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由香里さんが書いたサイドストーリー 「白い影−命の輝くとき」


■ 結ばれる二人の魂 4

倫子は庸介の横顔を見つめた。何かを見ているような庸介の横顔は光の中でさらに白く、透明にさえ感じてしまう。
いつだったか・・・。庸介の前で、何も出来ない自分が悔しくて泣いたことがあった。石倉由蔵につく嘘が辛く、誰に対しても何も出来ない自分がただ悔しく、悲しかった。
いつの時も冷静に黙々と仕事をこなしている庸介の心の裏側にも、自分と同じような感情が揺れ動いていた。彼の心の中のそんな思いは、倫子自身、今まで何度も味わってきた思いと同じものだった。

『先生にも・・・そんな思いがあったんですね。私もです。私も、先生と同じ気持で・・・』
小さく倫子はつぶやいた。
『この仕事が好きで看護婦になったのに・・。何も出来ない自分が辛かった・・。
石倉さんにも宇佐美さんにも。苦しんでいるのに、ただ見ていることしか出来ない自分が悔しかったんです。ずっと・・・。』
『そうか・・・』
庸介はそっと倫子に微笑みかけた。
『北海道は一度も行ったこと無いです。先生のふるさとって、今も深い雪に埋もれているんでしょうね』
降りしきる雪と、厚い氷に覆われた北海道の大地を倫子は思い浮かべた。凍りつくような厳しい寒さであっても、広大な大地を埋め尽くした汚れない雪の美しさに、誰もが目を奪われるに違いない。

『暖かい雪を知っているか・・・?』
倫子の言葉をじっと聞いていた庸介は、倫子の思いに答えるように言った。
『暖かい雪・・・?』
『ん・・・。北海道の雪は、暖かくなって初めて降る。それまでの・・・凍りつくような冷気から身を守ってくれるように、雪は寒さをやわらげてくれる・・・そんな優しい雪が好きだった。
凍えるような凍てつく夜は、ずっと雪が降るのを心待ちにしていた』
庸介はそっと倫子の髪に指先を添えた。
『北海道の雪は、 東京の雪とは違う。それは空気が格段に澄んでいるからだ。故郷の空に降る雪は静かに降りつもり、地上に舞い降りてもなおその輝きを失わない力強さがある。
厳冬期の雪の白さこそが・・北海道の本当の姿なんだ。厳しく辛い季節ではあっても、その自然を見た時、言葉には代えられない素晴らしい感動がある。そして・・・凍えるような冬でも、川の水は暖かい・・・。北海道の春は遠いが、春が間近になれば、川のほとりから花が咲くんだ。』

『川のほとりから・・・?』
『ん・・・。広大な大地に寄り添うように流れる川は・・季節を運び、そして新しい命をはぐくむ』
『新しい命・・・』
『その流れは永遠に等しい。厳しい酷寒の大地にあって、川は澄みきって流れ続けて・・・四季のめぐる中、永遠に命の恵みをはぐくんでゆくんだ』
『・・・』
『そんな自然の前では、人間の命はあまりにもちっぽけで儚い・・・』
『儚い・・・命・・・』
『そうだ。だから・・・医者になりたいと思った。そんな儚い人間の命が、あまりにも愛しく思えて・・・』
『命が・・・?』
『ああ。儚い命なら・・・人の命に必ず終わりがあるなら、それを守りたいって・・・いつもそう思っていた。不思議に川の前に立った時、子供心にずっとそう感じていたんだ』

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