■ 2019年に観た映画
  
2019年12月 「キング・オブ・コメディ」
「ジョーカー」映画会に向けてみた最後の一本。この作品がもっとも「ジョーカー」に影響を及ぼしている。コメディアンを目指す男が人気コメディアンに憧れ、接触するくだりは「ジョーカー」そのまんまだ。自宅で一人、自分が有名になった想定で一人二役を演じるシーン、年老いた母親と二人で暮らす設定も同じだし、さらに本作の主人公を演じるロバート・デ・ニーロが「ジョーカー」では人気コメディアン側を演じているという手の込みよう。
 本作では、笑いという狂気にとりつかれ、常軌を逸していく過程が本当に恐ろしくて興味深い。スコセッシ映画の中で、これが一番好きかも。
2019年12月 「シュガー・ラッシュ:オンライン」
ゲーム世界を舞台にした一作目に続き、本作ではインターネット世界が描かれる。eBayやamazon、googleなど、実在のサービスやサイトがばんばん出てくるので、それを眺めているだけでも楽しい。主人公のラルフとヴァネロペが途中で仲たがいするが、これはそのままアナログ派vsデジタル派の構造になっている。つまり彼らの対立を通して、ネット社会の是非を問う内容ともなっているのだ。予告でも話題となっていた、過去のディズニー作品に出てきたプリンセス達が一堂に会し、自虐的ともとれるやりとりをするシーンも面白かった。
2019年12月 「デス・ウィッシュ」
1974年公開の『狼よさらば』のリメイク版。渋さ全開のチャールズ・ブロンソン主演ならさまになるが、これがブルース・ウィリスとなるとそこまでの味は出ない。前作はどうだったか覚えていないのだが、犯行に及ぶ際、フードをかぶるだけというのも、そんなのすぐにばれるだろうと興ざめに思えてしまう。前作を超える部分は、どこにも感じられなかった。
2019年12月 「突撃隊」
ドン・シーゲル監督の、地味だけれど見ごたえのある戦争映画。スティーヴ・マックィーン演じる無頼なリーズを始め、しっかりしたキャラクター設定を描いてくれるので、戦局での各自の行動に説得力があり、見ていて楽しい。
2019年12月 「アルカトラズからの脱出」
同じく脱獄を描いた大傑作「」と比べると、迫力やドキドキ感の面でどうしても見劣りしてしまうけれど、最後まで飽きずに見させる力はある作品だと思う。想像した範囲内にすっぽり収まってしまう、衝撃の薄い、それでも手堅いと言えば手堅い作品。
2019年12月 「王立宇宙軍オネアミスの翼」
宇宙を飛びたい、というのが本作の大目的でありテーマだから、そこに乗れない僕としては、作品自体をそこまで面白いと思えず、ラストの爽快感も薄まってしまう。大衆映画としては、宇宙遊泳に興味がない人をも巻き込んで面白がらせることがポイントだとどうしても思ってしまうので、本作にあまりいい評価をつけられない。
2019年12月 「トゥルー・グリット」
西部劇に乗れない僕の嗜好のせいかもしれないが、あまり面白いと思えなかった。勝ち気な少女が大人を手球に取って敵討ちの手はずを整えていく序盤はワクワクさせられるのだが、その後に出てくる保安官のルースター、レンジャーのラ・ビーフ、敵役のチェイニーに至るまで、ほとんどキャラが立っておらず、見どころに欠ける展開が続く。とくに、荒くれ者で無謀なおこないもするが人情に厚いルースターが魅力的に思えないのが痛い。そして、最大の敵をやっつけた後の20分程度は蛇足でしかなく、退屈だった。
2019年12月 「刑事マディガン」
ドン・シーゲル監督作にしては、ぱっとしない出来。タイトルにもなっている主人公のマディガン刑事より、ヘンリー・フォンダ演じる警察本部長の存在感が大きく、警察本部長と汚職刑事との友情エピソードも中途半端だし、不倫しまくる登場人物達もいただけない。
  
2019年11月 「パパはわるものチャンピオン」
大好きなパパの職業がプロレスの悪役レスラー“ゴキブリマスク”だと知り、ショックを受ける小学生の祥太。ゴキブリマスクはかつて善玉のエースとして活躍していたが、ケガの影響で今は落ちぶれ、悪役レスラーとして再臨した。いつもはやられ役だった彼がトーナメントで運良く勝ち上がり、チャンピオンと対決する。邦画のベタで下手な演出満載で、映画の作りとしてはいただけない部分も多いが、元プロレスファンとして、最後の展開には涙せざるをえなかった。善玉エースが復活したから尊いのではなく、悪役レスラーとして頑張る姿が尊いのだという着地も良い。
2019年11月 「皆殺しの天使」
ルイス・ブニュエル作品を見るのは、『昼顔』に続き二作目。ある館に集まった上流社会の人々が、なぜか館から出られなくなるという不条理劇。出られない理由は、単に「出ようとしないから」ということに全員が気づいていないというおかしさ。詩的で難解な表現にならず、意外にわかりやすい作品に仕上がっている。
2019年11月 「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」
僕としては一作目よりも面白く見られた。今回はジョシュ・ブローリン演じるマットの影が薄く、ベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロがほぼ主役となる。彼の場面と並行して、最初から一人の少年の行動が丹念に描かれ、最後に彼らが出会うところにしびれてしまう。こういうところが映画の醍醐味だ。ラスト前の展開はやや強引で納得しがたいものの、堅実に作られ、難解でもない、良作だと思う。
2019年11月 「ペンギン・ハイウェイ」
冒頭のあたりは自然な展開で引き込まれ、期待を持って見ていた。ただ、主人公のアオヤマ君がハマモトさんと森にでかけるあたりから物語のバランスが崩れ始める。いわゆるダブルヒロイン物なのだが、お姉さんが途中で突然出てこなくなるなど、その処理がうまくいっていない。また、ペンギンがなぜか日本に現れる、あたりまではいいけれど、お姉さんの投げたコーラが云々、という展開からはあまりに唐突でついていき難い。映画でファンタジーを表現する場合、小説と違って露骨に映像になってしまう分、かなりのセンスがないと間抜けな結果になる。いろんな要素が詰め込まれ、整理しきれずに終わった感じ。
2019年11月 「乱れる」
成瀬巳喜男監督らしい大仰なメロドラマだが、序盤はじっくりと描いてくれて見ごたえがある。そのぶん、終盤になって二人で山形へと向かう際、列車でのシーンがあまりにも長すぎ、その後の展開があまりにも急すぎるので戸惑ってしまった。
2019年11月 「ベルリン、アイラブユー」
ベルリンを舞台に、様々な人間模様がオムニバス的に描かれる。わざと深いところまで描かないところがオシャレにも思えるし、物足りなくも感じる。違和感なく見られるが、後に残るものも薄い。
 ヘレン・ミレン、キーラ・ナイトレイ、ミッキー・ロークあたりが平然と出演していて驚く。WOWOWの放送が日本初公開らしく、これから劇場公開がされるのかもしれない。
2019年11月 「ジョーカー」
今年最大の問題作の一つ。本作に関する映画会に参加するため、劇場に見に行く。日をおいて2回、鑑賞したが、なかなか重層的な作品だと感心した。バットマンの宿敵ジョーカーの誕生秘話というテーマがメインだが、ところどころ明らかにジョーカーの妄想と思われるシーンが含まれ、最終的に全部を引っくり返す仕掛けも用意されている。これまでのバットマン映画との整合と目くばせ、スコセッシ映画へのオマージュ、その他のクラシック映画や監督へのオマージュ、現代アメリカ社会への批判などがふんだんに盛り込まれており、見どころは豊富にある。
 僕が一番ぐっときたのは、「笑い」に関する考察だ。笑いとはそもそも、虐げられた人びとが自虐的に自らの苦境を訴え、苦しみを昇華するところから生まれた。だからどうしても、人をバカにしたり蔑んだりする要素が入ってくる。そして当然のごとく、笑いを生み出す人の言動には差別意識、攻撃的意思が含まれる。ジョーカーはお笑い芸人を目指すけれど、うまく笑いを作れない。それはジョーカー自身が純粋な人間で、差別を悪いものだととらえているから。つまり、善人だからジョーカーは人を笑えないという道理だ。そこに彼の根源的な苦しみがあり、笑いを生み出すためにはそれまでの自分を捨て、完全な悪人として生まれ変わらなければいけなかったのだと考えれば、納得がいく。考えようによっては、ジョーカー一人が正しくて、世の中すべてが間違っているとも取れる。このあたり、非常によく出来ていると思う。
 最後に、数々の妄想シーンについて僕の勝手な考察を。隣人ソフィーとの恋愛模様がラスト近くのシーンで一気に否定され、これまでの幸せな思い出が全て妄想だったとわかる仕掛けがある。僕は、何もかもを否定的にとらえてしまうジョーカーだから、実は幸せな一連のシーンこそが本当で、最後の決別シーンだけが妄想だったと捉えられるのではないかと考えてみた。そうすると、彼の哀れさがいっそう引き立つように思った。
2019年11月 「ダークナイト」
『ジョーカー』映画会に向け、過去の関連作をいくつか見た。本作は、故ヒース・レジャーの圧倒的な演技が伝説となった、バットマンのリブート作。このジョーカーがあったからこそ、今回の映画『ジョーカー』が作られたのだと思う。本作を見返すことで、今回のホアキン・フェニックスの演技の凄みも再確認できた。
 ただ、映画全体として見れば、いろいろと難はある。いちばん気になったのは主要登場人物が多すぎるところ。バットマンとジョーカー、ハービー・デント、ジム・ゴードン(ゲイリー・オールドマンが演じるから存在感が大きすぎる!)、それぞれにドラマがあるから収拾がついていかず、ごちゃごちゃしてしまう。「バットマンを助ける老人」としてアルフレッド(マイケル・ケイン!)とルーシャス(モーガン・フリーマン!!)という二人がいてキャラがかぶっている。どっちか一人で十分だろう。アクションの見せ方もまったく上手くなくて、何が起こっているか把握しづらい。最後の船のシーンも、二つの船にそれぞれ囚人と一般人が乗っていることがわかりづらく、一つの船の別の部屋のようにも思えてしまう。そして見終わったあと、バットマンが颯爽と帰っていくのにもなんだか納得がいかない。
2019年11月 「バットマン」
こちらも「ジョーカー」映画会に向けて見た一本で、ほぼ十年ぶりの再見。ティム・バートンという人は僕にはまったくピンと来ない監督で、どの映画もちゃちな造りにしか見えず、見ていて馬鹿らしくなってくる。ジャック・ニコルソンは名優だと思うけれど、本作ではなんだか、“言われた通り”に演じているだけのように思えてしまい、ヒース・レジャーほどの魅力を感じられない。
2019年11月 「タクシードライバー」
これも「ジョーカー」映画会のために見た。内容はもとより、1970年代のうらびれたニューヨークの感じがたまらない。狂気に陥っていく(というか、最初から彼は狂っている)トラヴィスは、やはり映画史に残る存在感だ。行動の裏にはベトナム戦争の後遺症があるようだが、そのあたりの理屈は描かれない。事情は歴史から推測せよ、ということだろうか。ラストのおとぎ話めいた展開も皮肉が効いていて、逆にリアルにも思えて面白い。
  
