|
|
台風一過 その頃海外に出たことなかった僕にとって、八重山諸島はほとんど海外に等しかった。中でも大コウモリが町中にいたりする西表島は僕らを子供に変えてしまう、常識を越えた魔法の島だった。当時、この島には僕らの他にもここを天国と感じて住み着いている旅行者達がいた。僕はひどく彼等に憧れつつも、浪人までして手に入れた大学生という身分を捨てる事はできなかった。 台風が去った後、海はまだいつもの美しさを取り戻してはいなかった。 仕事に復帰する人達とフェリーに乗り、西表島から石垣島に帰って来た時、気つけばもう本土に帰るお金は残っていなかった。ここんとこ、舞い上がりっぱなしで、それまで残金の事なんか考えてなかったのだ。これからどうしようか?いきなり現実に引き戻された僕は急に祭りの後のような寂しさに襲われていた。 ともかくもう宿に泊まるわけにもいかないので港の近くの公園に移動して寝ていると、そこに西表島で出会った早稲田の学生ヒロシが現れた。彼もお金がないので今日はここで寝るという。なんだか少しはホッとした。 南国とはいえ日没後、空気はやっぱり冷えてくる。西表島のジャングルで靴を失い、沖縄で買った米軍の払い下げのタンクトップしか持ってない身では気温がすごく良く分かる。そのうち寒さに耐えれなくなった僕はベンチから電話ボックスに移り、コンクリートの床にエビのように丸まった。 深夜コツコツとガラスを叩く音がする。『やばい!警察か』慌てて飛び起きるとヒロシが立っていた。『坪井さんホテルで寝ましょう』『へっ?何言ってんの』『いや、今ちょっと見てきたら奥の会議室の鍵が開いてたんです。あそこで寝ましょう。』『・・・』『大丈夫です。僕に任して下さい。』 こいつ何て事言うんやと思いながらも、僕らはこっそり石垣島NO,2のホテルに忍び込んだ。ヒロシの先導で階段を上がると確かに会議室の鍵は開いている。しかし本当にこんな事していいのか?。戸惑いながらもまたもや例のワクワク感がよみがえって来た。罪悪感とスリル満点のドキドキの狭間で興奮しながら内側から鍵を掛けると、緊張感から解放されたせいかどっと疲れがでた僕はすぐに机の上で熟睡してしまった。 ぐーすか寝ていると明け方またヒロシに起こされた。『坪井さん、ぼちぼち脱出しましょう。これ以上いると危険です。いいですか、もし途中でホテルマンと会ってもびびらないで下さい。堂々としてると向こうは絶対気付きませんから』 しかしその日、那覇に向かったヒロシを港から見送った僕の状況は何一つ良くなってない。またひとりになったなと思いながらバイクの置いてある所へ行くと、新品のバイクに合わせたて買った、お気に入りだった同じカラーリングのメットが盗まれている。寂しそうなバイクを見てると怒りや悲しさを超えてなんだか笑えてきた。いいや、どうせ本土に帰る金もないのならとヤケになった僕はその場で日本最南端の島、波照間島行きのフェリーへと乗り込んだ。 |
お金がない。ガソリンもない |
この救いのない状態を 潮風を受け走っているとなんだか無性にコーラが飲みたくなった。仕方ないのでバイクを道端においてガソリンスタンドで水をもらい、ボトルにつめる。3時頃あまりに腹が減ったので砂浜にバイクを止め、パンでも食おうとヤシの木の木陰に座るとそのまま動けなくなってしまった。 |
ポカラ16号(1999年10月) |
HOME NEWS
アラスカフィッシングツアー 僕流その日暮らし アマゾン漂流日記 行動履歴書
地球で出会った人たち 沖縄ビンボー旅行記 穴吹川イカダレース 海外ツーリングのツボ 主夫日記 World魚っち
アフリカ&中東の旅 World魚っちSpecial Version 11年間の世界放浪 お手紙ください LINKS
keiko@a.email.ne.jp
©坪井伸吾 このサイトに置かれているすべてのテキスト、画像の無断転載を禁じます