物理の勉強

作成日:2009-02-07
最終更新日:

物理の勉強の仕方はわからない

というのが結論である。しかし、それではこのページを書いた意味がない。 結論にいたるまでの経緯をダラダラと綴る。

なお、以下のページでは SVG によるグラフィックスと ASCIIMathML による数式表現が頻出する。 読めないブラウザをお使いの人にあらかじめお断りしておかねばならない。

応用物理は学んだけれど

私は学生時代、応用物理を専攻した。恥ずかしいが、本当の話である。 物理学は得意でもなければ苦手でもない、そして好きでもなければ嫌いでもない、 なんとも言いようのない思いを抱く学問だ。 その中で、物理に対して抱く思いのなかで最も私にあてはまるものは、 物理のできる奴は凄い、というものだ。

ではなぜ、私は応用物理を専攻したのだろう。 理学部のような、頭で勝負というだけの切れは、私にはなかった。 飯を食うためには、工学部でなければいけないという思いがあった。 工学部の中で、電気だ、機械だ、建築だ、といろいろ分野はあった。 その中で、私は機械や建築は諦めた。製図ができなかったからだ。 そうなると分野はごく限られる。製図をせずに済ませることができそうな工学部は、 応用物理か、金属か、電気、化学工学ぐらいしかない。 その中で、応用物理は先輩が何人書いて、頼りになりそうだった。 ということで、応用物理に希望した。なんとか希望は通った。

これでは、真に応用物理を目指した者に申し訳ない。しかし、 自分としては精一杯の選択肢だった。

応用物理というのは専攻のモラトリアム的なところがあって、 物理だけではなく、数学もやれば機械も電気もまんべんなく行うのだった。 そんな雰囲気は私には良かった。分野といえば、 どちらかというと数学系の勉強しかせず、物理系の勉強はほとんどしなかった。 機械系は更にだめで、隣の学科の材料力学は不可、 別の隣の学科の内燃機関も不可、機械工学通論は教科書を買ったにもかかわらずぎりぎり可、 とさんざんな成績だった。特に材料力学は必須だったので、 再受講でも不可だったら留年していた。今でもひやひやする (付記:成績表を調べてみたら、 材料力学は必須ではなかった。ただ単位が通常授業の2倍だったので、必須だと思い込んでいたのかもしれない)。

物理の実験にも身が入らず、準備の待ち時間にソシュールの一般言語学講義を読んでいたほどである。 そのときの実験の相棒には「そんな本を読んでいるのか」と感心された(相棒は今某有名大学の教授である)、 本当のところは軽蔑を抱いたのではないか。

物理の授業の思い出

高校になって、初めて物理という分野が登場する。理科の中では化学が一番できがよく、 その次が物理だった。生物が一番成績が悪かった。なお、地学は習わなかった。

大学に入ると、一般教養の物理があった。力学、電磁気学、統計力学が必修で、 振動・波動が準必修だった。

力学の I 先生は威厳のある方で、教室で新聞を読んでいる学生を見つけ、 今すぐ出ていけと言い放ったほどである。 最初の授業か2回めの授業かでいきなり外力のある振動系の微分方程式の解法を示したので私は度肝を抜かれた。 そのような私の心を見透かすかのように、 「教官の中にはここで何種類も解法を示して学生を脅かす人もいます。私はしません。」 と言いながら一つだけ、しかし新入生を惑わせるに充分な数式を書き並べるのだった。

電磁気学の K 先生の授業にはほとんど出なかったので、ほとんど思い出がない。ただ、過去の試験問題を見ると、 「磁気単極子(磁気モノポール)が存在するとすればマックスウェル方程式はどういう形になるか」 という設問がほぼすべての年にわたってあるので、 そのような研究をしているのだろうかと推測はできた。しかし、授業に出なかったのこともありこの答が分からなかった。 実際のテストにやはりこの問題が出て答が書けなかったので成績は悪かった。

電磁気学の成績があまりにも惨めだったので、 次の学期の統計力学の W 先生の授業には朝1限だったにもかかわらず欠かさず出るようにした。 大学の授業にしては珍しくわかったような気になった。W 先生には感謝している。

