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はとぽっぽさんが書いたサイドストーリー 「君に伝えたいこと」


■ あの日の出会い

あれは・・・陽介が生まれるほんの少し前の出来事だった。

その日、倫子は大きく膨らんだおなかで電車に乗っていた。
臨月に入る前にどうしても行きたい場所があったから・・・ただ途中で気分が悪くなっていた。満員に近い電車は今の倫子にはちょっと無理だったのかもしれない。
駅ひとつくらいならタクシーを使えばよかったかな。と倫子は思いながら早めに、降りるためドアのほうへ移動しようと立ち上がった。

「大丈夫ですか?気分が悪そうですけど・・・」
「はい・・・大丈夫です」
そういって顔をその人に向けた倫子は心臓が止まるくらい驚いた。
(直江先生?・・・)
一瞬、患者さんに病状を聞くときの直江先生と同じ顔がそこにあったのだ。
倫子の様子にけげんそうな顔をして、それでもその人は倫子の体の調子を心配してくれているようだった。

どこまでいかれますか?」
「次で降ります」
「私も同じですから、近くまで送りますよ」
「いえ、そんな大丈夫です。ちょっとめまいがしただけですから・・・」
恐縮してしまった倫子にその人は笑って言った。
「心配なのは私が医者だからですよ。」
(えっ?医者・・・?)
手に往診用らしき鞄を持っていた。さすがに白衣はきていないけど・・・。お医者さまか・・・でも似ている。直江先生とは違いその顔には苦悩しているような影はみじんも感じない。小橋先生のような雰囲気を感じさせる。脈をとって・・・うん。・・・というとドア近くの席を空けてもらっていた。お礼をいって腰をおろすとその人がいった。

「もうすぐ予定日なんじゃないですか?」
「産科の先生なんですか?」
「大学の仲間がそちらに進んだので話をする程度で、専門外ですよ」
「そうなんですか。もうすぐ臨月に入ります」
「そうですか。少し血圧が高いかもしれないから、無理な外出はこれからは控えたほうがいいですね」

電車が駅についた。改札を出るまでその先生は人ごみから倫子を守るようについてきた。
不思議だった。直江先生との思い出のカフェにどうしても行きたくなって出てきたのだ。
本当はボートに乗りたかったんだけど・・・さすがにそれは無理だから。

「もう、ここで大丈夫です。ありがとうございました」
倫子がそういうとにっこりと先生は笑った。直江先生が引き合わせてくれたのかも知れないと思った。
「元気なお子さんが生まれるといいですね」       
「ありがとうございます」
「じゃあ。気をつけて」
「はい。ありがとうございました」

笑って去っていくその人の背中にふわっと風が吹いた気がした
(まさか・・・直江先生ですか?)
 直江先生が言いたかっただろう言葉をあの先生にかわりに言わせたのかもしれない。
(ありがとう、直江先生・・・)                                 
この小さな奇跡がとても大きな意味を持っていたなんて、その時の倫子にはわかるはずもなかった。

・・・そして、陽介が生まれた・・・

(直江先生・・・見ていてくれてますか?)

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