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  例3: 素朴な貨幣数量説を対数微分を用いて増加率の関係に変形(『入門マクロ経済学第三版p.110.) 

  [設定]  

   t:  時間(ここでは、単位が年だとする)、

   P(t): t時点における物価水準、

   Y(t): t時点における実質国民所得、

   M(t): t時点における名目貨幣供給量、

   k :  時間にかかわらず一定であり続ける定数(マーシャルのk:貨幣の流通速度の逆数)

  とし、これらの間に、

   P(t) = M(t) ( k Y(t) )     …@ 

  という関係が成り立っているとする。 

   なお、P(t), Y(t), M(t), k 0 、P(t), Y(t), M(t)はすべてのtの範囲で微分可能 …A  

  [対数微分を用いて、@を増加率間の関係の形に変形] 

    手順1. 等式@が成り立つなら、その両辺の絶対値対数をとった等式も成り立つ。  

     log| P(t)| = log| M(t) ( k Y(t) )|  

       Aより、

     log P(t)  = log { M(t) ( k Y(t) )} 

          = log M(t) log ( k Y(t) ) ∵対数の性質 

          = log M(t) −(log k logY(t) ) ∵対数の性質     

          = log M(t) log k logY(t)  …B   

    手順2. Bの左辺をt微分する関数の対数の微分を適用。

     ( log P(t) )’= P ' (t)P (t)  ∵Aのもとで関数の対数の微分 

                          …C 

    手順3. Bの右辺をt微分する関数の対数の微分を適用。 

      ( log M(t) log k logY(t) )’=(log M(t) )’−(log k)’−(logY(t))’∵関数の和の微分   

          = M ' (t)M (t)−0−Y ' (t)Y (t) ∵Aのもとで関数の対数の微分,定数の微分   

          = M ' (t)M (t)Y ' (t)Y (t)  …D        

    手順4.等式Bが成り立つなら、その両辺を微分した等式も成り立つ。

      ( log P(t) )’= ( log M(t) log k logY(t) )’ 

      CDの結果を代入して、

       P ' (t)P (t) = M ' (t)M (t)Y ' (t)Y (t) …E 

   [Eの左辺の解釈] 

    t時点における物価水準P(t)導関数  

         ∵微分係数の定義 

    の意味を考えてみる。 

    まず、分子P(t+t )P(t)は、t時点の物価が、瞬間的な時間の長さt経過後、

                どれだけ上昇したのかを示している。 

    これを、瞬間的な時間の長さtで割ることは、

           tの単位あたり、ここでは「年次あたり」に、換算することを意味する。

    ゆえに、P(t)の導関数全体は、t時点という「瞬間」における物価変動が  

     「年率換算」を施すと何ポイントの上昇幅となるのかを意味している。   

    ということは、P ' (t)P (t)は、 

       t時点の「瞬間」的物価変動の年率換算値は、

       t時点における物価水準の

       何パーセントにあたるかを、意味している。 

    これは、t時点という瞬間の物価上昇率(インフレ率)にほかならない。 

    瞬間なのに、単位は「年」何パーセント、となることに注意。   

   [Eの右辺第一項の解釈] 

    t時点における名目貨幣供給量M(t)導関数  

         ∵微分係数の定義 

    の意味を考えてみる。 

    まず、分子M(t+t )M(t)は、t時点において市中に出回っている貨幣供給量が、

    瞬間的な時間の長さt経過後、どれだけ増えたのかを示している。      

    これを、瞬間的な時間の長さtで割ることは、

           tの単位あたり、ここでは「年次あたり」に、換算することを意味する。

    ゆえに、M(t)の導関数全体は、t時点という「瞬間」に市中へ「新たに」出てきた貨幣量が  

     そのペースで一年間出てきたとしたら何円になるのかを意味している。   

    ということは、M ' (t)M (t)は、

       t時点の「瞬間」に市中に「新しく」出てきた貨幣量の年率換算額は、

       t時点に既に市中で使われている貨幣の総量の

       何パーセントにあたるかを、意味している。

    これは、t時点という瞬間のマネーサプライ増加率ないしマネーサプライ成長率。 

     単位は、瞬間なのに、年何パーセント。 

   [Eの右辺第二項の解釈] 

    t時点における実質国民所得Y(t)導関数  

         ∵微分係数の定義 

    の意味を考えてみる。 

    まず、分子Y(t+t )Y(t)は、t時点の国民所得が、瞬間的な時間の長さt経過後、

                どれだけ増えたのかを示している。

    これを、瞬間的な時間の長さtで割ることは、

           tの単位あたり、ここでは「年次あたり」に、換算することを意味する。

    ゆえに、Y(t)の導関数全体は、t時点という「瞬間」における国民所得の増大が  

     「年率換算」を施すと何ポイントの増大幅となるのかを意味している。   

    ということは、Y ' (t)Y (t)は、

       t時点における国民所得の「瞬間」的増大幅の年率換算値は、

       t時点における国民所得の

       何パーセントにあたるかを、意味している。 

    これは、t時点という瞬間の経済成長率にほかならない。 

    瞬間なのに、単位は「年」何パーセント、となることに注意。

   [Eの右辺全体の解釈] 

    だから、Eは、インフレ率(%/年)は、

         貨幣供給量の増加率(%/年)から経済成長率(%/年)を差し引いたものである、

    と主張していることになる。

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