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カテゴリーを設けると、必ずそこからはみ出すものがあります。そんな本たちの「はみだしクラブ」です。
スティーヴン・キング短編集

稲積包昭、井上建、森本まゆみ 編註 開文社英文選書 1987年発行

開文社英文選書の中の一冊。これはどうやら欧米の優れた文学作品から英語を学ぶことを目的としたもので、ディケンズやフォークナー等巨匠たちにまじってなぜかキングが選ばれている。
内容は『NIGHT SHIFT』から「I Know What You Need (キャンパスの悪夢)」と「The Last Rung on the Ladder (死のスワンダイヴ)」の二編の英文に注がついたもの。
キングファンの中には翻訳を待ちきれなくて、または原書で読んでみたくて英語の勉強をしている方は多いのではないでしょうか。私にもそんな時期があり、この本もその頃に買ったものです。その成果については・・・。
脳が読む 本の解剖学T
養老猛司 法蔵館 1994年発行
『グリーン・マイル』や『暗黒の塔V 荒地』の解説でもすっかりおなじみ、キング・フリークとしても有名な養老猛司氏の書評集。硬軟とりまぜ様々な本が取りあげられている中に、キングに関するものが3本収められている。(その内、「恐怖の王」は野生時代1993年8月号が初出)
立脚点が非常にしっかりしていること(脳!)、生真面目な雰囲気の中にもどこかすっとぼけたようなユーモアが漂っていることが養老氏の最大の魅力。脳から見た恐怖について語る「恐怖という感情」は(ホラー・ファンにとっては)本書の白眉。心理学の立場から恐怖について語った、岸田秀『ものぐさ箸やすめ』(文春文庫)の中の「恐怖とは何か」と併せて読むと面白い。
また養老氏にはミステリー・オンリーの書評集『ミステリー中毒』(双葉社)もあり、そこでもキングが取りあげられている。
余談になるが、本サイトのトップページの画像は『解剖学教室へようこそ』(筑摩書房)からパクッたもの。ステキな図版がいっぱいの楽しい本で、こちらもお薦め。
死の蔵書
ジョン・ダニング 宮脇孝雄 訳 ハヤカワ文庫 1996年発行
「このミステリーがすごい!’97年度版」(宝島社)で見事1位に選ばれた小説。ミステリーとしての面白さより、古書に関するウンチクが受けてのことだと思われる。(ちなみに今古本屋に行くとこの本が大量に出回っています。)
これを読むとアメリカの古書市場におけるキングの位置(価値)がわかって面白い。作者がそのような状況を快く思っていないことも。
それだけのために全部を読むのはかったるいという方には、p73〜76を一読してみては。
パイナップリン
吉本ばなな 角川書店 1997年発行
キングの大ファンとしても知られる彼女のエッセイ集。その中に「S・キングと私」と題する一編が収められている。(初出はミステリマガジン1988年8月号)
「子供の感想文のよう」「私の大得意とする無条件ほめほめエッセイ」としながらも、同じ作家としての視点からキングのレベルの作品を書き続けることの困難さや、キングの人間としての健全さを自らの目標であると綴っている。
オフシーズン

ジヤック・ケッチャム 金子浩 訳  扶桑社 2000年発行

ロバート・ブロックとキングに献辞が捧げられている。

クライヴ・バーカーの『ミッドナイト・ミートトレイン』を初めて読んだときは非常に衝撃を受けて、降車駅を二つも乗り過ごしてしまったものだが、本書はそれをも上回る過激さ。『隣の家の少女』等のケッチャム作品を読んだことのある方なら、彼のえげつない描写についてはご存知かと思うが、それに加えてこの非情なストーリー展開には一分の救いもない。
しかしこの作品はただ単にナスティーなだけのものではない。《作者あとがき》と風間賢二氏による〈解説〉の中のインタビューを読めば、ケッチャムの作家としての姿勢がよくわかり、これこそが彼の作品を(ジェームス・ハーバートやリチャード・レイモンなどの)他の作家たちの作品とは一線を画すものにしている理由だと思う。
あまりの過激さゆえ、出版社から作品の根幹にかかわるような部分の変更や削除を求められた顛末について書かれた《作者あとがき》は、表現者にとって永遠のテーマである商業主義との軋轢について語り、テリー・ギリアムの『バトル・オブ・ブラジル』を思い出させる。
残念ながらケッチャムは出版社の要求を受け入れざるを得なかったが、その後自分の意図に近い「復元無削除版」が出版された。これを翻訳されたものを読める日本のファンは幸せである。