振動・波動の A 先生は、授業のスピードが非常に速かった。あっという間に板書してあっという間に消すので、 さすが波動の先生だと思ったものだ。

表面物理の研究

さて、卒業研究をする時期がやってきた。卒業研究では先生の研究室に配属される。 黒板に先生の名前が書かれ、 それぞれの研究室の代表者がやってきて研究室の宣伝をする。 私は最初、N先生の研究室を希望して、そこに自分の名前を書いた。 N先生は熱学の講義をされていて、そこでバイノーダル現象やスピノーダル現象という、 面白い現象の説明をされていた。それを見てみたいと思ったのである。 ところが、N先生の研究室に、別の2人が希望した。 N先生の研究室の定員は2人である。3人のうち誰かがあぶれる。 もめる前に私は身を引き、隣のK先生のところに書いた。 K先生の説明は全く覚えていなかったし、それまでの講義も担当されていなかったので、 そのときまでどんな研究室かも知らなかった。 実にいい加減な決め方である。 K先生の研究室には既にYくんが希望を出していて、これでめでたしめでたし、となった。

K先生の専攻は表面物理と薄膜物理であった。私は物理的なセンスが全くゼロだったが、 K先生と、当時修士2年生のSさん、そして相棒のYくんに助けられて、 命からがら卒業できた。

当時の卒業実験はこういうものである。LSI など半導体デバイスの材料として、 高純度のケイ素(Si)は不可欠である。電子回路ではこの Si にアルミニウム (Al) の薄膜を蒸着する。 さて、Si の (111)劈開(へきかい)面に、ある温度で Al をわずかに蒸着する。 すると、Si-Al の表面の周期構造が、温度と蒸着厚さで変化する。具体的には、 蒸着をしていないシリコンの表面は `7 xx 7` 構造であるが、 アルミニウムをわずかに蒸着させると `sqrt(3) xx sqrt(3)` 構造に変化する。 その構造を理論・実験の両面から解明するというものである。 理論的な解明はK先生が行い、実験はYくんと私が行った。 実験には低速電子線回折(LEED、Low Energy Electron Diffraction)とオージェ電子分光法を用いた。

上述段落は、さっぱり何のことだかわからない、と思われるだろう。 私もほとんど忘れている。 詳しい解説は、昔は
http://www.sssj.org/KisoKouza/Abstract/41/2-4.pdf
に載っていたが、いまはリンクが切れている。 イメージとしては過去には
http://www.matscieng.sunysb.edu/leed/7x7.html
などがあった。ここには Si-Al の LEED パターンではなく、 Si 単独の 7x7 構造の LEED パターンが載せられていたが、ここもリンク切れである。 また、別の結晶表面も含めたものには
http://oflab.iis.u-tokyo.ac.jp/Measurement/LEED1_Matsumoto/LEED_4sample.html
があったが、ここも現在リンク切れである。今見られる資料としては、日本語では、
http://oflab.iis.u-tokyo.ac.jp/Main/lecture/material/SSLec_KF_20200427.pdf
がある。 当時は苦しめられたが、 今になって思い起こせば、規則的で、美しいパターンだった(本段落:2021-08-03) 。

自分で問題を作れるか

私は応用物理の学生だったが、勉強ができなかった。だから企業に入り企業を辞め今日に至っている。 だから物理の勉強について偉そうな口がきける立場にはない。グチとして聞いていただきたい。

さきほどのN先生は、学生の評価をテストとレポートで行った。レポートは、 自分で問題を作り、それに解答せよ、というものであった。 N先生は、自分で問題を作ることの重要性を学生に説いていたのだった。 私は悩み、N先生の種本である(と思われる)キッテルの熱物理学をコピーで入手した。 原書か訳かは忘れた。そして、その中から自分でもわかりそうな箇所を少し変形させて、 やっとのことで問題を作った。そうしてできた問題は覚えていない。当然のことながら、 評価も低かった。

だから問題が作れる研究者に、私は憧れる。自分も問題を作りたい、そう切に願っている。

物理の問題を作った友人

友人に大学の工学部の先生がいた。この友人が大学入試の物理の問題を作ったというので見せてもらった。 友人と私の共通の関心領域からの出題で、ある現象のモデルを高校の物理の範囲内で説明させるものである。 なるほどと私は感心した。私もその現象は見たり聞いたり実践したりしているが、 物理の問題としてモデルにする、という発想がなかった。 そこが大学の先生ならでは、であろう。

よってたかって考えた物理の問題

大学時代、私が所属していたサークルは、理系の男性が多かった。 いつも酒を飲んでグータラしているのだが、たまには真面目なことも考える。 そんな中、ある先輩が持ってきた問題がある。仮にブランコの問題としよう。 こんな問題である。

―+――――――――
 |θ
L|
 |
 □→v
  h
―+――――――■―
 O      P

長さLのブランコがある。ブランコの底面は、静止状態で地面から高さhのところにある。 ブランコの底面には質点mがある。 静止状態からブランコ底面を水平方向に速さvで押した。 ブランコの鎖はたるまずに円弧を描き運動し、 鎖と水平面のなす角度θで質点mはブランコ底面から離れ、放物線を描きPの位置に落下した。 離れた瞬間の初速度はブランコの円運動における底面の速度に等しい。 以下の設問に答えよ。重力加速度をgとする。

