自室に戻った結子は、膝を抱え床に座り込んでいた。まんじりともせず、時折、涙を膝頭でぬぐった。涙が意識を怠惰にし、精神の疲れが考えることを拒否していた。なぜ、自分が泣いているのかさえはっきりと自覚できなかった。
父が自ら命を絶ったことが悲しいのか、母に欺かれていたことが悲しいのか、それとも、母を詰問し、追い込んでしまった自分が嫌で悲しいのか。そのいずれもが原因のような気もするし、また、いずれもが今の自分の気持ちを正確には表していない気もする。
(ひとりぼっちだ……)
例えようのない寂しさが結子を支配していた。
(お父さん、私のことをどう思っていたの?)
写真の中の支笏湖を見つめた。
どれくらい時間が経ったのか。結子は朦朧とした意識の中で、誰かを求めていた。素直に泣ける相手を求めていた。自分が孤独ではないことを実感として確かめたかった。
(そばにいて欲しい……)
中江の落ち着いた瞳が頭をよぎる。
――自分をいつも見守ってくれる瞳
(何も話してくれなくていい。ただ横にいてくれればいい)
心の彷徨は時に真実にめぐり会う。自分にとっての中江を、今、結子は自覚したのだった。