質点列・弦を伝わる横波の速さ




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本シミュレーション『力学的解析』の概要


 上図のように粒子が並んでいて, $(n-1)$ 番目, $n$ 番目,$(n+1)$ 番目の各粒子の変位がそれぞれ $y_{n-1}$ , $y_n$ , $y_{n+1}$ であるとき, $n$ 番目粒子の加速度を $a_n$ ,粒子の質量を $m$ ,となりの粒子との間にはたらく力を $S{}\,'$ , $S$ ,$n$ 番目粒子ととなりの粒子を結ぶ線が $x$ 軸となす角をそれぞれ $\theta_n{}'$ , $\theta_n$ とすると, $n$ 番目粒子の $y$ 方向の運動方程式は,\[ ma_n=S\times\sin\theta_n-S\,'\times\sin\theta_n{}' \] ここで各粒子の振動振幅は十分に小さく, $\theta_n$ , $\theta_n{}'$ は十分に小さい値として,\[\sin\theta_n \kinji \tan\theta_n ,\quad \cos\theta_n \kinji 1 \\ \sin\theta_n{}' \kinji \tan\theta_n{}' ,\quad \cos\theta_n{}' \kinji 1\]が成り立つとする。粒子は $y$ 方向にのみ振動しているのであるから $x$ 方向に釣り合いが成立していることになるので,\[ \, 0=S\times\cos\theta_n -S\,'\times\cos\theta_n{}' \\ \quad \kinji S\times 1 - S\,'\times 1 \\ \therefore S\,'=S \] すなわち,各粒子間に働く力の大きさはすべて等しいことになるので,これを $S$ とする。よって上記運動方程式は,\[ma_n=S\times\sin\theta_n - S\,'\times\sin\theta_n{}'\\  \kinji S\times\tan\theta_n-S\times\tan\theta_n{}' \\  = S\bun{y_{n+1}-y_n}{l}-S\bun{y_n-y_{n-1}}{l} \\   =-\bun{S}{l}(2y_n-y_{n+1}-y_{n-1}) \cdots\cdots\maru{1}\]となる。これらの運動方程式を媒質粒子の数だけ立てて,その連立方程式をルンゲ・クッタ法と呼ばれる解析法で数値解析しているのが本シミュレーションである。
 このシミュレーションは,きわめて単純化したモデルではあるが,媒質各粒子の振る舞いを力学面から解析したものであり,実際の波動の発生に近い状況を表していると考えられる。
 ただしこのモデルでは,媒質両端における無反射条件が考慮されていない。先の理論式によるシミュレーションの場合,無限に続く媒質上における理論式を元にしたシミュレーションであり,媒質境界における反射は一切ないものとしている。現実には無限に続く媒質はこの世には存在しないわけで,有限である。有限であれば必ず媒質の『端』があり,現実には境界からの反射の影響が必ずあることになる。その意味では,むしろ本シミュレーションの方が実態に近いともいえる。
(本シミュレーションでは,両端での反射の影響を小さくするために,波の減衰処理を行ってある。)

質点列を伝わる横波の速さ
 
 上記の質点列に垂直な方向の振動が入射してきたとして,このときこの振動(横波)が伝わっていく速さ$v$を求めてみよう。さらにこのことから,連続的な媒質,たとえば弦などを伝わる横波の速さを推測してみよう。

