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月ふたつさんが書いたサイドストーリー 「めぐり逢い」

■ 9 ガラスのボート

6年後・・・・5月ゴールデンウィーク
5月末からいよいよ、最終学年に課せられたポリクリ、臨床研修が待っている。いよいよ、直江が心から信頼していた七瀬教授にも医師の卵として倫子は会える・・・

まだ風は冷たいが日差しはすっかり暖かい、そんな一日を、倫子は初めて庸介を連れて支笏湖を訪れた。
「直江先生・・・庸介は1年生になりました。そして、私は医大の6年生、七瀬先生とお会いできます。ポリクリが待ってます。医師の卵として七瀬先生に指導していただきます。今日は・・・あなたと、あなたの息子とここでボートを乗りに来たのよ」

「絶対に立たないでね。ね。約束よ」何度も念を押して倫子の膝の前に庸介を載せる。
「こげるかなぁ」
「ねえちょっと、あんた大丈夫?」母の心配そうな声にちょっと笑いかける。
「大丈夫、直江先生が守ってくれてる湖だもの」

こうして、直江が眠る湖にこぎ出すボート。

庸介:「きれいだね」きらきら光る湖面を見つめながら言った。
直江の声:(守られているのは湖のほうだ・・・)ふと声が聞こえた気がした。

やがて一回りしてボートを岸に戻し、庸介を先に下ろし、倫子も降りようとしたとき、庸介が座っていた足元辺りにあった何かがボートの中できらりと光った。
「まさか・・・」
それは、忘れもしない・・・倫子が直江に贈り、そして直江が最期まで持っていた、あのガラスのボートだった。
湖に沈んだ直江。あのとき、7年前に聞いた、直江の姉の声が響く。
「ボートに庸介のコートが・・・」
一瞬、フラッシュバックのように、コートの上に乗せられていたガラスのボートの映像が倫子の脳裏に浮かんだ・・・

私と直江先生以外、あのガラスのボートが大切な物だとは誰も知らない・・・

コートを引き上げた捜索員も、ガラスのボートがボートの中に落ちたことは気にもとめなかったろう。それから何人、このボートは人を乗せたことだろう。でも、ただのガラスの破片でしかない、直江と倫子のガラスのボートには、誰も目をくれず、そのまま、ずっと7年間、そこにあったわけだ・・・

「待っててくれたんだ・・・直江先生、待っててくれたのね、私のことを」

庸介:「おかあさーん、お腹空いたよ〜
ボートの中で我を忘れてそれを見入る倫子に向かって庸介が無邪気に声をかける。
涙ぐみながらも、あわてて岸に戻る。

倫子:「ごめんね、さあ、お昼ご飯食べにいこう」
庸介:「うん!」
倫子:「あ、庸介」
庸介:「なあに?」
倫子:「ほら、これ、あげる」

キラキラと光を反射して光るガラスのボート。

庸介:「これ、なあに?」
倫子:「何に見える?」
庸介:「う〜ん・・・おかあさんと僕がさっき乗ったボートだね」

倫子の耳に、支笏湖を見つめていたあの朝の二人が聞いていたカヴァレリア・ルスティカーナの曲が響いている。
もう一度湖を振り返る。
春の日差しを受けて輝く湖面に直江の微笑む顔を見たような気がした。

終わり

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