「静寂の叫び」

表紙

ジェフリー・ディーヴァー 著/飛田野裕子 訳
カバーイラスト 杉本典己
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワ・ミステリ文庫
ISBN4-15-079555-X \700(税別)
ISBN4-15-079556-8 \700(税別)

 刑務所を脱獄し、逃亡中、さらに通りすがりのカップルまでも惨殺した三人の囚人たち。彼らはたまたまその現場に遭遇した聾学校の教師と生徒の一団を人質に、廃棄された食肉加工場にたてこもる。FBIの危機管理のエキスパート、ポターを中心にしたチームが人質解放の交渉にあたる一方、人質グループ内でも、教育実習生のメラニーが生徒たちを助けるための行動を決意する。だが、ポターの指示に従うことを潔しとしない地元FBI捜査官、州警察、さらに打算をもって事態に介入しようとしてくる州の高官らによって、人質解放交渉は思わぬつまづきが………。

 親本が出版されたのが、ちょうど例のペルーの日本大使館の籠城事件後だったこともあり、話題になった作品なんだそうですが、初めて聞くタイトルでした。で、なかなかの傑作です(^o^)。

 「人命は地球より重い」とかいう解ったような解らんような美辞麗句でその弱腰を包み隠そうとした日本政府と違い、アメリカには「人質事件の犯人は絶対に逃がさないことが原則であり、そのためには人質の犠牲も辞さない」という極めて明確な行動規範(もちろん人質の命を最大限尊重したうえでのことです)があり、それに法ったシステマティックな解放交渉が行われるわけですが、非常にディティル豊かに描写される、この交渉の丁々発止がとてもスリリング。犯人側のリーダー、主人公のポターの間での虚々実々の駆け引きは、まるで良質の法廷ものでも見ているようなサスペンスに満ちあふれています。

 これだけでも充分におもしろいんですが、さらにこの作品ではもう一つ大きな仕掛けがあります。それは人質が聾者である、つまり、耳が聞えないっていうこと。音が聞こえないというハンディ、そして逆に、多くの健常者には理解できない、手話というコミュニケーションの手段を持った人々のなかで、事件が発生したときはどちらかと言えば気弱で頼りない存在だったヒロイン、メラニーが、やがて勇敢に犯人たちと対決していく様もとてもいいです。

 圧倒的に不利にみえる状況下でも余裕を失わず、救出チームを手玉に取る犯人グループのリーダー、ルーの描写、この手のお話には不可欠の、味方でありながら主人公にとっては邪魔な存在でしかない脇役たち、主人公と敵対し、やがて理解しあえる準主役と登場人物も多士済々でみな魅力充分。お話のつくりもしっかりと油断のできい展開で、いやこれはなかなか、お薦めできるっす

00/2/18

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