本書は映画『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のファンや、モダンホラー・ブームの終焉以降、読むべきものがないと嘆いていたホラーファンにはぜひとも読んで欲しい。
アメリカの奇妙な話1 巨人ポール・バニヤン 
ベン・C・クロウ編  西崎憲 監訳 ちくま文庫 2000年発行
本書は、編者であるベン・C・クロウが民俗学的興味から集めた様々な「お話し」(奇談、怪談、ほら話、都市伝説等)が収録されている。
キングの小説の中で時々言及される、伝説の巨人ポール・バニヤンについては、一章を割いて4つのお話しが紹介されている。
キングがこれらの物語に直接影響を受けたとは思わないが、彼のような偉大なストーリー・テラーを生んだバックグラウンドである、「アメリカ的想像力」の豊かさの一端を知ることが出来る。
また編者のあとがきと訳者の解説は、なぜキングの作品がこれほど愛されるのか、なぜキングの作品の舞台はロスやニューヨークではなく、いつもメイン州なのかという疑問に対するひとつの答えにもなっていると思う。
翻訳夜話 
村上春樹 柴田元幸 文春新書 2000年発行
本書はキングとは直接の関係はない。しかし翻訳に対して様々な疑問を感じながらも、原書はどうもという方には一読する価値はあると思う。特にp27の村上氏の言葉は、英語の苦手なキングファンには心強い。
本書の中でも1番面白かったのは、「海彦山彦」と題されたパート。レイモンド・カーヴァーとポール・オースターの短編を村上、柴田両氏が競訳していて、巻末に収録されている原文とも比較しながら読むことができる。訳者によってどれくらいイメージが変るのかがよくわかる。
それと村上氏の「翻訳の賞味期限」の話は、翻訳者や出版社の人間にはぜひ読んで欲しい。(確かに気が抜けていたぞ『ザ・スタンド』)
ただ翻訳を愛する両氏による本だけに、翻訳の問題点についての話がほとんどないのが少し物足りなく感じた。
残酷な夜
ジム・トンプスン 三川基好 訳 扶桑社 2000年発行
デビッド・リンチの映画に通じるような奇妙な味わいを持った作品。この作品自体よりもファンにとって興味深いのは「注意!注意!ヒッチハイカーは逃亡中の異常者の恐れあり!」と題されたキングによる一文が収録されていることだろう。これはアメリカで再刊された『内なる殺人者』のハードカバー版の序文を訳出したもの。キングは数多くのほめほめ文章をあちこちに書き散らしているが、そんななかでもこれはもうこれ以上は不可能と思われるほどの誉めっぷりだ。「キングの書くものなら洗濯物のリストでも」読みたいような熱心なファンならずとも一読の価値はあると思う。
ライヴ・ガールズ
レイ・ガートン 風間賢二 訳 文春文庫 2001年発行
文春のスプラッタパンク・シリーズ第3弾。吸血鬼の持つエロティックな側面をとことんまで追求したような作品。
訳者あとがきの吸血鬼小説に対する考察は、コンパクトでありながら意味深く、そこだけでも読むことをお薦めする。(はっきり言って本文よりも面白い。)その中でキングの『呪われた町』に対する言及がある。「『吸血鬼ドラキュラ』タイプ(外部からの侵略もの)の最良にして最後の作品。というのも今後、外部からの侵略者としての吸血鬼ものを創作しても、おそらくこの『呪われた町』の二番煎じにしかならないと思われるからだ。」とのこと。まったくその通りだと思う。しかもキングは吸血鬼なんてもう誰も怖がらなくなった、いやそれどころか笑いものにされていた時代にこの傑作を創りあげたのである。

それと本書のカバーは、キングファンにはすっかりおなじみの藤田新策氏。作品の内容に合わせていつもよりエロっぽい仕上がりが楽しい。
深夜のベルボーイ 
ジム・トンプスン 三川基好 訳 扶桑社 2003年発行
またまたキングによる、上品な語彙を駆使した序文が読める。

本編の方は、トンプスン版『青春の蹉跌』とでも言うべき内容で、苦みの強い味わいは変わらないものの、「狂気」の度合いが低く、彼の作品の中では読みやすい作品だとと思う。
〔キング堂ホーム〕〔研究本〕〔雑誌〕〔キングが影響を受けた作家、作品〕
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