指揮 ジェームス・レヴァイン
監督 エライジャ・モシンスキー
ザッカリア サミュエル・レイミー
イズマエレ グウィン・ヒューズ・ジョーンズ
フェネーナ ウェンディー・ホワイト
アビガエレ マリア・グレギーナ
ナブッコ フアン・ポンス
「ナブッコ」はヴェルディが1840年に初めてのコミック・オペラ「1日だけの王様」が失敗したり、最初の妻、2人の子供を失うなど失意のどん底で作曲して出世作となった作品だそうだ。メトは60~61年のシーズンに14回、上演して以来、今シーズン初めて上演した。ジョン・ネイピアがデザインした新しいセットはエルサレムの神殿はピラミッド色の石のイメージで作られており、回転舞台の反対側のバビロニアの王宮は黒曜石っぽいイメージでアッシリアの遺跡にあるような翼が生えた人間が王座を飾っている。第一幕のバビロニア兵が神殿を破壊するシーンでは兵士達が放火すると神殿のライブラリーが燃える仕組みになっており、とても迫力があった。ネイピアはロイヤル・シェークスピア劇団のアソーシエート・デザイナーでブロードウェイではキャッツ、スターライト・エキスプレス、レ・ミゼラブルなどを手掛けてトニー賞を受賞している。
まず、イスラエル人のコーラス。「ナブッコ」はヴェルディの他の作品に劣らずコーラス部分がよいと思うのだが、レヴァインは一度に沢山、色々の作品を手掛けて連日指揮しているせいか、ちょっと指揮が荒くてコーラスとテンポが合っていないのが残念。でも第三幕の「行けわが思いよ、金色の翼に乗って」は素晴らしい出来で、アンコールとなった。初演を観られたMさん、別々の晩に行った数名の友人達からこの曲はアンコールされていたと聞いていたし、土曜のラジオ生放送でもアンコールしていたので、きっと全公演でアンコールしていたのだろう。「金色の翼」はイタリアの非公式の国家とも言われオーストリア圧制下のイタリア人の独立の悲願として人気があったそうで、何でもヴェルディのお葬式ではトスカニーニが嘆き悲しむ数十万人を指揮したとのこと。日本の音楽関係者の間では「きんつば」と呼ばれているそうだ。
最初のコーラスの後は待望のレイミー様のご登場。威厳があり、うーん、やっぱりこのお声にはうっとり! 21日の「ナブッコ」のラジオ生放送後、NYタイムズのオペラ・チャット・ルームをチェックしたらラジオで聴いていた人が「高音がゆれていた。いよいよ年か!」と書いているのに対して「いや、自分は会場で聴いていたが、決してそんなことはなかった。マイクのせいではないか。」などと書いている人がいたので、本番でゆれていたらどうしようと思ったが決してそんなことはなかった。まだ高音もちゃんと出ているし、まだまだ大丈夫。Mさんにラジオ放送を録音したテープをお送りし、チャット・ルームのゴシップをお知らせした所、早速チェックされて「絶対にそんなことはない」とのお返事があった。
アビガエレ役のグレギーナはちょっと高音がはずれたりするのだけど、迫力ある熱演でまったく気にならない。神殿や王宮は沢山、階段があり、特に王座はまっすぐな階段で手摺もないのに、長い衣装も気にせずに降りて来たのではらはらした。ユカタン半島のチッチェン・イッツァで91段の階段を登ぼるのは簡単だったけど、降りようと見下ろすととても怖く、思わず鉄のチェーンをつたって階段を後退りしたのを思い出した。それに私などはミディ丈のコートなどでも階段でしょっちゅう裾を踏んでしまう。着慣れないロングドレスで走って、恥ずかしくも裾を踏んで転んだこともある。(ロングドレスで走ったりしないって?)最後に自殺するシーンでも高い場所で舞台端すれすれに倒れたので息をのんでしまった。
フアン・ポンスは声はよいのだけど、イタリア語はRの巻き舌がすごくってべらんめえ調で、何だかやくざだ。ファビオ・アルミリアートが不出来で降ろされた為、イズマエレ役はグウィン・ヒューズ・ジョーンズというウェールズ出身のテナー。Mさんが送って下さったウェールズ国立オペラの「ナブッコ」のビデオでも同じ役だったが、とてもクリアなテナーで声量もあり、なかなか上手。ちょっところころしているのは許すことにしよう。
さて、この晩の舞台はビデオ収録されていたので、しばらくしたらTVでも放映されるので今から楽しみだ。後日、視聴者に会場の興奮が伝わるようにと私も一所懸命、拍手した。そのうちに日本でもNHKのBSあたりで放映されるのでは?