2019年10月 「ベルヴィル・ランデブー」
大好きなアニメ映画。シルヴァン・ショメによる初の長編作品らしいが、実に堂々たるオリジナリティを発揮しており、既に老成した感もある。

詳細はブログを参照。
https://blog.goo.ne.jp/gen3_petcolumn/e/e72a4a36a2aca27268717be1c2e2de7a
2019年10月 「ジョルスン物語」
ミンストレル(白人が黒人の真似をしておこなうショー)から身を立て、スターになっていくアル・ジョルスンの半生を描く。さほど大きなドラマ的展開は訪れず、穏やかに見られる。最初は師匠だったがのちにマネージャーとしてこき使われるスティーブが、味があってよい。俳優たちも総じていい演技だ。
2019年10月 「愛しのアイリーン」
今年に見た邦画の中でも、胸に突き刺さって忘れられない一作となった。田舎特有の土着的、排他的な人間感、そこで育った男のどうしようもない閉塞と暴走。そしてそれに巻き込まれるだけのフィリピン女性、アイリーン。いたたまれない展開が続くが、僕は見終えて不思議に爽やかな気持ちを感じた。『さんかく』『ヒメアノ〜ル』と力作を続けてきた吉田恵輔監督の、新たな代表作だと思う。
2019年10月 「こねこ」
珍しいロシア製映画。音楽家一家の元にやってきたやんちゃな子猫チグラーシャが引き起こす騒動がまず第一部。その後、街に逃げ出したチグラーシャがたくさんの猫を飼っている雑役夫のフージェンと出会い、地上げ屋と猫たちとの闘争が繰り広げるのが第二部。どちらも、猫の自然な動きだけでドラマを作り、変な擬人化もナレーション付けもないから安心して見られる。実にまっとうに作られた猫映画だから、誰が見ても楽しめる一作。

詳細はブログを参照。
https://blog.goo.ne.jp/gen3_petcolumn/e/9f801a8ddc4f6368a1e3d9bb2da5d332
2019年10月 「若おかみは小学生!」
かなりの話題作かつ高評判なのを聞き、見てみた。驚くほどベタでありがちな人情話、教訓話が鼻につき、僕にはまったく大した映画には思えなかった。「幽霊のウリ坊と会話をし、おっこがウリ坊に怒鳴るけれど、他の人にウリ坊は見えないから自分に言われたと勘違い」という展開が何度も何度も繰り返され、辟易する。占い師の水領、母を亡くした少年などのエピソードもわざとらしくて白ける。そしてクライマックス、宿泊客が実は、という展開はあまりにご都合主義で、これまた白ける。
2019年10月 「サボテンの花」
ゴールディ・ホーンが、キャラクターそのままの奔放な演技を見せ、アカデミー助演女優賞を獲得している。とにかく彼女の天性のかわいさにやられてしまう。もちろん名優ウォルター・マッソーの演技も素晴らしいし、イングリッド・バーグマンの枯れた美しさも見応えがある。なにより、映画全体を覆う温かさが心地よい。
  
2019年 9月 「浮雲」
なんともまあ壮大な大衆メロドラマだ。依存心しか持たない駄目な男女が、その行いのままにどうしようもない運命をたどる。恐ろしいほどに表面だけをなぞった内容だが、こうしたものが当時は求められていたのか、それとも現代の邦画も似たようなものなのか。しょせん人間とはこんなもの、ということかもしれないけれど、だったらもう少し深いところまで描いてほしい。
2019年 9月 「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」
以前に見たものを、妻と共に再見。一回目よりも楽しんで見られた。監督でもあるジョン・ファヴローの演技が素晴らしく、まさにああいう人がそこにいるとしか思えない。おそらく彼が真に描きたい世界だったのだろう。途中、すべてがうまくいってトラブルが起こらないところは不満ではあるが、そのぶん安心して見られる良さもある。美味しそうな料理の映像とご機嫌な音楽の、見ていて本当に楽しくなる一作。
2019年 9月 「パリ猫ディノの夜」
ブログのために再見したが、実によくできたアニメ作品だと再認識した。プロットが練られていて、短時間にぎゅっと濃縮した面白みが詰まっている。3Dでは絶対に出せない味のある絵、それが小気味よくするすると動くアニメーションならではの心地よさ、そこに猫独特のかわいらしさを加え、見事なエンタテインメントに仕上がっているではないか。猫に不要な擬人化をくわえず、それでも猫がしっかり活躍し、かわいさも表現している。猫映画として、極上の部類に入る。

詳細はブログを参照。
https://blog.goo.ne.jp/gen3_petcolumn/e/949c699c7fc68600f824815917101642
2019年 9月 「素晴らしき日曜日」
「かわいい映画」というお題の映画の会に参加するために見た。僕は、かわいい映画と言われると、恋愛映画のいくつかを思い浮かべてしまうが、これはその一つ。
 舞台は、昭和20年代初頭。若い男女が、今では信じられないくらいの貧しさの中、お金を工面しながらデートを楽しむ。お金がないことで二人には様々な不幸が襲いかかるが、けなげな二人はなんとか励まし合って生きていく。映画の途中、思ってもみないメタ的展開がある(結構有名)が、それは見てのお楽しみ。戦後のお金のない中で撮られた、黒澤映画でも一番の小品だろうが、僕はけっこう好きな作品だ。
2019年 9月 「ホワイト・ドッグ〜魔犬」
これも、学生時代にビデオ屋のホラーの棚にあった気がする。歯を剥き出した犬のパッケージが印象的だったが、借りたことはなかった。黒人だけを襲うように躾けられた犬の物語。サミュエル・フラーといえば衝撃的な映像で見せる作品が特徴だが、今回はそこに物語性を加味しようとして失敗した気がする。
2019年 9月 「秋刀魚の味」
小津作品としては最高の部類に入る傑作。そしてこれが遺作らしい。年頃の娘を持つ初老男性の悲哀を、珍しく全面にユーモアを際立たせつつ描く。岩下志麻がとてつもなく美しい。あまりメインストーリーに関係ないところで、加東大介がかつての戦友として名演を見せてくれる。
2019年 9月 「フォロー・ミー」
こちらも、「かわいい映画」というお題の映画の会で紹介した作品。妻が最近浮気をしているのでは、と疑う夫が探偵を雇い、妻を尾行させる。間抜けな探偵はすぐに尾行がばれてしまうが、妻はどこか楽しそうだ。倦怠期に突入した夫婦の顛末を描き、ラストが実にさわやかでかわいい。大好きな映画。
2019年 9月 「ゲット・アウト」
去年の話題作だったから期待してみたが、まあこんなものかという出来。アイデア自体、さほど真新しいとも思えず、昨今の差別批判に便乗した感じがミエミエで興醒め。
2019年 9月 「穴」
こういう映画が好きだ。金をかけた派手な活劇などなくても、緊張感のある見せ場はいくらでも作り出せる。脱獄のための地味な作業がこれでもかとばかり延々と続き、見ているほうも神経をやられそうになるほど。ほんの些細なできごとでほころびが生まれるところもたまらない。出演俳優の一人が、本作のモデルとなった事件の実際の脱獄囚だったというエピソードもすごい。
 脱獄を描いた映画の中では珠玉の一本。2時間を超える尺が全く気にならず、一気に見られる。大傑作。
2019年 9月 「ビーチレッド戦記」
洋画専門チャンネル「ザ・シネマ」で放映されたものを、町山智浩さんの解説と共に見た。太平洋戦争において、日本の占領下にある島を舞台に米兵との戦闘が描かれる。敵となる日本側についても丁寧に描写されているところや、腕がもげたりする過激なバイオレンス描写が特徴的だが、渋い人間ドラマも見せてくれる。実に見ごたえのある戦争映画。
2019年 9月 「バリー・シール/アメリカをはめた男」
アメリカをはめた男というタイトルながら、主人公のバリー・シールがはめられている要素が大きい。これが実話というのが驚きではあるが、見せ場を作り出すためにストーリーが操作されている気がして、あまり乗れなかった。
2019年 9月 「瞳の中の訪問者」
大林宣彦監督による、ブラックジャックの実写化作品。大林宣彦監督は好きだけれど、さすがにこれは失敗作ではなかろうか。作りがチープでテレビドラマっぽいし、ブラックジャックもかっこ悪いし、ピノコもどうかと思うし。
  