  1. 角度θにおける速度v(θ)の水平方向および垂直方向の成分を求めよ。それぞれ右向き、下向きを正とする。
  2. 原点Oと落下点Pの距離を求めよ。
  3. OPの距離が最大となるθを求めよ。

この問題は思い出したときに解いてみるのだが、計算がややこしい。 繰り返し解いても同じ値にならない。 だから自分には物理を専攻する能力はないのだと思ってしまう。

巨人の星から考えた物理の問題

壁の穴を二度通るボール

私は専攻の応用物理で、ろくな問題が作れなかった。そんな私でも、 昔は問題を考えたことがある。以下はその名残だ。

「巨人の星」という有名な野球マンガがある。 この中では荒唐無稽な出来事が起こる。その中の一光景を考えてみよう。

主人公、星飛雄馬は、父である一徹から厳しい野球指導を受ける。 あるとき、巨人軍の川上哲治が星家を訪れる。そこで川上は驚くべき光景を目にする。 家に入ると、ボールがぎりぎり通るだけの穴が壁に一つ開いている。 飛雄馬がその穴に向かってボールを投げると、 ボールは穴を抜けて向こうにある木にぶつかった。 跳ね返ったボールは同じ穴を通り飛雄馬は受け止めた。 この一人キャッチボールを飛雄馬は延々と続けていた。

この光景がわかない人は、http://freefowls.jugem.jp/?eid=2146 を見てほしい。 さて、このようなことは物理的にありえるだろうか? 柳田理科雄が既に解析している気がするが、自分の力で考えてみよう。

最も簡単な場面

まず、最も簡単な場面から考えよう。 SVGが見える人であれば、こんな感じだ。

SVG が見えない人は、次のアスキーアートで我慢してもらいたい。どちらにせよ、 飛雄馬はこんな山なりのボールは投げていないが、そこは極端に書いたものということでご了承願いたい。

 
 木  壁
 |R |Q
 ●⇔…:…ヽ
 |  |  ヽ  
 |  |   P
 |  |
 +――+―――■―

飛雄馬の投げたボールは点Pから壁の穴Qを通り、木の反射点Rでぶつかり、またQを通り、Pで受け止める。 これが起こるにはどんな条件が必要か。

一番簡単なのは、木がRで完全弾性衝突が起こる、すなわちボールは跳ね返りの直前と直後で、 速度の向きだけがかわり、速さは変わらない、 と仮定することである。 また、Rで衝突するときのボール速度は、水平成分のみとし、垂直成分はないとする。 こうすれば、ボールの往路PQRおよび復路RQPは同じ軌跡をたどるので、楽である。

式にすればこうなる。

MathJax が読める人向け

`P` の位置を `(P_x, P_y)`, `Q` の位置を `Q(Q_x, Q_y)` 、R の位置を `R(0, R_y)` としよう。 求める軌跡は、`R` を頂点とし、`P` を通る放物線である。よって、次が成り立つ。
`y = ((P_x - R_y) x^2) / (P_x^2) + R_y`

したがって、`Q` の座標は次を満たさなければならない。
`Q_y = ((P_y - R_y) Q_x^2) / P_x^2 + R_y`

MathJax が読めない人向け

Pの位置を(P,P)、 Qの位置を(Q,Q)、 Rの位置を(0,R)としよう。 求める軌跡は、Rを頂点とし、Pを通る放物線である。よって、次の式が成り立つ。
y= (P-R)x/P + R
したがって、Qの座標は次を満たさなければならない。
= (P-R)Q/P +R

練習問題

あとは、Pの初速度や、Pから投げてQを通過する時刻(2回ある)や速度、Rで跳ね返るときの時刻や初速度を求めることができる。 皆さんの練習問題とする。

場面の再設定1.木は垂直か

次に、場面の設定を代えてみよう。今までは考えやすいように木は垂直に立っているとした。 では、木が垂直でなかったらどうなるか。 このときも考えやすいのは、ボールの軌跡と垂直に跳ね返るよう、木の角度を変えればよい。 そうすると、往復の軌跡は同じなので計算しやすい。木をどの位置に置けばいいだろうか。 そのとき、ボールの到達時間はどのように変化するだろうか。

場面の再設定2.ボールは完全弾性衝突をするだろうか

もう一つ、場面の設定を代えてみよう。完全弾性衝突という条件をはずすとどうなるだろうか。 問題を解くということを考えて、非弾性衝突をするのは木に垂直な成分のみとする。 この場合、Pが放物線の頂点ではない。 PとQを通る放物線は無数にある。その中で、跳ね返り係数eをどのように定めるか。

