晩秋の黒部五郎岳 2005年10月12日-14日 山小屋利用

基本計画

行程

関東地方在住だと、入山口は折立と新穂高のふたつが一般的だが、この時期の新穂高は夜行バスがないので効率が悪い。そこで、夜行列車を利用して、富山から入山することにした。帰路は新穂高が圧倒的に便利だ。
そうなると太郎兵衛平・五郎平・鏡平に3泊するのが一般的な行程となる。できれば五郎平で2泊して計4泊とし、一日をカール散策にあてたいところだが、予報では晴れはそこまで長くは続かないようだ。

装備

黒部五郎小舎の営業は9月いっぱいで、営業終了後は冬季小屋が開放されているが狭いらしい。混雑して入れないとヤバいので、テントを持参することとした。氷点下での幕営の可能性も考え、ダウンジャケットやアンダーパンツなど防寒着を多めにした。シュラフはスリーシーズン用だが、氷点下をちょっと下回るくらいなら、防寒着を着込んで寝れば大丈夫だ。もっと下がったら、小屋に逃げ込めばいい。手袋・帽子とも、夏用と冬用の双方を持参した。耳あてやネックウォーマーも重宝するだろう。
食料は3日分用意した。五郎平以外では小屋で食事を頼むことも可能だろう。

その他

心配だったのは小屋終い後の五郎平の水場だったが、この時期は歩く人がよほど少ないのだろう、ネットでは情報が見つからない。双六小屋に電話で確認しようとしたがつながらず、結局情報がないままの出発となった。トイレも気になったが、水もトイレもない幕営地は北海道で経験済み。まあ、なるようになるだろう。1泊分くらいだったら、水は担いでいけばいいし、トイレはなんとかすればいいのである。水は真夏ほどは消費しないはずだ。

第1日(10月12日):曇りのち快晴

寝台特急「北陸」を富山で降りると、外はなんと雨だった。晴れの予報だったのに。モチベーションはのっけから急降下。よほどそのまま帰ろうかと思ったが、とりあえず富山地鉄に乗り、有峰口まで行ってみる。ケータイで予報をチェックすると、いちおう午後には晴れることになっていた。この日は太郎兵衛平まで5時間だけの行程で、出発を遅らせて雨が上がってから歩き始めてもいい。寝台列車は足を伸ばしていられたのはよかったが、ひどく揺れてなんだかよく眠れなかったし、のんびり行くとしよう。
有峰口で電車を降りたのは我々ふたりだけだった。折立へのバスは体育の日を最後に運行を終了しているのでタクシーを利用。もちろん予約済みだ。水を補給するなら折立ではなくここがいいとタクシーの運転手が言うので、駅の水道で水筒をマンタンにした。折立の水道は飲用不可と書いてあるらしい。この頃にはようやく雨はあがっていたが、霧が濃くて今にも再び降り出しそうだった。
車が進むにつれてガスは濃くなる一方だったが、途中いくつかのトンネルを過ぎたところで空が明るくなり、折立に着いた頃には青空まで見えるようになった。これなら予定通り出発できそうだ。タクシーは有峰林道通行料を含めて12,000円。距離的にはさほど遠くないが、2時間の貸切という扱いになる。

7:47 折立を出発(高度計:1490m, 温度計:21.2℃)

折立
折立登山口
紅葉
色付いた登山道
折立は、自販機は動いていたが売店は閉ざされたままだった。まだ朝早いからだろうか、それとも今季の営業を終了したのだろうか。恐らく後者だろうが、いずれにしても雨があがってくれて助かった。降り続いていたら、トイレで淋しく雨宿りするところだった。閑散としていたが、のんびりと身支度を整えていると、男性が二人やってきて、先に登っていった。
スタートからすぐに急坂を登る。急ではあるが、上手くジグザグが切ってあるためにキツい段差もほとんどなく、ぐんぐん高度を稼げるし、あまり息も上がらない。スタート地点付近の紅葉はまだこれから、といった感じだったが、登るにつれて彩りが鮮やかになってきた。

8:50 休憩

休憩
木の下で休憩
ぐいぐい登って尾根上に上がったところが小さな広場になっていた。大きな木があって枝が雨を防いでいたらしく、地面が乾いていたのでザックを降ろして休憩。ここには「三角点へ60分」の標識があった。ガイドブックにはこの標識があったらあと45分で着く、と書いてあった。

9:33 1870mの三角点(1870m, 20.1℃)

ベンチ
1870m三角点のベンチ
登山道
石畳の登山道が続く
果たして、ほぼガイドブックどおりの40分で1870mの三角点に到着した。ここは広くなっていて休憩適地。5年前にはなかったベンチが設置されていた。折立で見かけた男性のうちのひとりが休んでいたが、我々が到着すると間もなく発ったので、結局我々ふたりきりになった。
三角点を出るとスレート状の石の道になるが、すぐに石畳の道に変わる。子どもの頭くらいの大きさの丸っこい石が木の枠にはめこまれていて、石畳というよりは石ゴロ道に近い感覚。登山用品店の登山靴売り場で見かける「ガレ場の感触をお試しください」というあの模型そのものだ。道の左右は土壌流出防止のためであろう網状のムシロがかけられている。
あたりは相変わらず霧に包まれていたが、時折晴れるときがあった。道が大きく右にカーブするあたりで行く手の斜面が赤く染まっているのが見渡せて、思わず歓声をあげてしまった。ちょうどベンチがあったので、ザックを背負ったまま座ってしばし休憩。