2019年 8月 「火垂るの墓」
ずっと前に見た時には、悲しいお話だなあというくらいの感想しか持てなかった。久しぶりに再見し、戦中の風景や爆撃シーンの再現度などにかなりのリアルさを感じた。細部にこだわりのある映画には、圧倒的な迫力がある。捕まえたホタルを蚊帳の中に放して楽しみ、翌日にホタルが死んで大量の死骸を捨てるシーンから節子のセリフへとつながる、あの一連のシーンなど、美しさと人間のエゴと問題意識が同居していていやはや凄まじい。また、同じ時代を描いた「この世界の片隅に」を見たあとだから、焼夷弾の描写にも注目して楽しんだ。岡田斗司夫さんが語った本作の解説がとてもおもしろいのでおすすめ。
2019年 8月 「夢と狂気の王国」
ジブリの制作現場を映したドキュメンタリー。宮崎駿や鈴木敏夫などの関係者が、本当にただ出てくるだけの映画で、何らの主張も伝えたいことも見えてこない。監督はいったいどういう目的で本作を撮ったのだろう。
2019年 8月 「親切なクムジャさん」
韓国の巨匠と言ってもいいパク・チャヌク監督作。ときおり入る奇妙な演出がことごとく失敗し、物語の邪魔をしている。その割に話は一本調子で進むだけで意外性がない。バイオレンス描写も肝心なところはカットしたりなど、何をどうしたいのか、ぜんぜん伝わらない映画だった。
2019年 8月 「ペット」
ブログのために再見。邦題があまりにストレートすぎて、子供だましの映画っぽく思われてしまいそうだが、実に骨太のエンターテインメントを見せてくれる。犬や猫の特徴的な動きをしっかり研究して再現しているので、動物好きの人も安心して見られる、本当に良質な映画。

詳細は、ブログを参照。
2019年 8月 「止められるか、俺たちを」
ただぐずぐずとシーンが連なるのみで、若松監督を描きたいのか、アシスタント女性の人生を描きたいのか、映画を志す同志達のパワーを描きたいのか、さっぱり見えてこない。だから、若松監督のカリスマ性やバケモノぶりも感じられず、働く女性の悲哀も伝わらず、青春群像劇としてのわくわく感もない。井浦新の若松監督は、さすがにミスキャストだろうと思う。
2019年 8月 「ポランスキーの欲望の館」
いわゆる艷笑コメディ、というジャンルなのだろう。ヒロインがやたらエッチな格好で歩き回り、なぜか言われるままにエッチなことをし続ける。特にストーリーもなく、たどり着いた館で奇妙な人々に振り回されるだけの内容。ポランスキーがなぜこの映画を作ったのかよくわからない。妻を惨殺されて3年後の公開だから、とにかく何も考えずに見られる作品を撮ったのだろうか。女性の裸が売り物の映画、というにはそうしたシーンも少ないし。
2019年 8月 「ローマでアモーレ」
数年前に見たものの再見。昨年ローマに一週間滞在した後だから、だいぶ見え方が違った。ローマの町が本当に美しく撮影されていることだけで感激する。お話はいつものウディ・アレン調のいじわる節だが、そこまで悲惨な事態にならないのも見やすくてよい。やはり、シャワーで歌うシーンには笑ってしまう。大好きな俳優のロベルト・ベニーニが彼らしい役で出ているのも嬉しい。何気ない軽い映画のように思えるが、こんな風に映画を作るのって、きっととても難しいのだろう。
2019年 8月 「桜桃の味」
キアロスタミを頑張って見ているが、ここまで見た3作では「トラベラー」が一番良かったくらいで、本作は実験映画の域を越えていないと感じた。自殺願望のある男がその手伝いをいろんな人に頼むのだが、そのやりとりの中で相手の考え方や人生が見えてくる、というのが本作の意図だろうけれど、完成した映画がそれをうまく表現しているとは思えない。
2019年 8月 「無ケーカクの命中男/ノックトアップ」
特別にマジメなことを言うつもりはないのだが、僕はこうした映画を一つも面白いと思えない。無責任で人を避難するばかりの冴えない中年男が、一瞬だけ頑張る(本作なら本を三冊読んで出産に立ち会うというだけ)ことで、「憎めないヤツ」として受け入れられる。彼はこの先もずっといい加減な生き方で彼女を苦しめ続け、家庭を破壊するだろう。「憎めない」からこそたちが悪く、こういう男のせいで人が死ぬこともある。僕は実生活で幾度も出会ってきたこういう男が心底嫌いだ。そもそもこの映画、脚本として何ら魅力はないではないか。
2019年 8月 「PK」
大傑作『きっとうまくいく』と同じ監督&主演俳優のコンビなので、期待して見た。前作ほどの出来ではなかったが、十分に楽しめる内容だった。よその星から来た宇宙人が人間たちの習慣を奇妙に感じ、我々がいかに普段からおかしなことをしているのかを気づかされる。そのあたりはまあよくある話ではあるが、そこそこ楽しめる。インチキ宗教との対決で、大衆がそれを信じ救われたと感じるならば、インチキ宗教でも意味はあるのではないかという問いかけが一番面白かった。
2019年 8月 「リトルプリンス 星の王子さまと私」
『星の王子さま』の読書会に参加するため、再見。『星の王子さま』に出会った男が老人になり、過去の体験を絵本にして女の子に聞かせるという前半は悪くないものの、王子さまが地球に残っていてその行末を描く後半はドタバタするばかりで見どころは薄い。そもそも、原書自体がそんなに簡単に語り尽くせるものではないはずだから、最終的な着地も陳腐なものになってしまっている。
2019年 8月 「ミッション・インポッシブル・フォールアウト」
好きなシリーズなので毎作見ているが、だんだんとどうでもよくなってきた気がする。派手なアクションと、○○だと思っていたら××でした、という驚かせるためだけの展開のためだけに話が作られているようで、結局なにがどうなっているのか、見ている途中も終わってからも頭に残らない。トム・クルーズの熱演はそりゃ尊敬するけれども。
2019年 8月 「アシュラ」
韓国映画は、一時ほど面白い作品がすくなくて最近は離れていたが、本作は久しぶりにバイオレンス全開で面白く見られた。悪徳市長と検察官との抗争に、元警察官の主人公が両方と結託し、両方からいたぶられつつ抗争に巻き込まれるという、なかなかに独特で凝った脚本が面白い。両サイドが共に主人公を野放しにし過ぎるのがリアルに欠けるが、エンタテインメントとしてはこんなものかもしれない。
2019年 8月 「カリフォルニア・ドールズ」
近年までソフト化されることのなかった、ロバート・アルドリッチ監督の遺作。同監督についてはほとんど作品を見たことがなかった。女子プロレスラー二人とそのマネージャーがのしあがる様が描かれる。プロレスの描き方が、今や微笑ましいほどに拙く感じてしまうが、ピーター・フォーク演じるマネージャーが実に味わい深くて映画の品格を保っている。
2019年 8月 「暗黒街の弾痕」
岡本喜八作品は全部見ようと思っている。タイトルで想像するほどノワールな内容ではなく、ややファンタジー寄りのアクション娯楽作品といったところ。『独立愚連隊西へ』と同じ、加山雄三と佐藤允コンビが小気味良い芝居で見せてくれる。戦争をテーマに描いた諸作を期待して観るとがっかりするが、謎のコーラス隊などシュールなユーモアも散りばめられ、気軽に見られる良作に仕上がっている。僕の好みではないけれど。
2019年 8月 「ファンタズム」
少年の頃から、つまり40年ほど前から存在は知っていたものの、ずっと見ることがなかった。あの球形の物体が飛んできて襲うシーン、指をぶった切ると黄色い血が流れるシーンなど、断片的には何度も見た映像を、初めて通して見ることができた。思ったよりもストーリー仕立てがしっかりしていて驚いた。そして、唐突に先述のような不可解な展開が訪れ、興味をそそられる。これは人気が出るのもわかるなあ。僕もすごく気に入ってしまった。この先、4作ほど続編があるので、見るのが楽しみ。
  
