フォーレ:即興曲

作成日:1998-03-25
最終更新日:

1. 即興曲

フォーレの他のキャラクターピースと同様、即興曲にはショパンの先例がある。 ショパンと同様、どのジャンルよりも自由に書かれている。 ただ、第6番を除き、構成がすべて三部形式なのは御愛嬌。といっても、 厳密な三部形式ではなく、中間部がコーダのように回顧されるABAB'の形をとっている。 形式面での独自性はあまり期待しないほうがよい。

第2番、第3番がよく知られていて耳にする機会も多い。しかし、他の曲も聞き所がある。 第1番は舟歌としてならばもっとよく知られていたであろうに。 また第4番は奏者の解釈でいかようにも変貌する(ユボーの解釈は行き過ぎではないかと思う)。 また、第5番はフォーレのイメージが変わることは確実である。

第6番は原曲はハープのための作品であるため、 非常に華麗であり演奏会にはもってこいの曲だと思う。 ただ、編曲という生い立ちのためか、ピアノの演奏はめったにCDに収録されていないのが残念だ。 (ハープの版で十分感じをつかむことはできるが)。

2. 各曲の概説

第1番

Op.25、変ホ長調、6/8拍子。 細やかだが低音側で少しくぐもった序奏から徐々に華やかな楽想が立ち上る。 多少遅くなる中間部では、中声部の歌を中心に鍵盤を広く使った装飾が展開される。 特に、下降する主旋律と上行する音階のオブリガートの受け渡しがすばらしい。 この書法は舟歌第3番の中間部につながるものがある。 中間部が終わり、主題が再現される。再度中間部の片鱗が提示されるが、不思議な5度と6度、 3度と4度の組み合わせを経て終わる。

この曲は、中間部の豪華さを前後の洒脱さで包むように弾くといいと思う (2004,3,19)。

第2番

Op.31、ヘ短調、6/8拍子。珍しく弱起で始まる。 第1番が同じ6/8拍子でも16分音符の動きがもとにしていたのに対し、 この第2番は8分音符を主体にする。右手は無窮動的に動き、左手は拍の頭で刻みを入れたり、 分散和音として右手と同じように動いたりする。 中間部は左と右の働きが逆転し、左が絶えず1小節6/8拍子として分散和音で流れるの対し、 右手は1小節2拍子や3拍子のリズムで歌う。ABAB'の形を取っているのは他の即興曲と同様だ。

ものの本では、第2番の人気が高いと書いてある。私も好きだ。 この曲を聞くと、なぜか抽象的な青春を想起してしまう。あるいは、 もの皆萌え出づる春を思い浮かべる。なぜかはわからない。 でも、238小節から245小節にかけて延々と続く右手のトリルを聞けば、 きっと私のいうことがわかってくれるに違いない (2004,3,19) 。

第3番

Op.34、変イ長調、2/4拍子。端正な左手の分散和音に乗って、 やはり端正なリズムで右手が歌う。左手の低音のアクセントが節々でメロディーと絡み合うところが、 フォーレの繊細さをよく表している。 中間部は音域が広がり、メロディーより支える和音が中心となる。ここでの転調は、 段違い平行棒で選手がわざと高い鉄棒から手を放して低い鉄棒を掴むような際どさが特徴となっている (2004,3,19)。


最初の2小節は変イ短調だが、次の2小節はト長調になっている。

友人のU氏がこの曲を弾くという。これともう一曲ラヴェルの何か(忘れた)と組み合わせていた。 曲目紹介では、自信がないから作曲家をラヴェルでなくてラベルと表記したいという。 この伝でいったら、フォーレをどう書こうかと私に相談をもちかけてきた。 私は少し考えて「ほーれ」がいいのではと勧めた。U氏はその通り「ラベル」、「ほーれ」と書いた。
口ではああいっても腕は達者で、見事に弾いてくれた。私は未だに左手が当たらない。

第4番

Op.91、変ニ長調、2/4拍子。なかなか主和音に解決しない和声と、 上行音階と下降音階の絡み合いからなる旋律の組み合わせで曲が進む。 淡々とした語り口に見えるが、解きほぐすのは難しい。中間部はリズムに3連符が導入されたり、 冒頭の旋律が混入されたりして、さらに混迷の度が増してくる。 いつ終わるかわからないようなうねりをもつこの中間部は、 ワーグナーの音楽に似ているのではないかと思う。

ユボーの解釈は行き過ぎと述べた理由は、 Allegro ma no troppo の Allegro の部分と、 同じく譜面に表示されたleggiero(軽く)の表現標語を忠実に守り過ぎたためではないか、 と推測したことによる。

第5番

Op.102、嬰ヘ短調、2/4拍子。ABA'とコーダ。 A部分では旋律らしい旋律はなく、右手と左手が一体となり、全音音階を基調にした乗降音型と、 拍の頭で時折伸ばされる2分音符で構成される。 ドビュッシーの練習曲集から「8本の指のための」が思い起こされる。 B部分では乗降音型がより幅広くなる。右手は音階だけでなく分散和音も混じり、 左は主に和声付けに終始するようになる。しかし、 和声進行は機能和声というよりは「 和声的な階段」に従う、 全音あるいは半音単位での昇降に固執している。A'部分は短く、すぐにコーダに突入する。 拍を4等分した16分音符の間に挿入される3連符の味は、まさにフォーレの語法に他ならない。

フォーレの曲のなかでこれが一番好きだという先輩がいた。 フォーレらしくないのだ。 狂気すら感じる。 全音音階をここまで使うとは、ドビュッシーも顔負けである。 なぜフォーレがこれを作ったのか、よくわからない。

第6番

Op.86bis、変ニ長調、3/4拍子。ロンド形式。堂々とした和音から始まり、徐々に動きが出てくる。 後に、短調だがしっかりした旋律、メランコリーを帯びた旋律が提示され、 変形され、その後ハープの書法に従ったアルペジオが使われ盛り上がる。 演奏効果としては、4曲のヴァルス・カプリスと並んで、フォーレのピアノ作品の中で最も高いだろう。 掲示板にもいつか書いたが、私はこの曲を、 ドビュッシーの「喜びの島」に相当すると位置付けている。

3. 演奏について

ジャン・ドワイヤン

ジャン・ユボー

ジャン=フィリップ・コラール

全体的に締まった音である。

キャスリン・ストット

全体的に柔らかい音である。 第1番は冒頭こそもやもや(幻想的ともいう)しているが、中間部のきらびやかなところが際立っている。 第2番は快速でさわやかだが、少し急ぎ過ぎている感もある。 第3番は左手のリズム粒が立っていて気持ちいい。中間部の3連符のリズムが少し崩れているのが惜しい。 第4番は私が希望しているテンポより速く、かなり緩急の変化があるが、ユボーほどの違和感はない。 第5番はペダルが大目に使われていて、全体の雰囲気が出ている。 第6番の録音はこれから聞いてみる(2012-05-26)。

ピエール=アラン・ヴォロンダ

ポール・クロスリー

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MARUYAMA Satosi