シンハラ語の話し方フォロー講座

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日本語の助詞、シンハラ語のニパータ                
@大学入学共通試験
ウサス・ペラ(A/L)に出題されるニパータ 
     2005-11-11 , 2008-01-17- 赤色の文字はカプタフォントkaputadotcom2004でお読みください- 

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日本語の助詞、シンハラ語のニパータ

             @ウサス・ペラに出題されるニパータ
2005-11-11 , 2008-01-17 , 2014-2-20

 日本語には「てにをは」が欠かせない。助詞と呼ばれるこれらの接辞は変化しない言葉です。助詞は二つの点で変化しないのです。
 その一つは、長い日本語の歴史の中でその語形がほぼ変わっていないということ。「てにをは」は日本語の始まりとともに使われていたことでしょういえ、「てのをは」の始まりが日本語の始まりといっていいかもしれません。およそ、日本語の歴史の中で変化しなかった言葉は「てにをは」よりほかにないのですから。

 それでも、助詞の転用といえるような変化はあります。たとえば、「が」は元々所有を表す助詞でしたが、今では主格を表す助詞になっています。朝鮮韓国語は「ガ」を主格を表す助詞として使いますが、それと同じように、です。  「が」に変わって所有を表すようになった助詞は「の」です。「の」は元来、所属(属性)を表す助詞でした。「木の枝」とは言えても「木が枝」とは言えません。もっとも「松ヶ枝」のように「が」を所属を表す助詞として使う例はあります。所属を表す「が」を「ヶ」と書くのはこれが誤用であることを配慮してのことでしょうか。
 変化しないという二つ目の意味はその語形にあります。助詞は語形変化しないのです。語形変化しないということは助詞が用言ではないということです。しかし、この語だけでは独立して意味をなし得ませんから名詞に代表される体言でもない。語形変化をしないという言語の現象は珍しいことです。このことが助詞のもっとも大きな特徴でしょう。
 つまり、助詞は用言でも体言でもない言葉で、しかも自立せず(助詞だけでは文にならない)、だから、単語としては宙ぶらりんの位置に置かれてしまう中途半端な言葉なのです。

 歴史的に時間を経ても語が変化せず(あるいは変化しにくい)、文中で語形を変化させることもない。そして単語として自立しない。用言や体言の後に置かれて、それら用言・体言の意味を補足する(助ける)。
 こられの特徴を備えた言葉は日本語以外にもあるのでしょうか。日本語を日本語らしくする独特の品詞・助詞。助詞は他の言語にもあるのでしょうか。

 助詞を使う言語といえば、すぐに思い浮かぶのは韓国朝鮮語の助詞です。主格を表す格助詞「ガ」は日本語の「が」そのまま。。存在を表す「エ/エソ」は到達点を表す「〜へ」と音が似ていて、だけど、意味がずれてる。格文法で言えば、「エ/エソ」は処格で「へ」は与格です。
 もっとも韓国朝鮮語としては助詞の存在を認めたくない気持ちもありますから、韓国朝鮮語が助詞を使うかと言えば、なんとも言えないのですが。
 ヒンディ語もタミル語も助詞を使います。アラビア語、ノルウエー語も助詞を使います。助詞を使って言葉をつなぎ、文を作る言語は世界中にたくさんあるわけで、あちこちの言語を俯瞰すると日本語が助詞を使って文を作るのは決して特別な作業ではないのです。
 ただ、タミル語などのインド諸語を除くと助詞は体言の語尾変化として現れますから日本語の助詞のように体言とは別の語彙要素として分別することが出来ません。言い換えれば、屈折語と称される言語は体言・用言を語形変化(格変化・活用変化)させて文を作りますが、その語形変化が単語の総てを変えず、語尾のみで行われるとき、それがちょうど日本語の助詞ののように見えてしまうということでもあり得るのです。