2019年 7月 「パプリカ」
映画会で勧められていて、たまたまCSで放送されていたから見た。今敏作品を見るのは実は初めて。エログロ風味な独特のビジュアルのオンパレードかと身構えていたら、思っていたよりもストーリー要素が強く、引き込まれて最後まで見てしまった。他人の夢に入り込み、悪夢を見せて精神を崩壊されるという内容が、監督の持つビジュアル要素と完全にマッチして、すごい連鎖反応を起こしている。映像に酔いしれるのもいいし、ストーリーを楽しむこともできる。これは意外に万人にお勧めできる良作ではないか。
2019年 7月 「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」
嫌あな映画を見た。最近見たなかでも、インパクトとしてはかなりの作品だった。幸せに暮らす心臓外科医のスティーブンは、一人の少年の面倒をみていた。かつてスティーブンは、酒に酔ったまま手術をおこない、少年の父親を死なせてしまったことがあったのだ。多少のわがままならきいてやるつもりだったが、少年の次第に要求はエスカレートしていく。
 過去の一度の過ちが運命を狂わせていき、それでも罪の大きさを考えればどうしようもない。堂々巡りのなか、少年の放った一言から、映画は思ってもみない展開を見せる。いやあ、こういう映画だったのか、という驚き。そしてそこから続く、胃の痛くなる展開。本当に嫌なものを見せられた、というのは褒め言葉だ。
2019年 7月 「インクレディブル・ファミリー」
前作「Mr.インクレディブル」にはそれほど乗れなかったが、本作は楽しめた。さすがピクサー、良質な作品を作ってくれる。スーパーヒーローの功罪、根深く残る男権社会といった現代的なテーマを扱い、ヒーロー達大集合という、昨今のMCU、ジャスティス・リーグの流れも汲んでいて、てんこ盛りの内容をスマートに処理している。ただ、あまりに展開が早いせいか、簡単に物事が解決していくのがやや気になった。最後にヒーロー達が一致団結するのも早すぎる。ヒーローが悪に操られたら最強の悪になる、というあたりが描き込み不足だが、これは大きすぎるテーマなので、あらためて一本を通じて描く作品を作ってほしい。
2019年 7月 「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」
ブログ掲載のため、再見。
こちらを参照。
2019年 7月 「アメリカの友人」
ヴィム・ヴェンダース作品の中では、比較的ストーリー主体で見やすい。「太陽がいっぱい」の主人公リプリーを描いた連作のうちの一つ。贋作を高く売りつけるリプリーと、贋作を見抜いたことでリプリーに狙われ、殺しの依頼を受けてしまう額縁職人のヨナタン。二人の交流から殺人まで、なかなかサスペンスあふれる演出で楽しませる。ヨナタンは不治の病に侵されており、それがストーリーを進める設定になっているのも巧い。物語の面白みと、額縁職人の哀愁がからみあい、いい映画を見た気にさせられる。職人芸、という感じ。
2019年 7月 「ビューティフル・デイ」
冒頭からしばらくは、凝った画面作りが印象的で、謎めいた展開も興味を引き、期待して観ていた。しかし、結果として、僕のあまり好きではないハッタリ映画だった。少女を救った後にホテルに来訪客があり、扉を開けたら○○、というところなど、いくつかのシーンは確かに斬新で目を引くのだが、そうしたパーツをただつなぎ合わせただけで、設定としても、過去のトラウマを引きずりつつ人殺しを続ける点など、既視感バリバリだ。最後のセリフを言わせたいだけに作られた映画という気がする。
2019年 7月 「犬ヶ島」
ブログ掲載のため、短い間隔で、二度目の鑑賞となった。
詳細は、ブログを参照。
2019年 7月 「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」
フィギュアスケートは大好きな競技だが、この時代(1990年代)は見ていなかったので、普通のニュース程度の知識しかない。本作では、モンスター的な母親が事件の遠因だとしていることが見て取れるが、トーニャ本人の駄目な性格にも問題があるように描かれている。ただ、本人の性格形成をしたのも母親だとすれば、母親が全ての元凶ということにはなる。しかし、悪い行いは循環するというか、目の前にいくつか道があったとして、悪い道ばかり選んでしまう人というのはいるんだなあと思う。
2019年 7月 「ワンダー 君は太陽」
障害を持つ子供を描くだけでなく、その周囲の家族や友達の視点にも章を割いて描くところが斬新で面白いと思ったが、いかんせん描き方が浅くてありきたりだったのが残念。もちろんラストでは泣かされるけれど、だからと言って素晴らしい映画とは言えない。このアイデアをもっともっと煮詰め、物語を膨らませていけばすごい作品になったかも。同じテーマを描いた作品としてインド映画の「きっと、うまくいく」を思い出したが、あれが傑作たりうるのは、あふれるアイデアとセンスが詰め込まれているからだ。
  
2019年 6月 「魔界転生」
沢田研二主演の1981年版。天草四郎を演じる沢田研二の存在感はやはりただ者ではない。他にも、千葉真一、緒形拳、室田日出男といった豪華な役者陣が脇を固めて隙がない。ちょっと笑ってしまう演出もあったりするが、そこはご愛敬。大人が十分に楽しめる娯楽作品に仕上がっている。
2019年 6月 「トラベラー」
イランのキアロスタミ監督作。この監督のフィクション映画としては初見だ。サッカーの試合をどうしても見たい少年が、周りの人間をだましながら目的を果たそうとする。地味な映像ながら非常に見ごたえがあり、人気の理由がわかる気がした。映像の雰囲気から、イタリア映画の名作『自転車泥棒』を思い出した。
2019年 6月 「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」
愛らしいルックに対して、内容は非常に陰惨極まりないお話。ほんとにクソな親子なのだけれど、こうするしか生きられないというアメリカの現実もあるのだろう。モーテルの管理人を演じるウィレム・デフォーが素晴らしい。
2019年 6月 「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」
エピソード8のあまりに酷い内容に、スピンオフの本作にも食指が伸びず、劇場は見送ってテレビ放送を見た。序盤はもたつき、アクションを見せるためだけの物語に思えたものの、ハン・ソロがいったん離れ離れになった恋人と再会するあたりから面白みが増していき、最後までわくわくしながら見終えた。いろんな含みを持たせたラストになっているが、ここから本編への派生があるのだろうか。
2019年 6月 「ウインド・リバー」
サスペンス映画として、まあ可もなく不可もなくといったところ。犯人探し以外に見どころが乏しいため、犯人がわかってしまえば心に残るものはあまりない。本作の監督兼脚本は『ボーダーライン』の脚本家で、ああなるほど、と思ってしまった。
2019年 6月 「太陽の王子 ホルスの大冒険」
子供の頃(1970年代)にテレビで何度も放送されていて、内容は忘れてしまったが面白かった覚えがある。40年ぶりくらいに再見した。アニメ技術はもちろん現在と比べても仕方がないが、ストーリーもなんだかぎくしゃくしている。どうも、当時のアニメ制作の現場に問題があったような感じだ。
2019年 6月 「ITイット “それ”が見えたら、終わり。」
ずっと前に1990年のトミー・リー・ウォーレス監督版を見たことがあるが、ほぼそれと似た作りだった。1990年版のほうでは、本に書かれたピエロの絵が本から出てくるところなど、おっと思わせるシーンがあったのに、本作はそうでもない。恐怖演出が全体としてあまりぱっとしない印象で、ピエロも前作のほうが怖かったように思う。
 1990年版でもう一つ覚えているのが、後半のラストのガッカリ感で、本作でも後編がどうなるかと思う。ただ、原作どおりになるのなら同じかと思うと期待は薄い。
2019年 6月 「未来のミライ」
割と明確なメッセージがあるのに、それを伝えるストーリーテリングが巧くない。だからメッセージをあからさまにセリフで伝えるようなことになる。今回なら、「人それぞれに大切な選択の瞬間があり、その一つでも違っていればその子孫は存在しない」というもの。そこに至るまでに、くんちゃんが庭に出ると幻のシーンになる、を単発的に繰り返すのみで、物語が深まっていかない。ところどころ、いいシーンやセリフはあるのに、もったいない。
2019年 6月 「過去のない男」
大好きな映画で、もう数えきれないほど見ている。カウリスマキ映画のエッセンスが、わかりやすい内容の中に凝縮されている。今回はブログに詳細を書いたので、こちらを参照。
2019年 6月 「やくざの墓場 くちなしの花」
『仁義の墓場』や本作を見て、これまであまり好きではなかった渡哲也の魅力に気づき始めている。今回は大阪府警のはみ出し者の刑事役。警察官なのにヤクザと兄弟の盃を交わすなど、問題行動で爪弾きにされているが、裏にある巨大な癒着構造に立ち向かっていく。当時の任侠映画として、一定のレベルをクリアして楽しめる作品。梶芽衣子の美しさ、鳥取砂丘の海辺で渡哲也と抱き合うシーンは特筆もの。
2019年 6月 「ベイブ 都会へ行く」
ブログのために再見。『ベイブ』の続編にして、一作目と同様に面白く、よくできている。実際の動物の映像に口元だけCGを施してあるらしいが、これが実によく出来ていて、本当に動物がしゃべっているようにしか見えない。他にも、動物のロボットやぬいぐるみなどがシーンごとに使い分けられており、映像の出来に感心する。ストーリーもよく練られていて、これは子供から大人までしっかり楽しめる良作だ。なにせ監督は、『マッドマックス』シリーズのジョージ・ミラーなのだ。こういう映画も作るのか、と驚く。
 ブログはこちらを参照。
2019年 6月 「青春の殺人者」
映画会で紹介するために再見。水谷豊、原田美枝子、市原悦子がみんな若い! そして何度見ても、水谷豊に言い寄る市原悦子の倒錯したような妖艶さ、「痛い!」の絶叫シーン、まだ十代の原田美枝子のヌードなど、目を引くシーンが満載だ。中上健次の短編『蛇淫』が原作だが、そこに大幅にアレンジを加えてある。本当に傑作だと思う。
  
