悪魔の涙

表紙

ジェフリー・ディーヴァー 著/土屋晃 訳
カバー 花村広
文春文庫
ISBN4-16-721871-2 \848(税別)

 ワシントンDC、大晦日。年越しのための買物客でごった返すショッピングモールのエスカレーターに並んだ客たちが突然ばたばたと倒れていく。至近距離から巧妙に隠し持ったサイレンサー付きの自動小銃の連射が、罪もない人々を一瞬の内になぎ払ったのだ。時を前後してワシントン市長の元に一通の脅迫状が届けられる。「終わりは夜だ」、そうはじめられた脅迫状の内容は、正午までに"市の身代金"2,000万ドルを差し出さなければ、午後4時、8時、そして深夜0時に同じ惨劇が起こるだろうというものだった。ただちに行動を開始するFBI捜査官たち。手始めに彼らは、手書きの脅迫状から犯人像を割り出すべく、かつてFBIの捜査官であった筆跡鑑定の専門家、パーカーへ協力を要請した………

 「静寂の叫び」で大ファンになっちゃったジェフリー・ディーヴァーの文庫版最新刊。話題の映画の原作、「ボーン・コレクター」の主人公、リンカーン・ライムもちらりと顔を出します。「静寂の叫び」が追う側と追われる側の丁々発止のやりとりの緊迫感が魅力であったとすれば、こちらの魅力は、犯人が残したたった一つの手がかりである脅迫状に挑戦する、主人公の知的な挑戦の過程から醸し出される緊張を楽しむ本といえますか。将来を嘱望されたFBIの捜査官でありながら、その筆跡鑑定能力が徒となって自らの家族の中に大きなしこりをうみ出してしまった主人公、パーカー・キンケイドのキャラクターがまずは魅力的。彼とチームを組むことになる女捜査官ルーカス、パーカー旧知の特別捜査官としてさり気なく彼らをフォローするケイジ、コンピュータオタクの捜査官トーブ、ここに市警からの(頼まれもしない)応援としてやってきた刑事ハーディー、という捜査陣と、謎の犯人、そして彼の手足となって動く殺し屋"ディガー"、直接対決する敵味方のキャラクタ造形の確かさに加え、政治的な劣勢をなんとかして挽回したいと苦闘する市長とその側近たち、パーカーの家族たちとワキも魅力的。

 とはいえ一番の魅力は、やはり主人公パーカーの特技(?)、筆跡鑑定から犯人像を割り出していく、という、ちょっと見「できるの、そんなこと」って部分の面白さに尽きるでしょうね。筆跡鑑定といいますが正確には筆跡だけではなく、その文章の文法的な部分、言い回しなど多角的な分野からの分析によって、犯人の知的レベル、思想的な背景、育った環境までも推理していくってあたりのプロセスは、「おおそうなんかいっ」などと感心しちまうことしきりであります。

 ディーヴァー作品をお読みの方なら先刻承知の二転三転のストーリー展開も健在。こっちの予想を次々と覆して新たなサスペンスをたたみかけてくるディーヴァーの手腕はまったくもってすげーっす。ギルストラップの作品に「ページターナーの再定義」などと賛辞を述べてたディーヴァーさんですけど、ナニ言ってンだい、ページターナーってなアンタの本にこそふさわしいっすよ(^o^)。いやもうホントに面白いから、ただちに読むがよろしいっす。

00/9/7

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