場面の再設定3.ボールを剛体で考える

実際にはボールは質点ではなく剛体である。したがって、慣性モーメントをもっている。 円盤あるいは球体と仮定して慣性モーメントまで考えるとどのような軌跡をたどるのだろうか。 また、剛体であればスピン(角速度)がかかっていることが予想される。 スピンは木での反発後の軌跡にどのような影響を及ぼすのだろうか。

マンガと物理は矛盾する

以上の仮定は、 http://tokyo.cool.ne.jp/hoshi16/rp/rp_2.html (現在はリンク切れ)の記述の限り、 マンガの絵とは矛盾する。引用すれば、 入射角と反射角が物理の法則に反しているところ、 があり、また 跳ね返ったボールが同じ高さを維持して手元に返ってくる という。これなら物理的に不可能であるが、可能にするためにどんな条件をつけて、 どんな条件を緩めるかということを机上で考えてみた。

その後、芸人である小島よしおが挑戦したらしい。彼は最初上手投げで挑戦していたが どうしてもうまくできない。そこで下手投げでバックスピンをかけることにして 木でのの反発時にボールを上昇させるようにした。すると、反発後の球も穴を通り、 通ってきた玉はワンバウンド後小島は見事手元で捕えたという。

題材は巨人の星だったのだが、意外に大変だった。物理の土俵で扱うから当然という気がする。 他に問題を作るのだったら、「大リーグボール養成ギプス」でどれだけの力がかかるかとか、 (バネがあるから物理の問題を作りやすい)、 整地ローラーをまわすときに土がどれだけへこんで固くなるかとか (これも土をバネで近似するのだろうか)、 想像力が必要だろう。

インドにおける巨人の星

2012 年が終わろうとしているときにNHK テレビを見たら、 巨人の星がインドで翻案されてアニメになっている、 というニュースが放映されていた。 原作でのスポーツは野球であるが、インドではクリケットとなっている。 さて、上記のボール穴通し場面はあっただろうかと気になってみてみると、やはりあった。 ただし、物理的には異なることがあった。なんと、板で跳ね返る前に、 穴に通した通す前と通した後の2回も地面でバウンドしているのだ。 これだと、床や地面、木といった物体とは完全弾性衝突しないと実現できない。

バウンドすることは、クリケットというスポーツと何か関係があるのだろうか。 Wikipedia のクリケットの説明では、 打者は投げられたボールがノーバウンドであろうと、ワンバウンドであろうと構わず打つ。 とあるから、この反映なのかもしれない。 (2013-01-05)。

電磁気の問題は作れるか

力学の問題は作れるだろうが、電磁気はイメージが湧かないので難しい。 冬になると静電気で悩むので、静電気の問題を作りたいとは思う。

その他の分野

熱学、量子力学、波動、相対性理論などいろいろがあるけれど、なかなか問題のネタが浮かばない。

振り子の周期の問題

ハイジのブランコと柳田理科雄

柳田理科雄という有名人がいる。芸名ではなく、本名である。 名前の奇抜さもさることながら、 マンガなどの場面を物理的に解釈してそれらしい結論を導くという手法に私は驚いた。 なお、私は柳田さんとは大学の語学で同じクラスであった。

さて、柳田理科雄が紹介した有名な話として、ハイジのブランコの長さがある。 アルプスの少女ハイジで、アニメーションで動いているブランコの長さはどれだけか、 という問題である。 柳田は、36 m という答を出した。 答を出すだけなら高校の物理を学んでいればできる。 振り子の周期 T (sec) は、重力加速度 g ( m*s-2) と 振り子の長さ l (m) を用いて、 次の公式で表せる。ただし、 この公式は振幅が微小であり、かつ振り子のヒモの重さは無視できる、という仮定に基づく。

`T = 2 π sqrt(l/g)`

柳田の非凡たるところは、物理学の初歩で覚えなければいけない公式と、 ハイジに出てくるブランコという、一見関係のなさそうな事物を結びつけたことである。

以下、この公式に関連して思っていることを書こう。

次元解析と振り子の公式

振り子の公式はよく、次元解析の好例として物理学では示される。 ここでいう次元とはルパン三世に出てくる人物ではなく、 長さ、時間、質量、電流という性質のことである。 物理学では、これらの物理的性質を単位として各種の性質を表す。