11:24 五光岩のベンチ(2185m, 22.3℃)

ベンチ
森を抜けるとまたベンチがあった
登山道
霧の中に吸い込まれる登山道
その後再び、森の中に入って登る。これは短く、すぐに抜ける。抜けたところにベンチがあった。先ほど休んだベンチからは20分しか経っていないのでここは通過する。先には石畳が続いているのが見えた。
1870mの三角点よりあとは20分〜30分間隔で頻繁にベンチが出現した(5年前にはなかったと思う)。30分歩くごとに1回休憩をとる我々にはお誂え向きだ。
霧に包まれてうら寂しさを感じる広い尾根の石畳を登っていくと、またもやベンチが登場。このベンチから先は、尾根上についていた道が右に向かうトラバースになり、およそ10分で五光岩のベンチに到着だ。ここから太郎兵衛平までのコースタイムは90分。あと3ピッチくらいで着くだろう。
ここから先は、道は小さなピークを巻くように緩く左に曲がる。時計回りにぐるりと回りこむと、道が霧の中にすうっと伸びていくのが見え、うんざりする。20分ほど歩くと早くもベンチが出現したが、まだ休むにはちょっと早いので通過。

12:31 太郎平小屋着(2330m, 23.2℃)

登山道
太郎平小屋まであと少しだ
ところが40分経ってもベンチがない。腰を下ろせる岩を見つけてようやく休憩をとった。水を飲んだりしてのんびりしていると、霧が晴れてきて青空が見えてきた。周囲の斜面が草枯れで黄金色に染まっているのが見えた。さらに晴れて行く手が見渡せるようになった。そして我々は愕然とした。なんとすぐ目の前に目指す太郎平小屋があったのだった。
休憩地点からは10分ほどで太郎兵衛平に到着。水晶岳がちらりと見えたがまた雲に隠れてしまった。まだ正午を少し過ぎたばかりだ。小屋に入るにはちょっと早いだろうということで、小屋前の広場でのんびりしてから宿泊の手続きをしようと思ったが、風が強く寒くなったのですぐに小屋に入ることにした。食料はたんまりあるので素泊まりにした。食べてしまえば荷も軽くなる。

14:30 快晴にフィーバーする

水晶岳
水晶岳がすっきりと
雲海
折立方面は雲海が見事だった
我々が通されたのは6畳の部屋だった。混んできたら相部屋になるということだった。部屋は日当たりがよく、暖かかった。夜行でよく眠れなかったせいか猛烈に眠くなり、部屋で昼寝した。
14:30、他の客が廊下を歩く音で目が覚めた。外がずいぶん明るいので窓から顔を出してみると、空を覆っていた雲は消え去っていた。快晴だ。カメラを持って大急ぎで外に出た。東には、黒部の谷を囲む山々がぐるりと見渡せた。反対側の、午前中に歩いてきた有峰の方向には見事な雲海が広がっていた。ひとしきり激写したあとは小屋の前のベンチに座って景色を楽しんだ。暖かい陽射しを浴びながら幸福な気持ちで黒部の山々をまったりと眺めていると、いつの間にか1時間以上も経っていた。

17:10 夕景にフィーバーする

水晶岳
夕暮れの水晶岳
薬師岳
暮れなずむ薬師岳
16時近くになって部屋にもどった。部屋は結局個室で使えた。我々の他に泊まったのは、11人のパーティと単独や2人組が数組だけで、多分20人に満たなかっただろう。やはりこの時期は空いているのだ。気象通報を聞いたあと(幸いにも台風は南海上で停滞しているようだった)、少ししてから自炊室に移動して夕食の準備を始めた。5年前は畳だった自炊室はフローリングの床に変わっていた。
外が慌しい雰囲気なので何事かと思ったら、ちょうど日没の時間でみんな夕景を楽しんでいるのだった。コンロの火を止めて、またカメラを持って外に飛び出した。水晶岳や薬師岳に夕陽が当たって美しかった。

今宵の夕食は八宝菜。白菜を炒めたら「素」をからめてできあがり、というインスタントものだが、なかなかイケた。なんとうずらの玉子まで入っている。少ししょっぱかったので、もうちょっと白菜を増やしてもよかったかもしれない。
食後、気になっていた営業終了後の黒部五郎小舎の水場について小屋の従業員に聞いたところ、わからないし、特に情報もないという。この時期は歩く人がよほど少ないのだ。水を持っていく方が無難だろうというので、次に確実に水を得られる双六小屋までの必要量を計算して、500ml入りのペットボトルの水を3本買った。
小屋の消灯は21時だったが、それ以前に眠ってしまった。
ページ内を句点で改行する