偽善系

正義の味方に御用心!

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日垣隆 著
カバー 花村広
文春文庫
ISBN4-16-765504-7 \686(税別)

今が旬の辛口評論

 本多勝一はとっくにおかしくなり、佐高信も実はメッキ仕上げだったことがわかってしまった今、歯に衣着せぬ物言いが痛快な評論家はこの人ぐらいになっちゃった感じのある日垣隆氏の「敢闘言」に続く評論・エッセイ集。"社会派"の立場から批判対象を見ていく本多、経済の分野からそれをするのが佐高だとすると、日垣は"事件"から入り、その事件の背後に潜む様々なものまでも暴き出していくタイプ、といえるかな。

 本書では特に、少年犯罪とその刑罰の軽重という部分について、かなり力が割かれた結果になったといえそうな出来になっている。日垣氏の本を読んだことがある方ならご存じの通り、彼は中学生時代にいじめによって弟さんを殺害されたという非常に重大な経験を持つ方で、それ故この分野については妥協なく、表層のみの取材でよしとしない態度が好ましい。その上で、いかにも最近の物書きらしく、webでの軽口風味みたいなものも時折混ぜ込んで軽妙な味もあちこちにまぶしてくれてるあたり、面白い。

 "事件"とその背景への鋭い突っ込み、"名著"と呼ばれる本たちへの異議申し立て、それからおもしろさという意味ではダントツに楽しめる佐高へのツッコミ大会と、なかなかサービス精神に富んだ評論集になっててお買い得。

 こうなると気になるのは、果たして日垣隆もまた先輩の"辛口"評論家同様に、いつか腐ってしまうのか、ってあたりかな。本多も佐高もいつの間にか自分を大物と錯覚して、どんどん独りよがりなたわごとを吐き散らかすだけの存在になってしまったわけだけど、日垣氏にはそうなって欲しくないなあと心から思うわけで。まあ、前述したようにご自身の過去に非常に重大な事件の記憶のある人なので、前の二人のように簡単に腐ってしまったりはしないんじゃないかな、という期待もあるのだけれども。

 以下余談。日垣氏は長野県出身。本多勝一と同郷だ(w 。佐高は山形出身。信州人は議論好きだそうだけど、一般に寒い国に生まれた人って言うのは激しい議論を好む傾向があったりするんだろうか。たった三人のサンプリングじゃあなんの根拠にもなりゃしないんだけど。

 うわあ、改めて「敢闘言」の感想読み返してみたら、前にもおんなじ事書いているじゃんオレ。評論家のボケをどうこう言う前に、自分の方がボケ進行中かもしれない。

03/05/31

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