振り子の周期は時間である。 ここで、振り子の周期は、振り子の長さと重力加速度のみによって決まり、 (振幅が小さい場合)振り子の重さや振幅には依存しない、ということが経験上わかっている。 すると、振り子の周期 T は、長さと重力加速度によってどのように表されるか、 というのが次元解析の心である。 振り子の長さ l は長さ次元 L 、重力加速度 g は加速度次元 LT−2であるから、 振り子の周期になるように長さと重力加速度を調整すると、 T ∝ root (L/g) という結論が得られる。

上記推論の怪しいところは、1. 振り子の重さや振幅には依存しないのはおかしい、 2. 重力加速度に依存するというが実験方法が不明、などということだ。 1. は実験でそうなった、といってもよい。あるいは、運動方程式を立てて示してもよい。 2. は物理のセンスがある人ならわかるだろう。私には物理のセンスがないので実験方法がわからない。 加速度が生じるエレベータや電車の中で測る、斜面を利用する、バネを利用する、 緯度の異なる地点で計測して比較する、などが考えられる。

実測による比例定数の推定

さて、上記の次元解析は比較的よく知られた例である。 では比例定数の 2π はどうやって求めることができるのか。 正統的には、運動方程式、あるいは単振動の公式に持っていく。 非正統的には、概略の計算を行えばよい。 たとえば、比例係数が次のうちのどれか、といわれたとする。

  1. 2/π
  2. π/2
  3. 1/(2π)

どれを選べばよいだろうか。 これには実際に当てはめてみるしかないだろう。 公式でいくと、g は地球上ではふつう 9.8 ms−2である。 l としては、開平がしやすいように 0.2 m (20cm) と置こう。こうすれば、 √の中は (1/49) となり、これは 1/7 T、すなわち 0.1428... sec であることを意味する。 すると、先の問題は、20cm の振り子の周期は次のどれか、 という問題に帰着される。

  1. 1.26 s
  2. 0.13 s
  3. 0.31 s
  4. 0.03 s

20cm ぐらいのヒモに五円玉をぶら下げて振り子の周期をはかった覚えがある人なら、 周期はさすがに 1 秒以上はある、と思うだろう。とすれば1番が正解のはずだ。 ついでにいえば、20cm は大人が手を広げたときの長さに近い。 実際、1 が正解である。

俺の家にあった昔の柱時計は振り子があって、その長さは 10cm 以上 20cm 未満だったような気がする。 そして、振り子の長さを微調整するネジがあった。 おそらく、夏は伸びて振り子の周期が遅くなるはずだから、季節によって調整するためだろう。

それから、ピアノを練習していたころに世話になったのは機械式のメトロノームだった。 4分音符 60 の位置に重りを合わせたときの支点からの長さは、 やはり20cm弱だったような気がする。

剛体の振動

ハイジのブランコの問題で考えるべきことは、 (1) 式の仮定が成り立たないことである。 一つは、ブランコの綱にも質量がある、ということである。 この場合には、綱・座面・ハイジの質量を合わせて剛体(大きさを持った質量)とみなし、 この剛体の慣性モーメントを求めてから振動の公式によって周期を求めなければならない。 このときの式は省略する。本家の柳田理科雄は、この場合は考慮している。

振幅が無視できない場合

もう一つ、 ハイジのブランコの問題は、というより振り子の周期一般の問題では、 振幅の角度は微小、という条件がついている。 この条件が満たされないと、(1) 式が満たされない。 振幅の角度が任意の場合の式は、楕円積分という新しい考え方を用いて再計算する必要がある。 楕円積分 〜 振り子の周期を求める (hooktail.sub.jp) を参照してほしい。 角度微小の条件をはずしたときの周期は、角度微小の条件をおいたときより長くなる。 よって、ハイジの振り子の問題で、周期から長さを求めるとすれば、 (1) 式で求めるよりも振り子の長さは短いはずである。 柳田はこの条件まで考慮しているかは不明である。 彼の数値の検証は、時間があれば行なおう。 (以上、振り子の周期の問題は 2010-08-15 記す)

それから長い時間が立ってしまった。矢崎成俊の「実験数学読本」によれば、楕円積分による厳密な検討の結果は、 ハイジのブランコの紐の長さは 29 m という値であるという。


原子核物理と原子力発電

2011 年 3 月 11 日、東北地方を中心に、大地震があった。そして太平洋側は大津波に襲われた。 さらに、福島第一原子力発電所から、大量の放射能が放出された。 地震も津波も、地球物理の一分野である。そして原子力発電も、原子核物理の結果を用いている。 つまり、原子核の分裂による発生した熱エネルギーで水蒸気を作り、その水蒸気でタービンを回して発電しているのである。

さて、放射能問題を理解するためには物理から理解しなくてはならないだろう。 一般人にとってはしんどいが、理系の大学を目指すものなら食いつけるだろう。 以下、いくつか入試問題を拾って考えることにする。