 入射した振動により,各質点は周期 $T$ ,振幅 $A$ の単振動をするものとする。このとき $n$ 番目, $(n-1)$ 番目, $(n+1)$ 番目の各粒子の時刻 $t$ での変位 $y_n$ , $y_{n-1}$ , $y_{n+1}$ がそれぞれ以下のように表させるものとする。  \[ \left \{ \begin{array}{rl} & \kern -1em y_n=A\sin\bigg(\bun{2\pi}{T}t+\delta\bigg)\\ & \kern -1em y_{n-1}=A\sin\bigg\{\bun{2\pi}{T}\bigg(t+\bun{l}{v}\bigg)+\delta\bigg\} \\ & \kern -1em y_{n+1}=A\sin\bigg\{\bun{2\pi}{T}\bigg(t-\bun{l}{v}\bigg)+\delta\bigg\} \end{array} \right . \]  ここで, $l\,$ は粒子間の間隔, $\delta$ は初期位相である。振動が $n$ の小さい方から伝わってきているとすると, $(n-1)$ 番目の粒子は $n$ 番目の粒子より $\bun{l}{v}$ の時間だけ早く振動が伝わっており,振動がその分だけ先行していることになる。逆に $(n+1)$ 番目の粒子は $n$ 番目の粒子より $\bun{l}{v}$ の時間だけ遅れて振動しているので,上式のように表されることになる。
 ここで,$ \sin\alpha + \sin\beta = 2\cos\bun{\alpha-\beta}{2} \cdot \sin\bun{\alpha+\beta}{2}$ の公式を使うと, \[ y_{n-1}+y_{n+1}=A\sin\bigg\{\bun{2\pi}{T}\bigg(t+\bun{l}{v}\bigg)+\delta\bigg\} + A\sin\bigg\{\bun{2\pi}{T}\bigg(t-\bun{l}{v}\bigg)+\delta\bigg\} \\      =2A\cos\bigg(\bun{2\pi l}{Tv}\bigg)\times \sin\bigg(\bun{2\pi}{T}t+\delta\bigg)\\      =2\cos\bigg(\bun{2\pi l}{Tv}\bigg)\times y_n\cdots\cdots\maru{2} \] であるから,$n$ 番目粒子の運動方程式は,前記 $\maru{1}$ 式に $y_{n-1} + y_{n+1}$ を代入して,\[ ma_n=-\bun{S}{l}(2y_n - y_{n-1} - y_{n+1})\\ =-\bun{2S}{l}\bigg\{1-\cos\bigg(\bun{2\pi l}{Tv}\bigg)\bigg\}\times y_n \cdots\cdots\maru{3} \]  これが $n$ 番目粒子の運動方程式であり,確かに単振動の運動方程式の形になっている。
 一方各粒子は周期 $T$ の単振動をしているのであるから,その運動方程式は一般式として,角振動数を $\omega=\bun{2\pi}{T}$ として,\[ a_n=-\omega^2\cdot y_n=-\bigg(\bun{2\pi}{T}\bigg)^2\cdot y_n \cdots\cdots\maru{4}\]と表されるはずである。 $\maru{3}$ と $\maru{4}$ の比較より,
 ($ \cos\theta=1-2\sin^2\bun{\theta}{2}$ の公式を利用)\[ \bigg(\bun{2\pi}{T}\bigg)^2=\bun{2S}{ml}\bigg\{1-\cos\bigg(\bun{2\pi l}{Tv}\bigg)\bigg\}\\    =\bun{2S}{ml}\bigg[1-\bigg\{ 1-2\sin^2\bigg( \bun{2\pi l}{2Tv} \bigg) \bigg\} \bigg]\\   = \bun{4S}{ml}\sin^2\bigg(\bun{\pi l}{Tv}\bigg) \\ \therefore \bun{2\pi}{T}=2\kon{\bun{S}{ml}\,}\,\sin\bigg(\bun{\pi l}{Tv}\bigg)\]  ここで $v$ は振動が伝わっていく速さであり,これに周期 $T$ を乗じた値 $Tv$ は,波動で言うならば1波長 $\lambda$ に相当する。よって質点が十分に密に詰まっているとして $l \ll \lambda=Tv$ であるならば, $\bigg| \bun{\pi l}{Tv}\bigg | \ll 1$ が言える。よって $ |\theta | \ll 1$ のとき成り立つ $\sin\theta \kinji \theta$ なる近似式を適用して,\[ \bun{2\pi}{T}=2\kon{\bun{S}{ml}\,}\,\sin\bigg(\bun{\pi l}{Tv}\bigg) \kinji 2\kon{\bun{S}{ml}\,}\,\times \bun{\pi l}{Tv} \\ \therefore \color{blue}{\underline{v=\kon{\bun{Sl}{m}}}} \quad \cdots\cdots\maru{5} \]  これが,この場合の質点列を横波が伝わっていく速さとなる。


弦を伝わる横波の速さ
 
 上記 $\maru{5}$ 式より,\[v=\kon{\bun{Sl}{m}}=\kon{\bun{S}{m/l}}\]  ここで $m$ は間隔(長さ) $l$ の間に含まれている小球の質量だが,$\bun{m}{l}$ は言うなれば「単位長あたりに含まれる質量」の意味をもつ。
 弦は質点が一次元的に繋がった連続体と考えることができるが,上記において,小球間隔 $l$ をどんどん小さくし,その中に質量の小さな小球(質点)をぎっしりと詰め込んでいったと仮定すると,その極限において,弦のような一次元の連続体ができあがることになるだろう。このとき $\bun{m}{l}$ は,この弦のような連続体の線密度(単位長あたりの質量)に相当する量になる。\[\lim_{l \to 0}\bun{m}{l} = 線密度 \]  また $S$ は弦の張力に相当すると考えることができるので,線密度 $\rho$ ,張力 $S$ の弦を伝わる横波の速さ $v$ は,上記 $\maru{5}$ 式で $l \rightarrow 0$ の極限を考えて,

\[  \fbox{$\bf{弦を伝わる横波の速さ}\bbold{v=\kon{\bun{S}{\rho}} \quad\quad }$} \]

となり,よく知られた弦を伝わる横波の速さの公式が得られることになる。