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月ふたつさんが書いたサイドストーリー 「めぐり逢い」

■ 3 思いがけぬ再会

10月20日 
「コンコン」ノックの音。
もう明日は退院という段階で母児同室でおっぱいを含ませていた倫子が返事をする。
倫子:「はい」
ミツ:「あの・・・」
思いがけない人がそこにいた。
倫子:「あらあ・・・奧さん・・・ミツさん」
石倉さんの奥さんだ。

ミツ:「すっかりご無沙汰しちゃってて・・・このたびは、おめでとうございます」
倫子:「ありがとうございます。お元気でしたか」
ミツ:「ええ、お陰様で・・・」
倫子:「どうして、私のこと、わかりました?」
ミツ:「ええ、あの・・・実は、小橋先生からお葉書をもらっていまして」
倫子:「小橋先生から?」
ミツの話によると、腰痛の具合を尋ねる内容だったらしいが、大学病院から出していたので、ミツはまず、小橋のいる大学病院を訪ねたらしい。
ミツ:「志村さん、本当にごめんなさい。私、どうしても、行田病院に行くのが辛くてね。ご挨拶にと思っていたんですが・・・あんなによくしてもらったのに・・・今までなしのつぶてで・・・」
倫子:「いいんです。わかりますよ。奥さん」
ミツ:「志村さんも・・・直江先生のこと、いろいろあったんですね。私、小橋先生にお聞きして、びっくりして」

赤ん坊を寝かしつけてから、ミツと倫子はしばし直江の話をした。
ミツ:「私ね、志村さん・・・あの人が逝ってしまってから、いつもね、これでよかったんだと・・・思う気持ちと、やっぱり、ウソつかれてて辛かったという気持ちもどうしてもあって・・・でも、今から思えば・・・直江先生が私にウソをついたんじゃなくて、うちの人自身が私に、私のためにウソついてたのかも・・・ってね。だって、あの人、私に向かっては決して、ただの一度も「俺は本当はガンなのか」と聞かなかった。きっと知っていたからですよね。直江先生の気持ちをわかっていて・・・だから決して私の前では恐いことも、死ぬかもしれないってことも一言も言わなかった。私とたわいのない話を最期までしていたかったんだろうって。そう思ってるんです。」
倫子:「奥さん・・・」
ミツ:「志村さん、貴女も・・・そう思われますか?」
倫子:「ええ。私もね、先生はずるいって、ひどいって思ったけど・・・でも、私自身も、敢えて深く聞こうとしなかった。あの人が違うと言えばそれ以上追求しなかった。心のどこかでは疑っていても、愛するあの人が違うと言うなら、違うでいいと・・・思ってたんです、きっと。」
ミツ:「でもね、志村さん、そうはわかっていても、やっぱり、私の前で弱みも何もさらけ出して欲しかったとも思うんですよね。死ぬのが恐いと泣いてくれていたら、それはそれで妻として幸せだったのかもって、ときどきね思うこともあってね・・・」

倫子は、あのとき、しゃにむに倫子を抱きしめた石倉の顔を思い出した。奥さんにもし何もかもうち明けていたら、あの役目はミツさんが担ったことだったろう。

直江先生も?・・・倫子は自問自答する。私にだけ涙を見せたのも、あのときすがるように私を抱きしめたのも、私の前だけで見せた弱みだったのかもしれない。病名も言わず黙って死なれたことはやっぱり悔しくなるときも、いまだにときどきあるけれど、でも、最期を前にすがりついたのは直江の場合倫子だった。それでいい・・・

やがて、ミツは帰り際にこう言った。
ミツ:「あのね、志村さん、私ね、小橋先生の大学病院の食堂のまかないでお仕事してるんですよ」
倫子:「へぇ、そうなんですか」
ミツ:「カレーをね・・・ちょっと工夫させてもらったら・・・そしたら、先生方や看護婦さんの間で評判すごくいいんです。」
「うちのやつのカレーが食べたい」そう言っていた石倉の顔が浮かんだ。
倫子:「石倉さんご自慢の奥さんのカレーですね」
ミツ:「ええ! 志村さんも・・・いつか、作ってお届けします」
倫子:「うれしいわ、楽しみに待っています。」

外はぼちぼち晩秋の柔らかな日差しになっていた。

続く

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