フォーレのハープ曲:塔にこもる奥方、即興曲 |
作成日:1998-05-28 最終作成日: |
フォーレは管楽器の独奏曲、合奏曲を除けば、けっこういろいろな種類の曲を作っている。 2つのハープ曲がいい例だ。「塔にこもる奥方」と「即興曲」がそれである。 作りが対照的な2曲をここで紹介する。
なお、以前同じページにあったフルート曲はページを分けた。
作品番号110、後期の作品である。器楽曲の標題音楽はフォーレには珍しい。
原題はUne Châtelaine en sa tour
であり、
「塔のなかの王妃」と訳すこともある。
塔にいる城の女性、というほどの意味だ。
この謎めいた標題はヴェルレーヌの詩の一節である。
どうしてフォーレがこの題を選んだかは不明であり、
まだその理由を解説してある書物にはお目にかかってはいない。
曲はイ短調3拍子の静かな3連音符から始まる。 次第に細かなアルペッジョや音階が現われ繊細な音楽を紡ぎ出す。
転調の細やかさはどこからみてもフォーレの曲なのだが、他に似た曲がない。 ハープの曲であるという点を差し引いても、他のどの曲とも似ていない。 もう一つのハープ曲「即興曲」はピアノ用に編曲されていることを考えると、 「塔にこもる奥方」の特徴は際立っている。
特徴の際たる部分を示す。
Sans presser
以降を参照してもらいたい。
一見、フォーレの舟歌に似ている 9/8 拍子の流れであるが、少し怪しいところがある。
左側の小節は 9 拍を 1 + 2 + 2 + 1 + 3 に区切っているが、右側の小節は (1.5 + 1.5 ) * 3 で区切っている。
この 4 小節のリズムの揺れがどうしてもわからなかった。最近楽譜を手に入れて初めてわかるようになった。
録音はいろいろある。私はニカノール・サバレタのレコードで聞いた。 会社へ行きたくないと思う朝、いつもこの曲を聞いていた。 もちろん、会社にいく元気の出る曲ではないけれど、心を休めるのには格好だった。 (2001-07-30)
作品番号86。「塔にこもる奥方」とは違い、こちらはフォーレにしては派手な曲である。 ハープで期待される技法があちこちで使われていて、サービス精神旺盛な一面もかいま見ることができる。 もっともパリ音楽院で試験に使われた曲ということなので、そのような作りは当然かもしれない。
先に書いたようにピアノ編曲もあり(作品番号86b)、即興曲第6番としてピアノの全集にも載っている。 最近では、NAXOS レーベルのフォーレ曲集やキャスリン・ストットのフォーレ全集による演奏で聞くことができる。 どちらもよい演奏であり、特に後者がすばらしい。 前後してハープの原曲と聞きくらべたところ、むしろピアノ編曲が優れているのではないかと感じた。 最初にハープ向けに書いたためだろうか、フォーレにしては珍しく音を惜しみなく使っている。 ピアノに編曲したときには音の多さがいい方向に作用して、 華やかさが増し、聞き映えのする結果となっている。 (2001-03-26)
ハープのオリジナル2曲、「塔にこもる奥方」「即興曲」ともに録音している。 高音の張りがないので、あまり好きではない。
「即興曲」を録音している。 技術的にも、また音楽的にも申し分ない。(2009-07-11) 越谷での実演を聴いた。難しい曲であることがわかったが、しなやかな演奏だった。
「塔にこもる奥方」を録音している。録音のせいか、 あるいは私の持っている再生装置のせいか、低音が冴えない。 また、聞かせるべき音が抜けているのも残念である。
そのほかにも、次のハーピストが録音を残している。下記は、サバレタを除き、筆者は未聴である。
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