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サチさんが書いたサイドストーリー 「白い影〜三年目の再会〜」


■ SCENE4

 その夜、母も陽介も寝静まってから、倫子はテレビの前に座った。
 三年ぶりに手にしたビデオテープだった。支笏湖のパネルも、ガラスのボートも、ネックレスも日常に溶け込んでいた。胸をチクチクと刺すような感覚は、三年の間に消えた。だが、このビデオテープだけは、怖かった。傷口がまた、ぱっくりと開いてしまいそうで、怖かった。

 深呼吸をし、再生ボタンを押した。

『いつか君が愛する人の子供を産んだ時。僕は笑顔で祝福を贈りたい』

「そうでしたね、陽介が生まれた日、先生は私にすてきな笑顔をくれましたね。先生は、私の笑顔を好きだと言ってくれたけど、私も、照れくさそうな先生の笑顔が大好きでした。ちゃんと、私には先生の笑顔、届きましたよ。だって、心から愛する人の子供を、私は産んだんだから。」

『君の笑顔が、倫子の笑顔が大好きだ。だから泣かないで。愛してる。』

 涙が、幾筋も流れていた。

「やっぱり、まだ、まだ、泣かないで会うことはできないみたいです。先生・・・。」

 傷口が開いたのか、かさぶたをはいでしまったのか、痛みが、倫子を襲った。
過去にできたら、傷口が癒え、かさぶたとなり、ケロイドの傷跡になったら、この痛みはなくなるのだろうか?痛みがなくなったら、過去になった、ということなのだろうか?『思い出』という名前に先生の存在を変えていけば、痛みもなく、傷跡さえ消えるのだろうか?
 
 わからなかった。

 でも、ひとつだけ、はっきりわかることがあった。
 先生を、あのころと変わらず、愛してる。
 三年も会っていなかったけれど、声も聞いていなかったけれど、ぬくもりも感じることはできないけれど、やっぱり、変わらず、先生を愛してる。

 もうほんの何年かで、ビデオの中の先生を追い越してしまう。陽介だって、先生を追い越してしまう日がくる。
 
 それだけの日々が過ぎたら、先生に笑って会えるようになるのだろうか?

 やっぱり、わからない。

 でも、はっきりわかることがある。

 何度、痛みに直面し涙を流しても、私の笑顔は絶えることはない。
 先生を失ってしまったことは消えないけれど、戻ってきてはくれないけれど、先生のあの笑顔はいつまでも、私を見守っていてくれるから。陽介と私を、見守っていてくれるから。だからまた、前を向いて歩いていける。

「そうですよね、先生。」

『ん、あぁ、そうだな。』

 そう言ってくれた、そんな気がした。

終わり

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