フォーレ:その他の曲

作成日 : 2002-11-03
最終更新日 :

私がまだ聞いたことのないフォーレの曲がいくつもある。少し紹介しよう。

プロメテ

作品番号 82 をもつ舞台作品である。歌劇として位置づけられている。 ただし、上演は大きな野外劇場が想定されていて、そのため編成も大きい。

プロメテ ( Prométhée ) とは、ギリシャ神話で語られるプロメテウスのことである。 神から火を盗んで人類に与えたためにゼウスから罰を受け鎖に繋がれたが、 ヘラクレスによって解放された、という筋である。計3幕からなる。 台本はロランとエロルドによる。もとの作品はアイスキュロスによるものらしいが、 ロランとエロルドはそれには言及していない。

編成の大きさについては、当時の記録によれば 複数の吹奏楽団(300名以上)、大弦楽オーケストラ(100名)、非常に高い位置に配されたハープ群(13名)と記されている。 電気楽器のない当時、大音量を出すための仕掛けとしては苦心の、だが当然の結果といえる。 フォ−レの音楽も、過度の転調は避け、明解さと力強さを心がけたものであった。

初演は1900年8月27日、南フランスのベジエの円戯場で行われた。 この公演は大きな反響を巻き起こし、翌年に同地で、また 1907 年には屋内用編成によりパリで再演された。 しかし、原曲ではその編成の大規模さから、屋内用編成では効果が不十分なことから、今では演奏されることはない。 ネクトゥーによる大著「評伝フォーレ」では、 一章すべてをこのプロメテに割いて説明している(282ページから315ページ)。 それほどまでにすばらしい作品であることは、間接的にはわかる。

私はこの曲の CD を聞いたことがない(発売はされているが、現在でも手に入るかは不明)。 日本では野球場のようなところでやるといいのだろうか。しかも屋外で山並が美しいところがよさそうだ。 しかし、屋外で大音量が実現できるところなんて、あるのだろうか。いろいろ想像するのは楽しい。 大音量のフォーレも一度、聞いてみたい。

幸福のヴェール

ジョルジュ・クレマンソーの台本に基づく付随音楽である。 6つの『間奏曲』からなるこの音楽は1901年に書き上げられ、同年初演された。 この台本は中国風の政治家の話であるためか、東洋趣味的なにおいがする。 この音楽は未出版のままである。

私はこの音楽も聞いたことがない。東洋趣味がどの程度のものか知る由もないが、 Orledge の伝記に載っているスコアの断片を見る限りは、確かに五音音階を生で使った、 フォーレには似つかわしくない音楽のように思える。

ラ・パッション(受難劇)

エドモン・アロクールが脚色した喜劇『シャイロック』に対して、フォーレは付随音楽を作曲した。 この後で、同じくアロクールが受難劇を書くことになり、フォーレは作曲を始めた。 しかし、受難劇に対するフォーレの音楽は『前奏曲』のみとなり、中断された。 この受難劇に対する前奏曲が初演されたときは好評であったようだ。しかし、オ−ケストラ譜は現存しない。 同じく Orledge の伝記に断片が記載されている(最初の4小節)。これを見る限り、 バッハを思わせる荘重な趣がある。

アポロへの賛歌

アポロへの賛歌( Hymne à Apollon ) は、フォーレ 1894年の作品。 これに関しては、以下の挿話が伝えられている。

オリンピック復興のため、パリのソルボンヌ大講堂での国際会議が1894年に開かれた。 この会議では、1890年代初頭、ギリシャのデルフォイで発見された大理石の楽譜「アポロンへの讃歌」が奏され、大成功だった。 この編曲は、ガブリエル・フォーレによる、歌とハープ、フルートと 2 本のクラリネットのための編曲であった。 当時の記事は、 <この、ギリシアの「讃歌」の哀しくも美しい和音は、 この会議の理念を支持するあらゆる議論の中で、 明らかにもっとも雄弁なものであった>と伝えている。

ピアノと歌への編曲の楽譜がある。

ピアノ協奏曲のカデンツァ

フォーレはピアノ協奏曲のカデンツァを作っている。

モーツァルトのピアノ協奏曲第24番のカデンツァについては、IMSLP に楽譜がある。

伝記資料によれば、1902 年 4 月 15 日、マルグリート・アセルマンのピアノにより初演されている。 この年は、歌曲では「9 月の森で」(Op.85-1)、「水に漂う花」(Op.85-2)、「伴奏」(Op.85-3)が、 ピアノ曲では 8 つの小品(Op.84)が生まれている。 フォーレとしては夜想曲第 7 番やプロメテを発表した中期の終わりに属する。 中期と後期の過渡期として重要なピアノ五重奏曲第1番はまだ生まれておらず、 作品の数は少ない年である。

さてこの曲に戻ると、全 4 ページのうち、中の 2 ページがフォーレらしい。 最初の 1 ページは右手の音階でアルペジオで装飾された、左手オクターブによる協奏曲の冒頭の主題が2度打ち鳴らされる。 2 ページは転調して嬰ヘ長調となり、ピアノの冒頭で奏される主題が長調と短調の間で揺れ動き、 リズムもクロスリズムとなる3連符を交えて繊細な表情を見せる。このあたりは、 夜想曲第 7 番の中間部や、 主題と変奏の最終変奏の書法が垣間見られる。 そのうち右手は半音階的進行をする分散和音で彩られる。ここは即興曲第6番に似た音形がある。

3 ページ目に入ると各種テーマと音形が入り乱れ、徐々に感興が高まってくる。 4 ページ目では最後に左手のオスティナートと右手の音階の上昇でクライマックスに向かい、 最後に高音部の連続トリルに覆われた冒頭のリズムが中声で再現し、カデンツァは終わる。

フォーレとしては手すさび的な作品であったろうが、 ロマンティックなこのカデンツァはもっと弾かれてよいと考える。(2012-11-24)

そのほか

私が聞いたことも見たこともない曲には、 劇音楽に「バルナベ」、「ジュリアス・シーザー」、「町人貴族」、吹奏楽曲に 「葬送曲(挽歌)」(チェロソナタ第2番第2楽章のオリジナル)、 初見視奏曲(ハープのための)、 ピアノのための前奏曲(全9曲の前奏曲集とは別)がある。

まりんきょ学問所フォーレの部屋 > その他の曲


MARUYAMA Satosi