2019年 5月 「県警対組織暴力」
大量に作られた任侠映画の中で、飛び抜けた傑作ではないにせよ、安心して楽しめる一作ではある。菅原文太が今回は悪徳刑事となり、暴力団の活動を制限し、事件を解決するためには仕方がない、と癒着癒着のオンパレード。やはりこの頃の役者は迫力があって見ごたえがあるなあと思い知らされるが、菅原文太、梅宮辰夫、小林旭あたりと比べると、松方弘樹は迫力不足だなあと思ってしまう。僕の好きな成田三樹夫は、今回は端役だった。
2019年 5月 「ゲティ家の身代金」
実在した大富豪ゲティ氏がいかに非人道的な人間だったかをつづる一作。とくに、孫が誘拐された時の身代金まで値切ろうとするその異常なまでの倹約ぶりが見どころ。ゲティの息子の妻アビゲイル(ミシェル・ウィリアムズが好演)が、実はゲティの資産を都合よく利用しているところが、さらりと描かれているのもよい。大富豪は傲慢だけれど、それに群がる人々も浅ましい。
 本作は、最初にゲティ氏を演じたケビン・スペーシーが映画完成後に少年へのセクハラで問題を起こし、急遽クリストファー・プラマーを起用して短期間で撮り直したことで話題となった。プラマーは本作で見事、アカデミー助演男優賞にノミネートされた。
2019年 5月 「ゴーギャン タヒチ、楽園への旅」
画家ゴーギャンの生涯を丹念に追った作品。ゴーギャンにさほど興味がなく、内容も知っている史実がほとんどだった。それにしても、著名な画家には問題のある人が多いなあ。
2019年 5月 「スーパーマン」
人によっては生涯ベスト級に押す本作。1978年公開の、クリストファー・リーブ版だ。実は初見。うーん、リアルタイムで見ていれば感想は違うだろうけれど、映像的にも内容的にも、どこにも惹かれるものはなかった。つまらないわけではないけれど。
2019年 5月 「葛城事件」
何度も見ているが、毎回楽しめる大傑作。あの父親のモンスターぶり、そして彼だけが最後まで裁きを受けない理不尽さ、無差別殺人で死刑となる次男に寄り添おうとする女性の浅はかさ、いろんなものに挟まれて身動きがとれない長男の悲哀。全ての要素が詰まっている。胸に迫る感動作、という感じでないのもいい。
2019年 5月 「スラップ・ショット」
ジョージ・ロイ・ヒルが肩の力を抜いて撮った感じ。ポール・ニューマンが引退寸前のアイスホッケー選手を演じる。『がんばれベアーズ』的に、落ちこぼれチームが栄光を勝ち取る話かと思いきや、最後は『フル・モンティ』になる。
2019年 5月 「ホームワーク」
アッバス・キアロスタミ作品を初めて見たのだが、本作は彼の映画としては異質のドキュメンタリー作品だった。キアロスタミ監督が延々と少年たちに、「なぜ宿題をしないのか」と質問していく。その中で、イラン家庭の抱える問題が浮かび上がっていく、という内容。確かに考えさせられるが、やや浅い気もする。また、サングラスで横柄に話す大人がいかに恐ろしいものかをこの監督が理解していない無配慮さが気になった。
2019年 5月 「追憶の森」
ガス・ヴァン・サント監督が、日本の青木ヶ原樹海を舞台に撮った作品。ともに自殺を考えて樹海に入った、ナカムラ(渡辺謙)とアーサー(マシュー・マコノヒー)。二人で過ごし、過去を回想するうちに、それぞれの生き方を獲得していく。テーマは面白いのに、どうも作品に乗れなかった。カンヌで公開された時もブーイングが出るほど酷評されらしい。アーサーの妻の事故死、そこからわざわざ彼が日本にまで来る展開の無理やりさあたりが原因かと。
2019年 5月 「ギルティ」
評判の良さに劇場に足を運んだら、たしかに面白かった。コールセンターにいる男性の姿だけが延々と映されるだけなのに、見終わると数々のシーンが目に浮かぶ。男性と電話口で話す相手との会話を聞くうち、観客の頭にいろんなシーンが構築されているのだ。しかも、そのこと自体を使って巧妙な仕掛けがしてある。なかなか斬新な作品で、読書の醍醐味にも近い。
2019年 5月 「ソロモンの偽証 前篇・事件」
中学校の生徒だけで裁判をおこなう、というところが本作最大の見せ場だろうが、さすがに無理がある。もちろん突拍子もない展開だけれど、そこにフィクションとしてのお膳立てができれば無理なく見せることは可能だったろうけれど、その配慮も足りていない。まずは一部役者の演技の未熟さが作品を台無しにしているところだろうか。やたらに泣く主人公もどうかと思うし、人が死ぬこと、殺されることの説得力もない。トリックのために物語が構築されているのは、原作からそうなのだろう。邦画の悪い部分が集積した作品。こういう映画を持ち上げているかぎり、邦画は良くならないと思う。
  
