環境倫理(2)
世代間倫理―未来世代への責任―


「現世代は未来世代の生存の可能性に対して責任を負う」という立場が、世代間倫理だ。
もし現在の世代が、自分たちの世代で石油を使い尽くし、次の世代には、石油でしか動かない自動車の山や石油のない火力発電所などだけが残されたとしたら、
それは未来の世代に対する犯罪行為に等しいだろう。
「最大多数の最大幸福」という功利主義の原理は、現在の世代の利益を重視する原理であるから、未来世代の利益は、考慮に入らない。
これに対して「最大期間にわたる最大多数の最大幸福」という修正案がある。
これを実現する方法の一つが、「持続可能な(sustainable)」自然の利用という原則だ。

1)エネルギー問題

ちょうど事故も起こったことだし、原子力発電を中心に考えてみたい。
(↑これを書いたのは、東北大震災の前のことです。)

原子力発電の問題点
  現在の原子力発電は持続可能な技術か?
  核廃棄物(特にプルトニウム)の処理方法とそのコストは?
  本当に安全なのか?

→原子力の問題

石油の埋蔵量
 1972年の『成長の限界』では、石油の埋蔵量は4550億バーレル、可採年数は31年である。
 BP(British Petrolium)の統計によると、2013年現在、世界の可採石油埋蔵量は、1兆6881億バーレル、
 これをこの年の採掘量(316.8億バーレル)で割ると、可採年数は、53.2年になる。
 →シェール石油
 (略)

2)住環境―地球温暖化の問題

エネルギー問題より重要なのは、環境問題である。
『成長の限界』の試算によれば、現在予測されているように、仮に石油が百年後になくなるとしても、それ以前(21世紀半ば)に、消費した石油の影響で(大気汚染や地球温暖化など)住環境が悪化し、人間は地上に住めなくなっているという。
従って、エネルギー問題よりその廃棄物、つまりゴミ問題が優先する。
排出物の影響として、現在、注目されているのが、CO2による地球温暖化の問題である。
(略)

二つの対策
(1)フロンガスによるオゾン層の破壊
 →モントリオール議定書(1987)
  (2016年の改訂版では、代替フロンの一つ、HFC=ハイドロフルオロカーボンの規制を目指している)
(2)CO2による地球温暖化
 →京都議定書(1997)
 →パリ協定(2015)

3)持続可能なシステム

持続可能な(sustainable)資源の利用の条件(ハーマン・デイリー)
1)再生可能な資源(土壌・水・森林・魚など)の利用に関しては、その再生速度を超えてはならない。
  (例えば魚の場合、残りの魚が繁殖することで補充できる程度の速度で捕獲すれば持続可能である。)
2)再生不可能な資源(化石燃料・鉱石・深層地下水など)の利用に関しては、再生可能な資源を持続可能なペースで利用することで代用できる速度を超えてはならない。
  (石油を例にとると、埋蔵量を使い果たした後も同等量の持続可能なエネルギーが入手できるよう、石油使用による利益の一部を自動的に太陽熱収集器や植林に投資するのが、持続可能な利用の仕方ということになる。)
3)汚染物・廃棄物の排出に関しては、環境がそれを吸収・同化できる速度を超えてはならない。
(ドネラ・H・メドウズ+デニス・L・メドウズ+ヨルゲン・ランダース『限界を超えて』茅陽一監訳より)

ゴミ問題のキーワードは、「リサイクル」だ。
地球全体が物質的には閉鎖系(閉じたシステム)である。
その中で自然のサイクルは循環している。したがって、
(0) 自然のサイクルで循環するものは自然の手に任せる。
(1) 自然のサイクルに乗らない人為的廃棄物は、人間の手で再びサイクルに乗せる(=リサイクルする)必要がある。
(2) 人間の手によってもリサイクルできないようなゴミは、入り口の段階で防止する、つまり、最初から使わない、という原則を立てる必要がある。
ドイツの環境政策はこうした原理で動いているように見える。プラスチックのようなリサイクルしにくい素材には高い使用料が科せられるし、プルトニウムのようにリサイクル不可能なゴミを生む原子力発電は、最初から使うのを止めるという方針だ。
廃棄物が勿体無いから再利用する、というのではなく、最初から再利用できるものだけを使用する、という原則が根本にある。


参考文献
D.H.メドウズ/D.L.メドウズ/J.ラーンダズ/W.W.ベアランズ三世『成長の限界 ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』大来佐武郎監訳(タイヤモンド社)
(コンピューターによるシミュレーションという方法を逸早く採用した)1972に出版され影響力の大きかったこの薄い本の第二版は、1992年に
ドネラ・H・メドウズ/ヨルゲン・ランダース/デニス・L・メドウズ『限界を超えて』(Beyond the Limits)として、第三版は、2004年に
デニス・メドウズ『成長の限界 人類の選択』(Limits to Growth: The 30-Year Update)として、それぞれ旧を倍する量となって、出版されている。


付録
持続可能な開発(sustainable development)
将来の世代が享受する経済的、社会的な利益を損なわない形で現在の世代が環境を利用していこうとする考え方。例えば、漁業資源を長持ちさせるよう乱獲を避けるのが一例。目先の利益を重視して開発を進めると、環境が悪化し、結局、経済的利益も得られなくなる。こうした従来の開発に対する反省に立って提唱された。わが国の提案で設けられた「国連・環境と開発に関する世界委員会(ブルントラント委員会)」は、持続可能な開発を強く求める提言をまとめた(一九八七年)が、これを契機に環境保全の基本的な考え方として認められるに至った。今後は、その具体化が課題である。(近藤次郎)
『現代用語の基礎知識(1999年版)』より


→環境倫理 1)エコロジーと共生の倫理
→環境倫理 3)自然の生存権

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