ボーン・コレクター

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ジェフリー・ディーヴァー 著/池田真紀子 訳
カバー 木村祐治&斉藤広介(木村デザイン事務所)
文春文庫
ISBN4-16-766134-9 \667(税別)
ISBN4-16-766135-7 \667(税別)

死にたくてたまらないハイテク安楽椅子探偵

 行方不明になったカップルを捜索中の女性警官サックスが線路沿いの盛り土の上にみかけた"それ"、遠目には細木の枝にも見えるそれは、だがどこかがおかしく見えた。確認のため"枝"に近づいたサックスの内心の怖れは不幸にして的中していた。骨だけになった人間の手、その指にはなぜか女物の指輪が…。正体不明の連続殺人犯の最初の犯行がそれだったのだ。

 事故が元で四肢が動かせない身体になってしまった、もとニューヨーク市警科学捜査班のチーフ、リンカーン・ライムと、彼の手足となって操作を行う女性巡査アメリア・サックスが活躍する、ディーヴァーの代表作。先日テレビで映画版やってたので見たけど映画の方はクズ。ただし原作はさすがにディーヴァー、読み応えありまくりのおもしろさで、ちょっと途中で本を綴じるのがもったいない出来になっている。

 時代的には「監禁」「悪魔の涙」の間に位置する作品。うん、正直お話のおもしろさも「監禁」よりは面白く「悪魔の涙」まではいってない、って感じかな。こちらが文庫に落ちるのをずーっと待ってる間に、読んでもいない小説への期待が高まりすぎたのかもしれないけど、期待していたほどには楽しめなかった。「悪魔の涙」の主人公、キンケイドが筆跡鑑定というただ一点の特技のみを使って不可解に見える犯罪の核心に迫っていく様ってのは読んでて実にスリリングなんだけど、こちらの主人公、ライムさんはもう、何でも知ってるウルトラ知識人。ただ身体が動かないだけ(いやそれは大変なハンデなんだけど)で、彼の許に情報が集まれば、とりあえずどうにかなりそうな感じになってしまうように見えちゃうのがちと辛い。肉体のハンデがあるので酷とも言えるんだけど、さらに彼の超人的な科学捜査の知識を持ってしてもどうにもならない分野がある、って辺りをもう一押しして欲しかったかな。

 ついでに、ディーヴァー名物の底意地の悪さも今回はちと控えめでそちらも残念。「んー、残りのページも少なくなってきたなあ」って辺りで、さらに一発、こっちを「でぇっ」っと思わせる展開をついついこの人のお話には期待してしまうのだけど、残念ながら今回はそこまではできてなかったかなあ。もちろんディーヴァーなので、そもそもの持ち点がとんでもなく高いんで、充分水準以上に楽しませる本ではあるのだけれどそこら辺、常にぴりぴりしながらページをめくっていた「静寂の叫び」の、あの緊張感には届いてないかなあ、という感じ。

サスペンス部分とは別に、ライムとサックスが対立しつつも徐々にお互いを認め合い、心を開いていくあたりの描写、言ってみれば"ダレ場"に当たる部分がなかなか良かった。自分一人では何もできないことに嫌気がさし、常に死んでしまいたいのに死ぬことすら自分一人ではできないライム、殉職した警官を父に持ち、自らもモデルの職を捨てて警官への道を選んだはいいが、お定まりの組織内での軋轢や何やかやで必ずしも満たされた日々を送っているとは言えないサックスが、お互い愚痴り合い、弱音を吐き合って行く過程で、いつしか対立が理解に変わっていく、そのあたりのお話の流れは、しみじみとしてて大変よろしいわけで、なぜか本書で一番印象に残ったのはこの(下巻の中盤あたりの)部分だったりして。

03/05/27

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