―――――入試問題ここから―――――

ウランはさまざまな核分裂をする。 ある核分裂の式は次のとおりである。U はウラン、Ba はバリウム、Kr はクリプトン、n は中性子、 Q は発生するエネルギーである。

235 U + 1 n → 141 Ba + 141 Kr + 3 1 n + Q
92 0 56 36 0

問:この核分裂で発生するエネルギー Q は約 200 MeV という。このときの質量欠損値を求めよ。 電気素量 e = 1.6 * 10 -19C、光速 c = 3.0 * 10 とする。

答:E = mcの式に当てはめればよいが、まずエネルギーの単位 MeV を J に直す。
E = 200 * 10 * 1.6 * 10 -19 = 3.2 * 10-11 (J)
質量欠損値を m とすれば、

m = E / {(3.0 * 10 ) }
= 3.6 * 10-27 kg

―――――入試問題ここまで―――――

元素記号の左上にある数字は質量数、左下にある数字は陽子数である。 問題は、核分裂がこの式だけでないことである。 たとえば、次のような分裂がある(右辺のエネルギー Q は省略)。

235 92 U + 1n → 23692U13755Cs + 9637Rb + 3 1n 137 55

Cs が放射性セシウムであることから多くの問題が起こる。この放射性セシウムはβ崩壊をしてβ線(電子線)を出す。 β線をはじめとする放射線は、細胞のDNAなど重要な生体分子を傷つけることがあるため、人体に害を及ぼす。これが現在問題となっている。

また、別の分裂系列がある。ウラン 235 から ヨウ素 131 ができるということは書いてあるのだがではその片割れがどうか、 わからない。ようやく、 【Q&A】核分裂でできた物質の片割れはどこに? (case311.miraikan.jst.go.jp)でわかった。 ここを見ると、次のような分裂らしい。

235 92 U + 1n → 236 92 U 131 I + 103 Y + 2 1n


解析力学がすっぽり抜け落ちている

私は応用物理を専攻した。だから素粒子物理学以外の物理学は一通り修めていると思っている。 ところが、ふとしたときに、解析力学を学んだことがあったかどうか、急に不安になった。 初年の教養時代の力学では、解析力学まではいっていない。 波動の授業も受けたが、ここで学んだかどうかは覚えていない。 量子力学や電磁気学は必修だったし、制御工学も単位はとったので解析力学はやっているはずなのだが、 ラグランジュ関数がどうしても思い出せない。はずかしい限りである。 「高橋康:量子力学を学ぶための解析力学入門 」や「高橋康:量子場を学ぶための場の解析力学入門」 は図書館で借りて読んだことだけしか覚えていない。

そこで、自分なりに解析力学をまとめておきたいと思った。以下はその記録である。 Wikibooks をお手本にしているが、いろいろ書き足している。

要請

ニュートンの力学では運動方程式を立てることにより多くの問題が解けるようになった。 しかし、座標系の取り方によって、式が難しくなる。 また同じことだが、並進系と回転系が混在するとやはり式が難しくなる。 方程式に関与する系の要素が増大することも、式が難しくなる方向になっている。 式が難しくなるということは、解きにくくなるということだ。

そこで、座標系によらず、並進系と回転系を意識することなく、また多くの要素があっても、 統一的に解を得る方法を知りたい。

ラグランジュ関数

上記の要請を実現する一手段が、ラグランジュ関数の構成である。 考え方は、運動方程式の作り方を定式化するということである。この一段高い考え方が要点である。 作り方とは、ある特殊な一つのスカラー式と、このスカラー式に適用する何らかの「働き」を考える。 その式と働きから実際に解くべき式が導き出せるということである。このスカラー式を、 ラグランジュ関数と呼ぶ。 また、短くラグランジアン(Lagrangean)と呼ぶこともある。

ラグランジュ関数の形

ラグランジュ関数 L は次の形であらわされる。

`L = L(dotq, ddotq)`

ここで、 `dotq` は位置 `q` の一階時間微分(つまり速度のようなもの)、 `ddotq` は位置 `q` の二階時間微分である。なお、`q` を位置と書いたが実際は位置のようなものであり、 正確には、`q` は一般化座標と呼ばれる。

ラグランジュ関数の構成

ここで古典力学に戻る。ニュートンの方程式は一般に次のとおりである。

`mddotmathbbx = bbf`

ここで、`m` は(時間によって変化しない)質量、`ddotmathbbx` はベクトル `mathbbx` の二階時間微分、 `bbf` はベクトルの力である。また、剛体の方程式は次のとおりである。

