2物体から成るばね振り子

 

 数式表示にMathJaxを使用しています。端末によっては,数式が正しく配置・表示されるまでに数十秒ほどかかる場合がありますが,そのまましばらくお待ちください。






ばねの両端に結ばれたばね振り子:

 以下では簡単化のため,P・Q間にはばねの弾性力しかはたらいていないという前提で話を進めます。
 この場合,ばねの両端に物体Pと台Qが結ばれているのと変わりませんので,図1のように,台Qも物体Pもそれぞれ床上を運動しているとして考えていくことにします。


 この場合のように,複数の物体が互いに力を及ぼし合っている力学系の処理法としては,一般に,重心の運動と重心に対する相対運動とに分解して考えていくと処理しやすくなります。
 P・Qにはたらくばねの弾性力は作用反作用の関係にあり,P・Qの系にとって内力となります。したがって,この系の運動量が保存されます。質点系の重心の速度 $v_\mathrm{G}$ は \[v_\mathrm{G} = \bun{\Sigma\,m_i\,v_i}{\Sigma\,m_i} = \bun{運動量}{全質量}\] で与えられるので,運動量が保存される場合,重心の速度 $v_\mathrm{G}$ は一定です。すなわち,重心Gは等速度運動,もしくは静止を続けることになります。したがって重心Gは慣性系ということになり,重心Gに対するP,Qの相対運動を考える際にもP,Qにはたらく力としてはばねの弾性力のみを考えればよいことになります。

