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 森ノ宮医療学園附属診療所  院長 田中 邦雄
「老化と漢方(2)」

 
漢方医学の基礎が書かれている書物に「黄帝内径・素問」という書物が
あります。黄帝という王様が質問し、岐伯という医者がそれに答えるという
問答形式で漢方医学の考え方を色々と述べている書物です。最近は要約
の漫画まで出ていますので、一読されても面白いかと思います。

その中で、人間の加齢について、岐伯が「女子は七歳を一紀(一区切り)
とする。 七歳:腎気が活発になり、永久歯が生え、髪が伸びる。 十四歳:
腎気が成熟したため、月経が始まり、子供をはらむ能力が備わる。二十一
歳:腎気が体のすみずみまで行き渡る。二十八歳:髪の毛が豊かで、体の
最も強壮な時期である。三十五歳:顔がやつれ始める。四十二歳:顔に
しわが寄り、白髪が目立ち始める。四十九歳:血脈に血が少なくなり、
月経が止まり、子供を生むことができなくなる。

」「男子は八歳を一紀(一区切り)とする。 八歳:腎気が活発になり、髪が
ふさふさと伸び、永久歯が生える。 十六歳:腎気が成熟し、生殖能力が
加わる。二十四歳:腎気が体のすみずみまれ巡る。三十二歳:筋骨が
逞しくなり、肌肉が豊かになる。四十歳:腎気が衰え始め、髪の毛が抜け、
歯が揺れる。四十八歳:陽気が衰え、顔面にしわが寄り、髪の毛が白くなる。
五十六歳:肝気が減り、筋肉が衰え、生殖能力が弱まり、体が老化する。
六十四歳:歯も髪の毛も抜ける。」と答えています。

 となりますと、女子は四十九歳、男子は六十四歳までしか伝統医学の
設定には入っていないということになります。つまり、いままでの漢方は
現在の高齢者社会はそもそも設定していないかったことになります。

 現在でもアフリカなどの開発途上国では平均寿命はまだ五十歳以下
のところも多いようですし、日本でもほんの少し前の明治時代の平均寿命
は五十歳くらいでした。しかし、現代の日本は世界最長寿国で平均寿命は
男は八十歳近く、女は八十歳を超えています。私たち日本人はこのような
社会に暮らしているのです。漢方医学といっても漢方、漢方と執着する
のではなく、せっかく日本は世界で最先端の医療のできる国なのですから、
現代の知識を取り入れた、今までとは違う新しい漢方医学というものを
作り上げる努力は不可欠だと考えています。

 最近は老人人口の増加に従って老人痴呆(ボケ)に効果があるとされる
漢方薬の報告が、動物に投与した場合、人間に投与した場合とも増えて
います。思いつくままにあげてみますと、釣藤散、七物降下湯、黄連解毒湯、
八味丸、四物湯、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸などがあげられます。

これらを分類してみますと「釣藤散、七物降下湯、黄連解毒湯」、「八味丸、
四物湯、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸」に別れ、少しずつ考え方が違うのですが、
基本的には血の巡りをよくすることによる改善を期待しているようです。

  一方老人痴呆(ボケ)の西洋医学の薬も勿論多くの種類があります。
例えば、昔(といっても20年ほど前)はカピラン、エンボール、ヒデルギンなど
があり、その後ホパテという副作用で有名になって使われなくなった薬も
出ました。現在ではアバン、カラン、エレンなどでしょうか。基本的には
これらの西洋薬も血の巡りをよくすることによる改善を期待しています。

しかしこれらの西洋薬が、例えば高血圧に対する降圧剤、細菌に対する
抗生物質のように「効くのか」と面と向かって質問されますと、効くとされている
から使うのだと答える以外に返答できないのが現状かと思います。

 老人痴呆(ボケ)にならないためには、薬よりも自分で努力するしかありません。
老化とは肉体的にも精神的にも「動かなくなること」です。「動かなくなる」と肉体も
精神もその傾向はますます顕著になってきます、進行します。予防方法は基本的
には、以前も述べましたが、肉体的には歩行も含めて身体を動かすこと、精神的
には新しいことに挑戦すること、好奇心を旺盛にして軽薄と云われようと自分が
興味を持った面白そうなことには何でも飛びつき何でもやってみることです。
                                  文責 田中邦雄




 


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