 そうして再び世界の言語から助詞に当る語彙を探すと、日本語の助詞と同じ働きをする言葉を持つ言語は少なくて、韓国朝鮮語やタミル語、そしてシンハラ語がかろうじて日本語の助詞に近い接尾辞を持つ言語としてあぶりだされます。
 ではそれらの中で日本語の助詞ともっとも似ている接辞を持つ言語はどれでしょう。


ニパータの定義
 シンハラ文の本質は何か

 シンハラ語も日本語も名詞の格を「名詞+後置詞」で表す。この後置詞を日本語で格助詞、シンハラ語

ではニパータと呼ぶ。
 ニパータは本来、語形変化しないすべての単語(接続詞、感嘆詞までをも含む)を指す文法用語だ。日本語の格助詞に対応する単語は、だから、ニパータの中の格ニパータ(ウィバクティヤアルタ・ニパータ)と呼ばれる接尾辞ということになる。
 「名詞+後置詞」は「名詞+助詞」と言い換えることができる。
 文は「名詞+助詞」を基本単位(最小単位の文節)として作られる。文の任意の場所にこの最小単位を幾つか並べて置いて、文末に動詞を据えれば日本語もシンハラ語も文が完成する。
 日本語もシンハラ語も語順を文の必須要素としない。語順に決まりがあるとすれば、非修飾語は修飾語の直後に置かれる(属格)とか、動詞は、通例、文末に置かれる、ということぐらい。しかし、倒置の語法を取れば動詞さえ文中に移動するし、シンハラ語は取り立て話法、強調のために動詞を文中に、時に文頭に置く倒置話法を頻繁に使うので、動詞が文末に置かれるという決まりもあってないようなものだ。そうした文の構成の自由さ加減が生まれたのは助詞(ニパータ)の働きに由る。

 シンハラ語のニパータは文法用語として捉えれば、サンスクリット語、パーリ語で使われた文法用語をそのまま借りてきたものだ。語形変化しない単語(辞)をすべてニパータというジャンルに詰め込んでしまったから間投詞や接辞などもここに押し込まれていて、その分、ずいぶんと雑多な感が否めないのはそのためだ。

 シンハラ語では語形変化をせず、しかもその単語だけでは語としての独立した意味を成すことが出来ない接辞をこのニパータに区分した。サンスクリットにもパーリ語にもそうした辞はない。シンハラ語独自の接辞の一群がニパータとなった。だから、シンハラ語の格ニパータはニパータの中でも特異な存在なのだ。
 ニパータは「不変化詞」と訳されることがある。これだと韓国語の不変化詞との混同が起こりそうだ。まだまだニパータは言語用語としては定まっていない。

 日本語の格助詞に相当する格ニパータの一群が名詞に後置されて主格・対格・与格などを作る。シンハラ文はこの「格付け」の時点でほぼ完成する。後は動詞を添えるだけだが、この動詞さえ、一部のニパータとの呼応関係で語形を変えたり、シンハラ語独特の無意思という意味を作る。
 属格と呼格を除く総ての格は文の中で対等だ。どの格も主語になる。対格主語文、与格主語文は決して特異な文型ではない。

 英語では格のどれもが主語になるという融通は利かないから、例えば対格/与格主語を用いた Him is happy というような文は作れない。

 ※ただし、I believe him to be happy (彼をhim信じてるんだ、幸せだと。→彼がhim幸せであると私は信じる。))とか、Me being happy is just as important as him being happy(私をme幸せにすることって彼をhim幸せにすることと同じように大事→私がme幸せなことは彼がhim幸せなことと同じように大事) とかのように特別な節の中で一見対格主語に見える用法が英語にも出てくることはあります。この古英語に見られた現象はシンハラ語の対格主語と条件がほぼ一致しています。


