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 森ノ宮医療学園附属診療所  院長 田中 邦雄
「老化と漢方(1)」

 
漢方医学では生命は単独に存在しているものではなく、自然の一部であると
考えます。つまり人間は小宇宙であり、地球という大宇宙、銀河系という
大々宇宙、さらにその外の大々々宇宙とエネルギーを交換しあっている
と考えます。

そのエネルギーを体内に保っているのが気というものと考えます。生命を
維持するためには体内の気を充実させて、体の外から気を取り込まなくて
はなりません。人間が生まれてきたときには親からもらったエネルギーが
あるだけです。これを「先天の気」といいます。先天の気の貯蔵されている
場所は腎という場所とされます。腎の場所はおへその反対の背中側、
現在の解剖学でいいう左と右の腎臓の間とされます。

当然「先天の気」は生まれたときが最も多く、生きて行くに従って、補充が
ききませんから徐々に無くなっていきます。生まれつき弱い子供はこの
「先天の気」が生まれつき少ないから弱いと考えます。老化は「先天の気」
の減少が引き起こす現象と考えます。

 ところで、人間は生きているかぎり呼吸し、食物を食べて体を維持します。
呼吸がとまり、空気が入らなくなると人間は死んでしまいます。食欲が無くなり、
なにも食べられなくなっても死んでしまいます。この体の外から入ってくる
空気の中に含まれる”気”と食物に含まれる”気”を「後天の気」といいます。

しかし、空気は食物と違い、生きている限り、呼吸している限り、自然に体
に入るものですから臍下丹田に気を納める云々という養生法以外では
あまり問題にはされません。もっともこの臍下丹田の気を納めるという
養生法は前回にお話しましたが、身体的、精神的健康維持には重要です。

 今回は後天の気としての食物と先天の気としての腎の気の話です。
生物が生きている状態を持続している間に先天の気は減ってきている
のですが、後天の気がそれを補充しているので気が充実して生物として
の生体を保っているということになります。

 老化を防ぐことはできなくても、老化の速度をゆるめるには二つの考えが
成り立ちます。一つには先天の気の減少を、止めることはできなくても
減少速度をゆるめる。もう一つは、後天の気たる食物からの気の摂取を
十分できるように、その入り口たる消化器の弱りを治し、食欲が低下しない
ようにする。

 現在の日本の中の伝統医学の事情は大きく分けて、日本の伝統医学である
漢方医学と、最近中国で実践されている伝統医学の中医学の二つが主に
なっています。この二つの医学は老化の予防に対する考え方が違うようです。

漢方医学は主に後天の気の入り口である消化器の弱りを予防することで
老化に対応しようと考えますし、中医学は先天の気である腎の気の減少を
防ぐことで老化に対応しようと考えます。どちらが正しいかの議論はされます
が、西洋医学の検査ような客観的な指標がないのでなんともいえません。

ただ、胃腸を丈夫にする薬は誰でも問題なく飲めますが、腎気の減少を防ぐ
薬は胃にこたえて飲めない場合があるようです。ご存じのように中国は広大
な地域ですから気候・風土が地域でずいぶん違います。地域性からは
北京のような寒く乾燥している地方では腎気の減少を防ぐという考えが
強いようですが、南京のように高温多湿で日本と風土的によく似ている地方
では消化器の弱りを予防することで老化に対応しようという考えのようです。

 このような漢方医学・中医学の考え以外に、老化における諸種の症状に
対しては、高脂血症などによる動脈硬化、血液粘度の亢進による循環障害
など現代医学の考えを取り入れて、生薬学の研究成果もふまえ、血液循環
を良くする漢方薬、漢方医学的にはC血(オケツ)という状態に使う漢方薬を
中心に治療すべきだという議論も、最近出てきています。     
                             文責      田中邦雄




 


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