2019年 4月 「借りぐらしのアリエッティ」
鈴木敏夫のインタビューなどで非常に高評価だったので、初めて見た。小人の主人公アリエッティとその両親が、人間に見つからないように暮らしている。家の中を探検する序盤こそ面白みがあるが、以降はどんどん盛り下がっていく。なぜ人間に見つかるといけないのか、見つかるとどうなるのかが僕にはよくわからず、現に、見つかってしまったアリエッティに特に何が起こる訳でもなく、なのに父親が騒ぎ立てるのが理解できない。だいたい、人間から物を「借りている」と彼らは表現するが、やっていることは明らかに「盗み」であり、少量だから許されているだけのこと。少年・翔との交流も、それを助けるスピラーの存在も、実に中途半端。見終わって何も残らない。
2019年 4月 「ハウルの動く城」
これは失敗作だろうなという予感と評判でこれまで見なかったが、鈴木敏夫さんの本を読んで見る気になった。結果、やはり予感は正しかった。僕がファンタジーにあまり惹かれないからという理由が大きいのだけれど、魔法とか無敵とかの設定が出てきた途端、この人には何ができて何ができないのかが明確でないと、結局”何でもアリ”になってしまい、逆に、”何でもアリ”なのになぜすぐ魔女はこいつを殺さないのか、などと疑問ばかりになってしまう。
 城のギミックも面白いのに、なぜか心惹かれるものがない。キャラに感情移入できないせいだろうか。
2019年 4月 「コクリコ坂から」
ジブリ関連作を「借りぐらしのアリエッティ」「ハウルの動く城」と見てきたうちで、意外にもこれが一番良かった。恋愛を絡ませつつ、なにか大きなことを成し遂げる青春物語として、一定のレベルをクリアしていると思う。コクリコ荘の共同生活も魅力的で、70年台ドラマを見ている懐かしさと安心感がある。ただ最後の展開は、ちょっと監督の「いい人」感が出て、こじんまりしてしまった印象。
2019年 4月 「ザ・ビートルズ EIGHT DAYS A WEEK」
ビートルズがコンサートツアーをしていた1963年〜1966年の出来事を追ったドキュメンタリー。彼らがライブやレコーディングをどう考えていたか、マスコミに対していかにふざけて対応していたか、などが伺い知れる。ざっくりとしたビートルズの歴史を知る入門編としては上出来なのでは。
2019年 4月 「ぼくの名前はズッキーニ」
ストップモーションアニメの映像はそもそもどこか不気味に映るものだが、それを逆に利用して作られたと思われる本作。孤児院に集まるのは、家庭に問題を抱える子供ばかり。わざとセリフや説明を省き、観客に考えることを求める作りもいいと思う。ただ、原作はもっとダークで大人向けな内容だったのを映画向けにマイルドにしたらしく、そのあたりの中途半端さを感じて、大絶賛するには至らない。
2019年 4月 「スパイダーマン:スパイダーバース」
世の大絶賛を受け、珍しく劇場で見た。素晴らしい映像に感心したが、同時に、僕にはもうこうした映画はさほど必要ないのだなと再確認してしまった。次々と繰り出される映像美は、見た瞬間からインフレを起こし、同じような展開ばかりだとすぐに飽きてしまう。もちろん、常に前のシーンを超えるように作ってはあるけれど、見終わると、「映像は確かに素晴らしい、でも、それで?」と思ってしまう。内容として圧倒されるものを求めてしまうのだ。その点ではやはり、ピクサーやドリームワークスの良質な作品ほどの衝撃は受けなかった。
2019年 4月 「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
「マンチェスター」というから、てっきりイギリスが舞台かと思っていたら、マンチェスター・バイ・ザ・シーというアメリカの町の話だった。それはさておき、アカデミー主演男優賞を獲ったケイシー・アフレックが本当に素晴らしい。過去の出来事で心に傷を持ち、それを隠しながら生きる男の悲哀を見事に表現している。物語としてはややフィクション要素が目立つし、事実の明かし方にもやや作り物を感じてしまうところはあるが、いい映画だと思う。
2019年 4月 「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」
名作だ名作だと誰もが絶賛するけれど、僕は二回目の鑑賞にしてやはり全く評価する気になれない。「イエスタディワンスモア」を名乗る組織の魔の手にかかったオトナ達が子供になる描写は実に陳腐だし、それを救おうとするしんのすけの冒険にもまったく心惹かれず、組織の首謀者の意図をめぐる論議にもまったく乗れない。ぐっとくる場面は僕には一つもなく終わってしまった。
 しんちゃんシリーズの次作となる『戦国大合戦』はアニメ史に残る大傑作だと思うが、こちらは凡作だと思う。
2019年 4月 「静かなる叫び」
カナダのモントリオール理工科大学で起きた銃乱射事件を描く。ガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』とほぼ同じモチーフだけれど、僕は『エレファント』のほうが数段上だと思う。映像美という点で見応えのある場面は少なく、僕にはどうもドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、思わせぶりな作品で格好つけているだけのように思えてならない。
2019年 4月 「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」
これぞ大傑作。当時の戦闘について本当によくリサーチをし、その成果をこれ見よがしにではなくさりげなく映画の一部に組み込んでいる。まさに、細部に魂が宿る、というお手本だろう。そしてあのラスト。当初は大反対にあったらしいが、よくぞ押し切った。本作はあのラストでないと意味がない。僕はラスト前の戦闘で、姫がなんとか現場を見ようと匿われている部屋から抜け出すシーンで毎回ボロ泣きしてしまう。何度見ても同じように感動できる。
2019年 4月 「君の名前で僕を呼んで」
結構評判になっていたのだが、うーん、僕にはこういう趣味がないせいか、なんだかぴんと来ず、二人のラブシーンにも(申し訳ないけれど)嫌悪感が先に立ってしまった。ただ、主人公の少年が、美しいものなら男性でも女性でも等しく魅力を感じるという描写はリアルで良かったと思う。
2019年 4月 「犬ヶ島」
ウェス・アンダーソン監督のセンスがバリバリに弾けた快作。トーンとしては日本のシュールコントを見ている感じで心地よい。外国人によるずれた日本認識をうまく活用し、それも作品のスパイスとして活かすという高度な技。寿司を作るシーンなど、無駄に細かい描写などもとてもおもしろい。さらに、物語としての筋もしっかり通っており、僕の好きなバランスに仕上がっていた。これがあまりにシュール過ぎたりばかばかし過ぎるとここまで楽しめないのだ。
2019年 4月 「幻の湖」
主に脚本家として名高い橋本忍が監督を務め、カルト大作として有名な本作。確かに、これぞ王道のカルトと呼ぶにふさわしい一品で、わけがわからない内容なのに実に味がある。僕は、主人公・道子と作曲家・日夏とのマラソン対決(長い長いシーン)が気に入った。それにしても、実力のある大俳優たちがこぞって何やってんだか。
2019年 4月 「ヒストリー・オブ・バイオレンス」
クローネンバーグによる、非ホラー映画。サム・ライミがホラーの次作を撮る足がかりとして普通の映画を撮ったように、なんだかこじんまりした作品になっているなあという印象。尺も短く、面白くなりきる前に終わってしまう。
2019年 4月 「ゾンビ伝説」
ハイチのゾンビ伝説を科学的に究明したドキュメンタリー『蛇と虹』の映画化。原作では、ゾンビとは人間を薬品によって仮死状態にさせ、それを労働者として好きなように使ったものだという解釈がされるが、この映画版ではもう少し映画的にフィクション要素、超現実要素が加味され、原作とは別物になっている。事実、原作者のウェイド・デイヴィスはこの映画を嫌っているらしい。
2019年 4月 「ブリグズビー・ベア」
いきなりチープなヒーロー物テレビ番組が始まり、妙に教訓めいた会話が交わされたりして、何事かと思わせる。実は誘拐されたジェームズに犯人の夫婦が見せていたものだとわかり、ジェームズは歪んだ環境から本当の両親の元に戻される。しかし今度は正常な世界に馴染むことができず、ジェームズも両親も辛い思いをする。
 なにが正しいのかは一筋縄ではいかないということを教えてくれ、なかなか考えさせてくれる良作。犯人夫婦の夫役はなんと、スター・ウォーズのルーク役を演じたあのマーク・ハミル。彼がけっこういい演技をしているから映画が引き締まる。犯人の意図を明確に示さないところにも、人間の持つ得体の知れなさがうまく表現されている。
2019年 4月 「The NET 網に囚われた男」
キム・ギドク監督の、いつもながらに荒々しい映画。北朝鮮の貧しい猟師チョルが間違えて韓国への国境線を越えてしまい、韓国政府に捕らえられてしまう。チョルは、彼をスパイだと疑う韓国警察に執拗に責め立てられるものの、嘘の自供を拒み続ける。なんとか彼をスパイに仕立て上げようとする韓国警察は、いったんチョルを自由にさせ、見張りをつけて町中を歩かせる。
 南北朝鮮の対立、経済的優位を背景に驕り高ぶる韓国社会を、韓国人であるキム・ギドクが露悪的に描いて見せる。あいかわらず脚本があまり巧くなく展開がぎこちないものの、これまで見た同監督作品の中ではいちばん胸にぐっとくる作品だった。
  
