原子力の問題


原子力発電の問題点

  現在の原子力発電は持続可能な技術か?
  核廃棄物(特にプルトニウム)の処理方法とそのコストは?
  本当に安全なのか?

かつて原子力発電の必要性は、
A 石油に代わる将来のエネルギー源
B 経済性・安定性
C 安全性
D 地球環境にやさしい(CO2が出ない)
といった理由で肯定されてきた。それぞれについて大きな問題がある。

今年(2011年)になって起こった福島の原発事故は、「C 安全性」に関して、以前から危惧されていた
「大地震が起こったとき原発は本当に大丈夫なのか?」
という問いへの回答を与えたと言える。
それは、「安全に造れるのかもしれないが、現在の原発は安全ではない」ということだ。
東電や保安院は、事故は想定外の津波によって起こった―だから自分たちに責任はない―と言いたいようだが、
作業員の証言(↓)やその後の事情を考えれば、原発が最初の地震で大きなダメージ(電源の喪失・配管の損傷→冷却機能の喪失)を受けていたことは明らかだ。
「強い横揺れで天井のパイプがずれ、大量の水が漏れてきた――。
 東日本巨大地震が発生した11日、東京電力福島第一原子力発電所で、稼働中だった1号機棟内にいた男性作業員の証言から、建物内が激しく損壊した様子が初めて明らかになった。
 この作業員は、同原発の整備などを請け負う会社に勤務。昨夏からたびたび同原発で作業しており、地震があった11日は、稼働していた1号機の建物内のうち、放射能汚染の恐れがなく防護服を着用する必要がないエリアで、同僚数人と電機関係の作業をしていた。
 「立っていられないほどの強い揺れ。横向きに振り回されている感じだった」。地震発生の午後2時46分。上階で作業用クレーンや照明などの機器がガチャンガチャンと激しくぶつかり合う音も聞こえた。「これは普通じゃない揺れだと直感した」
 建物内の電気が消え、非常灯に切り替わった。「その場を動かないように」という指示が聞こえたが、天井に敷設されていた金属製の配管の継ぎ目が激しい揺れでずれ、水が勢いよく流れてきた。「これはやばい水かもしれない。逃げよう」。誰かが言うのと同時に、同僚と出口がある1階に向けて階段を駆け降りた。」
(Yomiuri Online 2011/3/16)

その結果、莫大な量の放射能が撒き散らされ、今も撒き散らされ続けている。
過去の核実験やチェリノブイリ原発事故での被曝の実例が示すところでは、放射性物質は風で流され、風下に大きな被害が出る。
ドイツ気象局のデータなどが示すように、福島の放射性物質の多くは、偏西風によって太平洋側に流れていったと見られる。
事故の規模の割には被曝が軽くてすんだというのは、「不幸中の幸い」としか言いようがない。

原子力は少量の燃料(ウラン)で莫大なエネルギー(電力)を生み出すことが出来るので、ランニング・コストも安く、
石油を燃やす火力発電に較べれば、原油の値段(ここ数年高騰している)にも左右されない、安定したエネルギー源だとも言われる。
また近年は、世界的な温暖化防止(CO2の削減)のために有利だと言われ、アメリカやドイツでも、原発の再評価(「原発ルネサンス」)が進行している。
確かに、ウランを燃やしてエネルギーを得るという真ん中の部分だけを取り出して考えれば、そうも言えるかもしれない。
しかしそれは、木を見て森を見ない議論である。
入口と出口を併せて、全体を見なければ意味はない。
要点だけを言えば、
原子力発電所を造るのに、どれだけのコストがかかっているのか
原料のウランの埋蔵量、燃料として精錬するためのコストはどうか
冷却水を海水で冷やすのに海水の温度がどれだけ上がるのか(CO2さえ出さなければいいのか)
核のゴミ(特にプルトニウム)を安全に(十万年以上!)処理するのにどれだけコストがかかるのか
今回のように事故が起こったとき、どれだけのコストが必要になるのか
といった点を考えれば、「経済的」だとも「地球に優しい」とも言えない。

「日本では現在、電力の約三〇%が原子力で供給されています。そのため、ほとんどの日本人は、原子力を廃止すれば電力不足になると思っています。また、ほとんどの人は今後も必要悪として受け入れざるを得ないと思っています。そして、原子力利用に反対すると「それなら電気を使うな」と言われたりします。
 しかし、発電所の設備の能力で見ると、原子力は全体の一八%しかありません。その原子力が発電量で二八%になっているのは、原子力発電所の設備利用率だけを上げ、火力発電所のほとんどを停止させているからです。
 原子力発電が生み出したという電力をすべて火力発電でまかなったとしても、なお火力発電所の設備利用率は七割にしかなりません。それほど日本では発電所は余ってしまっていて、年間の平均設備利用率は五割にもなりません。つまり、発電所の半分以上を停止させねばならないほど余ってしまっています。」
(小出裕章『隠される原子力・核の真実』 創史社)


放射能の有害性

(続く)


参考文献
原子力発電の問題全般に関しては、多少古くなったが
広瀬隆『東京に原発を!』 (集英社文庫)
今回の福島の原発事故に関しては
武田邦彦『原発大爆発!』(KKベストセラーズ ベスト新書)


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