 日本語の助詞と同様の語形と意味を持つ言語。それはシンハラ語です。
 統語形式は文語も口語も日本語はシンハラ語と同じです。
 シンハラ語で文を作るのはニパータ(ニパータ・パダ)と呼ばれる接辞の類です。ニパータは日本語の助詞と対応します。
 ニパータはサンスクリットとパーリ語でも使われる品詞用語で「不変化詞」を意味します。変化しない単語を総てニパータと呼ぶわけですから接続詞、間投詞、接頭辞などもニパータに含みます。サンスクリットとパーリ語では分類整理するに値しない粗末な語彙の類を総て囲い込んでニパータ・パダ(変化しない・言葉)のファイルの中に粗雑にしまいこんだのです。
 ところで、ニパータのファイルはサンスクリットが作ったのですが、そしてそれをシンハラ語が借りてきて使ったのですが、この不変化詞という分類枠にシンハラ語は格助詞を入れてしまいました。
 サンスクリットにもパーリ語にも格助詞と呼べるような単語はありません。シンハラ語は屈折語のように見えて実は膠着的な要素を多く持っている言語で、そのために単語をつなぐ格助詞がいくつもニパータに押し込まれてしまったのです。
 このニパータ、日本語で格助詞と呼ぶ一群の接辞、格マーカーをニパータに含ませたことでシンハラ語はサンスクリットやパーリ語との違いを、結果として際立たせてしまいました。
 シンハラ語自身は印欧語としての位置を譲らない構えを見せていますが、名詞が文を作るときの接辞マーク(格助詞)をニパータ(正しくはニパータ・パダの中の格を示すニパータ)と呼んでいるシンハラ語の状況はとても膠着的なのです。
 シンハラ人が表したいくつかの日本語教本も、また、日本政府から派遣された日本語研究者が関わったウサスペラ(大学入学共通一次試験)の日本語試験も、日本語の助詞をシンハラ語のニパータに読み替えていますから、シンハラ語のニパータはほぼ日本語の助詞に当るとしていいでしょう。
※「ほぼ」はニパータの中の格にパータと呼ばれる単語群が日本語の格助詞に対応するということ。


大学入学共通試験ウサスペラに出題される助詞の問題

 「シンハラ語の話し方」ではシンハラ語のニパータを日本語の助詞と関連付けさせながら紹介しました。「シンハラ語の話し方」以前はニパータという品詞を紹介するシンハラ語のテキストが(日本には)一つもない状態でしたから、戸惑いを覚えた読者の方も多かったのではないでしょうか。
 ニパータは日本語の助詞と同じ役割を持つとか、ニパータは日本語の助詞まがいの姿形をしていて、その音さえ同じだと指摘したのですから戸惑いも驚かれるのも当然だったと思います。プレーヤー用CD「シンハラ語の話し方」ではニパータの音声が例文の中で聞けますから、助詞との類似は一耳瞭然です。

 ニパータはなぜ、これまで日本で紹介されなかったのでしょうか。
 その理由がわかりません。シンハラ語で書かれたシンハラ語テキストなら必ずニパータは載っています。ただ、英語で書かれたシンハラ語テキストにはニパータの名が出てきません。
 今回のフォロー講座ではニパータ(ニパータ・パダ)がシンハラ語でどのように使われているかを、日本語とのかかわりと共に探って行きます。

 スリランカでの日本語熱は充分に高まっています。大学入学のためのAレベル全国共通試験
(ウサス・ペラ)の科目にも日本語試験が加えられています。

◎スリランカの教育制度は小学校5年、前期中学4年、後期中学2年・高校2年、大学4年に別れる。後期中学の2年は高校入学のためのOレベル中級試験受験、高校2年は大学入学のためのAレベル上級試験勉強に費やされる。公教育は総て無料だが、受験競争は過酷で高校・大学への進学者は少数に限られる。


 そのAレベルの日本語問題は日本語会話文を中心とした筆記試験では漢字筆記、単語理解力、日本の現代小説知識にいたる広範な内容が出題対象になっています。
 数年前までは日本語試験と言うにはオーソドックスな部分が欠けていて会話文と近代日本文学の知識を問う問題ばかりでしたが、ここ2、3年は日本語文法の知識を問うスタンダードな傾向に向かっているようです。

 例えば問題はシンハラ語でこう書かれています。

 

pht q`k\@vn v`k& sm|p[r~\nN k]r}m sQh` ek~ ek~ v`k&yt :::: s[q[s[ @w`\r` l]yn\n.

