監禁

表紙

ジェフリー・ディーヴァー 著/大倉貴子 訳
カバーイラスト 中山尚子
カバーデザイン ハヤカワ・デザイン
ハヤカワHM文庫
ISBN4-15-079557-6 \920(税別)

 かつて敏腕の検事としてならし、担当した事件の被告はことごとく死刑台に送り込むとまで言われたテイト、だがある事件をきっかけに彼は検事の職を辞し、なにかとすれちがいの目立つようになってきた妻とも別れ、今は弁護士として新しい人生を送っている。二人の間に生まれた娘、ミーガンの存在が、かろうじて二人を繋ぎ止める絆といえる存在でもあったのだが、二人のぎくしゃくした関係を間近で見て育ったミーガンには、大きな心の傷があった。その傷を埋め合わそうかとするように無軌道な行動を取るミーガン。ある日泥酔して給水塔に昇るという"奇行"に出たミーガンは、裁判所の命令でセラピストの診察を受けることを命じられる。そして、彼女がその命令に従ってセラピストのもとへ向かったあと、彼女の行方はぷっつりと途切れてしまった………。

 おおう、一月に二冊もディーヴァー作品が読めるとは(^o^)。「悪魔の涙」に続く今月のディーヴァー作品第二弾は、作品的にはあの名作、「静寂の叫び」に先行する形で刊行された本。もはや信用銘柄状態のディーヴァーですが、比較的前の作品であっても面白さは折り紙つき。

 邦題からして予想もつくでしょうが、結局ミーガンは何者かによって誘拐、監禁され、その行方をテイトと別れた妻、ベットが追っていくお話で、犯人の狙いはなんなのか、犯人とミーガン、あるいはその両親にいったいどのような繋がりがあるのかと言うメインの謎の部分に、テイト、ベット、ミーガンという三人の家族の物語、テイトの元同僚である刑事コニー、ミーガンのボーイフレンド、ジョシュアといったキャラが織り成す人間模様が絡んでくるわけなんですが、なんといっても本作品の最大の魅力は、犯人であるアーロンの人間像。

 神父であり、異常な性格で自らの教区を一種のカルト教区にしようとし、そのシンボルとして一種のシャーマンの仕立て上げられたことで、自らもまた異常なカリスマを身につけ、さらに生まれつきの高い知能と洞察力をいかして危険な犯罪者になったアーロンの描き込みがすごいです。次々と犯罪を重ねていくアーロンですが、その犯罪の進め方が、なかなかに知的な分だけ恐ろしい。謎解きの部分の面白さよりも、この、よこしまな信仰で凝り固まった知能犯の行動に手にはらはらしてしまいます。

 その後のディーヴァー作品の一大特徴である、二転三転、こっちが「はあやれやれ」と一安心した後にもう一発ブチかましてくる底意地の悪さ(^^;)は少々おとなしめではありますが、それでもやっぱり面白いっす。オススメ。

00/9/23

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