2019年 3月 「クイズ・ショウ」
実際にあった事件を元にした映画。クイズ番組がスターを生み出すものの、その人気に翳りが見え始めるとまた別のスターを探す。しかも、制作側がクイズの答えを事前に教え、そのおかげでスターが生まれる仕組みだ。これが法律的にアウトなのかどうかは知らないが、この構造を生み出す源泉は、そうした番組を好む視聴者側にあると思う。現代日本においてもくだらない番組は多いが、それを望む視聴者がいるからという理由を忘れてはいけないと思う。
2019年 3月 「黒いオルフェ」
ギリシャ神話のモチーフを、ブラジルが舞台の現代劇として描いた作品。告白すると、僕はこの手の、モテモテ男やモテモテ女がいろんな相手と関係を楽しむ話が苦手で、本作にしても『源氏物語』にしても『風と共に去りぬ』にしても、どう楽しんでいいのかよくわからない。本作では、田舎から出てきた娘と町のプレイボーイが、主に容姿のみの理由で惹かれ合い、恋に落ちる。その後、物語は悲劇的な方向へ向かっていくが、その展開も急なのでついていけない。
 本作で特筆すべきはストーリーや演技ではなく、作中、半分ほどの場面で延々と流れ続けるサンバ音楽が異様な雰囲気を作り出しているところだ。そのせいで、物語はどうでもよいけれど、憑かれたように最後まで見てしまった。
2019年 3月 「スプリット」
僕の苦手なM.ナイト・シャマラン監督作。だいぶ話題になっていたから見たが、やはり僕の嫌いな映画だった。序盤は良質なサスペンスが展開して期待を持たせるが、最後にはとんでもない展開になっていき、それこそが熱狂的なファンにはたまらない部分なのだろうが、僕にはどうにも陳腐でハッタリなだけに思えてしまう。
2019年 3月 「ファーゴ」
7年前に一度見て気に入った作品。昨年アカデミー賞を獲ったフランシス・マクドーマンドを見たくて再見。意外にも彼女が登場するのは映画中盤に入ったあたりだが、さすがの存在感。たいした活躍をするわけでもないのに、見終わると彼女のことを思い出している。終始情けないばかりの主人公を演じたウィリアム・H・メイシーも最高。
2019年 3月 「最高殊勲夫人」
多数の共演作のある若尾文子&川口浩、そして監督はやはり若尾文子と組むことの多かった増村保造という、勝利の方程式のような作品。ただ、僕も好きな作品の多い増村監督作にあって、これはあまりいただけなかった。
 とある商事会社の兄弟が、別家庭の姉妹と順番に結婚をし、残った三男と三女を結びつけようと画策する話。本人達(若尾文子&川口浩)は、そんなバカなことになるものか、と共同して家族の誘いを突っぱねるが、それをきっかけに仲良くなっていくという皮肉。主役二人の演技はいかにも若々しくて好感は持てるが、さすがにこの設定をすんなり受け入れるには無理があった。
2019年 3月 「怒りの葡萄」
砂漠に近い町で、年に何度か砂嵐が来る光景をテレビで見たことがあるが、住んでいる人は大変だ。この映画でも同様に、砂嵐で農地を駄目にされた一家が新天地を求めて旅をする。あそこにいい仕事がある、と言われて行ってみれば事実は全く異なり、絶望の日々。それでも這いつくばってでも生きていくしかない悲惨な現実。多少政治的な面はあるが、いま見てもそのメッセージは十分に理解できる。見て楽しい映画ではないけれど。
2019年 3月 「ボス・ベイビー」
かわいいはずの赤ん坊の中身が実はおっさんだったという設定から、藤子不二雄(A)の漫画「魔太郎がくる/」に出てくる切人を想像していた。主人公の少年にだけ意地悪く当たり、他の大人には赤ん坊にしか見えない。そのあたりのギャップを楽しむものだという先入観があり、もしそうならちょっと嫌味な映画になりそうだなあという不安はあった。
 しかし、実際は少年と赤ん坊とが意外に早い段階で意気投合し、あとは普通の冒険物語になっていく、思っていたよりも万人向けのエンタテインメントで、どの世代にもおすすめできる良品。
2019年 3月 「アポロ13」
人類三度目の月着陸を目指して飛び立ったアポロ13号。しかし途中で事故が発生し、無事にクルーが帰還できるよう、船内と地球側それぞれで人々が奮闘する。事実を元にしているため、そう突飛な展開にはならず、ほぼ予想範囲内の結末に落ち着く。完全にフィクションだった「宇宙からの脱出」(1970)は波乱万丈の傑作だったが、それには及ばない。帰還を待つ家族の元に引退した宇宙飛行士達が訪れるシーンで、老いた祖母があのアームストロング氏に対し、「あなたも宇宙に行ったんですか」と尋ねるシーンが面白い。
2019年 3月 「女の小箱より『夫が見た』」
監督=増村保造、主演=若尾文子のコンビ作だが、『最高殊勲夫人』同様、あまりいい映画とは思えなかった。株式買い占めを狙う男とそれを防ぐ会社側との攻防が主軸だが、誰の行動にも展開にもリアルさが感じられず、話にすんなり入っていけない。それでいて人はどんどん死んでいくから、下手なものを見ている印象しか残らない。
  
2019年 2月 「孤狼の血」
僕はもう白石和彌監督の作品はぜんぶ、肌に合わない。『仁義なき戦い』シリーズを完全に意識したつくりだが、本家の足下にも及ばない。だいたい、役者の格が違い過ぎるのだ。役所広司はいい俳優だとは思うけれど、こういう破天荒キャラの時にはやや無理を感じる。なんとかこういう人間を及第点的に演じている、という程度で凄みが足りないのだ。菅原文太や小林旭はやはり偉大だった。しかも、金子信雄のようなトリックキャラもいないから、いくら大勢の男たちが激しい言葉をかわしていても、ものすごく表面的で薄っぺらい。ところどころで入るナレーションはセンスのかけらもなく、寒々しいほどだ。そして人々の行動原理が、「ちょっとふざけて羽目を外す」か「戦争になったら困る」くらいで、ストーリーに面白みがない。まあ、原作からしてたいしたことがないのだろう。
 また、この現代の映画で、これほどセリフが聞き取りづらいのも珍しい。映画の根本としていかがなものかと思う。
2019年 2月 「迷子の警察音楽隊」
これで三度目の鑑賞。見るたびに評価が上がり、やっぱり僕はこの作品のことを好きだなあって思った。この映画を見ると、人間というものをとても肯定的に捉えられるようになる。
 音楽隊のメンバーは全員が不器用で、そのために齟齬を生むことはあるけれど、他方で深く人々と交流できることもある。素行の悪い若者が最後にあることをしでかすが、そんな彼にも優しい一面があることをその前に見せてくれるから、さほど悲惨な状況にも思えず、ま、みんないろいろあるさ、と肯定したくなる。何も起こらないのに、人生の大切なことを教えられる映画。
2019年 2月 「パディントン2」
ふたたびパディントンが引き起こす騒動を描く。それでも、おばさんにロンドンの風景を見せたい、そのためにロンドンのことが書いてある本がほしい、という一本強い物語の軸があるから、力強い作品となっている。刑務所でのやりとりも面白く、最後の展開もよく練られていて面白い。そして、そうした強固な骨組みがあってこそ、驚異的に進歩したCG技術が生きてくるのだ。
2019年 2月 「おしゃれ泥棒」
オードリー・ヘプバーンは僕にはピンと来ない女優で、本作でもその印象は変わらなかった。ただ、ピーター・オトゥール演じる泥棒が実に魅力的で、彼と共に、自分の所有する彫像を盗みに入る成り行きなど、なかなか脚本が凝っていて面白い。
2019年 2月 「リメンバー・ミー」
映像的な技術の高さ、それに伴う遊びのレベルの高さには恐れ入る。ただ、家族が常に何より大事、という根本のテーマに引っかかりがあるため、そこまで絶賛する気にはなれない。また、ミゲルの父親の秘密など、早々にネタがわかってしまうところなど、脚本にも今ひとつの練り不足を感じる。いい曲は多いし、誰もが楽しめる良作であることに間違いはないのだけれど。
2019年 2月 「セザンヌと過ごした時間」
画家ポール・セザンヌと小説家エミール・ゾラとの交流を描いているが、いったん絶交したあと復縁するくだりなど、かなりフィクションというか推察を加えてあるようだ。これを見ると、いかにセザンヌが人でなしだったかがわかるが、そのあたりの信憑性もやや疑わしい。映画としての出来は今ひとつだが、各所で登場する他の画家や他の絵画作品を探すのは楽しかった。
2019年 2月 「アウトレイジ最終章」
正直、たけしにはもう映画を撮れるエネルギーが残っていない気がする。前作「〜ビヨンド」でたけし扮する大友が「もう俺はいいよ〜」と連呼していたが、それは監督北野武の「もう俺は映画はいいよ〜」という叫びだったように思う。
 あいかわらず登場人物全員が「なんだコラ〜」と凄むわけで、そこはお笑いとして見ればいいのだけれど、今回中心となる西田敏行、塩見三省の両氏が揃って病気を抱えての出演となり、申し訳ないけれど著しく迫力に欠ける。初登場の大杉漣、大森南朋らも揃って存在感が薄い。そして最近の邦画に出ずっぱりのピエール瀧の演技が相変わらず酷くて作品がぶち壊しだ。もっとも、脚本自体、ただ抗争をあおるだけの作りで、まったく面白みがないわけだから、救いようがない。
2019年 2月 「ブギーナイツ」
ポール・トーマス・アンダーソン監督の出世作となる本作を初めて見た。これを若干27歳で撮ったとは、恐れ入る。ポルノ業界の内幕を描いた作品で、性描写もかなり入っているうえ、なかなか凄惨な映画でもある。これをひょうひょうと撮ってしまうところにこの監督の凄みがある。そして『マグノリア』と同様の衝撃のラスト(種類はまったく違うけれど)! ここで終わるか、とびっくりするやら笑うに笑えないやら。
2019年 2月 「彼女がその名を知らない鳥たち」
沼田まほかる原作の同名小説を映画化したもの。沼田氏はミステリー界では名が通っているが、一般的な知名度は低い。それが2017年になって突然、『ユリゴコロ』と本作、二作品が映画化された。僕の読みとしては、〈次の湊かなえ〉として抜擢されたのではと思う。
 『ユリゴコロ』のほうは散々な出来で、小説のいいところを全て駄目にしていた。その点、本作はかなり小説に忠実に作られており、面白さのポイントは外していなかったように思う。(原作の沼田氏が好意的なコメントを発していたのは、このあたりを評価してのことだろう。)
 それでも、テンポの悪さや、各所のクサイ演出など、全体としてあまりいい感想は持てなかった。白石和彌監督作は、僕には徹底的に合わないようだ。ただ、ラストについては、映画的工夫も凝らされており、悪くなかった。
2019年 2月 「サイン」
一部熱狂的なファンを持つM.ナイト・シャマラン監督だが、僕はこの人もまったく評価できない。序盤において、「これはなんだろう」「どういうことなんだろう」とワクワクさせられた要素が、終盤になってあからさまな形で登場してしらけてしまう。どうしても、ハッタリ映画にしか思えないのだ。
2019年 2月 「仁義の墓場」
実在したヤクザ・石川力夫を描いた実録もの。自分の組の親分を刺し殺そうとするなど、とにかく破天荒で破滅的な性格は、まったく理解不能だ。実録ものでなければ、不出来な脚本だと非難されても仕方がない。渡哲也が好きでないこともあり、途中までは今ひとつ乗れずに見ていたが、あまりの無茶苦茶ぶりにどんどん引き込まれていった。終わり方も凄まじい。渡哲也の映画では一番好きかも。見ていない人は見ておいたほうがいい一本。
2019年 2月 「羊の木」
吉田大八監督の最新作。山上たつひこ原作&いがらしみきお作画という漫画作品の映画化だ。元凶悪犯を受け入れる町を舞台に、間違いなく良からぬことが起きそうな雰囲気たっぷりで物語が展開していく。
 今回、キャストの素晴らしさが目を引いた。主演の錦戸亮は演技を初めて見たが、本作の主人公としてこれ以上ないほどのはまりっぷりだった。相対する元凶悪犯たちも、松田龍平は言うに及ばず、北村一輝、水澤紳吾、田中泯など、一癖ありそうな登場人物たちを見事に体現化している。なかでも優香の演技には唸らされた。彼女の存在は本作の白眉の一つだ。対極的な立場の木村文乃も、本作では非常に魅力的に映っていた。
 ただ映画全体として見ると、期待したほどの展開とはならず、やや惜しい気がする。もう少しなんとかなる題材だったのに、という感想は、いがらしみきおの漫画を読んだ時の感想にも通じる。
2019年 2月 「ケープ・フィアー」
マーティン・スコセッシは偉大な監督だと思うけれど、これは失敗作ではないか。もちろん、ロバート・デ・ニーロの演技は気持ち悪さ一杯で魅力的だが、結局のところは一本筋のストーリーだから、面白みに欠ける。そしてラストの激流のシーンがとてもチャチでがっかりする。
  