※実際の試験問題とは異なりますが、このような事例であるとしてご覧ください。

 日本語試験ですから問題も日本語で出されますが、日本文の試験問題を説明するシンハラ語・タミル語・英語の解説が別紙で配られます。
 上のシンハラ文は日本語の問題文を補足するシンハラ語の補足ですが、ここに
(ニパータ)の文字があります。
 問題文に
(スドゥス・ニパータ)とあるのは「適当な助詞」という意味です。
 上のシンハラ文を訳せば、

下に示す文を完全なものにするために、それぞれの文にあてはまる[適当な助詞スドゥス・ニパータ]を選んで書きなさい。

となり、このシンハラ問題文は次の日本語による問題文を意訳したものです。    

 それぞれの文や会話の[  ]に入れるのに、一番いいものをA〜Dの中から選びなさい。
 
    日本は食事[  ]高い[  ]聞きました。
   a は/に   b を/か   c が/と   d も/が

 日本文の問題には助詞という単語が入っていませんが、解答すべきは「一番いいもの」、的確な助詞です。

 こうした穴埋め問題には動詞活用語の記入や形容詞の活用を選択する問いもあり、助詞を空欄に埋める問題は毎年必ず出題されます。ときには日本人でさえ解答に窮する「に/で」の穴埋め問題が出題された年もあったようです。

 日本語の助詞がシンハラ語のニパータ・パダであるということは、スリランカ人の試験問題作成者も受験生も当たり前の知識として持っています。これだけ助詞とニパータの関係が重要視されているのですが、日本でのシンハラ語教育ではニパータと助詞の対応関係に目が届いていない現状です。
 
 ※ただ、スリランカでの日本語教育に携わった経験を持つ宮岸哲也さんは助詞を「形態素」として取り上げ、日本語とシンハラ語の文法上の比較を認知言語学の視点から綿密に行っています。
ニパータ、助詞という用語は使われていませんが、2005年1月に公表された宮岸哲也さんの論文では日本語の助詞「に/で」とそれに対応するシンハラ語のニパータを取り上げ、比較検討をしています。「日本語とシンハラ語における場所格と与格の両形態素における意味的類似性」
 シンハラ人は「に/で」の使い分けが不得手だ。その訳はシンハラ語そのもに「に/で」の振り分けを阻害する因子があるのではないか。その視点から日本語の「に/で」に対応するシンハラ語の「タ/エー」を選び、論文は互いの意味の領域を探っています。

 助詞をニパータとして理解している例は他にもあります。
 全国共通試験
(ウサス・ペラ)を受ける12/13年生用のGCE Aレベル用カリキュラムとして書かれた日本語教育副読本2001「日本語とその文法」(タランガッレー・ソーマシリ僧著)がそれです。jpn\ x`S`v h` v&`krNy / wlAgl\@l\ @s`~ms]r] h]m]
 この本の中で、ソーマシリ僧は教えるべき大切な日本語の品詞を順に並べて、名詞、動詞、助詞としています。そして、格助詞、副助詞などの4種に分けた助詞を彼はニパータという品詞名でくくっています。シンハラ語で書かれた日本語教材でも助詞をニパータとして紹介することは当然のことなのです。
 「日本語とその文法」では「ニパータ=助詞」という視点でページを割いて日本語の助詞を解説しています。次回はこの日本語学習副読本に掲載されている助詞とニパータの関係を探ります。


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