これはモーツァルトが14歳の時に初めてコミッションによって作曲したあまり上演されないオペラだそうです。ストーリーはラシーヌの歴史に基づいた悲劇が源。黒海の南部、現在はトルコにあるポントスの王様ミトリダーテ(紀元千124~88年)の末期の息子2人との葛藤を描いたものです。1770年にミラノで初上演された時はバレーも入れて6時間の長さだったにも拘わらず、モーツァルト自身がチェンバロを弾きながら指揮をし、大好評で22回上演されたとのこと。しかし、その後は1971年にザルツブルグでリバイバルされるまで一切上演されなかったそうです。22のアリアがあって、デュエットは1つだけ。後々のモーツァルトを思わせるアリアが2、3ある以外はかなりヘンデル的な作りで単調。時差のせいでミントで睡魔と戦いながらの鑑賞となりました。
シャトレー座でのプロダクションは指揮クリストフ・ルセ、ミトリダーテ役ジュゼッペ・サバティーニ、シファーレがバルバラ・フリトリ、ファルナーチェが今、評判のカウンターテナーのブライアン・アサワ。99年4月にリリースされたCDではルセの指揮でサバティーニ、アサワが同じ役の他、チェチリア・バルトリとナタリー・デセイという顔ぶれ。バルトリは体形的に無理があるせいか舞台ではパンツ役はしないし、デセイは「ホフマン」でオリンピアをしていたので無理ということで、CDに劣らないキャストでした。
アサワの代役はあのズービン・メータの甥のベジュン・メータ。最近、何故かアサワ、メータ、デイビッド・ダニエルズなどカウンター・テナーが沢山、登場しており、ヘンデルのオペラなどで活躍しています。アサワはとてもきれいな声でテクニックもあるのですが、小柄で声量があまりないので、シャトレー座のように小さ目な劇場でもちょっとしんどそう。新プロダクションで、とてもシンプルでジョルジョ・デ・キリコ、そして人物が登場するとポール・デルボーの絵を思わせるセット。ル・モンドは酷評していたので、期待値を低くしていたせいか、それよりずっとよかったので、私と同じ週末に同じく「ホフマン」と「ミトリダーテ」を観ていたフィナンシャル・タイムズの評論家の好意的な批評に近い満足感でした。
アサワ以外は全員、イタリア人キャストだったので、とても気持ちよくイタリア語を聴くことができました。尤もイタリア語はできないのでフランス語の字幕で大助かり。ル・モンドの酷評とあまり知られていないオペラのせいか、バスティーユと違って、チケットは2週間前位に購入したのだけれど、結構よい席でした。シャトレー座は今シーズンはグリュックの「オルフェオ」と「アルセスト」をバロック・オペラで有名なジョン・エリオット・ガードナーの指揮、常に斬新的な演出で評判のロバート・ウィルソン監督という組み合わせで上演しており、バロック・オペラを中心としたクリストフ・ルセ指揮によるCDも幾つか出しており、なかなか意欲的です。
さて終演後、劇場の外で人だかりがあったので何かと思ったら、前の噴水でオールヌードの男性が騒いでいました。寒いのにご苦労さま。