2019年 1月 「デンジャラス・デイズ/メイキング・オブ・ブレードランナー」
題名のとおり、SF映画の名作『ブレードランナー』のメイキング。テレビ番組として作られたものらしい。僕は、直撃世代ながら同作に対する思い入れはさほどではないのだが、このメイキング映像を見ていると、どんどん『ブレードランナー』への理解が深まり、魅力を感じるようになった。僕のように、同作がなぜこんなに人気があるのかを知りたい人にはうってつけの映画だと思う。
2019年 1月 「アウトレイジ」
ほぼ全編、ギャグのような暴力の応酬が続く。これで三度目くらいの鑑賞だが、落ち着いて見てみると、さすがにそれはないだろうという展開が多く、見ていて面白いけれど不満も募る。この手の抗争モノは大抵そうなのだが、大物連中の警護がいい加減すぎて、緊張感に欠ける。そのあたりも含め、あくまでも“お笑い”として見るように作ってあるとは思うのだが。
2019年 1月 「ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル」
評判どおり、そこそこ楽しめる映画ではあった。ただ、女性が男性キャラになる面白さやライフが減っていくスリル、登場キャラが同じセリフを繰り返してしゃべるところなど、この映画で考えられるアイデアがことごとく練り不足で、不満が残った。もっともっと面白い作品になったはず。
2019年 1月 「SING/シング」
冒頭から制作陣の気概が伺えて、「これは絶対おもしろい映画になるだろう」と期待し、その通りになる。CG表現の素晴らしさ、とくに、ダンスなど体を動かすシーンの楽しさは特筆もので、そうしたワンシーンワンシーンが映画全体の質をどんどん高めていく。ちょっとしたギャグや細かいアイデアの全てに気が利いており、それらが本作のテーマである何かに打ち込むことの尊さや誰もが輝くことができるというところに収れんしていく。見ているだけで幸せになれる映画。
2019年 1月 「パディントン」
どうせよくあるヌルいファミリー映画でしょ、なんてバカにしていたら、岡田斗司夫氏が激推ししていて、見てみたら本当に良かった。まあ、未開の奥地に住むクマがロンドンに出てきて騒動を引き起こす、というストーリーはありきたりだけれど、それを映像として見せるやり方が非常に巧い。各シーンにアイデアが凝らされ、魂が吹き込まれているから、見ていて心底楽しくなる。
2019年 1月 「ブラックパンサー」
派手な演出に目を奪われるが、ストーリーとしては国王が自らの従弟と戦うという、「ライオンキング」や「バーフバリ」などと似た構造であり、真新しさはない。本作のキモはアクションや道具仕立ての真新しさであって、そういうものが映画の醍醐味だという意見にはうなずけるが、僕にとってはそうした映像的な見せ場はもう、あまり重要ではなくなってしまった。見ている間は「ほお」と感心もするが、後には何も残らない。
 また、こうしたハリウッド大作を黒人主体のキャストで実現したことは積極的に評価したいが、映画の内容として黒人差別には一切触れていないことも伝えておきたい。(どこかのサイトで、「人種・性別・国籍・セクシュアリティなど多くの面で、他者との違いを受け入れ、壁を乗り越える」と紹介されていたが、物語の内容としてそんなものは一切描かれていない。)
2019年 1月 「浮草」
初見かと思っていたら、10年前くらいに一度見ていた。どこで思い出したかというと、若き日の川口浩(探検シリーズの!)が滅茶苦茶イケメンでびっくりしたところ。それはさておき、本作は歌舞伎役者の中村鴈治郎 (2代目)を起用したことで、他の小津映画と毛色の違う作品となった。とにかく、鴈治郎演じる旅芝居一座の親方・駒十郎の一人舞台、しかも実にじっくりと年季の入った芝居を見せるものだから、いつもの小市民の日常という小津テーマから離れている。それでもやはり名演技に違いはなく、駒十郎という理不尽な男がまさにそこにいるように感じられてくる。現実にいたらただの迷惑男で僕の大嫌いなタイプではあるが、それを冷静に見られるところに映画の意義があると思える。
2019年 1月 「デトロイト」
キャスリン・ビグロー監督はいつも重たいテーマを正面から堅実に映像化して見せる。デトロイトで実際に起きた暴動を題材にし、メインとなるのはアルジェ・モーテルで起きた、警官による黒人の監禁殺人だ。犯人の警官を本気で殺したくなるほどの凄惨なシーンに、見ていて心底辛くなる。
 ただ、この映画を見て得られたのは、理不尽な暴力が存在するという事実を知ることができたこと、くらい。見終えたあとに考えさせられることがあまりないのだ。
 また、主人公は歌手のラリーと警備員メルヴィン(演じるのはジョン・ボイエガ)の二人だが、メルヴィルの立ち位置が今ひとつわからなかった。警備員とは言ってもただの民間人だし、あの場で武装した黒人の警備員がいれば、一番に警察に目をつけられると思うのだが、それが全くないのが理解できなかった。
2019年 1月 「眠れぬ夜のために」
ジェフ・ゴールドブラム&ミシェル・ファイファーの二人が、ふとしたきっかけで国際的陰謀に巻き込まれるというサスペンス・コメディ。まじめに映画を作る気があるのかと疑いたくなるほどの出来。典型的な80年代ポップスロック洋楽のイントロのような果てしなくダサい音楽に、一歩間違えて愛おしさすら感じそうになる。
2019年 1月 「スリー・ビルボード」
なんと言っても、この終わり方! 派手でも衝撃的でもないのに胸にどすんと響き、何に対してかわからない涙があふれた。そして見ている途中、映画の出来とかストーリーとかもうどうでもいいから、ここにいる全員、不幸にならないでくれと真剣に願った。とくに主人公のミルドレッドについては、その内面を知っているぶん、とにかく痛々しくて、最初は理解あった人達さえ次々に敵に回していき、どんどん悪い方向へ向かっていくのを見ているのは辛かった
 本作は、物語を表現したというより、まさに人間の一人一人を丹念に描いていった感じ。評判どおり、役者陣の演技は本当に素晴らしい。ミルドレッド役のフランシス・マクドーマンドはもちろん、彼女の対立項となる警察の、署長とディクソン警官の二人も文句なし。今年最初の、大満足の一本。
2019年 1月 「レディ・プレイヤー1」
派手な映像表現は見ていて非常に楽しいが、ストーリーや設定をよく考えてみるとアラが目立つ気がする。専用ゴーグルを着けた人の体の動きがゲーム内での体の動きになるのだが、あのゴーグルを着けて現実世界で外出していたり、現実世界で敵側に捕らわれた際、全く関係ないはずのゲーム世界でも捕らわれていたり、意外に簡単にハッキングできたりなど、どうにも気になって仕方がない。ストーリーとしても、一つ一つの謎は、解けてしまえば「ふ〜ん」というレベルで達成感に乏しく、面白みに欠ける。