 以下,物体P,台Qの質量をそれぞれ $m$ , $M$ ,ばねの自然長を $l$ ,ばね定数を $k$ とします。


 重心Gに対する相対運動を考えるために,図2のように,重心Gに固定した(重心Gとともに動く)座標系 $x'$ (図2の赤線の座標軸)を用意し,P,Qの座標を重心Gを原点とした座標 $x_\mathrm{P}{}'$ , $x_\mathrm{Q}{}'$ で表すことにします。このときのばねの伸びは $(\,x_\mathrm{P}{}' - x_\mathrm{Q}{}' - l\,)$ となるので,重心Gに対するP,Qの運動方程式は,\[\kern-1em \mathrm{P}:\quad m\ddif{x_\mathrm{P}{}'}{t} = -\,k \,(\,x_\mathrm{P}{}' - x_\mathrm{Q}{}' - l\, ) \quad\cdots\cdots\maru{1}\\ \kern-1em \mathrm{Q}:\quad M\ddif{x_\mathrm{Q}{}'}{t} = k\, (\,x_\mathrm{P}{}' - x_\mathrm{Q}{}' - l\, )\quad\cdots\cdots\maru{2} \] となります。
 上式では,Pの運動方程式にQの座標 $x_\mathrm{Q}{}'$ が,Qの運動方程式にPの座標 $x_\mathrm{P}{}'$ が含まれているので,このままではこの微分方程式は解けません。
 ところで質点系の重心位置は,一般に\[\Vec{r_\mathrm{G}} = \bun{\Sigma\,m_i\, \Vec{r_i}}{\Sigma\,m_i}\]で与えられますが,いまの場合, $x'$ 座標系の原点を重心Gの位置に設定しているのですから,$x'$ 座標系での重心座標は当然 $0$ です。よって,\[ x_\mathrm{G}{}' = 0 \\ \kern-1em \therefore \bun{m\, x_\mathrm{P}{}' + M\, x_\mathrm{Q}{}'}{m + M} = 0 \\[1.5em] \kern-1em \therefore m\, x_\mathrm{P}{}' + M\, x_\mathrm{Q}{}' = 0 \\[1em] \kern-1em \therefore \left \{ \begin{array}{rl} & \kern-1em x_\mathrm{Q}{}' = -\, \bun{m}{M}x_\mathrm{P}{}' \quad \cdots\cdots\maru{3} \\ & \kern-1em x_\mathrm{P}{}' = -\, \bun{M}{m}x_\mathrm{Q}{}' \quad \cdots\cdots\maru{4} \end{array} \right . \\ \]   $\maru{3}$ 式を $\maru{1}$ 式に, $\maru{4}$ 式を $\maru{2}$ 式に代入して,それぞれ相手方物体の物理量を消去していきます。 \[\kern-4em \mathrm{P}:\quad m\ddif{x_\mathrm{P}{}'}{t} = -k \,\bigg\{\,x_\mathrm{P}{}' - \bigg(-\, \bun{m}{M}x_\mathrm{P}{}'\bigg) - l\, \bigg\} \\ \kern2em = -k\, \bigg(\bun{m + M}{M}x_\mathrm{P}{}' - l\bigg) \\ \kern2em = -\bun{m + M}{M}k \,\bigg( x_\mathrm{P}{}' - \bun{M}{m + M}l \, \bigg) \quad\cdots\cdots\maru{5}\\[2em] \kern-4em \mathrm{Q}:\quad M\ddif{x_\mathrm{Q}{}'}{t} = k\, \bigg\{\bigg(-\,\bun{M}{m}x_\mathrm{Q}{}'\bigg) - x_\mathrm{Q}{}' - l\, \bigg\} \\ \kern2em = k\, \bigg(-\,\bun{m + M}{m}x_\mathrm{Q}{}' - l\bigg) \\ \kern2em = -\bun{m + M}{m}k \,\bigg(x_\mathrm{Q}{}' + \bun{m}{m + M} l\bigg) \quad\cdots\cdots\maru{6} \]  ここで \[K_\mathrm{P} = \bun{m + M}{M}k \\ K_\mathrm{Q} = \bun{m + M}{m}k \\ l_\mathrm{P} = \bun{M}{m +M}l \\ l_\mathrm{Q} = \bun{m}{m +M}l \]とおくと, $\maru{5}$ 式, $\maru{6}$ 式は,\[\kern-3em \mathrm{P}:\quad m\ddif{x_\mathrm{P}{}'}{t} = -\,K_\mathrm{P} (\,x_\mathrm{P}{}' - l_\mathrm{P} ) \quad \cdots\cdots\maru{5}' \\ \kern-3em \mathrm{Q}:\quad m\ddif{x_\mathrm{Q}{}'}{t} = -\,K_\mathrm{Q} (\,x_\mathrm{Q}{}' + l_\mathrm{Q} ) \quad \cdots\cdots\maru{6}'\] となり,PもQも重心Gに対して単振動をすることが分かります。その角振動数は,\[ \kern-3em \left \{ \begin{array}{rl} & \kern-1em \mathrm{P}:\quad \omega_\mathrm{P} = \kon{\bun{K_\mathrm{P}}{m}} = \kon{\bun{(m + M)\,k}{m\,M}} \\ & \kern-1em \mathrm{Q}:\quad \omega_\mathrm{Q} = \kon{\bun{K_\mathrm{Q}}{M}} = \kon{\bun{(m + M)\,k}{m\,M}} \end{array} \right . \\[3em] \kern-2em \therefore \omega_\mathrm{P} = \omega_\mathrm{Q} \]  つまりPもQも同じ角振動数で振動することになります。
 台が固定されているときのPの角振動数は $\omega = \kon{\bun{k}{m}}$ でしたから $\omega_\mathrm{P} = \omega_\mathrm{Q} > \omega$  であり,台も可動状態になっている場合の方が速い角振動数で,つまり短い周期で振動することになります。この場合,P,Qそれぞれが重心位置Gを固定端としたばね振り子のように振動をするため,あたかも短いばねに結ばれたばね振り子として振る舞うためです(ばね定数は,ばねの自然長に反比例します)。
 またそれぞれの振動中心は, $\maru{5}'$ 式, $\maru{6}'$ 式のそれぞれ右辺を $0$ とおいて,\[\kern-2em \mathrm{P}:\quad x_\mathrm{P}{}' = \,l_\mathrm{P} = \bun{M}{m + M}l \\ \kern-2em \mathrm{Q}:\quad x_\mathrm{Q}{}' = - \,l_\mathrm{Q} = -\,\bun{m}{m + M}l \]  ここで $\,l_\mathrm{P} $ ,$\,l_\mathrm{Q} $ は,ばねが自然長のときのP,Qの重心Gからの距離にほかなりません(図2を参照)。つまりそれぞれの振動中心は,ばねが自然長であった時のP,Qの位置(図2のp,qの位置)・・・ということになります。
 また $\maru{3}$ 式, $\maru{4}$ 式で示したように $x_\mathrm{P}{}'$ と $x_\mathrm{Q}{}'$ は互いに負符号で結ばれており,PとQは重心Gを挟んで反対側にあり,その変位量は質量に反比例していることになります。つまりPとQは,重心Gに対して常に逆向きに運動していることになります。

 以上,重心に対する相対運動をまとめると,
(i) 振動中心は,ばねが自然長のときのP,Qの位置
(ii) 角振動数 $= \kon{\bun{(m + M)\, k}{m\,M}}$
(iii) PとQは重心に対して逆向きに振動し,変位量は質量に反比例する
となります。この重心に対する相対運動に重心自身の運動を加えたものが,P,Qの床に対する運動・・・・ということになります。
 



   摩擦力を受けるばね振り子 に続く。