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[講演会&オフミレポート (1999.6)] [オフミレポート] [オフィシャルデータ] [伝言ゲーム] [from STAFF] 講演会レポート[名古屋][大阪]


森 博 嗣 フ ァ ン 倶 楽 部
ふ ぇ
森博嗣氏講演会
「ミステリィとは?   
   …その問題と解決」
レポート
 キーワード 

「不思議(Mystery)」
「日常(Ordinary)」
「空想と現実(Imaginary&Reality)」
「技術(Technology)」
「予定(Previously)」
「客観(Objectivity)」

全部「y」で終わる単語というのが
先生のこだわり

*INDEX*
クラーラ#(No.00511)「客観の街OSAKA」

Reporter:クラーラ#(No.00511)Title:客観の街OSAKA
OCAT到着は2時間前。会場へのエレベーターに乗るといきなり、微笑む森先生のポスターがお出迎え。さらに丸善前の名刺交換のブースまで、恐ろしい数のポスターが道案内として並んでいた。(後で店の人の許可が出たとたん、一斉にむしられたが)
実はこの「指名手配」状態で、森先生は堂々と丸善内で立ち読みなさっていたらしい。
…人間、いると思わない人間は見えないものである。(感嘆)

雨の日の、無料の講演会なのに、会場は早々にほぼきっちり200人が着席。ノートを手にした人も多数。真面目な聴講生ばかりだ。大学の講義とは大違いである(^^;
司会「…それでは、森博嗣先生のご登場です。赤いハンカチを振るご用意のある方はご準備下さい」 (会場爆笑)

森先生は、ご本人曰く「おとなしめの夏」のご衣装。2、3の質問の後「意外と初めての方があるので、恒例の…(笑)」 とホワイトボードに「森」という字を書かれる。


●「森」という文字
3つあると無限大を示す、というのが良い。
面積比が3:5:7の日本的アシンメトリー。法隆寺なら、mass(体積)の比が3:5:7。

●ファーストネーム優先
文庫は「MORI Hiroshi」。ノベルズも『黒三』第4刷以降修正。
研究者の間では3年ほど前から常識になっている。

●突然、居眠りの話
「話の先が読めるとどんどん人が寝る(笑) 大学の講義がそうです」

●大阪弁の表現の客観性
「奥さん(スバル氏)は大阪の女なので…」
昔はよく車を飛ばして来て、日本橋のジャンク屋や模型屋にも行った。
大阪人は擬音が多い。スバル氏と車に乗ると
「『ぽんと』降ろしたって」「この道を『どーんと』ぶち当たったら右に曲がって」

「どーんとぶち当たったら事故じゃないのか、と…」

「次おろしたってんか」と言って、言った本人が降りていく。面白い表現である。
「面白いですね(にこにこ)
 …あー、面白い、ですか?(会場笑) 考えるとだんだん憂鬱になってくるんですよね」

普通ジョークのついでに、本当は一番得意というおやじギャグを披露なさって、サムくなる。

先ほどの大阪人の表現やボケ・ツッコミは客観性がある。
自分を人形みたいに高いところから見る。これはつまり「ハードボイルド」。

自分の作品はハードボイルドだと思っている。
日本人は主観的Subjective だからなかなか書けないのかも。

●自己の客観視の難しさ
掲示板で一番上になった人が「アタマにきちゃった」と書いたら、皆が心配した。書いた本人は何の心配かわからない。
書いた瞬間にそれが「他人にどう読まれるか」がわかるかどうか、が客観視。

デッサンも同じ。裏返して透かしてみると狂いがわかるが、訓練すると、描いた瞬間にわかるようになる。

●ムラマツ君の客観視失敗事件
小学生の時、ムラマツ君という頭の大きな友達がいた。物知りなのに、「レコードは何故音が出るんだろう」と聞く友達に「円盤に鉄人28号の顔を4つ描いたら出る」と真面目な顔で答えて信じさせたりしていた。

紙で家を作る工作の時間、ムラマツ君は屋根をちょうど家の大きさに四角く切ってしまい、上に乗せてからそのおかしさに気づいた。
何故「切る前に」わからなかったのか?
クラスのボス的存在だっただけにすごくおかしかった。

●はずかしい
生まれた時は何も恥ずかしくないが、ある日突然恥ずかしくなる。
「恥ずかしい」とは客観視であり、人間としてversion upしている。

●突然、方言の話
岡山弁 「これはジャガーじゃが」
名古屋弁「ちょうちょうちょうさんちょうちょうちょうだい」

「…眠気、さめましたか?(笑)」
これが小説の「萌絵の車」や「お風呂のおもちゃ」に当たる。

●検索結果から
ぱふぇら〜の秘書さん作のOHP再登場。データ類は最新。
「生コン」の生=flesh。皆が見ているのは今風に言うと「生森」。
生で見ない時は何か? 鏡に映った人は生か?

