倫子は新たな力強い手を背中に感じる。
直江(声):「彼女なら,わかってくれます。そういう人だから僕は彼女を愛することができた」
直江(声):「倫子の笑顔が大好きだ」
直江の言葉がこだまする。
母:「あんた、本気?」
さすがの母もかなり驚いた顔で、少し反対していたが、結局、倫子のことを一番知っている母だ。浪人・留年はできないことを条件に最後は笑って肩を抱いてくれた。
「え!?」行田院長、三樹子もさすがに二の句が継げなかった。
倫子:「はい。来年、信州大学の医学部を受験するため、大変勝手申しますが、ホスピスを辞めさせていただきたく・・・」
行田:「待ってください。倫子さん、行田病院に戻りたいのなら今すぐ戻ってきてください。ホスピスでの仕事が辛かったのなら、私たちが強く勧めたことですから、謝ります」
倫子:「いいえ、違うんです。ホスピスでの経験は本当に勉強になりました。私自身大きく成長できたと思います。こんな貴重な経験をさせていただいてお二人には感謝しています。」
三樹子:「では、なぜ? 貴女は看護婦の仕事を心から好きなんだと思っていたけど」
三樹子もいぶかる。
倫子:「もちろん、看護婦の仕事が嫌になったんじゃないです。心から大好きな仕事です。でも、私、庸介のことを考えて・・・」
行田:「庸介くん?」
倫子:「庸介は、父親の背中すら知らないのです。最期まで医師としてあり続けようと、医師として患者に何をすべきかを考え続けた直江先生の姿を、庸介は知りません」
行田:「庸介くんのために・・・ですか?」
倫子:「もちろん、自分自身が大きく成長したいこともあります。私の姿を通じて、庸介が父親のしようとしたことを理解することにつながればいいと・・・思いました。私も、直江先生が求め続けた医師としてのあり方を自分も吸収してみたい・・・そのためには、今しかチャンスはないと思いました」
三樹子:「パパ・・・止めても無駄みたいね。直江先生のこと言われたら、私たち、もう何も言えないわ」
三樹子は笑って頷いた。
続く