勅任艦長への航海

英国海軍の雄ジャック・オーブリー(2)

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パトリック・オブライアン 著/高沢次郎 訳
カバーイラスト Geoff Hutt
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ文庫NV
ISBN4-15-041036-4 \840(税別)
ISBN4-15-041037-2 \840(税別)

なんだかちぐはぐ

 スループ艦ソフィー号を操り、スペインのフリゲート、カカフエゴ号との戦闘に勝利して一躍その名をはせた新米艦長ジャック・オーブリー。莫大な拿捕賞金と、次のステップである勅任艦長への道を歩むべく本国へ帰還しようとする彼の元に大ニュースが舞い込んでくる。アミアンの和約。英仏間に休戦協定が成立したのだ。これではたちまち下っ端の海尉艦長など仕事にも艦にもあぶれてしまう。しかも悪いことに、カカフエゴ号の拿捕賞金の運用を任せたはずの業者は勝手に破産して姿をくらましてしまう。一転、文無しの職無しに落ちぶれてしまったジャック。いや、それどころか今のジャックには、拿捕賞金をアテにした散財の、莫大な借金までものしかかってきているのだ…

 海に出れば腕利きの艦長だけど、少々デブで、音楽に造詣が深く、女に弱いジャック・オーブリーと、痩せてみすぼらしく、ちょっと常人離れしたところもあるが医術の腕は超一流の彼の親友にして船医、スティーヴ・マチュリンを主人公にした海洋冒険シリーズ第二弾。借金取りから逃れるために、乗合馬車の床に伏せって移動するヒーロー、というのは前代未聞。そのほかにも敵地からの脱出に、熊のきぐるみ着てみたりするし。そういう、地上での出来の悪さとは裏腹に、ひとたび海に出れば鋭い直感で窮地をしのぐ海のヒーロー、って面も併せ持ったオーブリーには、今までの海洋冒険小説にはない魅力がある………はずなんだがなんかこの本、変だ。前巻からのコンティニュイティがでたらめというか何というか。

 基本的におデブさんのはずのオーブリーなのに、ストーリー中では「長身のスマート」なんて記述がされてるところがあったり、でもやっぱり作者も思い出したのか「前ほどデブじゃなくなった」なんて取り繕いが入ってみたり、前巻では全く触れられなかったマチュリンのもう一つの顔が唐突に出てきたり、と全体にどうもちぐはぐなんだよな。前巻の訳はこの道の大家である高橋泰邦氏、で二巻目からは高沢氏にスイッチ(とはいえ高沢氏だって「ボライソー」をはじめとして、この手の海洋小説の訳はいくつも手がけている人なんだけど)されたことでお話の流れがうまくつながらなかったんだろうか。それとももともと前のお話で完結のつもりが、意外に人気が出たのであわてて続編のためにいくつか設定を追加した、って感じなんだろうか。

 そこらを別にしてもこのお話、なんて言うかこう、ドライブ感に欠ける(上に長い)お話になっちゃってるなあと感じる。いろんなエピソードがあっても海洋冒険小説なんだから、最後は帆船同士のバトルで盛り上げて欲しいワケなんだけど、ラストバトルに至る流れがどうにもこう、おざなりにくっつけたヤマ場、みたいな印象しか持てなくて。

 前作でも思ったんだけど、このシリーズ、ほんとに面白いのか? 向こうで人気あるってのはほんとなの? なんかメリハリのない小説に思えるんだけど。

03/05/25

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