`Imathbbomega = bbN`

ここで、`I` は(時間によって変化しない)慣性モーメント、`mathbbomega` は角運動量、 `bbN` はモーメントである。さて、両者はよく似ている。どうすれば一般化できるか。

ラグランジュ関数から得られる運動方程式は次の式で得られる。導出は省略する。 導出の方法はラグランジュ関数の作用と呼ばれる時間に関する積分量の停留条件である。

`d/dt(delL)/(deldotq_i) - (delL)/(delq_i) = 0`

ラグランジュ関数の一般式は次の通りである。

`L(dotq, ddotq) = T - V`

ここで、`T`は運動エネルギー、`V`はポテンシャルを表す。

ここまで来て挫折した。

センター試験の物理

今の俺にセンター試験の物理は解けるだろうか。

うなり

2013 年(平成25年)の大学入試センター試験に、うなりの問題が出た。 私は物理のセンスがないから、式に頼ってしまう。以下、次の例で調べてみよう。

今、440 Hz の音叉がある。ある楽器のラを鳴らしてみたら、この音叉のラよりわずかに高く、 1 秒間に 2 回のうなりが聞こえた。この楽器の周波数は何 Hz か。

うなりを生じる二つの周波数は、中心周波数 `f` とうなりを生じさせる周波数 `g` によってそれぞれ `f-g, f+g` と表せる。 二つの周波数で位相も強度も同じとすると、次の式になる。

`x(t) = sin(2pi(f - g)t) + sin(2pi(f + g)t)`

これを加法公式を用いて展開する。

`x(t)`` = sin(2pift)cos(2pig t)-cos(2pift)sin(2pig t) + sin(2pift)cos(2pig t) + cos(2pift)sin(2pig t)`
` = 2sin(2pift)cos(2pig t)`

これだけ見たら、包絡するうなりは `cos(2pig t)` に見える。ということは、 440 Hz の音源と 442 Hz の音源のうなりは 1Hz ということか?おかしい。 俺の常識では、単純に差を取った 2Hz 、つまり 1 秒間に2回のビートがうなりのはずだ。

この疑問は、[物理のかぎしっぽ]にある うなり(hooktail.sub.jp)の項を見て氷解した。 私たちが聴いているのは `x(t)` そのものではなく、二乗の強度 `x^2(t)` だ。 そこで、`x^2(t)` を計算する。

`x^2(t) = 2sin^2(2pift)cos^2(2pig t) = sin^2(2pift) (cos(4pig t) + 1) `

これならわかる。cos のなかみが `4pift` だから、差分`g`の2倍のうなりがでる。

動摩擦係数

2009 年(平成 21 年)の試験である。

水平なあらい面上で物体をすべらせ, すべり始めてから停止するまでの距離が初速度または動摩擦係数によってどのように変わるかを考える。 動摩擦係数が同じ場合,初速度が2倍になると,停止するまでの距離は[ 1 ]倍になる。 一方,初速度が同じ場合,動摩擦係数が `1/2` 倍になると, 停止するまでの 距離は[ 2 ]倍になる。

選択肢は、`1` , `sqrt(2)`, `2` , `2 sqrt(2)` ,`4` の5種である。

直感ではどちらも 1 ということはないだろう。 初速を増したり、動摩擦係数を減らしたりすることは、停止までの距離を延ばすことになる。 さて、ではどれだけになるのだろうか。動摩擦係数の定義はどうだったろうか。 摩擦係数の文字には何を使うのだったかな。仮に `k` という文字を使おう。 1 が最大、0 が最小だった気がする。つまり、1 であれば初速度をどれだけ増そうと動かないこと、 0 であれば、諸速度がわずかでも永遠に進むことだと思う。 いや、そうなると、`k = 1` ではまるで進まないとなれば、 `k = 1/2 ` とすれば、停止するまでの距離は∞倍になってしまうではないか。 だから、まるで進まないという場合は、動摩擦係数は ` k = oo ` でなければならない。そうしたときの、妥当な摩擦係数の定義は何か。 なんかわからなくなってきたぞ。

こういうときは、ごまかす。初速度を与えて止まる場合を想像する。そうだ、空中に物体を上に向かって初速度 `v_0` で放るときを考えればいい。 当然、重力 `g` の影響があるから、速度は衰え、いつかはゼロになるだろう。そのときの移動距離 `h` は求められるはずだ。 そのとき、`v_0` が2倍になれば移動距離はどうなるか。そして動摩擦係数が `1/2` になるということは、ひょっとして `g` を `g/2` にすることではないか、 と想像してみるわけである

さて、初速度 `v` で空中に物体を投げ上げると、最も高い位置は投げ上げた場所から `v^2 / (2g) ` であることは初歩の物理でわかる。 これから、初速度を 2 倍にすれば距離は 4 倍になる。また、加速度を `1/2` にすれば、距離は 2 倍になる。

