単 振 動

 

 数式表示にMathJaxを使用しています。端末によっては,数式が正しく配置・表示されるまでに数十秒ほどかかる場合がありますが,そのまましばらくお待ちください。






単 振 動

 質量 $m$ の物体が平衡点(力のつり合いの位置)からの変位 $x$ に比例する大きさの力を変位と逆向きに受けるとき,その運動方程式は,力の比例定数を $k \,(\,> 0\,)$ として, \[m \ddif{x}{t} = - k \,x \cdots\cdots\maru{1} \] となります。ここで  \[\omega_0 = \kon{\bun{k}{m}} \quad \cdots\cdots\maru{2}\]とおくと,上式は,\[\ddif{x}{t} = - \omega_0{}^2 \, x \quad\cdots\cdots\maru{1}' \]  この2階微分方程式の一般解は,\[ x = A \cos(\omega_0 \, t + \phi ) \quad \cdots\cdots\ \maru{3} \]で与えられ,物体の運動は単振動になります。 $\omega_0$ は角振動数と呼ばれ,また $A$ と $\phi$ は積分定数です。
 単振動の振動中心は, $x = 0$ の位置,よって $-k\,x = 0$ の位置,したがって物体にはたらく合力が $0$ となる位置,つまり力のつり合い点 ということになります。また振動周期 $T$ は,\[ T = \bun{2\pi}{\omega} = 2\pi\kon{\bun{m}{k}} \quad \cdots\cdots\maru{4}\]で与えられます。
 積分定数である振幅 $A$ と初期位相 $\phi$ は,運動の初期条件(時刻 $t=0$ の条件)により定まります。
 例えば時刻 $t=0$ に物体が $x = x_0$ の位置から速度 $v = 0$ で動き出したとすると,\[v = \dif{x}{t} = -\omega_0 \, A\,\sin(\omega_0 \,t + \phi) \]なので, $x$ および $v$ に $t = 0 $ を代入して,\[\left \{ \begin{array}{rl} & \kern-1em A \cos(0 + \phi ) = x_0 \\ & \kern-1em -\omega_0\,A\, \sin(0 + \phi) = 0 \end{array} \right . \]   $A \ne 0$ , $\omega_0 \ne 0$ なので, 第2式より $\phi = 0$ ,これを第1式に代入して $A = x_0$ を得ます。つまり振幅 $A$ は,振動中心と速度 $v = 0$ の点(動き始めの位置,または折返しの位置)との距離ということになります。結局この場合の $x$ および $v$ は,\[ x = x_0 \, \cos\,\omega_0 \, t \\ v = -\omega_0 \, x_0 \,\sin\,\omega_0\,t \\ \bigg(ただし \omega_0 = \kon{\bun{k}{m}} \bigg) \]のようになります。

 以上より,単振動を特徴づける事柄をまとめると,以下の3点になります。
(i) 振動の中心 → 力のつり合い点(力の平衡点)
(ii)  $ \color{red}{角振動数:  \omega_0 = \kon{\bun{k}{m}}} $
   $ \color{red}{周 期 : T = 2\pi\kon{\bun{m}{k}}}$
(iii) 振幅 → 振動中心と物体の動き始めの位置または折返しの位置 との距離

<参考> 変数 $x$ は運動に関わる物理量でなくても構いません。電流であろうが温度であろうが,さらには物理とは関係のない,たとえば経済に関するような量であっても構いません。ともかくその量 $x$ が先の $\maru{1}$ もしくは $\maru{1}'$ 式の形を満たすなら,その量 $x$ は単振動変化をすることになります。


単振動における力学的エネルギーの保存則

 単振動では,物体の力学的エネルギーの保存則が成立します。
  速度 $v = \dif{x}{t}$ なので,$\maru{1}$ 式の左辺に $v$ を,右辺に $ \dif{x}{t}$ を乗じると,\[m \cdot v \cdot \ddif{x}{t} = - k \,x \cdot \dif{x}{t} \]   $\ddif{x}{t} = \dif{v}{t}$ であるから,上式は,\[\kern-1em m \,v\, \dif{v}{t} = - k \,x \cdot \dif{x}{t} \\ \kern-2em \therefore \dif{ }{t}\bigg(\bun{1}{2} m \,v^2\bigg ) = \dif{ }{t}\bigg(-\bun{1}{2}k\, x^2\bigg) \] 両辺時間 $t$ で積分して,\[\bun{1}{2} m \, v^2 = -\bun{1}{2}k\, x^2 + 積分定数 \\ \kern-1em \therefore \color{red}{\bun{1}{2} m v^2 + \bun{1}{2}k\, x^2 = 一定 } \quad \cdots\cdots\ \maru{5} \]  上式左辺の第1項は運動エネルギー,第2項は単振動に伴う位置エネルギーであり,単振動では力学的エネルギー保存則が成り立つことが導かれます。ばね振り子の場合であれば,位置エネルギーはばねの弾性エネルギーということになります。
 例えば, $x = x_0$ の位置から初速 $0$ で単振動を開始したばね振り子の場合,ばねの伸び $x$ の位置を通過するときの物体の速度を $v$ とすると,\[\bun{1}{2}m\,v^2 + \bun{1}{2}k\,x^2 = 0 + \bun{1}{2}k\,x_0{}^2 \]が成り立ち,これより $x$ と $v$ の関係が求められることになります。


単振動物体に一定力が作用する場合

 物体にはたらく力が $- k\,x$ の力のほかに,一定の大きさの力 $f$ が作用する場合について考えてみましょう。
 この場合の運動方程式は,\[m\, \ddif{x}{t} = - k x + f \\ \kern3em = -k\bigg( x - \bun{f}{k}\bigg) \\ \kern3em = -k\,X \quad\cdots\cdots\maru{6} \]  ただし,$ X = x - \bun{f}{k} $ とおいた。
 ここで $\bun{f}{k}$ はある一定の値なので, $\ddif{X}{t} = \ddif{x}{t}$ であり,よって $\maru{6}$ 式は,\[m\, \ddif{X}{t} = - k X \] となり,物体の運動はやはり単振動になることが分かります。その角振動数は $\omega_0 = \kon{\bun{k}{m}}$ であり,力 $f$ が作用していない場合と同じです。しかし振動中心は $X = 0$ とおいて,\[X = x- \bun{f}{k} = 0 \\ \kern-1em \therefore x = \bun{f}{k} \quad\cdots\cdots\maru{7} \]の位置にずれてしまいます。この位置は,ばねの力 $-k\,x$ と力 $f$ とがつり合う位置,すなわち力の平衡点にほかなりません。
 例えばばね定数 $k$ のばねの下端に質量 $m$ の小球をぶら下げたばね振り子の場合,一定力 $f$ を重力 $m g$ と考えれば,その振動中心はばねの伸びが \[x = \bun{f}{k} = \bun{m g}{k}\]の位置になります。

 このように単振動をする物体に復元力のほかに一定力が作用する場合,振動中心はずれるが,一定力が加わる前と同じ振動数の単振動をすることになります。



  2物体から成るばね振り子 に続く。