「凄い」と「面白い」は違う。前者は時間をかければできる。

インターネットは新しいメディアなので、古いものほど不利な傾向がある。
さらに「つまらない」と書いてあるページもカウント対象。

●作品の紹介
『そして二人』の表紙は候補のコピーの端に3cmのぞいていたもの。タイトルの陰の球も下の顔も知らなかった。
『女王の密室』の日本語タイトルは変わる予定。
女王(じょおう)を「じょうおう」と読む人が8割くらいいる。「文春」「体育」も同じ。

●『F』衝撃の初期設定
実は最初は古墳を舞台に考えかけた。
「15年間閉じ込められていた巫女が中から…」(会場爆笑)

●萌絵の「全然〜(肯定)」
息子に「いい加減」は何故悪い意味なのかと尋ねられた。「お人よし」も同じで、日本語の特性。
「とても〜ない(否定)」も、現在は肯定に使う。「全然〜(肯定)」が同じ用法。

●問題の解決
問題は、解くのが楽しいから解く。
問題は、理想と現実にギャップがあるところに生まれる。
「たとえば、理想のカノジョはこういう人だが、現実は…(無言)…だ、と(笑)」

「そういうものだ」と思うと問題は発生しない。奥さんがその「この世に不思議なことなどない」京極堂のような人。
息子の戦車のラジコンが曲がるのを見て不思議がった。曲がらないと思っていたから、問題が発生していなかったのだ。

問題を発見するのが人間の能力。(ひょっとするとバグかもしれない)
そして、解決しないと気持ち悪い、という人種が解決していく。

解決の方法は3つ。
 1) 現実を変える(カノジョを別の人に…)
 2) 理想を変える(自分に見合った人は…)
  科学の進歩はこの消極的な変え方。理想=理論theoryを変えて現実に合わせる。
 3) 観測の仕方のほうが間違っている(眼鏡が悪いから…)
  これも科学には多いケース。
  「あるのに見えない…というのは、ちょっと、流行り過ぎたでしょうか?」(笑)

どんな問題も、解決の手法を選べば解決できる。
「問題がない」というのは、一番問題である。問題を発見した時に解決が始まる。


●質問コーナー
▽先生の椅子と会場の椅子の差は。
▼これは9万円くらいか。会場のは4、5万円か、もっと安い?

▽作中の「天才」がよくわからない。「天才」の定義はどんな感じか?
▼「…そういう感じじゃないでしょうか」(笑)
わからない。全体を見通せない。部品・部分が見える。

▽「怖かった」記憶は?
▼「怖かった」記憶ではないが、川で溺れて水面が遠ざかるのを見た。
目をつむって歩いて側溝に落ち大怪我をした時は、園長先生が慌ててホースを放り出して駆けてきた。自分は「どうしてあんなことをするんだろう」と不思議に思いながら見ていた。

▽犀川との違いはどの程度?
▼自分の「部品」はリアリティがあるので使う。似ているとすれば「3分の1くらいかな」

▽先生にとって「仕事」とは何か?
▼「しなきゃいけないことです」
奥さんと以前よく喧嘩になったが、正しい意味は最近納得された。「仕事」はあってありがたいと進み出てやるもの。「嫌々やるのは『労働』です」

▽岡山出身ですが、岡山の印象は?
▼「岡山…は、兵庫の向こうにあるやつですね?(笑)」
岡山の印象というより、いろいろなところから来る学生が面白い。

▽理想のキャラと現実的なキャラは誰?
▼「…喜多先生のことじゃないですよね?(笑)」
小説を書く時は、まず題を決め、次に面白い役者を集める。後は「勝手に動いてください」。

▽嫌いな登場人物は?
▼「いません」
書きにくい人はいるが嫌いな人は書かない。基本的に人に好き嫌いはない。梅雨と同じで、梅雨が嫌いと言っても何も変わらないから。
▽しかし自分の考えをわかってもらいたいということは?
▼「わかってもらいたい…ことは…あるかなあ??」

▽人間で一番カッコいいという将棋指しに、これからおなりになろうとは?
▼「年齢がありますから(笑)」
将棋は必ずしも頭のいい人が勝つわけではないのが面白い。
オセロは頭で勝てる。自作プログラムに負けたことがある。
将棋はプログラムが勝てない。「なぜだ」という手が勝つ。
「misdirectionです」
▽では小説で同じことができるのでは?
▼「そんな高度なことはできません(笑)」
 『小説家』になったら、人生を賭けるものを書くかも。


司会に求められ最後の挨拶。
「えー、本日は足元の悪い中、忙しい中…僕は来ましたので(笑)」

芸術とは「自分に価値あるものが他人にも価値がある」という楽観。

「今日の講演が皆さんにとって価値があることをのぞみます、というか、祈ります。」
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