答はどうか。初速度 2 倍で距離は 4 倍、動摩擦係数 `1/2` で距離は 2 倍は正しい。

ある機関が公表している導きかたは、上記のようなインチキではない。 物体の運動エネルギーが摩擦によって失うエネルギーから考えるのである。初速度を `v` とすれば、質量 `m` のもつエネルギは `1/2 m v^2` である。 したがって、初速度が 2 倍になればエネルギーが 4 倍になるので距離も 4 倍になる。また、動摩擦係数が `1/2` となれば、距離は 2 倍という。 なるほど、エネルギーで考えるというのはいい。 しかし、動摩擦係数が半分になったときに距離が 2 倍になったというのをエネルギーでどう説明すればいいのか。

別の機関の公表では、俺のインチキな重力加速度のアナロジーではなく、初速での加速度を `a_0` として上記の `g` の代わりに `a_0` で導いている。 なんだ、それでいいのか。

大学入試問題を考える

大学入試問題はセンター試験だけではない。そこで、各大学が出した問題を見てみよう。 最初は、古い時期の問題である。MKSA 単位系ではなく、CGS 単位系である。ではどうぞ。

下の表の各行には,それぞれ左端に記した物理量の正しい値が含まれている. それを選びだし,単位もそえて,解答用紙の所定の場所に記せ.
  注意1.電子の電荷は,クーロンを単位とした数値とこれをc.g.s.静電単位に換算したものとの二つがあたえてある.
  注意2.水素原子は基底状態にあるものとする.

物理量単位数値
イ.電子の質量g`9.1xx10^-18 quad 9.1xx10^-23 quad 9.1xx10^-28`
ロ.電子の電荷の大きさクーロン
c.g.s.静電単位
`{:{:(1.6xx10^-15),(4.8xx10^-6):}} quad {:{:(1.6xx10^-19),(4.8xx10^-10):}} quad {:{:(1.6xx10^-23),(4.8xx10^-14):}}`
ハ.電子の電荷の大きさと質量との比クーロン/kg `1.8xx10^8 quad 1.8xx10^11 quad 1.8xx10^14`
二.水素原子における電子軌道の半径cm `0.53xx10^-2 quad 0.53xx10^-5 quad 0.53xx10^-8`
ホ.水素原子において原子核と電子が引き合う力の大きさdyn `8.2xx10^-8 quad 8.2xx10^-3 quad 8.2xx10^2`
ヘ.水素原子における電子の運動エネルギー.erg `2.2xx10^-11 quad 2.2xx10^-13 quad 2.2xx10^-15`
ト.プランク定数erg・s`6.6xx10^-27 quad 6.6xx10^-30 quad 6.6xx10^-33`
チ.真空中における光の速さcm/s`3.0xx10^8 quad 3.0xx10^10 quad 3.0xx10^12`
リ.振動数 `4.0 xx 10^15s^(-1)`の紫外線の波長cm `7.5xx10^-5 quad 7.5xx10^-6 quad 7.5xx10^-7`
ヌ.上記の紫外線の光子のエネルギーerg`2.6xx10^-7 quad 2.6xx10^-9 quad 2.6xx10^-11`

この問題が出題されたあとはしばらく、この問題に対する批判と出題大学の関係者による批判への応答(=再批判)、 さらに他大学教員による再々批判が続き、物議をかもした問題である。 それぞれの言い分は面白いが、まずは自分だったらどう解くか、ここから考える。

私は計算が苦手である。記憶力のほうがまだましだ。そこで、記憶している定数から考える。 イ.ロ.ハ.はどれもわからないので後回しにする。 ニ.の水素原子における電子軌道の半径だが、ここは目をつぶって原子の大きさのことだと思う。 原子の大きさは 1nm 前後で、これより小さくともせいぜい 0.1nm だろう。そこで、選択肢には `0.53 xx 10^-8` を選ぶ。 単位が cm であることに注意する。

ホ.とヘ.はわからないので飛ばす。ト.のプランク定数は `6.626 xx 10^-34` Js ということは覚えている。 あとは J と erg の換算さえできればいいが、いまさらc.g.s.には戻れない。 チ.の真空中の光速は `3.0 xx 10^8` m/s と覚えているので、選択肢には `3.0 xx 10^10` を選ぶ。 こちらも単位が cm/s であることに注意する。

結論

やはり物理の勉強をどうこういう資格は、俺にはない。

式の表現

式の表現には ASCIIMathML を、 式の表示には MathJax を用いた。

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MARUYAMA Satosi