通しましたが、現時点では都への資産譲渡が完了していないため、同社は引き続き、第3種事業者という扱いになっています。
 また、第3種事業者の中には、線路だけでなく車両も所有したり、駅業務などを請け負っている例もあります。詳しくは後述します。

 ところで、法でいう「線路」とは何を指すのでしょうか。法の条文だけでは判然としないのですが、路盤、レール、架線などを含むインフラ全体を指すようです。従って、これらの一部分を所有するだけでは、鉄道事業には該当しません。
 一例を挙げると、JR東日本・山形新幹線(正式には奥羽本線の一部)の福島〜山形では、改軌後の鉄道施設の一部や車両を第3セクターである「山形ジェイアール直行特急保有株式会社」という変てこな名前の会社が所有し、JR東日本にリースしていますが、同社は第3種事業者ではないのです。「線路そのもの」は引き続きJR東日本が所有しているためです(なお、1999年12月に運転開始した山形〜新庄は、別のスキームで建設されています)。
 鉄道事業で大変なのは、初期投資がばく大で資金回収に時間がかかることです。こうした会社を設立したのも大規模改良によるJRの資金調達を容易にするためで、同様の会社はJR北海道・根室本線の高速化工事などでも設立されています。また、岩手県は、三陸鉄道の経営支援のため、同社の鉄道施設のうちトンネルや長大橋を県が保有することにしましたが、この場合でも県は第3種鉄道事業者ではありません。
 鉄道事業法の上下分離も、できるだけ開業当初の事業者の負担を軽くすることが狙いだったわけですが、一つの法律だけでは建設促進策としては必ずしも十分ではなかったのかも知れません。最近では、東北新幹線の八戸延伸後の在来線運営について、青森県が鉄道資産を県が保有する上下分離方式を採ることを決めるといった新しい動きも出ています(整備新幹線の概要を参照)。
 このため運輸省では、社会資本整備策の一環として、鉄道事業の上下分離方式の活用によって、鉄道整備を促進することを検討。2000年8月に運輸相の諮問機関である運輸政策審議会が答申をまとめました。

 なお、鉄道事業法は第五十九条で独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構(略称は鉄道・運輸機構。2003年9月までは日本鉄道建設公団)、本州四国連絡橋公団は鉄道事業者とみなさないと規定しています(当初は他の公団等も規定されていましたが、統廃合により削除された)。詳しくは下表「鉄道関連特殊法人の変遷」をご覧下さい。
 従って、鉄建公団や鉄道・運輸機構が建設し、JRなどに鉄道施設を貸し付けている場合でも、実際に線路を使用して営業している事業者が第1種事業者ということになります。

 以上で見てきたように、第2種、第3種事業が絡むと、一つの区間に対し、複数の事業者が重複して何らかの鉄道事業許可を持つことになります。
 営業中または許可(改正前は免許)取得済みの路線について整理すると、次の様なバリエーションがあります。

 (1)第1種と第2種
 (2)第2種と第3種
 (3)第1種と第3種       該当区間はこちらを参照して下さい。

 (2)の中には、鉄道事業法の施行以前の地方鉄道法(以下、「旧法」という)の時代から貸与・借入や運転管理委託・受託の関係にあった路線も含まれています。
 このうち、こどもの国線(長津田〜こどもの国)のように旧法で貸与・借入関係にあった路線は、鉄道事業法施行と同時に、貸与していた事業者が第3種、借り入れて営業していた事業者が第2種に移行しました。ただし、この事例では、こどもの国線の通勤路線化工事着手に伴い、1997年8月1日、第3種事業者が当初の社会福祉法人こどもの国協会から横浜高速鉄道に移管しています。
 これに対し、運転管理委託・受託の関係にあった路線の扱いは少々複雑でした。
 鉄道事業法は附則第三条第六〜八項で1年間の移行期間を設け、運転委託をしていた事業者が自ら第1種事業者となるか、あるいは委託事業者が第3種、受託事業者が第2種となるかの選択制としました。
 その結果、北総・公団線の小室〜千葉ニュータウン中央(現在は延伸)では運転委託していた住宅・都市整備公団(現・都市基盤整備公団)が第3種の認可を受け、受託していた北総開発鉄道が第2種となりました。ただし、こうした経緯から住都公団は自社車両を保有しており、第3種事業者としては変わった形態となっています。
 一方、大阪府にある泉北高速鉄道の中百舌鳥〜光明池(現在は和泉中央駅まで延伸)では、従来は南海電鉄に運転管理を委託していた大阪府都市開発が新たに自社車両を保有した上で第1種事業者になることを選択し、東西で判断が分かれました。

 なお、事業法附則第三条十項ではさらに「専ら他人の所有する車両を借りて運転している事業者」についても、運転委託に準じて1年間の移行期間を設けました。「トンネル会社」として知られる神戸高速鉄道を念頭に置いた規定です。結局、同社は第3種事業者を選択し、乗り入れていた阪急電鉄、阪神電気鉄道、山陽電鉄及び神戸電鉄かそれぞれ第2種になりました。この結果、例えば高速神戸〜西代は阪急、阪神、山陽の3社の第2種免許がだぶっています。実際には、第2種各社が駅業務を神戸高速鉄道に委託し直すなどの手続きをとり、表面上は従来通りの運転・営業形態となっています。


鉄道関連特殊法人の変遷

 ・旧日本国有鉄道(国鉄)の分割・民営化に関連する特殊法人と、鉄道事業を運営したり、鉄道施設の保有・建設に携わる特殊法人の系譜を掲載した。鉄道に関係のない組織の統廃合は省略。
 旧国鉄は公社。鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)と都市再生機構は独立行政法人。現在のJR本州3社(東日本、西日本、東海)と東京地下鉄は完全民営化された株式会社。そのほかの各法人が、いわゆる特殊法人(公団、営団、事業団、機構、基金または特殊会社)。
 ・★印を付した各法人は鉄道施設を保有する(した)が、鉄道事業法第59条(または旧同条)等の規定により、鉄道事業者とはみなされない。

1941/07             1941/07
帝都
高速度
交通営団
1949/06 1949/06
日本国有鉄道
1960/07 1960/07
本州四国
連絡橋
公団★
1964/03 1964/03
日本鉄道
建設公団
★    
1975/09 1975/09
宅地開発
公団
1981/10 1981/10
住宅・
都市

整備公団
1984/10 1984/10
関西国際
空港
1987/04 1987/04
東日本
旅客鉄道
西日本
旅客鉄道
東海
旅客鉄道
北海道
旅客鉄道
四国
旅客鉄道
九州
旅客鉄道
日本
貨物鉄道
新幹線
鉄道
保有
機構★
日本国有
鉄道
清算
事業団★
1991/10 1991/10
鉄道整備
基金★
1997/10 1997/10
運輸施設
整備事業
団★  
1998/10 1998/10
(国鉄
清算

事業
本部)
1999/10 1999/10
都市基盤
整備公団
2001/12 (完全
民営化)
(完全
民営化)
(完全
民営化)
2001/12
2003/10 2003/10
鉄道建設
・運輸
施設整備
支援機構
(国鉄
清算

事業
本部)
(鉄道
建設

本部)
2004/04 2004/04
東京
地下鉄
2004/07 2004/07
都市再生
機構
(鉄道事業
は移管)
2005/10 2005/10
日本高速
道路
保有・
債務返済
機構★ 
2012/07 2012/07
新関西
国際空港
   

(2013年10月14日更新)


前へ  次へ

鉄道事業法Q&Aへ戻る

トップページへ戻る