ピーター・シンガー
Peter Singer (1946-)


ピーター・シンガー(Peter Singer 1946-)は、現代における代表的な功利主義者の一人である。
人間の利益のために犠牲になっている実験動物や家畜など、人間以外の動物の権利を擁護する、その動物解放論は有名である。また、理論だけではなく、菜食主義者として、自分の主張を実行している点でも、珍しい存在である(?)。
→動物解放論

快楽と苦痛の総計を「善」とする古典的な功利主義の立場を徹底すれば、
「人間の命は全て等しい価値をもつ」
「人の命を奪ってはならない」
「人間の命は人間以外の命よりも価値がある」
という古いヒューマニズムは維持されえない。

「たとえ胎児を殺すことが妊婦と胎児の両方が死ぬことを防ぐ唯一の方法だとしても、胎児を殺すことは不正である」というローマ・カトリック教会の教えは正しいのだろうか。
「生命の尊厳」という立場に立てば、そうした判断が正しいのかもしれない。しかし、脳死、植物状態の患者、無脳症児など、生命に関する従来の価値が、疑問に思われざるをえないケースがある。
ピーター・シンガーは、生命に関する古い戒律を、次のような新しい戒律に書き直すことを要求する。

「死の定義の問題がこれほど大きな注目を集めてきたのは、私たちがいまなお古い戒律によって作られた倫理的および法的枠組みのなかで生きようとしているからにほかならない。私たちが古い戒律を捨てれば、その代わりに倫理的に重要な特質、たとえば楽しむことのできる経験をもったり、他者と交流したり、生存し続けたいという選好をもったりする能力に着目するようになるだろう。意識がなければ、これらはいずれも不可能になる。したがって、ひとたび意識が失われて、回復の見込みがないと確信できれば、ホルモンを分泌する脳機能がまだ残っているという事実は倫理的に重要な事実ではなくなる。」

第一の古い戒律 人命をすべて平等の価値をもつものとして扱え。
第二の古い戒律 罪のない人間の生命を決して意図的に奪うな。
第三の古い戒律 あなた自身の生命を決して奪うな。また、人が自分の生命を奪うことをつねに阻止するように努めよ。
第四の古い戒律 産めよ殖やせよ。
第五の古い戒律 すべての人間の生命を人間以外の生命よりもつねに価値あるものとして扱え。

第一の新しい戒律 人命の価値が多様であることを認めよ。
第二の新しい戒律 決定したことの結果に責任をもて。
第三の新しい戒律 生命に対する個人の欲求を尊重せよ。
第四の新しい戒律 望まれた子どもだけを産め。
第五の新しい戒律 種の違いを根拠に差別するな。
(シンガー『生と死の倫理』樫則章訳)


参考文献
実際に書店で手に入るかどうかは知らないが、シンガーの主な著作には邦訳がある。
シンガー『実践の倫理』(山内友三郎・塚崎 智監訳) 昭和堂 (→http://www.amazon.co.jp/dp/4812299292/) 第二版の翻訳
シンガー『人命の脱神聖化』(浅野篤・村上弥生・山内友三郎監訳)晃洋書房(→http://www.amazon.co.jp/dp/477101860X/)論文集からの抄訳
シンガー『動物の解放』(戸田清訳)人文書院(→http://www.amazon.co.jp/dp/4409030787/) 改訂新版(2009年)の翻訳
解説書としては、
山内友三郎・浅井篤編『シンガーの実践倫理を読み解く』 昭和堂(→http://www.amazon.co.jp/dp/4812207738/)


→動物解放論(自然の生存権)
→現代の功利主義

→カント
→ベンサム
→J.S.ミル
→ロールズ

→村の広場に帰る